Fate/stay night 槍の騎士王と幼い正義の味方   作:ウェズン

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第三十二夜-死-

「『約束されし勝利の剣(エクスカリバー)』ーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 エミヤはかつて、愛した女性の宝具の真名解放と共に、剣を飛ばす。飛んで行った剣はジークフリードの体を貫き、背中に届く。それと同時に聖剣の本来の一撃がジークフリードを襲った。

 

「……ガハッ…! まさ、か…限界を超えても…撃つとは…!」

 

 だが、ジークフリードはまだ消えない。たとえ鎧を貫いても、その一撃はかなり軽減されている。

 

「……ッ!」

 

 エミヤは流石に跪く。だが、

 

「まだだッ…! 壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)…!!」

 

 そう唱えた瞬間、ジークフリードに刺さっていた聖剣が凄まじい大爆発を起こした。壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)、これがエミヤの最大の奥の手。自身の持つ宝具に魔力を込めて宝具が破壊される代わりにそれに見合った威力の爆発を引き起こす。その詠唱に戸惑いはあれ、使わざるを得なかった。

 

「キャア!!」

 

「クッ…! 凛!」

 

 この爆発に、離れている筈の凛まで影響が及ぶ。

 エミヤは最期の力を振り絞って凛を抱える。限界がきたのだろう。固有結界が崩壊していく。

 風景が戻るときには爆発は収まっていた。

 

「うっ…はっ、セイバーは!?」

 

 凛とエミヤは起き上がり、ジークフリードの様子を伺う。

 すると、ジークフリードは階段の上で倒れているのが見えた。が、すでにその身体は消えかかっていた。

 

「…見事だった。貴殿の一撃は確かに、俺に届いた。俺の、負けだ」

 

 消えかかっているジークフリードにエミヤは凛を置いて無言で近寄る。

 

「…俺を討ち取ったアーチャーよ。貴殿の名が聞きたい」

 

「…私の名か」

 

 一瞬だけ逡巡した後、口を開く。

 

「…オレは、エミヤ シロウ。正義の、味方だ」

 

 躊躇いがちにもエミヤは自分を正義の味方と言い張った。

 

「…! そう、か。エミヤ シロウ。良き名だ。そして…正義の味方、か」

 

 名前を聞いたジークフリードはこれ以上ない安堵した表情を見せる。悔いは無いというように。

 

「…心なしか、嬉しそうだな」

 

「ああ…嬉しいんだろうな、俺は…。俺は正義の味方に敗れたのだから」

 

 なりたかった正義の味方に倒される。それはジークフリートにとって至福だった。

 何故なら、ジークフリートはここまででずっと悔やんでいたことがあったからだ。

 

「…正義の味方、エミヤ シロウに頼みたいことがある。許されるだろうか…」

 

「…ああ。私も既に動けるか怪しいが、聞こう」

 

 僅かにだけ首を動かす。

 

「すまない。お前はもう限界だというのに、それも敗者の願い事など…。

 エミヤ シロウ、どうか我がマスターの工房に、囚われている者達を、開放してほしい」

 

 ジークフリートから、淡々と語られる。彼から聞いたマスターの工房の内容は、とても衝撃的だった。エミヤは目を見開く。

 

「…我がマスターは、非道を簡単に行える者だ。俺はそれが魔術師だと、気に止めないようにしていた。だが、やはり気がかりだったようだ。どうか、あの者達を…場所は…」

 

 ジークフリートはエミヤに教えたのち血を大量に吐き出した。それを見ているエミヤはゆっくりと、了承の意を込めて頷く。

 

「…そうか。これで、ようやく俺の肩の荷も降りた。あり、がとう――」

 

 それを最期に、ジークフリートは消え去った。セイバーとアーチャーの勝負はこれで決着がついたのだった。

 

「……………」

 

「アーチャー!」

 

 凛が嬉しそうに近寄ってエミヤを呼ぶ。だが、エミヤから返事が無い。首を傾げる。

 

「…? どうしたの、って、アーチャー!?」

 

 どうしたというのかと思っていると、突如エミヤの身体が消えかかってくる。

 

「うそ、なんで…」

 

「…すまない、凛。どうやら私も限界が来たようだ」

 

 それに凛はあり得ないと思いたかったが、よくよく考えればそうだった。最後、ジークフリードにとどめを刺したあの剣は見ただけでどれほど強力か判る。そんなものをただの魔術で再現しようなど無茶苦茶過ぎることだ。

 

「そんな…なんで、なんでよ! 私言ったじゃないッ!! 絶対に戻るって! それなのに…なんでよ…」

 

「………………」

 

 悲痛な凛の声にエミヤはなにも言えることがなかった。

 

「…いっちゃうの?」

 

「ああ。だが、私にも最後にしなければいけないことができた。少しの間私は不在となる。君は先に行ってくれ」

 

「…判った」

 

 凛は頷く。

 

「そうか。ありがとう、凛。君は未熟だが、素晴らしいマスターだった。その事に深く感謝しよう」

 

 凛は黙ってそれを聞く。

 

「…どうか、あの小僧をよろしく頼む。あんなではあるが、それでも、奴は――」

 

「――あいつは私、でしょ」

 

 エミヤの言葉を遮る。凛はあの固有結界を見た瞬間から気づいていた。

 

「―――――。驚いたな。気づいていたのか」

 

「ええ。といっても、気づいたのはさっきだけどね」

 

「そうか…。ならいいな。どうか、私を頼む。まだまだ未熟だが、君と一緒なら大丈夫だろう……」

 

「……ええ。それなら、あんたも頑張りなさいよ。あんたは、もう救われて当然のことをしたんだから…」

 

「ああ、それなら安心してかまわない。もう、とっくにオレは救われているのだから…」

 

 エミヤは満足した笑顔になると、ジークフリートとの約束を果たすべく、消えかけている身体を無理矢理保ち、言われた場所に向かう。

 少しの間不在になる、と言っていたが、おそらくもう会うことは叶わないだろう。あれではこちらに戻ってくることはない。凛はそれがもうわかっていた。

 

「……あ~あ。なんか他に言いたいことあった気がしたんだけどな~。

 …ま、いっか。さて、それじゃあいつの約束果たしてあげようかしら」

 

 凛は一息つくと、すぐに切り換えて士郎達のもとへ走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――第三宝具、開演」

 

 魔術王の宝具が起動する。

 

「……投影(トレース)開始(オン)

 

 士郎は自身の中にある存在を引き出そうとする。

 

「―――――聖杯接続完了、アルトリアの魔力を引き出す」

 

「誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの」

 

 光輪が回転しながら縮まっていく。そして、

 

「――――『誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)』」

 

 襲いかかる。恐らく、この世の何よりも強力な一閃が―――

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――…ソロモン。あまり舐めない方がいい。君のその一撃は確かに破滅であれ、絶対ではない。上には上が必ずいる。

 

「――――ッ!!」

 

――――さあ、シロウ君。今こそその宝具を解き放つときだ。君を絶対に護ってくれる、その真名()は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『永遠に遠き理想郷(アヴァロン)』…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なに!?」

 

 魔術王は驚愕を隠し得ない。魔術王の最大全力が防がれているからだ。

 魔術王の宝具、『誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)』はこの世にあるありとあらゆるエネルギーを貯えたもの。それが故に、この世にあるものでは防ぐことは実質不可能。だが、一つだけ例外はある。

 

「うっぐぐぅ…!! ソロモン…! テメェが言ってたろ! 何事にも例外はあるって!! これが、その例外だぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

「バカな…! これを防ぐというのか…!」

 

 『永遠に遠き理想郷(アヴァロン)』はこの世界から切り離された世界を顕現し、世界の干渉も跳ね除け、所有者を不老不死にする。ありとあらゆる事象から護る究極の防御宝具にして結界宝具。この鞘ある限り彼のアーサー王は不死身であった。

 

「『永遠に遠き理想郷(アヴァロン)』…! そうか、そういうことか…!」

 

 魔術王は全てが理解できたというように、心の底から嬉しそうに顔を歪める。

 

「シロウ君…! なぜ私は今まで君の未来が見えなかったのか理解した…! そして、驚嘆するよ。君は最早全てを超越する存在だということにね…!」

 

 その理解したことというのは千里眼で士郎が深く関わる未来が見えなかった理由だ。

 

「シロウ君、私が君の未来を覗けないその最たる理由、それはその鞘だ…!」

 

 それが魔術王の答えだった。

 もともと未来とは不確定なものである。どれだけの予言者がいようとも確定したものを見ることは不可能である。

 それが故に千里眼というのは本当に希少で強力な眼であった。その種類もまたあれ、確定した未来を見ることができる千里眼は貴重だ。その存在価値だけでも数字で表すことは不可能だろう。

 

「だが、そんな私の眼でも見れない未来があった。それは何を意味するのか私はずっと考えていたよ。

 この世には決まった運命(さだめ)というものがある。もう少しいうなら本来あるべき形というのかな。それが無い生き物などこの世に存在しない。

 だけどね、そんな確定した未来を覆す方法は確かに一つ存在したんだよ。最も私は見たことが無い以上半信半疑だったが、それも今確信に至った…!

 そう…! 確定した未来を覆すその方法は、“絶対的な力”だ!!」

 

 どれだけ確定した未来でも、そこに絶対と言われるような力が加わると未来は変わりざるを得なくなる。つまり、千里眼でも見れないほど運命の歯車が狂う、ということだ。

 

「君のその鞘こそまさしくそうだ…! 未来を変えるほどの力を秘めた究極の宝具…! 君は常にそれに護られていたが故に私は君の未来が見えなかった…!

 それだけじゃない。君の全力は見せてもらったが、その力は凄まじい。私と同等の万能なる力、聖杯と投影魔術。そこにその鞘が合わさったことで、君はより強力な存在として君臨した…!

 そして…!! 気づいているかい。それらは何を意味しているのかと…」

 

 魔術王の宝具が止まっていく。流石にエネルギーが切れたようだ。

 

「…ッ! はぁ、はぁ(次出さないといけないのは…!)」

 

「…君はね、もうこの世の頂点に達したということなんだよ。もうこの世界でいかなる者が現れても君を倒すことは不可能になった。そう、神ですらもね」

 

 収まったことにより、士郎も限界を迎え展開していた世界が鞘に戻って足元に落ちる。士郎は鞘に触れて自身の身体に戻す。

 

「…ただし、一つ惜しむことがあるとすれば――」

 

 魔術王がその場から消える。士郎はどこにいったのかと思っていると、

 

「――君がその力を扱うにはあまりにも幼すぎたことだ…」

 

「…!? モガッ…!」

 

 後ろから突如現れ、咄嗟に振り返るも顔を掴まられる。

 

「君は未熟な身体であるが故にその強大過ぎる力を扱い切れずにいる。なんとも惜しいことだ。あとせめて十年成長していればそんなこともなかったろうに」

 

「ンーー! ンンーーー!!」

 

「おっと。暴れないでくれ。フフッ、まさかこんなことになると思わなかったかい? それは慢心というものだよ。私は君を殺そうと思えばいつでもできた」

 

 士郎はその言葉に驚愕する。それはつまり、結局どれだけ足掻いたところで無駄だと言っているも同然だった。

 

「君はそもそも忘れているようだから教えておこう。私はキャスタークラスの者だ。キャスターというのは戦略を練ってこそだろう。ただただ強大な威力を放つのは三騎士とバーサーカーの役割、それだけと思うのはお門違いだ。君を倒すための隙を私はずっと伺っていたんだよ。ついでに、君の全力を見ようとね。

 まあ、もっとも君がもう少し完成していればこうはならなかっただろう。それほどまでに君は強かった。途轍もなく…!

 …素晴らしかったよ。君が未熟でなかったら私は負けていただろう。だが、こうして君は敗北する。この私の手でね。

 さて、話は以上だ。その素晴らしい三つの力、全て戴くとしよう」

 

「ンッ!? ンーーーー!!!」

 

 魔術王が何をしようとしているのか察した士郎は必死に抵抗する。魔術王は士郎の力を全て貰うといった。それはつまり、魂と融合している聖杯の魔力すらも奪い取るということだ。

 

「抵抗は無駄だよ。君のサーヴァントも、遠坂の魔術師も、アーチャーもここへ来ることはできない…! さあ…! 戴こうか…!!」

 

「ンンンッーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

 士郎の魔術回路が光り出し、一気に魔術王の手に全て集約した瞬間、抵抗していた腕がブランとさがり、魔術王の手から離れてそのまま倒れる。その目からは生を感じ取ることはできなかった。完全にもぬけの殻だった。

 

「おお…これが…! これがか…!! 流石に鞘までは手に入らなかったが、これだけでも凄まじい力だ…」

 

 士郎の身体とほぼ一体化している鞘は取り出せなかったが、士郎の源となっている聖杯と投影魔術は手に入った。

 

「フフッ…さあ、後で聖杯を起動するとしよう。時期に騎士王も消えることになる。私の勝ちというわけだ。はははッ、なんて清々しい想いだ…! そうか、ボクは忘れていたんだ。私は生まれながらにして王となるべき存在だったが故に忘れていたよ。ボクはずっと求めていたんだ、対等な存在を…! それを倒すことを…!!

 …おっと、少々昂りすぎたかな。一人称が曖昧だ。やれやれ、昔からそうだが私は感情が昂ぶってしまうとどうも情緒不安定になる。少し落ち着かないと」

 

 魔術王は士郎の力を自身に取り込む。

 

「…! グウッ…! 拒むか、聖杯よ…! 当然か。もともと聖杯は意思が宿っているもの。認められなければそのカケラも扱うことは許されない。

 まあ、そのうち馴染むだろう。さて、それではさらばだシロウ君。君は期待以上のものを見させてもらった。そのことにせめてものの感謝を。

 …ああ、そういえば私は君に聞きたいことがあったが、今となってはもうどうでもいいことだな。今私が最も興味を惹かれているのはこの力なのだから」

 

 士郎の体を持ち上げる。士郎はピクリとも動くことがなかった。完全にもぬけの殻といった状態だ。

 魔術王はその体を大事そうに抱えると、空間転移の詠唱をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ…! はっ、はっ…ようやく倒れたか」

 

 アルトリアは槍で体を支えながら、目の前で倒れている魔神の融合体を眺める。

 士郎が魔術王と戦っている間も、こちらではずっと戦闘が行われていた。そして、今しがたようやくアルトリアは魔神を仕留めれたところだ。

 手強かったと戦闘を振り返る。融合した魔神はとても強力だった。空間から空間へと瞬間移動する俊敏性に加え、一撃一撃があの強化されたヘラクレス並であった。それに加え、不死身なんじゃないかというほど再生力にも優れており、それを完封するためにどれだけの宝具を使用したことか。もう数えきれないほど解放している。それなのにも関わらず、魔神は肉を切って骨を断つ戦法でごり押ししてくるものだからこちらもいくつか内臓を穿たれてしまった。

 それでようやく魔神は倒れた。再生も間に合わないほどに傷を負わせ、魔神の核を宝具を解放して貫いたのだ。

 

(…流石に蘇ることはないでしょう。

 …シロウは、どうなったのでしょうか)

 

 余裕ができたアルトリアは士郎の安否を確認したいが、何分魔術王と一緒に消えた時から魔力パスが感じられなくなったのだ。これでは確認ができない。

 

(無事だといいのですが……!)

 

 とそう思っていた時だ。突如魔術王が現れた。アルトリアはとっさに痛みを無視して構えるが、その前に見えた物に目を剥く。

 

「そ…んな…シ、シロウ…?」

 

 アルトリアは眼前に敵がいるのにも関わらず構えを解いてしまう。なぜなら、魔術王の手の中に動かなくなった士郎がいたからだ。

 

「…お疲れ様、騎士王。ご覧の通りこちらは終わったよ」

 

 士郎の体がふわりと浮かんでアルトリアの元に自動的に運ばれていく。アルトリアはそれにたまらず槍を落として抱えに行く。

 

「そん、な…! そんな…!! シロウ…! シロウ、返事をしてください…! シロウ…!!!」

 

 アルトリアから嗚咽が聞こえてくる。認めたくないことだったが、こうして触れてみて確信した、してしまった。士郎が死んでしまったことに。

 それが悔しくて、悔しくて…悔やみきれない。誓った筈だったのに、どんなことになっても士郎だけは守ると自身の騎士としての誇りをかけて誓ったはずなのに、結果はこの通りだった。何一つ護れずに士郎は、死んだ。

 涙が溢れでる。死体を抱きしめて何度も士郎の名前を呼ぶ。涙で服を濡らしていく。

 

「…エミヤ シロウの死をもって君達は敗北した。さあ、私の持つ聖杯に戻りたまえ、騎士王」

 

 魔術王から無慈悲な言葉が聞こえてくる。というより、魔術王はただ無表情でアルトリアを見下していた。騎士王という呼び方も皮肉に聞こえてならない。

 

「……………」

 

 ゆらりと、士郎の死体を置いて静かに立ち上がる。その表情は俯いていて伺うことができない。そばに落ちていた槍を手に取った。

 

「…おや、抗うというのかい。無駄な足掻きを。まあ、いいよ。来たければいつでもどうぞ」

 

「…まれ」

 

「ん? なんと言ったのかな? 何か言いたいならはっきりと言ってくれ。正直言わせてもらうけど、君には興味がないんだ。だから――」

 

「黙れと、言っているんだっ!!!!」

 

 その途端、アルトリアは激情した表情で歯を食い縛りながら宝具を解放した。そして、当然のようにそれは避けられる。

 

「はぁ、はぁ」

 

「おっと。はあ、全く醜いな。よくこんな力を出せるものだね。シロウ君を自分勝手な理由で拒絶したというのに」

 

「……ッ!!」

 

 千里眼で覗いたのだろう。アルトリアは言葉に詰まる。

 

「…私はね、君の心情が理解できない。

 なぜって? 君のそれはただのエゴだからだよ。

 国が滅んだのは自分の責任でいつまでも背負わなければいけない? 自分は王になるべきではなかった? まるで解らないな。君の国が滅んだ要因は君だけではない。シロウ君も言っていただろう。君が滅ぼしたのではない、と。

 君は、自身は高潔な存在であると決定づけたいだけ。ただの傲慢でしかない。全く、同じ王として呆れるよ。

 善意でやっていることなんだろうけどね、それは何も意味を成さないよ。ただただ虚しいだけの自己中心的な酷い考え。その証拠に、君はそんな想いだから一人の少年に傷をつけた。深い傷をね」

 

 魔術王の言葉が容赦なく突き刺さる。全てその通りだった。アルトリアは守ると言っておきながら、その実一番傷つけているのは他ならない自分だった。

 

「…ッ! それでも、私は…!」

 

「騎士として彼を守るって? そんなことが罪の清算になるとでも?」

 

「!!!」

 

 その一言がとどめとなった。がくりと膝をつく。

 

「…私がね君では倒せないと言ったのはそこだ。

 君はアーチャーに許してもらっただけで自分が間違っていないと思っていないかい。まあ、そう思うのは勝手だけど、それで全てが良くなるわけがないだろう。君は何一つ成長できていない。君はずっと自分のエゴでやれ罪から逃げないだの守るだの、愚かしいにもほどがあるよ」

 

 魔術王の言葉が一つ一つ重荷になっていく。

 

「シロウ君とは正反対だね。その子は常に自分と向き合って正義の味方はなんだと考えて成長しようとしている。現に、彼はとても強かったよ。私を倒すあと一歩手前まできていたからね。結果はご覧の通りだけど、これほどまで楽しい時間はなかったよ。

 果たして君は、そんなシロウ君の成長に見合うだけのことをしてきたのかな?」

 

 アルトリアは目の前が真っ暗になっていく。確かに、士郎は成長していった。なのに、自分は何が変われただろうか。士郎を妨げるものを倒すための刃になる、護ための盾になる。そう誓ったことも結局できず、自分は何がしたかったのだろうかと嫌悪感に陥る。

 

「………………」

 

「………どうやら君も終わりのようだ。随分と呆気なかったね」

 

 魔術王がアルトリアの側までくると、手を掲げる。

 手から魔術による光が見える。とどめをさすつもりだ。あの魔術王の一撃だ。アルトリアの対魔力でも防ぎきれず、その首は消えるだろう。

 

「終わりだ」

 

 アルトリアはただじっと自分が死ぬのを待っていた。士郎は死んでしまったのだ。最早自分がこの世に留まってはいけない。そのまま、なす術なく、眩い明らかに高威力なのが想像できる魔力を込めた一撃で死ぬ――

 

「――訳、ないでしょうがぁっ!!!」

 

「……!」

 

 その瞬間、魔術王に拳を振りかざして来た者がいた。魔術王はハッとなって魔術を止めてその場から消える。

 

「…遠坂の魔術師か」

 

 シュタッと地面に降り立ったのは凛だった。魔術王は今更何をしに来たのかと冷めた目でみていると、凛はアルトリアの方を向く。

 

「ちょっと! こんなところで何しているのよっ! ランサー!」

 

「……リン」

 

 凛はアルトリアの肩を掴む。

 

「とにかく、今は立ち上がりなさいっ! 戦うのよ…!」

 

「…ですが、シロウが…」

 

 アルトリアは悲しげに顔を伏せる。それに凛は少し落ち着いた声で話し出す。

 

「ええ。さっきまで聞いていたから知っているわ。士郎は死んじゃったのね…」

 

「そうだよ、遠坂の魔術師。君達は敗北したんだ。シロウ君がいなければ私を倒すことは不可能。それに、どうやらアーチャーもいない様子。シロウ君の聖杯と力を得た私に抗うことも不可能だね」

 

 凛はその言葉に鋭く睨みつける。

 

「…何かな。悔しいのかい? まあ、確かにこうした事実を突きつけられるのは悔しいもの――」

 

「―――黙りなさい」

 

 魔術王は開きかけていた口を閉じる。凛は魔術王と対面して八極拳の構えを取る。真っ向勝負を仕掛けるつもりだ。

 

「…! リン」

 

「…どういうつもりかな。まさか、君が私の相手をするというのかい。無謀なことだ、君では到底私には――」

 

「黙りなさいって言っているでしょう」

 

 凛は静かに闘志を燃やす。魔術王は目を潜める。なぜ凛が立ち向かって来たのか全く理解できないのだ。

 

「リン…ダメだ…! 貴女では…!」

 

「…判っているわ」

 

 アルトリアは凛が戦おうとしているのを制止しようとするが、軽く払われた。

 

「けど、だからといってこのまま負けてたまるもんですか。だから」

 

 凛は視線だけをアルトリアに向ける。

 

「ランサー、私と契約しなさい」

 

「…!」

 

「!? な、何を言っているんですか!? それより、アーチャーは…」

 

「アーチャーは…もう行っちゃったわ」

 

 凛がただ一言そう言う。それで察したアルトリアは顔を伏せる。

 

「…勝手に満足して勝手に行っちゃった。けど、これで良かったのでしょうね。さ、早く契約するのよ。私じゃ士郎並みのスペックは出せないけど、まだ幾分かマシなはずよ。それにもう貴女も若干消えかけているし」

 

 そう言われ初めて気づいた。確かに言われてみれば手が少し透けている。

 

「……………」

 

 アルトリアはそれを見て改めて士郎が死んでしまった事実を突きつけられた。

 

「何しているの。早く契約を――」

 

「――もういいです、リン」

 

 凛は一瞬目を見開く。

 

「…私の役目はここまででいいです。奴の言うように、シロウがいなければ奴は…」

 

「…ッ、あーもうっ!! 何弱気になってんのよ!!」

 

 アルトリアの諦めの言葉に、凛はキレて肩を掴む。

 

「士郎が死んだから何っ!? まだ私たちは終わってない! あんたがしたことは確かに間違っていたわ。士郎から聞いたけどね、正直私もふざけんじゃないわって思った。

 だから、だから前を向くんでしょ! あなたはまだ終わっていない。間違っていたなら、やり直せばいい。チャンスはまだある。簡単ではないでしょうけど、それでもこのまま間違ってばかりよりは全然いい筈だわ。

 それに、あなたいい加減気づきなさいよ!! 士郎は! まだ救えるわ!!」

 

「…!?」

 

 アルトリアは凛が最後に言ったことを聞いて驚愕する。士郎が、蘇る。それは一体どう言う意味なのか。

 

(…! ほう)

 

 それには魔術王も驚いた。ただ、驚いたというのは凛がまだ士郎を生き返らせる方法が判ったことだ。

 

「…それは、一体、どう、やって」

 

 アルトリアは途切れ途切れに言葉を出す。驚きとまだ希望が持てる嬉しさで上手く口が動かないようだ

 

「…士郎は、見た感じあれは死んだというより魂を抜かれただけという感じよ。魔術王は聖杯も奪ったって言った。士郎の魂と結び付いている聖杯もね。

 でも体には損傷らしきものはない。つまり、身体はまだ生きている。なら、あとは魂さえ取り戻せば士郎は生き返る…! そうでしょ? 魔術王」

 

 凛は士郎に宝石を置く。これで士郎の体を一時的に保管しておくようだ。

 前を向いて改めて魔術王と向き合ってに問いかける。それに魔術王は参ったなとでもいうように顔を押さえる。

 

「その通りだ、遠坂の魔術師。私が持つシロウ君の魂を取り戻せば、彼は元通りだ。

 いやあ、まさか見抜かれるとは思わなかった。少し侮っていたようだね」

 

「ふん。あまり舐めないでほしいものね」

 

 アルトリアはこの一連の会話を聞くと徐々に腕に、足に力が入り、目に闘志が燃え出し再び槍を手に持つ。

 

「! ランサー…!」

 

「判りました、リン。今は貴女と契約しましょう。――我が槍は貴女と共に」

 

 希望が見えてきた。アルトリアは凛と契約する。確かに、士郎と契約していた時と比べたらだいぶ力は弱まった気がする。だが、それでいい。体を自由に動かせるようになっただけでもそれは十分だ。今やるべきことは魔術王を倒すことではない。士郎の魂を取り返すことなのだから。

 

「面白い。このまま懐柔したかったが、変更しよう。ちょうどこの力を試してもみたかったんだ」

 

「…侮るなよ、魔術王。今の私は強い…!」

 

「判っているとも。こちらも油断なくいくつもりだ。さあ、まずはお見せしようか。シロウ君から手に入れたこの万能の力を…!」

 

 アルトリアと凛は戦う。士郎を救うために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。
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