Fate/stay night 槍の騎士王と幼い正義の味方 作:ウェズン
士郎と凛達は教会で言峰 綺礼に聖杯戦争に参加意思を表明した。だが、その帰りの途中、士郎達はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンと名乗る白髪赤目の少女とそのサーヴァントバーサーカーに襲われた。士郎と凛は反射的に一時的な共闘をとり、ランサーがピンチになりかけたところ、士郎の令呪でどうにか乗り越えた。
ランサーとバーサーカーの戦いはまだ続く。
二人はなおも戦い続ける。
徐々に激しさが増す一方の戦いは辺り一帯を粉砕していき瓦礫に変えていく。だが、未だ決着がつきそうにない。
「あーもう!! これ周辺の人達とか大丈夫でしょうね!?」
今凛は士郎を脇に抱え、自身に肉体強化の魔術をかけて奔走していた。何故凛が奔走しているのか、それはランサー達の戦いが過激すぎるからだ。結界だけでは被害が防ぎきれず、逃げ惑うことにしたのだ。
今、戦いはランサーが優勢に戻りつつあり、バーサーカーは徐々に後退を余儀なくされる。
「…狂化されていながらここまで卓越した技能、貴方は本来であれば勇猛な戦士だったのでしょう。できれば、狂化されていない貴方と戦いたかった」
場所を移動しつつ、ランサーはバーサーカーの能力を称賛した後、徐々にバーサーカーを追い詰めていく。バーサーカーは自分が追い詰められていっていることに気づいたのか慎重に動くようになってきた。
「■■■■ーーー」
ずっしりと、重く槍を構えているランサーにバーサーカーは少しづつ横に移動しながら突撃する機会を伺う。
(…このままいけば、宝具で倒せるか…)
ランサーは素早く開帳できるよう槍に少しだけ魔力を溜めておく。そして、
「■■■■■■■ーーーーー!!」
バーサーカーが腰を沈めて脚に力を込め、地面を蹴ろうとした――その時、
「――戻りなさい! バーサーカー!」
急にイリヤスフィールがバーサーカーを止める。ランサー達は何故急に止めたのか、構えを解かず、様子を見ていると、イリヤスフィールは自身の後ろへとバーサーカーに命令して下げる。
「もうつまらないから、今回はここまでにしておくわ。けど、覚えてなさい…! そして、貴方は絶対に殺すから…!」
捨て台詞のように凛に抱えられている士郎に向けて言い放ったイリヤスフィールはバーサーカーの大きな肩にその小さな身を乗せて、去っていく。
「…勝ったってことでいいのかしら」
凄まじい速度で状況が変わっていったために凛は少しついていけなくなっていたが、イリヤスフィールが去って行ったのを見て危険が無くなったことはどうにか理解できた。
「どうだろうな。勝ちとも言えなくもないが、奥の手の宝具も見せず一方的に勝ち逃げされたような気もするな。まあしかし、捨て台詞なんぞ吐いていった辺り敗けを認めたようなものだろう」
凜の質問に戻って来たアーチャーが応える。それを「そう」と凜は大して勝ったという気にはなれないのか曖昧な返事をする。
「っ! ランサー!」
「ちょ、おわっ!」
ずっと凜に捕まっていた士郎は凛の腕から無理やり脱出してランサーの方へ駆け寄る。
「大丈夫だったか!? 怪我はないか!?」
士郎はランサーの事が心底心配だったのか、今にも泣きはらしそうな顔でランサーに声をかける。
「ええ。この通り、私は大丈夫です。それより、シロウこそご無事でしたか?」
「あ、ああ。おれは大丈夫」
ランサーは鎧を消して「ああ、それは良かったです」と目線を士郎の高さに合わせて士郎に付いた汚れを払ってあげる。
士郎が急にランサーの顔が間近に迫って恥ずかしく思っていると、側に凜が寄ってくる。
「とりあえず、一応の危険は去ってくれたようね」
「ええ。…それにしても、とても強かったです、あのバーサーカーは」
バーサーカーの一撃を防いだ時の感触がまだ残っているのか手のひらを見る。
「貴女がそれ言ったら、もう私の勝機はほとんど無いわね」
「――む。それはどういうことかね? 凜」
凜の言葉が癪に障ったのかアーチャーは不満そうな顔になる。
「別にあんたを貶しているんじゃないわよ。ただ、正直自分に自信が無くなってきてね」
凜が言いたいことはつまり、今まで自分が一流の魔術師と自負していて、それをこの聖杯戦争で確かなものにしようと頑張っていた。だが、こうして聖杯戦争が始まって間もないうちに自分より優れたマスターを二人も見つけた。それも、どちらも自分より年下だ。
そして、極め付きに二人はどちらも規格外のサーヴァントを引き連れている。こんな状況誰だって自信を無くしても文句が言えない。
ちなみに、凜と士郎は知るよしもなかったが、イリヤスフィールは凜より年上である。
「…………」
アーチャーはそれを聞いて何も言えなくなる。アーチャー自身、あの二人の戦いを見て思っていたのだ。どう足掻いてもあの二人の内どちらか一人でも自分だけで敵う筈がないと。
「…なあ、りん」
二人の沈黙が居たたまれなくなったのか士郎は凜に話しかける。
「…なに」
凜は知らず知らず声に妬みに近い怒りがこもってしまっているが、士郎はそんなことに気づかずに笑ってこう言う。
「おれたちさ、協力しねえか?」
「――え」
いきなり言い出したことに凜は唖然とする。今士郎は共闘しようと言ったのだ。
何故、士郎がこんなことを言い出したのか。確かに士郎は魔術など全く使えないが、その代わり-と言えるかわからないが-莫大な魔力を持っている。そして、その士郎のバックアップを受けている大英雄と思われる英霊もいる。もうこれだけでこの聖杯戦争に勝つための布石は揃っているのだ。これ以上は必要無い筈だ。もし、他に考えれることがあるとするなら、それは弱い人を誘い込み、最後に倒すというくらいだが、この士郎がそこまで考えてはいなさそうだ。
デメリットがあるわけではないがメリットもない。それなのに、士郎は凜に協力を申し出てきた。いくら幼くともあの戦いを見て凜と組んでも意味が無いのは判っているはずだ。何故なのか、凜は疑問に思っていると、
「おれはさ、さっきの戦いで思っていたんだ。ランサーに守られてばっかりなのは嫌だって。けど、おれには何もできないし戦えない。だから、凛に教えて欲しいんだ。魔術を」
「シロウ…」
士郎は護られてばかりなのが気にくわないといった風であった。ランサーは感心できるところがあったのか嬉しそうだ。
凛はその言葉に心底驚く。本来、マスターはサーヴァントに護られて当然だ。サーヴァント相手には同じくサーヴァントでなければ相手ができないからだ。守られるだけが嫌だという魔術師など見たことがない。だというのに、士郎は嫌がった。
こんなにも幼い子供がそんなことを言ったとしても、それはただ現実を受け入れていない未熟者としか言われないだろう。だが、士郎はもう既に二回も死にかけ、こうして人間の手には有り余る戦いを見せつけられた。それだけで、士郎はもうこの戦争がどれ程危険なものか文字通り身をもって知った。故に、士郎は決して蛮勇でこのような事を言っているのではないと判る。
(…この子はいずれ世界を変えそうね。文字通り)
そして、凛は思った。この子は魔術師として大成しないだろうなと。これだけの魔力を持ってそれはとても残念なことではあるが、同時に嬉しく思えた。この子も自分と同じくらい、いや自分よりも甘いのかもしれないと思ったのだ。そして、もしそうなのであれば、自分がこの子を見守っていないと危険なことになりそうだとも思えた。
(見るからにやんちゃ坊主だものね)
凛は士郎の頰にある火傷跡にもとれない小さな傷跡を見て微笑む。こんな正義感がある子供だ。よくいじめっ子なんかを退治したりしていたのだろう。
「判ったわ。それじゃ、協力しよっか。これからビシバシ鍛えるから覚悟しなさいよ」
「イテッ」
そう言って士郎の額を指で小突く。士郎は小突かれてふてくされた顔になるが、凛に笑顔が出たのが嬉しいのか士郎も嬉しそうに顔を綻ばせる。
(……良い笑顔だ。これは、私もうかうかしていられないな)
アーチャーは凛に笑顔が宿ったのを見て、自分も頑張らなければと思う。かつて、彼女に約束した通りに。
◇
それからというものの、士郎達は何事もなく平穏無事に衛宮邸に帰ってきていた。
「…なんでりんまで来たんだ?」
ただ、帰ってきたのは士郎とランサーだけではなく、何故か凛とアーチャーも同伴していた。
「ん? なんでって、そりゃ協力関係になるんだから、これからは士郎の家に寝泊まりするのよ」
「…え」
凛の言葉が衝撃的で士郎は固まる。この魔術師は突拍子も無く急にここに住むと言ってきたのだ。これが衝撃的でなくてなんだというのか。
だが、士郎は別にいいかと思った。この屋敷は旅館並の広さがある。桜や大河が来てくれてはいるが、基本的に一人暮らしだ。だから、こうして住人が増えたのは素直に喜ばしい。
「それじゃ、私の部屋は昨日寝た場所でいいわね?」
士郎は「うん」と返事をすれば、凜は昨日寝た部屋に向かいながらアーチャーに自分の家から残りの着替えと荷物を持ってきてと頼む。「了解した」とアーチャーが出て言ったのを見た士郎は、居間の座布団に座って少し休むことにする。
「…なんだか、本当に増えた気がするなあ」
これが聖杯戦争の間だけということは分かっている。故に聖杯戦争自体は嫌でも、この状況には感謝しようと士郎は思う。いくら慣れて来たとはいえ、やはり一人暮らしは寂しいからだ。
と、聖杯戦争の事を考えていたら綺礼が言っていた事を思い出した。帰り際、綺礼は士郎だけに聞こえるようこう言った。
『――――喜べ少年。君の望みはようやく叶う』
(…あの言葉の意味はなんとなく分かった気がする。きっとあいつはおれのことを見抜いていたんだ。おれがジイさんと同じ正義の味方になりたいって思っていることが)
綺礼は切嗣の事を知っていた。ならば、その子供が親の真似をしていてもおかしくない。だから、綺礼は願いが叶うと言ったのだ。
何故士郎の願いが叶うのか、それはこの聖杯戦争が悪であるからだ。欲望のままに聖杯を求めて争い、他者が傷つくことを厭わない、まさに正義の味方として活動できる絶好のチャンスといえよう。
だが、それはおかしい気がする。何故なら、それではまるで悪を求めているようではないか。正義の味方が悪を求めるなど本末転倒だ。だが、悪がなければ正義もまた名乗ることはできない。正義と悪は正反対であるが、どちらも欠けては成り立たないのだ。だからこそ、士郎は苦悩する。どうすれば正義の味方になれるのかと。
(まあ、考えるだけムダかな)
結局は哲学、いくら答を出そうとしても出ないものだ。それに、深く考えるほど、正義の味方からかけ離れそうである。だから、深くは考えず自分が目指すヒーローになれさいすればそれでいいのだ。
(よし。お風呂に入ろ)
とりあえず、昨日から入ってない風呂に入ってサッパリしようと座布団から立ち上がる。すると、
「シロウ、どこに行かれるのですか?」
「あ、ランサー。お風呂に入ろうって思ってね」
ずっと士郎の側にいたランサーが話しかける。
「お風呂ですか。でしたら私も一緒に入ります」
「うん、わかっ…た…」
衝撃的なこと本日二回目。凛より衝撃的と思われることをランサーは言った。
「え、ランサー今なんて」
「? ですから私も入ると」
聞き間違いではないようだ。
よもや説明など不要。ランサーと一緒にお風呂なんて考えただけで一気に逆上せそうだ。その上、あのランサーのことだ、湯船に浸かっている間は士郎を抱きしめようとするに違いない。ただでさえ服の上からでも辛いのだ、それが直になるともう耐えきれる筈がない。
「だ、ダメに決まっているだろう!?」
「? ですが、先ほどシロウは良いと」
「いや、間違って言っちゃったの! とにかくダメ! 絶対に!」
顔を赤くして腕でバツの文字を作りダメだというが、それに何故かランサーは怒ったように眉間に緩くシワを寄せる。
「何故ですかシロウ。私はサーヴァント、マスターを守護する者です。ならば、如何なる時もマスターの側で守らなければいけないのです! それを拒まれては困ります!」
「困るのはこっちだー! それにそれは"キベン"…でいいんだっけ? とにかくそれだからダメだ!」
騒がしく口論をしている大人の外国人女性と幼い日本人少年。なんとも奇妙な光景である。
「ええい! 尚も引き下がりませんか! なら、マスターにこのようなことはしたくありませんが、強行手段です!」
「! なにをするつも、うわぁ!」
強行手段と言って行ったのは、士郎を持ち上げたことである。もう何度目であろうか、持ち上げられるのは。
「さ、行きますよ、シロウ。お風呂場はどこですか」
「うわっ、ちょ、離せー!」
体格差でも断然勝るランサーに持ち上げられてがっしり抱きしめられては最早身動きが取れない。それでもと士郎が抵抗していると、「ちょっと〜、なに騒いでんのよ」と凛が部屋から出て角から顔を覗かせる。すると、外国人女性が日本人少年を攫っている光景が見えた。
「…ナニやってんの、アンタら」
その後、士郎とランサーから事情を聞いた凛は頭を押さえて、「士郎が正しい」とランサーから士郎を解放する。士郎はよかったと安堵してようやく風呂場へと向かう。そして、残ったランサーは「何故ですか! 凛!」と尚も抗議するが、
「あのねぇ、いくら幼くたって男と風呂なんて駄目に決まってるでしょうが。少しは意識しなさいよね」
「? 意識するとはなんのことでしょうか。私は判ってやっていますが」
「…え? 今貴女なんて?」
今ランサーがとんでもないことを言ったような気がした凛はもう一度聞こうとするが、
「持ってきたぞ。凛」
先ほど出て行ったアーチャーが玄関を開けて荷物を抱え戻ってきた。
「あ、うん。ありがとう」
「…仕方ありません。私はすぐに動けるよう待機しています」
ランサーは話はここまでと言うようにスタスタと奥へ行く。アーチャーから荷物を受け取った凛は「あ、ちょっと」と、ランサーを引き止めたかったが、それはかなわずランサーは角を曲がって見えなくなる。
「…彼女がどうかしたのかね?」
アーチャーが凛に聞くが、凛は「ああ、なんでもない」とどこか心が抜けたような返事をしてこの話を切る。
◇
次の日の朝。士郎は目覚めると、身動きがとれないでいた。その原因は、
「…ランサー、朝だよ」
昨日寝る際に、ランサーは士郎の護衛と言って当然のように士郎の布団に入り込んできた。無論、士郎はダメだと言ったが、どう言ってもランサーは引く気がない。頼みの綱である凜も、「もうあんたらで勝手にやってなさい」と、めんどくさいのか疲れたのか、ぐったりした様子で士郎を助ける気は無いようであった。
それから、しばらくランサーとの口論-という名の意地の張り合い-が続き、ついに士郎が折れて仕方なく添い寝を許したのだった。それにランサーは勝ち誇った顔をしていた。実に大人げないランサーである。
そして、いざ寝てみると当然と言おうか、ランサーの胸が惜しげもなく当たるわけで、士郎はずっと緊張したままでなかなか寝付けずにいた。だというのに、当のランサーは何故か、眠る必要が無いはずなのに士郎より先に寝ていたのだった。
「――ん、んん。朝ですか。おはようございます、シロウ」
「うん、おはよう」
終いには、士郎よりも遅く起きるという。本当に
「とにかくランサー、そろそろ離して」
ずっと抱きしめたままの状態からいい加減解放されたいのか、もぞもぞと動く。
「あ、はい」
ようやく解放された士郎は布団から出て体を伸ばす。少し昨日の疲れが残っているようで、体が少しばかり怠く感じた。
「ふう。よし、朝ごはん作ろうっと」
時間を確認したらいつもより早く起きてしまっていた。ランサーに抱きつかれていたからだろう。
士郎は一度顔を叩いて眠そうな顔を幾分か目覚めさせる。そうしたら、朝食を作りに居間へ向かい、ランサーも士郎の後をついて行く。
ちなみに今日は土曜日、休日である。
「よし。調理開始だ」
居間に着いた士郎は、歩いている間に目が完全に覚めたのでエプロンを着けてキッチンに脚立の上に立つ。ランサーは座って朝食を待っていた。
「…………」
「………なんか、やりずらいな」
士郎が料理している間、ランサーからずっと視線が突き刺さっていた。サーヴァントに食事は必要ないはずなのだが、士郎の料理に期待しているような眼差しだった。
「ふぁ〜あぁ。おはよ…」
「あっ、おはよう、り…ん…?」
と士郎がラストスパートというところで凛が居間に来る。
なのだが、様子がおかしい、昨日のようにキリッとした優等生然の雰囲気が微塵も感じられず、整っていたはずの髪も寝癖が数カ所跳ねている。
「…どうしたの、りん?」
そのままふらふら~と歩いている姿はさながら足のある幽霊だ。
士郎の質問に凜は「ああ」と言って全然目覚めていない目を向ける。
「私朝に弱いのよ。いつものことだから気にしないで」
そうは言うが、あまりにも昨日と違うので嫌でも気にしてしまう。
「そ、そっか。あっ、そういえばりんって何か朝ごはんのリクエストとかってある? もう大分作っちゃったけど」
「ん? あ~、特に無いわ。そんなに朝は食べるほうじゃないし、って士郎って料理できたんだ」
「あーうん。昨日は作ってもらっててゴメンな」
昨日、士郎達の昼食と夕食を作ったのは凜だった。その時士郎はランサーに捕まったままだったので作ろうにも作れず、凛もまさか士郎が料理なんてできると思っていなかったのだ。
「別にそんなこと気にしなくていいわよ~。それじゃ顔、洗ってくるから」
「うん。あ、場所は」
「昨日も使ったから判るわ~」
と、ふらふらとしっかりとはしてない足取りで玄関に近い洗面所まで歩いていく。
士郎はなんで知ってるんだ、と疑問に思ったが、思えば既に一昨日から泊まっていたのだからその時に探したのだろう。
「さて、りんも起きてきたことだし、後はさくらねえちゃんやふじねえちゃんもすぐに来るだろうし、早くしないと」
桜はともかく、大河は大食らいな上に、早くー早くーと餌を求める雛鳥のようにうるさいのでせっせと作る士郎。その姿は、将来主夫になれるのではと思える程様になっていた。
「私は部活に行って来るから、いい子にしていてね、士郎くん。遠坂先輩に迷惑をかけたらメッですよ」
「いい子にしているんだぞー、士郎。さもないとこの私の竹刀が火を吹くぜ!」
「うん、わかっているよ、さくらねえちゃん。部活頑張ってね」
「…あれ、桜ちゃんだけ? 私は? ねえ、士郎。私は?」
士郎が料理を作り終わった後、案の定桜と大河がやってきた。桜は士郎が早起きをしていることを褒めた後、士郎が作った朝食をテーブルを士郎、桜、凛、大河、ランサーの五人で囲んで-大河だけが-騒々しく食べていた。さながらその風景は士郎を除けば女子寮の食卓のようである。何故、当然の様にランサーまで入っているのだろうかは今更なので置いておこう。
そして、食べ終わった後は士郎と桜が後片付けをして、桜は部活、大河は弓道部の顧問なので桜と同じく部活に行く準備をした。
「それでは、遠坂先輩。士郎くんをよろしくお願いします」
「ランサーさんも士郎のことお願いしますね。士郎ってば本当、なにをしでかすかわからないですから」
「む。それどういう意味だよ」
頰を膨らましてジト目で抗議の目を大河に向ける。
「ええ、シロウのことは任せてください。私が見守っていますので」
「…はい。どうか士郎をよろしくお願いします」
丁寧にお辞儀をする姿は普段どれだけ粗暴で雑多でも大人としての気品が感じた。士郎は珍しく大河が礼儀正しくなっているのを見て訝しむ。
「…どうしたんだろう、ふじねえちゃん」
士郎の呟きは誰にも聞かれることはなかった。
「それじゃ、私達たちだけになったし、今後について話すわよ」
桜達を見送った後、士郎、凛、ランサー、アーチャーだけとなった居間でテーブルを囲み話し合っていた。凜はもう既に私服に着替え普段の凜とした、名前と同じ雰囲気に戻っている。
「まず、聖杯戦争についてはこのままでいくわ。戦力は申し分無いんだし」
「ええ。今度会ったら、必ずバーサーカーを仕留めてみせます」
ランサーは昨日のことを思い出しながら、気合は十分と言うように握りこぶしを見せて意思表示をする。
「うんうん。それじゃ、後は士郎の魔術だけね」
「うん」
聖杯戦争はこのままイレギュラーがなければ順風満帆といった風であった。つまり、今できることは士郎の魔術鍛錬のみである。
「それじゃ、早速基礎から教えるわねって言いたいけど、ちょっと場所を変えましょうか。ここじゃ家が壊れちゃいそうだしね」
そう言って立ち上がった凛に続き士郎とランサーも立ち上がって居間から出て行く。
(…本当に順調だろうか。もし、この世界にも奴がいたら…いや、万が一そうなったとしたら私が相手をすればいいだけか。奴とは私の方が相性が良いからな)
アーチャーは居間から出て行く士郎達を見てそう思っていた。だが、これもまた士郎達を成長させるための壁となるだろうと敢えてそれは言わないつもりらしい。それが後にどう結果を残すかはまだ判らない。
◇
「…どういうことよ、これ。私が悪いの?」
「…ごめん」
凛達は万が一を考えて土蔵の方に移動して、乱雑したガラクタを全て撤去した後、早速魔術の鍛錬が始まった。のだが、そこで一つ問題があった。
それは士郎の魔術適性であった。人にはそれぞれ魔術を鍛錬するにあたって自分の属性を把握しなければいけない。その属性とはゲームなどによくある火属性や水属性などと同じだと思っていい。なのだが、士郎には基本的な四大属性、五大属性には当てはまらず、どの属性なのかわからないでいた。
それでも、これだけの魔力があるなら自分に合ってなくともできるかもしれないと凛は考え早速実行したが、結果ダメであった。ただ、基礎的なことは時間をかければある程度できたので良かったとしよう。
その後、物を強化する魔術を試しにと教えてみれば、これは思いの外上手くいった。だが、強化の魔術は効率が悪い魔術なので、これ以上は教えようがなく、そのほかにも、色々魔術を使わせてみれば、投影魔術も割と上手くいった。しかし、これは凛も驚いたのと、どう教えれば良いのかと頭がパンクしそうになっていた。
「シロウ…」
(…もしや、とは思ったが、やはりこういう結果になったか)
そんな二人をランサーは危なっかしい弟でも見る姉のように心配し、アーチャーは何故だか納得といった顔をしていた。
「う〜ん。どうすれば良いのかしらこれ。なんで基本的なことはできて、いざ高度なものになると投影魔術しかできないのかしら。それも、普通の投影魔術とは一線を引くわよあれ」
凛が何やらブツブツと悩んでいるようだ。士郎はその側で近くにある自分の魔術で産まれたガラクタを手に取る。
中身は空っぽの出来としては悪過ぎる模造品だ。それをなんとなく剣を握るように持って構える。すると少し思い出したことがあった。
それは、あの剣士に襲われた時のこと。あの剣士には今も尚恐怖心が湧いてくるが、そんなことより、あの剣士が持っていた大剣、あれは素人目からしても超が付くほどの名剣と言える。それほど研ぎ澄まされた剣であり、あの時月の光に反射していた様は美しく、自分が今持っている物が細い木の枝同然に感じてしまう。そして、恐怖に晒され極限状態の中だったあの時でさえ、あの剣には憧れのようなものが感じた。
だからこそ、士郎はガラクタを一旦置き、何も持ってない状態で剣を構えるような態勢をとる。そして、目を瞑って思い浮かべるはあの剣。
「…っ!」
少しだけ腕に痛みが奔ったと同時に、自分の中にある
「うわぁ!」
士郎はその重量に耐えれず地面にその先端を落とす。すると、さっきから士郎に背中を向けていた凛は唐突に何か大きな物が落ちた音が聞こえ驚いて振り向くと、そこには見覚えのある大剣を握っていた士郎がいた。
「え…うそ、でしょ。それって…!」
凛は信じられないものでも見ているのかと思った。士郎が握っているのは紛れも無いあのサーヴァント、セイバーが持っていた大剣、セイバーが一瞬だけ真名解放した魔剣『
「…! あれは」
「なっ…! 馬鹿な…!」
ランサーはその剣があの時の剣と同じものであることに気づき、アーチャーは凛同様驚愕しているが、それは別の理由だった。
(ありえん…! まだ投影魔術を習って数時間も経ってないぞ…! それでそこらに有るただの剣なら未だしも、いきなり宝具の投影に成功しただと…!? それに、あれは完璧では無いが、七割は完全に投影できている。これは一体…!)
アーチャーは士郎の魔術について何か知っているようである。
(…あーもう、何が何だか判らなくなってきた。とにかく、この子は危ないわ。もし、他の魔術師がこれに気づいたら攫われてホルマリン漬けにされるわね、絶対)
それだけ今士郎がやったことはとんでもないことである。故に、凛は方向転換する。今から士郎に教えるのは魔術というより、魔力の操作を教えることにした。ダダ漏れの魔力を少しでも抑えて他の魔術師に気づかれにくいようにするためだ。
(…この子、もしかしたら魔法使いになれるかもしれないわね)
ふと、凛はその様な事を思う。魔法使いになること、それは即ちこの世にたったの五人しかいない偉大な存在になるということだ。
魔法使いと魔術師は区別されている。魔法使いは魔術師の高位な存在であり、魔法とは現代の文明では不可能な事を可能とするものを言う。まさに、今士郎は投影魔術で古代の神秘を完全再現しようとしていた。それに完全ではないものの、まだ伸び代はありそうである。
(だとしたら、なおさらこの子をしっかりと鍛えなきゃ)
ただ、そうなれば士郎は魔術協会という魔術の研究をしている魔術師の憧れの組織に封印指定され、一生涯追われる身となる。魔術協会はこの様な希少な魔法に近い魔術を扱う魔術師を保護しようと名目上はそう言っているが、実際はホルマリン漬けにして標本の様に飾られるという非道極まりない事になるだけで、そんなことになってしまえば、人生を奈落の底に落とされるも同然。助かることはほぼ皆無だ。
「…士郎、これから教える事をよーく聞く様にね」
「え? う、うん」
突然肩を掴まれそんな事を言われた士郎は訳がわからないといった風だ。もともと強くなるため凛の話は一切聴きこぼしが無い様にと決めていたらだ。
「よし。それじゃ、続けるわよ」
凛が気合を入れて教えている傍、アーチャーはどこか訝しげな表情で士郎を見ていた。
今回はここまで、さてさて、どうでしたか士郎の魔術は?この士郎なら本当に魔法使いになれるんじゃないかと自分は思っています。それにしても、士郎の投影魔術って本当に使えたら便利だよね。
それから、前回の回でランサーのステ公開しましたが、スキルを公開してませんでした、すみません。ですが、クラススキル、保有スキル共に変化はありません。
それでは、また次回まで。
P.S …大河まさかのサーヴァントに唖然