今日はやけに目覚めが良かった。
時刻は午前7時。
今日は休日だけど、随分早く起きてしまった。
昨日来ヶ谷さんからメールの返信が来たけど、特にあのおかしなメールに対してのツッコミなどはなかった。
その直後に恭介が、なぜか青い顔をして震えていたけど。
わけを聞いても何も言わずに走り去ってしまった。
その後、恭介がいなくなってしまったので僕たちは解散した。
約束の時間まではまだ随分あるけどどうしよう?
真人はこの時点でいないって事はきっと朝早くから筋トレでもしてるんだろう。
恭介は様子がおかしかったし、ここは謙吾を呼んで一緒に暇つぶしに付き合ってもらおうかな。
ということで早速謙吾に連絡してみることにした。
「「今から僕の部屋に来ない?
真人はトレーニングでいないし、恭介は昨日様子がおかしかったから誘えなくて暇なんだ。」」
一分後には返信が来た。
僕はもちろん来ると思っていたんだけど…
「せっかくの誘いだが悪いな。
今実は真人のトレーニングに付き合っているんだ。
随分遠くまで走って来たのですぐには戻れそうに無い。」
まずい…
本格的にやることが無いぞ。
いや、あるにはあるんだけど…
どうも只事じゃないみたいだし。
どうしようかな?
でも昨日のあの様子の理由も知りたいし…
「よし!」
恭介の部屋に行こう!
僕はそう決めると少しでも判断が揺らぐ前に恭介の部屋へと向かって行った。
「…」
恭介の部屋の前に行くと僕は言葉を失ってしまった。
あまりにも普通じゃなかった。
具体的にどこが普通じゃないかというと、
普通じゃないのは恭介の部屋を守るものーつまりドアだ。
恭介の部屋のドアは、南京錠やら何やらで厳重に守られていて、パッと見ても10個は鍵がかけられていた。
恭介は一体何に狙われているんだ?
僕はとりあえずドアをノックしてみた。
「なにっ!もう来たか⁉︎」
ドアの奥ではガタッ!と音がした。
何をそんなに焦ってるんだろう?
「どうしたのかは知らないけど僕だよ恭介」
「その声は理樹か?」
「うん」
恭介は僕だと気付いたようだ。
ゆっくりと恭介の部屋にかけられているやたら数の多い鍵が空いていく。
とても警戒しているようだ。
「一体何があったの?」
「とにかく今は中に入れ」
やっと鍵が全て空くと、恭介は急いで僕を中に入れて今度は開ける時の何倍ものスピードで鍵をかけていた。
「なんでこんな事してるのさ?」
「それがだな…」
恭介の顔は怯え切っていた。
「これを見てくれ」
そう言うと恭介は自分の携帯の液晶画面を僕に見せて来た。
「「棗恭介。
貴様を極刑に処す。
精々覚悟しておくことだな。」」
こう書かれていた。
「一体何にをしでかしたのさっ⁉︎恭介っ⁉︎」
「それが…」
来ヶ谷さんを怒らせるなんて、恭介は一体どんな馬鹿な事をしでかしたんだ?
「全く見当がつかないんだ」
「え?」
いくら来ヶ谷さんでも恭介が何もしていないのに極刑は無いだろう。
確実に恭介は来ヶ谷さんの気に触る事をしているはずだ。
「何かあるはずだよ、恭介。よーく考えて見て」
「うーん…」
約一分ほどかけて思考を巡らせた後、恭介は目を勢いよく見開いた。
「ないっ!」
ダメだ…
犯人がこれじゃあ原因が分からない。
いや、待てよ…
僕は最近恭介が来ヶ谷さんにした悪戯を一つ知っている。
昨日の夜の事だ。
恭介は僕への悪戯のつもりのはずだったんだろうけど来ヶ谷さんは自分への嫌がらせと受け取ってしまったんだろう。
そして来ヶ谷さんは恭介の仕業だと気付いたんだ。
だからこんな事に…
だから僕にはなんのツッコミもなく、恭介にあんなメールが届いたのか。
「分かったよ!恭介」
「何っ!俺は来ヶ谷に何をしてしまったんだ?」
「昨日のメールだよ…」
「何っ⁉︎」
やっと来ヶ谷さんの怒りの原因が分かったのか、恭介はものすごく動揺していた。
「あれはほんの悪戯じゃないかっ!俺の中に眠る少年の心がちょっとばかり働いちまっただけなんだよ!」
でも来ヶ谷さんは怒ってる訳だし。
「でもこのままじゃ恭介は来ヶ谷さんに処刑されちゃうよ?」
恭介の顔がどんどん青ざめていく。
「まあでも原因も分かったことだし、ちゃんと謝れば許してくれるよ」
「分かった。そうだよな、ちゃんと謝ってくるぜ」
恭介の顔にはもう迷いはなかった。
「行ってくるぜ」
「行ってらっしゃい」
恭介は部屋を出て行った。
その背中はとても頼もしいものだった。
まあ、結局恭介はこの部屋に戻ってくる事は無かったけど。