琥珀の風 ただいま更新停止中   作:雪宮春夏

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 気分転換に書きました!
 緋眼はもうしばらくお待ちください!
 ……これも、多分スローペース……あまり、早さにはもう期待しないで頂けると嬉しいです。





 叫び声が聞こえた気がした。

 それが、最後の記憶だった。

 

 キラリと、一瞬、橙色の光を映した水晶玉に、一人の幼女は目を見開く。

「この光は……!」

 言葉をとぎらせる幼女に、傍らにいた女性が問いかけた。

「ウルリーケ様、今のは……?」

 ウルリーケと呼ばれた幼女は、その言葉で我に返ったのか、女性に対し、鋭い声で指示を出す。

「血盟城に知らせを! 急ぎなさい!!」

 ただならない様子に、慌ただしく女性も動き出す。

 一気に騒がしくなるここは、眞王廟。

 この国、「偉大なる眞王とその民たる魔族に……(以下略)」略称「眞魔国」の王都に位置し、初代国主にして初代魔王、眞王陛下を祀る祠廟である。

 ウルリーケはそこに務める巫女達の実質頂点に立つ「言賜巫女」という役職につく、齢数百歳を数える強い魔力の持ち主であった。……見た目は十にも満たない幼女の姿をしているが。

 ウルリーケはもう一度水晶玉を見つめるが、そこにはもう今し方の光はみえない。しかし、ウルリーケの表情は変わることなく張りつめていた。

 この水晶玉は本来この世界にいる歴代魔王の力のみに反応し、その魔力を光として映し出す。

 ただ、先日王位についた今代の魔王のように、魔力が安定していない場合は映らない場合も多々あるので、精度はそこまで高くはないが。

 映ったものが無いという未来は無いのである。

「あの光は……魔力では無い。……これは」

 水晶玉が額につくかと思うほど近い距離でしゃがみ込み、ウルリーケは、僅かに顔を顰める。

 瞼の裏で何度も先刻みた光の色を思い出す。……間違いはないだろう。

「トゥリニセッテ……彼方にある世界の柱が……何故……!?」

 切れ切れに呟くその言葉を知るものは、まだ誰もいない。

 

 

 地球。日本にある、並盛町という町の中で、着物姿の眼鏡の男が僅かに目を眇めた。

(どういうことだ……縦の、ボンゴレの大空の気配が……消えた?)

 ラーメンを片手に持ち、片手で器用に、割り箸を割りながら、男はラーメンを啜り始める。

 この男の名前は川平。この店、川平不動産を営むおばあさんの息子ということになっている。

(リングの所有者が後継者を作らずにして死んだとしても、気配そのものがきえるなんてこたぁあり得ない。……あるとしたら)

 ずるると、ラーメンを啜る手を止め、ふと、目を動かして、虚空を見つめる。

「まさか……狭間に……いや、或いは……!」

 頭に浮かんだ複数の可能性。しかし、たとえどれであっても、現状では情報が圧倒的に足りなかった。

 ……どう動くにしろ、情報は必須である。

「まぁ……しばらくはあちらさんに任せてみますか。私の居場所は分かっているんだし、助けが欲しければ向こうからやってくるでしょう」

 悩んだ末、彼がとったのは放置である。

 彼らが何に巻き込まれたにしろ、自分は彼の仲間では無い。

 彼らが持つ……トゥリニセッテは気になるものの、今の己には結局出来ることはなかった。

 この男の裏の顔は、チェッカーフェイス。

 長くを生き、トゥリニセッテを維持するために、多くの人間を人柱として利用し、使い捨ててきた、間違っても善人とは言えない男。

 彼の第一はトゥリニセッテであり、結局それ以外のことは、彼にとっては些事でしかなかった。

 

 

 目の前に現れたその子供に、少年はただ目を丸くした。

「答えろ! 貴様っ!! どこの手の者だ! どこより入ったっ!!」

 鋭く誰何する衛兵を認識しつつも、事態を理解できていないのか、少年の目の前にいる侵入者は、ただぼんやりとした様子で、辺りを見渡している。

 いくら問うても反応が無い様子に苛立ったのか、衛兵が槍で突き殺そうとした時、バチリと、槍が何かに阻まれる感触が起きる。

「……な!? 結界……」

 衛兵の恐怖に怯える声に、少年も丸くするだけだった目を一転、鋭い光を宿す。

 法石の気配も無しに、力を奮えるのは魔力のみ。その中でも……結界をはれるほど高い魔力量を有するのは、十貴族を筆頭にする高位の魔族だけな筈である。

 しかし、見たところ子どもにみえる魔族は、人間である自分達を前にして、特に慌てる様子は無い。

 どころか、状況の把握ができていないのか、ただぼんやりとこちらを見つめるのみ、だった。

 ふと、微かに唇が動く。

 それとほぼ同時に、ようやく異変が分かったのか、数十人の衛兵が一気に部屋の中へ流れ込んできた。

「お下がりください! サラレギー様!」

 サラレギーと呼ばれた少年は、その言葉には耳も貸さず、魔族の子どもを見つめたままだ。

 この時彼の心を支配していたのは、純粋な興味だった。子どもが現れたここは、重臣でも滅多に立つことの許されていないサラレギーの私的な空間である。

 そこにいたるまでには幾十もの守りがあったはずだし、衛兵の数もバカにならなかっただろう。

 しかし現実として、この子供はここに立っていた。

 僅かな物音が聞こえたと思い、振り返ったら、その子どもが座り込んでいたのだ。

(こうして思い返してみると……おかしなことばかりなんだよねぇ)

 俄然子どもそのものにも、興味は沸いてくる。

 果たして、彼は何をするだろうか。

 そんな何が入っているのか分からない箱を開ける感覚で、子どもを見つめていると。

「ーーーー」

「な、なんだ!?」

 子どもは確かに何かを喋った。しかしここにいる衛兵は愚か、サラレギーでさえも何といったのか、分からなかったのだ。

「ーーーー?」

 再び、子どもは口を開くが、その言葉は理解ができない。

(聖砂国語とも違うようだけど)

 この世界で唯一、言葉が統一されていない彼の国の言葉でも無い言語を喋る子どもに、サラレギーは急激に興味をなくした。

 少なくとも魔族ではない。しかし、言葉が分からないなら、こちらも利用のしがいがなかった。

「良いよ。衛兵。捕らえて処分して。私は休む」

 一方的な宣告を果たして子どもは理解していたのだろうか。

 それさえ、サラレギーにとってはどうでも良かった。

 このまま数で優る衛兵達に捕縛されて、この部屋から連れ出される、そう思っていた子どもに、再び興味を抱くことになることをサラレギーはまだ知らなかった。言葉が通じないとはいえ、衛兵達の雰囲気から、この状況が己にとって不利であることは分かったのだろう。

 よろりと腰を浮かす子供に、しかし衛兵達は容赦なく包囲する。

 隊長が腕を振り下ろすのを合図に、彼らは一斉に捕縛に乗り出す。それを横目に部屋をでたサラレギーが、数歩、寝所に向かって進んだその時、けたたましい爆音と、震動が響いた。

 驚愕を隠しもしないまま、サラレギーは、背を向けたばかりの部屋をみる。

 その部屋は、サラレギーが閉めたはずの扉が既に爆発の影響か、変形して、ねじ曲がっていた。

 カツカツと、音を鳴らして部屋の中へ踏み入ると、中にいた兵士達があちこちで、血を流して倒れている。

「陛下! ……サラレギー様! ご無事ですか!!」

 声に反応して顔を上げると、爆発に気づいたのか、更に多くの衛兵がこちらへ近付いてきている。

「随分多いけど……持ち場を離れてきたわけではないよね?」

 危険がもうないことを確信していることも合わさり、サラレギーが問うたのは、始めに気にかかった引きつれられた兵の量だった。

「も、勿論、そのようなことはございません!! ……それで、賊は!?」

 冷や汗をかきながらも、勇み込んで問う兵長に、サラレギーは顎で部屋の壁だったもの……そこに開けられた大穴を示した。

「飛び降りたのなら、おそらく近くにはいるはずだ。探して。侵入者は茶髪の子ども。おそらくは魔族だ」

 最後の一文に肩を力ませ、兵長は大声で諾を放つと、引き連れていた全兵を連れて、階下の方へ降りていく。

 魔族と人間との間で戦いが収まってから、まだ20年は経っていない。特に被害の大きかったここシマロンでは、比例して、魔族に抱かれる感情は悪い。

「サ……サラレギー様」

 見ると、部屋の中で捕縛の指揮をしていた隊長だった。

(いや、隊長だけじゃない)

 思わずサラレギーは、相手の意図が読めずに、眉を寄せる。子どもを捕縛しようとしていた兵のほとんどが、怪我こそあるが息はあるのだ。寧ろ重傷者も少ない。

(単に時間がなかっただけか?)

 敵を生かすはずがないと言う先入観から、サラレギーはそう決めつける。

 その心情を知らぬまま、隊長は彼への忠誠心から、報告した。

「おそらく、あの子どもは付近にはもう居ないかと」

「……なぜ?」

 僅かな間を置いて、発せられた問いに、男は己の見たありのままを伝えた。……信義をえられるかは分からないが。

「飛んだのです」

 それは一瞬の出来事。捕縛しようとした衛兵達をスルスルと交わし、子どもが懐から取り出した何かを口に含んだ。そこまでははっきりと覚えている。

 しかし、それ以上は男も曖昧だった。両手から放たれた炎。指にはめられていた指輪が見えたが、あんな小さなもので、あれだけの炎を生むとしたら、法石としてはかなりの高価なものになるはずだ。

 そんなものを一介の子どもが持つわけはない。

 挙げ句その子どもは、開けた大穴から空へ飛び立ったのだ。……炎を噴射させて。

 まず……あり得ないことだった。

 一つの法石から、複数の力は使えない。

 法石は力ある物だが、万能では無いのである。

「……ふぅん。そう」

 疑わしいと、切って捨てられるのではないかと怯えていた男とは裏腹に、サラレギーは心底愉快そうに、笑った。

「面白いね。欲しくなってきた」

 

 

 サラレギーが笑う城から数十キロほど、離れた建物の上に、子どもは炎を灯したまま、降り立っていた。

 髪から服まで、ぐっしょりと雨に濡れ、少年の顔色もよいとは言えない。

「……どうなってるんだ。一体……」

 フラフラと、その場に座り込んだ子どもは、ポロポロと涙を流していた。

 額の炎が、力尽きたかのように、消えていく。それをぼんやりと見ながら、子ども……沢田綱吉は、涙を流し続けた。

 

 

『つっ君。……あなたは自由に生きて良いのよ?』

 最後に聞いた、母の言葉を、何故か思い出した。

 




 今回、題名はほぼノリで決めました!(≧◇≦)
 書くこと自体、勢いで決めました!(。ノωノ)
 ……止まるのは案外早いかもしれません。

 緋眼、奇譚と、どちらもリボーン原作なので、離れたい時とかにこれを書くかもしれないです。
 つまり……超不定期更新。∑(OωO; )
 こんな春夏ですが、これからもよろしくお願いします。
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