息抜きなので、目を瞑って頂きたく。
「トゥリニセッテ? 何それ」
魔王のみが手にすることが出来るというお宝の剣、魔剣「モルギフ」を探すため、人間の国へ行こうとしている俺達は、このヴォルテール城で旅支度をしていた。その時に名付け親でありボディガード、俺陣営に与する「魔族似てねぇ三兄弟」の次男、コンラート、通称コンラッドに教えられた事である。
「お宝ですよ」
そう呟くコンラッドの声は、どこか重苦しい。魔剣の話とは、少し違う口ぶりに、自然と俺も真剣になる。
「ギュンター達は話したがらないだろうし、ヴォルフラムに至っては気にもしていないけど、ユーリからすれば絶対に無関係にはなり得ないので、俺が話しておこうかと思いまして」
そう前置くコンラッドに、俺は首を傾げる。
コンラッドの弟、魔族似てねぇ三兄弟の三男、ヴォルフラムは確かに我が儘プーだが、魔族を思う心は本物だ。魔族のお宝ならば、どんなものでも気にすると思ったのに。
(それほど大したものじゃないとか? ……いや、でも大したものじゃないなら、コンラッドも俺に話そうとは思わないよね)
「……んで、俺はもしかしてそのお宝も取りに行った方が良いとかってこと? それはどんな宝なの?」
どこまでも沈痛な表情のコンラッドを変えようと、敢えて軽い口調で、捲し立てた俺に、コンラッドが返したのは予想外の言葉だった。
「いいえ。陛下。……トゥリニセッテは本来おいそれと手を出してはいけないんです」
「え? ……なにそれ!? 宝物で手を出すなって、それどんなトンチ?」
予想外のコンラッドの解答に、俺は矛盾を感じた。
手に入れてはいけないお宝。それならば誰に対しても得にはならないと言うことだろうか。
「……いえ、宝と言うのも語弊があるかもしれませんね。この世界に生きるものにとっては、宝というわけでありません」
何とも歯切れの悪い言い方で否定しながらも、コンラッドもようやく覚悟を決めたのか、次いで俺の目を見て、真相を言い放った。
「トゥリニセッテは、地球の……そこに住む者達の宝なんです。ユーリ」
ウェラー卿コンラートがその話を聞いたのは、異世界である地球にて、次代魔王の魂を守りながらの旅の途中、同行者である小児科医からだった。
NASAの教育道具とやらの睡眠学習で、この世界の言語を学んでから、様々な地域を点々としていたコンラッド達が、ある砂漠の真ん中で、野宿をしていたときである。
彼からしたら、子どもの頃に聞いた寝物語のようなものだったのだろう。
地球の魔族の中でもひっそりと伝わる伝説は、実は実在するものだったのだと、だじゃれ混じりに前置いてから、その伝説を語ってくれた。
太古の昔、まだ地球に文明がほとんど存在しなかった頃から、それは存在していたのだという。
『地球が、正しい方向に成長するために必要な三つの装置、それを総称してトゥリニセッテと言うらしい』
「地球が成長って……まるで生き物みたいだな」
最初の俺の感想に、思わずコンラッドも笑みを零した。
「彼らはそう考えていたんです。……それともう一つ、トゥリニセッテは、地球の基準点ともなり得るとも」
「……?」
良く理解できなかったのか、首を捻るユーリに分かり易くなるようにと、コンラッドは続けた。
「トゥリニセッテの三つの装置は、それぞれ時間、空間、瞬間を定めているんだそうです」
「ええっと……時計と地図と?」
分かり易く置き換えようとしたのか、ブツブツと探すように言葉をもらすが、結局良さそうなたとえにはたどり着けなかったのだろう。再び唸り出す主に、コンラッドも思わず苦笑する。
「……時間は時代です。その正確なものが無ければ、未来と過去が混ざってしまいます」
「あぁー! ……ん? それを整えるのが、1つ目?」
「はい。かなり分かり易く砕いていますが」
そこで漸く、ユーリも、ことの意味が分かったのだろう。
確かにこれは、魔族には興味が無い話かもしれない。人間にとっても関係は無いだろう。
地球と、こちらを行き来する、ユーリ以外にとっては。
「ちょっと待って……それが、この世界に来ているってこと?」
今し方聞いたときは、さして気にもしなかった言葉。
しかし、その一端を聞いてから改めて考えれば、其れがどれほど危険なものかはよく分かる。
「大丈夫です。三つのうちの一つとは言いましたが、装置のほんの一部なんです。……すぐに地球そのものに影響が出るわけではありません」
「そ……そうなの?」
おそるおそると、コンラッドの話に耳を傾けるしか、事情の知らないユーリにとれる道は無い。
再び安心させるように頷いてから、ですがと、コンラッドは言い置いた。
「その影響で、道が不安定になっているのもまた、事実なんです。巫女達も最善を尽くしますが」
「なぁるほど。また、人間の住む場所に出ちゃうかもしれないから、頭に止めといてって奴ね。了解」
危惧していたよりもたいしたことの無い話に、冗談交じりに軽口を叩くと、コンラッドも話すことへの緊張が解れたのか、薄らと笑みを浮かべる。
「さっ! 準備できたよ! コンラッド。出発しようか!!」
声を弾ませるユーリは、初めてのお忍び旅行に少し心を躍らせているらしい。
其れを微笑ましそうに見つめながら、コンラッドは頷いた。
目指すは、シマロン領、ヴァン・ダー・ヴィーア島。
この話を小説よりにするか、マンガよりにするかは、まだ未定です。
出来ればシマロン編まではサラサラ書きたいですけど……どうでしょうか?(;・д・)