ーーこの世界は残酷だ。
この世界は腐り始めている。
争いは絶えず、飢餓や貧困もある。
だが、それよりも恐ろしい物はなんだろうか?
答えは至って単純、自分たちが生まれたときにすぐ目にするものーー人間だ。
元々世界は自然な形でできたシステムで動いていた。
しかし、人間の登場でそのシステムに狂いが生じ始めた。
海や森林などの生態系を壊し、その自然のヒエラルキーのなかの頂点に私達人間が存在することとなった。
そうして王様となった私達人間は好き放題に暮らし始め、自分達にしか利益のないものばかりを作り生態系の破壊を加速させてゆく。
そのとてつもない程の罪を犯した私達は恐らく罰を受けるだろう。自分たちが王様だと信じきっている愚かな人間に。
それほどの罰を背負える程の覚悟を持った人間がいることを願う。
ーーーーある哲学者の日誌ーーーー
西暦2029年、突如発生した未知のウィルス通称アポカリプスウィルスによって大感染が発生し
ロストクリスマスという大事件が起きてから10年経った今
荒廃し、無政府状態となった日本はアメリカ軍を中心とする超国家組織GHQの統治下に置かれ
政治は安定した。僕の周りの人たちはGHQが善意で動いてくれていると勘違いしている。
善意を善意だと言った時点でそれは悪意となる。
まあ、これは受け売りだけどね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・!・・・ってば!」
隣から呼ばれている声で思考を一度止める。
「ごめん、集。ちょっと考え事してた・・・なにか言ってた?」
「いや、大したことじゃないんだけど・・・今日は軍が多いなと思って」
「なんかテロがあったんだって」
「へえ、物騒だね」
いま会話を交わした二人は同じ学校のクラスメイトの桜満集と校条祭だ。
集は本当は昔に会ったことがあるんだけど本人は忘れているようなので学校では初対面として対応して
いまでは友達として付き合っている。
祭は同じ部活ーー現代映像文化研究会ーーに所属していて、傍から見ていて明らかに集に
想いを寄せている。
「どこでテロがあったの?」
「あ、神谷はこういうのに興味があるの?」
「まあ、一般人だしそういうのはやっぱり気になるよ。家から遠いのか、とかね」
「お台場でって話らしいよ・・・あ、今は24区だっけ?」
「そうなんだ・・・最近多いよねテロ」
祭と会話を交わしていると、集があくびをしながら端末に目を向けているので祭が集に呼びかけている。
「集、寝不足?読書?」
「まあ、そんなとこ・・・」
適当にはぐらかされむっとする祭。
話が途切れたので話題を作る。
「そういえば集、春夏さんは元気かい?」
「相変わらず仕事で忙しいらしいよ」
「やっぱりまだ帰ってきてないんだね」
「うん・・・」
「そっか・・・」
・・・全然会話が続かない・・・仕方がないので音楽でも聞くか。
数曲聞き終えたところで天王洲第一高校に電車が到着したようだ。
こんな平和が続けばいいのにと思う反面、僕は怯えていた。
いつこの仮初めの平和が崩れるのだろうかと思いながら。
ネガティブな思考に陥っていると同じ部活の映研に所属している友達が挨拶してくる。
花音と谷尋だ。
「おはよう桜満君!祭!それと神谷君も!」
「おはよう花音さん」
「花音おはよう!」
「おはよう」
「皆おはよう!それにしても神谷くんはそのさん付けなんとかならないの?」
「こればっかりは外せないよ、なかなか」
「まあ、もうあきらめてるからいいんだけどさー」
彼女はどうやらさん付けをあまり好まない性格らしい。友達なら呼び捨ては当然だと言い張るのだ。
さらに祭を呼び捨てで呼んでいることでさらにこの主張が一時期強くなった。
流石にあのときはあまりのしつこさに辟易したものだ。
辟易しすぎて顔に出ていたのか、気を使ってくれたのか谷尋が花音を注意してくれて
当時は落ち着いた。
「おい花音。また神谷にさん付けをやめるように言ってたのか?」
「あ、谷尋。おはよう」
「ああ、おはよう神谷」
「そ、そんなことないわよ!ねえ神谷!?」
「う、うん」
あまりの威圧につい頷いてしまった・・・
「神谷がそういうのなら別にいいんだが・・・」
そんな会話をしながらそれぞれの机に鞄を置いてから席に着いたり、勉強したりと各自やりたいことをやり始める。ちなみに僕の席は集の後ろだ。
僕と集は席についていると颯太が集に話しかけてきた。
「おい、集!」
「ごめん、まだコンクール用のビデオクリップまだできてなくて・・・期限までには間に合わせるからさ」
「っ!そうじゃなくて」
なにか不満があるのか颯太は声を張り上げようとするが、それを後ろから来た
谷尋に止められる。
「まあ、良いじゃないか。できるってんだし。じゃあまた後でな集」
そういって二人は去って行った。
「かわいそうな颯太君」
「なんだよ、これでも空気読んでるんだけど」
「読んでないよ、集にぶすぎ」
僕にはなんのことかさっぱりだが祭と集が一言二言交わしているようだ。
そうこうしていると授業開始のチャイムが鳴った。
さて、集中しないと・・・
僕がにぶい?
ほかの人と感覚がずれているというならそうかもしれない。
僕にはわからないだけだ。
皆と何を話したらいいのか・・・だから内心焦りながら話を合わせて
友達風のものをつくってきた。
10年前、アポカリプスウィルスによるパンデミックでこの国はめちゃくちゃになって。
周りの国にすごくお世話になって、いまだに世話になりっぱなしだ。
さまざまなことが伝えている。
お前たちには守る力がないと・・・だけど本当にそれでいいのか?
授業がすべて終了し、僕と集は早めに映研の部室に行って昼食を摂ることにした。
ーー♪ーー♪
だれかの歌声が聞こえてくる。
聞き覚えがある声だった。しかも、聞こえてくるのは部室から聞こえてくる。
その事実に僕と集は顔を見合わせる。
部室に入れば思った通り、最近噂のEGOISTの楪いのりだった。
あまり聴いたことはないが耳に残るような歌声だった。
聞き惚れていると、集が一歩踏み出し、空き缶を蹴飛ばし大きな音を発てた。
「・・・ッ!!」
音に反応していのりさんが後ろに後ずさる。
それとほぼ同じタイミングでいのりさんの影から白い自律走行機械がこちらに4本の足の内の1本をこちらに向け
しろいトリモチのようなものを発射してきた。
僕は昔の癖でそれを反射的に避けた。
だがその手のことには関与したことがない集はそうはいかない。
左足にトリモチがあたり引っ張られ倒れてしまう。
「おい、待ちなよ!なにもしない僕達は敵じゃない!」
「・・・・・・ッ!」
敵ではないことを話しても警戒はやめないらしい。
「はあ、警戒しててもいいからとりあえずその怪我している右腕の治療はさせてくれないかな」
そういいながら前に進みながら話す。
それでも警戒しながら後ろへ後ずさる。
後ずされば後ろの机にぶつかり、その振動からかデスクに乗っていたPCが起動してコンクール用の動画が流れる。
・・・見たところ未完成のようだが。
「それ、まだ途中で・・・僕の故郷の景色で」
「・・・きれい」
集の発言が言い終わらない内にいのりさんが声を漏らす。
「「「・・・・・・」」」
沈黙が支配する。が、きゅ~という間の抜けた音で静寂は破られた。
その音の発生源は目の前のいのりさんだった。
そしてその当人は頬を朱に染め顔を背ける。
「・・・腹が減っているのなら僕の買ってきたおにぎりしかないけど食べる?右腕の治療はそのあとでね?」
ーー数分後ーー
「・・・これでよし、と」
約一分ほどで買ってきたおにぎり二つが消え、今は右腕の治療を完了させたとこだ。
すこし前に興味が湧いたので応急処置の知識は一通り覚えていたのが功を奏した。
「ロンド橋落ちた♪落ちた♪」
なつかしい歌を歌いながら白い機械ーーフューネルというらしいがーーと綾取りをしている。
「き、君、楪いのりだよね?EGOISTの」
集の問いには答えず、ふゅーねると綾取りを続ける。
「ところでこんなとこでなにしていたんだ?怪我を診たけど、あれは誰かに追われているときに傷ついたように見えたけど?」
「・・・この子を涯に届けるの」
「この子って、フューネルをか?」
こくりと頷く、いのりさん。
「そうか、君は涯の知り合いか」
「!・・・涯を知ってるの?」
「まあね、それよりそろそろ移動しようか」
「どういうことだよ?凛音?」
「この子は追われていて怪我を追っていて出血もひどかった。ということは追跡される痕跡を残しているってことだよ、集」
「な、なんなんだよさっきから追われているとか!」
「・・・理解が追い付いてないか・・・わかった、それについては後で話すことにしようか。ついでに僕のことも」
「わけわかんないよ!僕にもわかるように・・・」
「悪いけど、時間がなさそうだ。行こうかいのりさん。涯のところへ」
「・・・うん」
そういって治療キットの底に細工して作ってあった板を外し、サプレッサー付きの拳銃とナイフを取り出す
「なんでそんなところに銃とナイフが・・・」
「備えあれば憂い無しだよ、集」
「さあ、案内してくれるかな、いのりさん」
頷くいのりさんとフューネルと一緒に部室をあとにしようとするが
「・・・いのりさん届けるものを隠して。どうやら遅かったみたいだ」
「・・・?」
いのりさんはまだ理解できていないようだが
「外に気配がする・・・しかも大量に」
「!?・・・わかった」
僕の真面目な声になにかを感じたのか指示に従う
フューネルを階段の上に隠す
「・・・囲まれた。窓も脱出できるような大きさでもない」
「どうするの?」
「正面突破しかないかな・・・うまく注意を惹きつければ全員追いかけさせられるはずだ」
「・・・わかった」
いのりさん自身もそれしかないとわかっているのか作戦に同意するように頷く
「集、軍の人になにか言われてもフューネルのことは言わないように」
「・・・なんで」
「日常を守りたくはないのかい?」
「・・・ッ!」
「守りたいのなら自分で守るんだ」
「・・・わかった」
そう集が言い終わった瞬間に部室のドアが蹴り破られる。
「いくよ!いのりさん!」
「・・・うん」
二人で同時に飛び出して軍人ーーアンチボディズを無力化していく。
足ではなく腕を使えないようにナイフと銃を巧みに使う。
銃の弾が切れれば、ナイフと体術で、無力化していく。いのりさんも僕よりは効率が悪いけど素手でうまく無力化しているようだ。
だけど、数が多すぎた。
「・・・ガハッ!!」
銃のストック部分で鳩尾を殴られる。
見ればいのりさんも捕まっていた。
「このテロリストが!面倒かけさせやがって!ま、どうやら協力者もいたらしいな」
「データ照合中・・・葬儀社の者で間違いありません」
葬儀社・・・やっぱりいのりさんは葬儀社の一員だったようだ。
「しかし、この者はデータにはありません」
「なに?おい、貴様は葬儀社の者ではないのか!」
「ハッ、どうだろうね・・・君が三回まわってワン!って鳴いてくれたら教えてあげるよ?」
「こっのテロリストが!!調子にのりおって!・・・おいこいつも連行しろ!」
そうして僕といのりさんはアンチボディズに連行されてしまったが僕は笑えていた。
集が自分らしくないことをすると期待して。
・・・なんであそこで僕はなにもできなかったんだろうか?凛音は一体何者だろうか?
いのりさんはなんであんなとこに居たのか・・・。
わからないことだらけだよ・・・ッ!!
僕はどうしたらいいんだよッ!
こんな臆病な僕が・・・大嫌いだ!
そんな自己嫌悪に陥っていると機械のモーター音のようなものが聞こえて音源に目を向けると
これは・・・確かフューネル?
「なんだよ、僕に何か文句でもあるのかよ・・・」
こちらを見つめてくるように見えるフューネルに対して一人毒づくと
フューネルが上部の蓋のような部分が開き、中に入っている六角形の容器のようなものと
地図のようなものを表示してくる。
「・・・まじですか」
ここにいけと言わんばかりにある地点をマークしている。
ここに行けばなにか僕の本質が変わるだろうかと思った。
「・・・こんな道あったんだ・・・」
今いるとこは普段見る街並みなどない地下のパイプの中を通っている。
そして歩き続けていると外に出るとそこは一級汚染地区だった。
「よりにもよってここかよ・・・」
明らかに治安が悪いところを通らなけばならないなんて・・・やっぱり来なければよかったと後悔している。
また自分の悪い思考に陥っていると見た目からならず者臭がする人たちが迫ってきた。
「炊けんの?」
「・・・はい?」
「それ、炊けんの?」
「それはちょっと無理だと思います・・・」
確かに炊飯器には似ても無くは無いけどその発想はなかった。
「じゃ、それ置いてけよ」
「いや、それをちょっと・・・」
無理です、と言おうとして話しかけてきた巨漢の人に顔をおもいっきり殴られた。
「ガハッ!」
「いや、こっちはお願いしてんじゃないんだよ。それを置いてけ」
「無理です!これはあの子が守ろうとした大切なものなんです!」
そういっては僕はフューネルを抱え込んでうずくまる。
それを見たならず者たちが僕をリンチしようとすると周りから一斉にライトアップされた。
「なんだ・・・?」
ならず者たちは突然の環境の変化についていけずに顔に手を当ててライトの光を遮る。
そして声が聞こえる。
「やあ、死人の諸君!」
「・・・死人だと?」
このならず者たちを死人と呼んだその人は、上下黒い軍服のような恰好にくすんだ金髪の長髪の男で
こちらをするどい視線で射抜いていた。
「ああ、今この状態は君たちの存在を許さない。故に死人だ」
そう言いながら巨漢のならず者と相対する。
「あいつまさか・・・涯!?」
「おめぇ勇気あんなぁ・・・あぁ!?」
巨漢の男はそう言いながら折り畳み式ナイフを取り出しその涯と呼ばれた男に向かって振りぬくがーー
涯はそれをいとも簡単に体をずらすだけで躱し、振り切った相手の腕をそのまま掴み関節を極めてナイフを
落とさせ、そのまま関節を極めながら背後にまわり、巨漢の男をそのまま段差のあるところに落とした。
それを引き金に周りにいたならず者たちが襲い掛かるが巨漢の男のようにあっさりと倒してしまった。
まだ襲い掛かっていない者たちは恐怖し、逃げ出した。
その逃げ出していく者たちの背中を見送り、顔を正面に戻すと先ほどの涯とよばれる男ーーではなく
こちらに軽蔑の視線を向ける猫耳のようなものをつけた女の子だった。
「それふゅーねるでしょ?返してぇ!」
そのままふゅーねるを取ってどこかに行ってしまうが、これで僕の任務は終わったと
内心安心していると、先ほどの男が
「桜満集か?あれと一緒にいた女はどうした?」
「ッ!・・・それは・・・」
「見捨てたのか?」
答えられずに俯いていると見捨てたのかと軽蔑の視線が刺さるのを感じるーーいや、これは失望?気のせいだろうか?そんな思考に耽っていると爆発が聞こえた。
そしてそれから間もないうちに一人の男が走ってきた。
「涯!アンチボディズの奴らが!市民を大量虐殺してます!!」
「「ッ!」」
その知らせを聞いて僕は・・・日常から弾き出されたと感じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
僕といのりさんがアンチボディズに連行されてから何十分経っただろうか?
僕といのりさんはアンチボディズのリーダーらしき人たちに尋問をされていた。
殴られ、自白剤を投与されたりしたが、あいにく僕はその手の薬品が効かないように耐性を付けてある。
自分で自白剤などを投与して録音した音声に答えないようにするのはかなり苦だった。
だけどここで役に立っているのでやって良かったと思ってる。
尋問されても何も吐かないのでリーダーは痺れを切らしてどこかに行ってしまった。
それからしばらくして銃声が聞こえてきた。
・・・そして悲鳴も。
なにが起こっているのかこの部屋の中ではほとんどわからない。
一人であればこの状況から脱することができるわけだが・・・いのりさんがいるからできれば避けたい。
僕の力はあまりにも異質すぎる。
正直、この子は僕の事情と関係性がないわけではなさそうだが・・・。
確証がない以上は下手に見せない方がいい。
今はまだ然るべき時ではないのだから。
とにかく、外での騒ぎに乗じて逃げれるように準備だけでもしておく。
~数分後~
モーター音が聞こえる。
これは・・・どうやらエンブレイブのようだ。
その直後、かなりの近場から銃声が聞こえた瞬間、僕といのりさんがいたコンテナ型の移動指令室が横転した。
「いつつ・・・」
横転の衝撃で目隠しが外れる。
周りを見渡せば二人の見張り兵らしき人たちが気を失っている。
「よし、今がチャンスだ・・・いまなら逃げれる」
あらかじめいつでも解けるようにしておいた拘束具を外し、いのりさんの目隠しと拘束具を外す。
「いのりさん、今がチャンスだ脱出しよう」
「うん・・・」
「とりあえず外にでて、騒ぎの内容や状況を確認したい」
「まずは涯に会わないと・・・」
「・・・そうだな、涯ならこの騒ぎも気づいているだろうし」
「ついてきて」
そういっていのりさんがふらふらと外に出ていく。
足取りがおぼつかないのは先の怪我の出血の影響だろうか。
そのままの足取りでさっきのエンドレイヴの戦闘の爪痕が残った道路を歩いていく。
・・・まずい!そっちにはエンドレイヴの警戒兵たちが!
「いのりさん!!だめだ!そっちには!」
貧血の影響か、僕の声も届いていないようだ。
そしてエンドレイヴがこちらの存在に気づいてしまう。
クソ、あの力を使わなきゃいけないのか・・・!
「いのりさーん!!」
声がするほうを振り向けば、集がこちらに走ってきていた。
・・・ついに日常から一歩踏み出したか・・・集。
歓迎するよ、集・・・ようこそ、非日常へ。
集はエンドレイヴに銃を向けられているいのりさんに向かって走って行った。
もう、日常へは、戻れない。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
遠くから爆発が聞こえて、アンチボディズなる部隊によって六本木の一級汚染地区の住民が
虐殺されてると聞いて頭が真っ白になる感覚に陥った。
涯と同じような服を着た人たちがその爆発の付近にいく。
集もその流れに乗って見に行ってしまった。
GHQのエンドレイヴによって市民たちが殺されていく光景を・・・。
「クソ、あいつら本当に実弾をばらまいてやがる!」
金髪の不良のような男が毒づき、どこかに走り去っていく。
「綾瀬たちはどうしている?」
と先ほどの金髪の男がふゅーねるを受け取ったというか半ば強引にひったくった少女に問う。
「あやねえたちは・・・ッ!?、左方に機影!」
涯と銀髪の眼鏡をかけたいかにも参謀といった男が一斉に左を向く。
それにつられて集も左を見る。視界に映ったのは
敵のエンドレイヴで、こちらにかなりの速さで向かってくる・・・が。
敵エンドレイヴが建物と建物をつなぐ通路の真上に来た瞬間、別のエンドレイヴが上から
降下し、敵エンドレイヴを通路ごと踏み潰し、爆散させた。
「どいて、邪魔よ!」
先ほど敵エンドレイヴを踏み潰した味方であろうエンドレイヴに叱責される。
そして、味方エンドレイヴによって崩落させられた通路の瓦礫によって涯と分断される。
「いけ!集!そいつを絶対に手放すな!今度こそ、守って見せろ!」
そいつ、とはこの胸ポケットに入っている六角形の容器のことだろう。
「・・・・・・ッ!」
僕は涯が走って行った方向とは反対の方向に走った。
・・・でも何ができるんだろう、俺・・・。
そして、横転したコンテナのような装甲車を発見し、そこからふらふらと危ない足取りで
周りが炎上している道路を歩いている。
その近くには神谷もいた。
良かった・・・無事だったんだ・・・。と安堵したのもつかの間だった。
いのりさんが歩いていく方向に敵のエンドレイヴが手前に二機、奥に一機いるのが見えた。
神谷といのりさんの位置だとせいぜい手前の二機しか視認できないだろう。
「いのりさん!駄目だ!そっちは!」
神谷はエンドレイヴの存在に気付いたのか、いのりさんに静止を促すが、止まる気配はない。
むしろ、聞こえていないようにも見える。
反射的に逃げ出そうと後ずさってしまうが、思いどまり足を止める。
・・・たまには自分らしくないことをやれ!
「・・・いのりさーん!」
「・・・集!?」
「うわあああああああああ!」
叫びながらいのりさんのもとへ全速力で走る。
エンドレイヴに銃口を向けられるが、知ったことか。
無我夢中で走る。だからだろうか?胸元で光る容器に気付かなかったのは?
そして、そのままいのりさんを抱きつくような状態で庇う瞬間になにかが割れる音がした。
そして銃声が聞こえた。僕はその音を聞いて目をつぶって死を待った。
・・・がいつまで経っても死が訪れた感覚はない。
おかしいと思い、おそるおそる目を開けると、そこに広がっていたのは・・・
真っ白な空間に細長い鉄のリボンのようなものが漂う空間だった。
「え?・・・これは・・・」
この信じられない光景に唖然としていると、まわりに漂っていた鉄のリボンのようなものが
集の右腕にに巻きつく。
「グッ・・・なんだ・・・?」
「集・・・お願い私を・・・使って・・・」
いのりさんがそう言うといつの間にか彼女の胸元に白い光が漏れ出していた。
そこにこの右手を突っ込めと言わんばかりに。
思案していると、頭の中にビジョンが流れ込んでくる。
さまざまな映像が。その中には見たことのない光景がたくさんあった。
炎上する街並み、赤い結晶で覆われたとてつもない哀愁を感じさせる女性など。
「・・・なんだ・・・これ」
「・・・取りなさい、集。今度こそ」
「誰・・・?」
「これは力。人の心を紡ぎ形にする罪の王冠、あの子の力になってあげて」
「あの子って・・・?」
また流れる映像。見たことのないものばかりで頭が混乱してくる反面、冷静になってくる自分もいる。
そうだ・・・今度こそ・・・。
そう思うと体が勝手に動き、いのりさんの胸元に手を伸ばす。
「・・・ッあ!」
いのりさんが苦痛の声を上げるがやめない・・・。
そのまま右手にまとわりついてくる結晶を引っ張り上げると・・・。
それは剣になった。
その剣は強い光を空に打ち上げた・・・。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ああ、集。やっぱり君も選ばれてしまったんだね。
集はいのりさんから剣を出すと同時に、空に一直線の強い光の筋が打ち上げられる。
まるで、新しい王の誕生を祝うかのように。
「・・・なんだ・・・これ?」
どうやら取り出せても使い方はよくわかっていないらしい。
実戦で学べ、というのは嫌いではないが今回は状況が状況なので今回は僕がやろうか。
「集」
「・・・凛音、これって・・・?」
「それは、力だよ。ただし、覚悟しなよ集。力を持つということは罪を作ってしまうんだ」
「罪を・・・つくる」
「これは罪の王冠なんだよ、集。使い方を間違えないで」
「・・・うん」
「さあ、集。まずはチュートリアルだ。僕の動きをよくみるんだ」
まるでゲーム感覚のように僕は言うが、実際もうなにも感じなくなっていた。
力を振りかざすのを。それを改めて認識して、自嘲の笑みを浮かべると
「ま、僕のは少し特殊なんだけど・・・いのりさんの剣、借りるね?」
「借りる・・・?」
「借りるっていうよりはコピーだね」
「よくわからないよ」
「それが当たり前だよ、その当たり前を今のうちによく噛みしめて置くといい。もうこれから多分二度と噛みしめることはできないから・・・解析、開始」
解析の合図とともに僕の能力が発動する。
集が発動させたのはヴォイドゲノムとよばれる兵器だ。
それはまだ三つしか存在していないが、僕はそのどれにも当てはまらない。
これはまだ言えないが、その特別性故にある特性がついている。
それは、ヴォイドの解析。
あくまで解析なので、本物とはやはり差ができるが、通常兵装やエンドレイヴには十分に通用するし
なにより、熟練度によって強さが変わるので、あまりデメリットにはならない。
「解析、完了。認証名、ブレード・・・読み込み」
読み込みの合図とともに僕の手に結晶が発生して剣を構築する。
いのりさんの剣の見た目とは程遠いが、これは解析の本質が中身の特性の解析なので見た目は変わってしまう。
片手剣ほどの大きさになった剣を構え集に見せる。
「集。よく見ておいて、これが罪だよ」
そういって片手剣を横に振りぬく。
そうすると鉄のリボンのようなものが発生して飛ぶ斬撃としてそのまま飛んでいく。
これも習熟の度合いによって斬撃の大きさなどが変わる。
その結果、エンドレイヴ手前の二機は上半身と下半身が分断されてしまった。
その本来ならありえない状況を目の当たりにした、奥の一機が
こちらにミサイルを打ちながら、トンファーで突撃してくる。
「ミサイルの数が少なすぎるね。もっと数用意してきなよ」
そういって足元に魔法陣のようなものを発生させ、空中に飛び、ミサイルをすべて斬る。
そしてそのまま重力の力に逆らわずにエンドレイヴの頭部に剣を突き刺し、爆散させた。
「・・・集、これがヴォイドの力。君はもう日常にはもどれない」
「・・・ッ!!」
わかっていたのだろうが、口に出されるとやはりつらいのだろう、唇をかみしめる。
「ようこそ非日常へ」
これが世界の終焉の序章であることを僕は意識しながら・・・。
敢えて書いていない部分もありますが、ここはさすがに書かないとまずいところはご指摘お願いします。