FAIRY TAIL 〜Dの意志を継ぐ者〜 作:fortissimo 01
「「待てぇ!!」」
「ほほっ!」
「おおーん!」
部屋を出た二人を追いかける為、遺跡内を全力疾走するルフィとナツ。徐々に距離を詰めているとザルティは小声でトビーに話しかける。
「では、あの桃髪の少年は任せましたぞ」
「任せんなよ!」
トビーを無視し、ザルティはルフィ達と向き合うとルフィに向かって手をかざす。するとルフィの足元にある地面が突如腐敗し、崩れ始める。
「うわっ!?」
「ルフィ!? 落とし穴か!」
ナツはすぐさまルフィに向かって手を伸ばす。しかし、その瞬間地面は一瞬にして修復し、元通りになってしまう。
「何で閉じんだー!? 何しやがった仮面野郎!」
ナツは怒りをあらわにザルティ達を睨む。しかしそこにはザルティはおらずトビーだけがその場に立っていた。
「ど、どこ行きやがった!? おい、犬!」
「おおん」
怒鳴るナツに向かって舌を出し挑発するトビー。怒りを更に煽られ、ナツの顔から炎が溢れる。
「じゃあな〜」
「待てや犬!!」
トビーを捕まえる為、ナツは再び全力疾走で遺跡を走る。
「ここどこだ?」
ルフィはこの遺跡の最深部である地下まで落ちていた。あたりを見渡しているとそこには巨大な悪魔が氷の中に閉じ込められていた。その迫力にルフィは呆然とその悪魔を見上げる。
「な、何だこいつ……!?」
「デリオラ……ゼレフ書の悪魔が一つ、厄災の悪魔」
声が聞こえ振り返るとそこには大きな水晶に座るザルティの姿があった。
「あ、変な仮面のじじぃ!」
「ザルティです。私はね……このデリオラを復活させねばなりません。それが私の望みなのです」
「……そっか、じゃあまずはお前をぶっ飛ばせばいいんだな」
「ほほ、大した自信ですねぇ」
嘲笑うザルティにルフィは腕を伸ばしながら走り、ザルティに飛びかかる。
「ゴムゴムの……鎌!」
横に腕を伸ばしながら突進するルフィ。しかしザルティはこれを難なくかわす。ルフィは技をかわされると体制を変え、壁に足をつける。
「からの……ロケット!」
反動をつけ、速度を身につけた突進攻撃。それを見たザルティは両手を掲げると近くにあった石を一つに集め、厚みのある岩の壁を作る。
「固まった!?」
そのまま岩の壁に激突するルフィ。岩は崩れ、辺りに残骸が散らばる。激突したルフィにはあまりダメージを受けておらず、無傷のまま宙を浮くザルティを睨む。
「変な魔法を使うな、お前」
「ほほ、驚きましたかな? これが私の魔法、物体の時を操る『時のアーク』の力です。そしてそれを操ることもできる」
すると砕けた岩石の残骸が宙に浮き始める。それは一斉にルフィに襲いかかってきた。
「ゴムゴムの……」
ルフィはその場で拳を連続で突き出し始めた。それは徐々にスピードをつけ、腕が何本にも見える程になっていた。
「
無数に放たれる拳は残骸を一つ一つ砕き割る。ザルティは感心したような笑みを浮かべる。
「ほほう、流石は能力者ですね。一筋縄ではいきませんか」
ルフィとザルティ。両者が睨み合う中、デリオラの頭上に謎の光が現れる。
「ん? 何だあの光?」
ルフィは突如現れた光を見つめる。するとその光が氷に当たると、当たった場所から徐々に氷が溶けていく。
「な、なんか氷溶けてんぞ!? おい、何しやがった!」
「月の魔力は既に満ちているのです……。大勢ではなく、誰か一人でもいれば月の雫は発動する。さてさて上にいる貴方の仲間達はこの儀式を止めることが出来るでしょうかね?」
勝ち誇った様子のザルティ。するとルフィもにやっと笑みを浮かべる。
「あいつらなら止めるさ、絶対な!」
「ほほ、随分と信頼してるんですね? まぁやれるものならやってほしいですね!」
ザルティは手に持っていた水晶を真っ直ぐ、ルフィに向かって飛ばす。
「こんなもんっ!」
ルフィは拳で水晶を破壊する。そのままザルティに向かって走るルフィにザルティはにやっと笑う。
「お忘れかな? 私の時のアークを」
すると破壊された水晶が徐々に元通りの姿に戻る。戻った水晶はそしてルフィの横腹に直撃する。
「ぐえっ!?」
体制を崩したルフィは地面に転がり、そのまま壁に激突する。ルフィは頭を抑えながらザルティを睨む。
「くそっ……鬱陶しいな、あの玉! 壊したらまた戻っちまう」
ザルティを守るかのように周りを飛び回る水晶。壊しても再生し、壊さなくても攻撃される状況に顔が歪むルフィ。
「ほっほ、この程度ですかな?」
「うるせぇ! 行くぞっ!」
立ち上がったルフィは再度ザルティに突進する。
「何度やっても無駄ですよ。私は過去だけでなく未来も操れる」
ザルティは水晶に手をかざすと水晶は先程よりも速く動き始める。
「速ぇ!?」
水晶の速さに戸惑いながらも必死に防御するルフィ。身体中に水晶が命中し、防戦するしかない状況。そして水晶はルフィの顔面に向かって飛んでいく。
「このぉ!」
ルフィは水晶を何とかかわすと、そのままザルティに向かって飛びかかる。
「ほっほっほ! 無駄です!」
ザルティはすぐさま水晶を手元に戻し、正面から水晶をルフィの腹部に当てる。ザルティは追撃しようと水晶に手をかざそうとすると急に足場が悪くなる。
「な、なんで揺れ……!?」
ザルティは自分が乗っている大きな水晶を見つめる。その水晶は両手でがっしりと掴まれていた。
「へへ、捕まえた!」
「なっ!? まさかあの時に……!?」
腹部に水晶が命中した際、ルフィは手を伸ばしザルティの足場である水晶を掴んでいたのだ。
「くらえっ!」
「ぐっ!?」
ルフィは巨大水晶をザルティにぶつける。当たる瞬間に防御していたザルティは大きなダメージは受けなかったが、無防備なその身を宙に浮かせる。ルフィは無防備となったザルティに今度は水晶を思い切り投げる。
「ま、まずい! 時のアーク!」
回避しようと時のアークを使い、巨大水晶を止めるザルティ。意識を水晶に向けた瞬間、ルフィはぐるぐるとひねった両足でザルティの身体をがっちりと固定する。
「し、しまっ……!?」
「これで終わりだ! ゴムゴムの……っ!」
身体をひねり、回転しながら両足で固定しているザルティを持ち上げる。ひねった両足は高速で回転し、それに合わせザルティの身体も回転する。
「め、目が回っ……」
「……大槌!」
「きゃあぁぁぁぁ!!??」
ザルティを掴んだ両足を地面に思い切り叩きつける。ザルティは上半身が地面にめり込んでいる状態になっていた。
「うっし、終わった! ……そうだ、光は!」
ルフィは麦わら帽子を被り直し、氷漬けのデリオラに視線を向ける。デリオラの上には先程の光は差し込んでおらず、氷は溶けずに残っていた。
「あ、あぶねぇ……。やったんだな、あいつら」
ナツ達が儀式を止めてくれたのだとルフィは笑顔を浮かべる。
その時、デリオラを包む氷にヒビが入る。
「っ!?」
氷はヒビから徐々に崩れ始め、デリオラの顔を覆う氷が崩れる。
【グオォォォォォォ!!!!】
「う、うるせぇ!」
それは厄災の咆哮とも言えるおぞましい雄叫びに思わず耳を塞ぐルフィ。氷は徐々に崩れ、デリオラを纏う氷が全て崩れ落ちてしまった。
「改めて見るとデケェ!」
「ルフィ!」
振り返ると傷だらけではあるが、地下の入り口のようなところにグレイが立っていた。
「グレイ!」
「はぁ、はぁ……デリオラ……ウル……」
再びデリオラと対面するグレイ。ふとデリオラの近くにある氷を見つけ、唇を噛みしめる。
「はは……やっと会えたな、デリオラ」
「! リオン、お前……」
グレイの背後には傷だらけになったリオンが立っていた。驚くグレイをよそにリオンは静かにデリオラに近づく。
「ウルが唯一勝てなかった怪物……。今俺がお前を倒し……俺はウル、アンタを超えるっ!」
リオンはグレイとの戦いで魔力を消費したのにも関わらず、デリオラに攻撃を仕掛けようとする。それを見たグレイはリオンの背後に近づき、首に一撃を入れる。
「がっ!?」
「もういい、リオン。お前はもう休め」
力なく地面に倒れるリオンの前に再びグレイが立つ。
「や、やめろグレイ! お前では奴には勝てん! 俺が……俺ならあのデリオラを……!」
「やってみなきゃ、わからねぇだろっ!」
「っ!」
両手を前に出そうとする構えにリオンは一早く気づく。
あれは絶対氷結の構えーー!
リオンはグレイを止めようと声を上げようとする。
すると、そのグレイの目の前に突然ルフィが立つ。
「ルフィ!?」
「こいつは俺がやる」
「ばっ……!? どけ、ルフィ! このまま戦ったらお前がっ!」
グレイはルフィに退くように叫ぶ。その声は恐怖からなのか少し震えていた。誰かを失う事への恐怖がグレイに襲いかかってきたのだ。するとグレイの前に立つルフィは静かに振り返る。
「心配すんな、俺は死なねぇ」
「っ! ウル……っ」
笑顔で言い放つルフィの後ろ姿が師匠であるウルと重なる。グレイは自然と両手を下に降ろし、その後ろ姿を呆然と眺める。
「俺たちは諦めねぇ!」
ルフィは拳を振り、デリオラを迎え撃とうとする。しかし、突然デリオラの動きが止まる。
「えっ……!?」
「何だ……?」
動揺するルフィ達。するとデリオラの身体が腕から徐々に崩れ始めていく。
「デリオラが……崩れ、て」
「デリオラはすでに
デリオラの身体が徐々に崩れていく光景にリオンは下唇を噛みしめる。
「10年間……ウルの氷の中で徐々に命を奪われ……俺たちが見ているのはその最期の瞬間、という事か……!」
「……すげぇな、お前らの師匠」
ルフィも全てではないが理解した。グレイとリオンの師匠は命をかけて厄災の悪魔であるデリオラを倒した事に。
「敵わん……俺には、ウルを超えられないっ!」
「…………」
ウルの強さに涙を流すリオン。そんな中、呆然と崩壊するデリオラを見つめるグレイ。その視線の端に氷が溶け、水が流れていた。グレイは水に近づき、手で掬う。
「ウル……」
10年間……ウルはその時間を使い
水を掴んだ手を目元に当てる。そこから一筋の雫が流れる。
「ありがとう、ございます……! 師匠っ!」
流れる雫が地面に落ち、因縁と共に厄災の悪魔デリオラは消滅した。
人知れず役目を終えた氷は徐々に溶け始め、母なる海へと帰っていった。
「終わったー!」
「よっしゃあ!」
「あいさー!」
デリオラが消滅した後、遺跡を出たルフィ達は合流したナツ達と事件を解決した事を喜ぶ。
「ほんと、一時はどうなるかと思った」
「これで俺たち、S級クエスト達成だ!」
「やったー!」
「これで私達も2階に行けるかも!」
「コホン…………」
『あっ……』
エルザの視線に気づいたルフィ達は一気にテンションが下がっていき、自然と顔が青くなってきた。
「そういえばお仕置きがあった!?」
「ぎゃあぁぁぁ!?」
「はぁ……その前にやる事があるだろ」
「やる事?」
「悪魔にされた村人達を救う、今回の仕事の本当の目的を」
エルザの言葉にルフィ達は驚く。
「S級クエストは終わっていない」
「で、でもデリオラは死んで村の呪いだってこれで……」
「いや、あの呪いの現象はデリオラの影響ではない。恐らく月の雫の膨大な魔力が島の人達に影響を与えたのだろ。デリオラが崩壊したとて事態が改善することはない」
「そ、そんな〜」
厄災の悪魔であるデリオラが今回と関係ないと言われ、一気に力が抜けるルーシィ。
「よし、じゃあ皆で治しに行くか!」
「治すって、どうやってだよ?」
「知らね」
「お前なぁ……そういえばお前は何か知らねぇのか、リオン」
グレイは岩にもたれかかっているリオンに声を掛ける。呼ばれたリオンはため息を一つ吐く。
「……俺は知らんぞ」
「何ぃ!?」
「何だとぉ!?」
「だって、あんたが知らなかったら他にどうやって呪いを……」
「3年前、この島に来た時村が存在していたことは知っていた。しかし俺たちは島の奴らに干渉はしなかった。無論、向こうからもな」
「3年間一度もか?」
「遺跡から毎晩のように月の雫の光が降りていたはずでしょう? ここに来ないなんておかしいわ。それに月の雫による人体への影響、これにも疑問が残るわ」
「んだよ、今更俺達のせいじゃねぇって言いてぇのか?」
「俺達も3年間、同じ光を浴びていたんだぞ」
リオンの言葉に確かにと納得する一同。
「気をつけな、奴らは何か隠しているぞ」
「何かって?」
「そこまでは知らん、後はギルドの仕事だろ」
「そっか! 教えてくれてありがとな、仮面」
「リオンだ!」
「……とりあえず村に向かおう」
何か考えがあるのか、エルザは一同に村に戻るように言う。その場から立ち去ろうとする一行。そんな中、グレイは立ち止まり、リオンに顔を向ける。
「そうだ、リオン。一つお前に言いてぇことがある」
「……何だ?」
「お前も、どっかのギルドに入れよ」
「っ!」
グレイの言葉に目を見開くリオン。
「案外悪くねぇぞ。じゃあな」
笑みを浮かべた後、エルザ達を追いかけその場を立ち去るグレイ。一人になったリオンは自然と空を眺める。
「……ギルド、か」
「な、何これ!?」
村の跡地に着いた一行は目の前の光景に驚愕する。
「村が……」
「戻ってる!?」
毒毒ゼリーで壊滅した村が何事もなかったかのように綺麗に元通りになっていたのだ。
「どうなってんだ? まるで時間が戻ったみてーだ!」
「時間……あ」
ルフィは地下で戦ったザルティを思い出す。
「あの変な仮面か?」
「ルフィ、心当たりあるの?」
「確か地下で戦った奴が……」
「皆様ー!」
ルフィの声を遮るほどの大声で村長ボボがこちらに近づいてきた。
「村を直してくださったのはあなた方ですかな? それについては感謝しております……しかし、いつになったら月を壊してくれるんですか! ほがー!」
「ひぇ〜!?」
「月を壊すのは容易い」
「おい、今しれっととんでもねぇ事言ったぞ」
「エルザすげー!」
「あい!」
「しかし、その前に確認したいことがある。村の者達を集めてくれないか?」
「ほ、ほが……」
村長はエルザの言葉に従い、すぐさま村人達を村の中心に集める。集まった事を確認したエルザは一歩前に出る。
「まずは整理だ。お前達は紫の月が出てからそのような姿になってしまった。間違いないか?」
「は、はぁ……正確にはあの月が出ている間だけこの姿に」
「それは3年前からになる。しかしこの島では3年間毎日月の雫が行われていた」
エルザは考えながら腕を組み、辺りを歩き廻る。
「遺跡には一筋の光が毎日見えていたはず……つまり、きゃあ!」
突然説明をしていたエルザが消え、その場にいる者達はぎょっとする。
「エルザが消えた!」
「落とし穴まで復活してたのか……」
「きゃ、きゃあって言ったぞ……」
「あれ、あの位置たしかルーシィの」
「私のせいじゃない、私のせいじゃない!」
少し経つと何事もなかったかのようにエルザは落とし穴から上がる。頭にバナナの皮を乗せながら。
「つまり、この島で一番怪しいところではないか」
「な、何事もなかったように再開したぞ(バナナの皮……)」
「たくましい……(気づいてないのかな?)」
「え、エルザ……」
「(ダメだ、言ったら殺される)」
村人達やルーシィ達はエルザの頭の上にある物に気づかぬフリをする。
……この二人を除いて。
「ははは! エルザ、お前っ!」
「はっはっはっ! エルザ、頭にバナナの皮ついてんぞ! おもしれー!」
『(おいぃ!!??)』
「…………」
エルザは静かに頭にあるバナナの皮を取る。しばらくバナナの皮を眺めているとエルザはルフィとナツに近づく。その後の光景を見ていたルーシィはエルザを怒らせてはならないと心の中で誓った。
「ばい……黙ってまーず……」
「ずみまぜん……」
「「「……」」」
「……何故調査しなかったのだ?」
顔面がボロボロの二人をよそにエルザは村長に問いかける。
「そ、それが私達にもわからんのです。あの遺跡を調査する為に皆は慣れない武器を持ち、遺跡に向かいました。しかし、近づけなかったのです。歩いても歩いてもいつのまにか村の門の前。我々は遺跡に近づけなかったのです」
「近づけない?」
「でもおいら達普通に行けたよ?」
「ここから一直線だからな」
「ほんとなんだ! 何度も遺跡に向かおうとしたんだ!」
「けど、誰も近づけずに……」
「……やはり」
エルザは疑問に思っていた事が確信に変わる。
「ルフィ、ナツ」
「ん?」
「なんだよ?」
「これから月を破壊する、協力してくれ」
「「「何ぃぃぃぃ!?」」」
「おー! やるやる!」
「月壊すのか! 燃えてきたー!」
エルザの言葉に驚愕する一同と興奮する二人。どよめく中、エルザは魔法でゴツい鎧に換装する。
「方法としてはこうだ。
まず私は投擲力を上げる“巨人の鎧” 、闇を退ける槍“破邪の槍” に換装する。次にナツ、私が投げると同時に後ろから槍を殴れ。しかしこれではまだ不安定だ。だから最後にルフィ、飛んでいる槍に接近し槍を殴り更に火力を上げる。これだけすれば月までも届くだろう」
「うっし、いっちょやるか!」
「おう! いつでもいいぜ、エルザ!」
「うむ……では、行くぞ!」
言葉と共にエルザの手に一本の槍が現れる。エルザはそれを掴むと、投擲する為槍をかざす。
「今だ、ナツ!」
「火竜の鉄拳!」
ナツはエルザの持つ槍を後ろから殴る。それと同時にエルザは槍を投擲する。炎でブーストした槍は月にめがけ飛んでいく。
「よし、後は頼むぞルフィ!」
「おう! ゴムゴムの……ロケット!」
近くにある高台に手をかけ、槍に向かって勢いよく飛ぶルフィ。飛びながら体制を変え、腕を後ろに伸ばす。
「からの、ゴムゴムの……バズーカ!」
飛んでいる槍に更にブーストをかける。槍は速度を増し、凄まじい速度で月に近づく。
「届けぇぇぇ!」
槍はやがてどんどん遠くなり……そして、空にガラスのようなひびが入る。
『うそぉぉぉぉ!?』
「おおー! すげぇ!」
皆は口をあんぐりと開け、徐々にひびが広がる空を見上げる。そしてガラスが割れたような音を立てながら空が割れた。
「空が割れたっ!?」
「でも月が……!」
空には紫ではなく元通りの白い月が浮かんでいた。ルフィ達は首を傾げているとエルザが近づく。
「あれがこの島の呪いの正体だ。紫色の月はこの島を包む膜のようなものだ」
「膜?」
エルザの説明に耳を貸す一同。
あの月は『月の雫』の影響で出来た膜らしい。膜がある為、島の中から見上げる空は紫色に見えるのだ。
説明を聞いたルーシィはエルザに問いかける。
「でも……皆姿が戻っていないよ?」
ルーシィの言う通り、空の膜を壊したので村人達の呪いは解けるはずなのだ。しかし、ルフィ達の前にいる村人達は一人も姿が戻らず悪魔のままだった。
「いや、これでいいんだ。月の雫の影響は彼らの姿ではなく、彼らの記憶だったのだから」
「記憶?」
「
「ま、まさか……?」
「嘘だろ……?」
まさか……? とグレイとルーシィは冷や汗をかきながら顔を合わせる。
「彼らは元々
「何ぃー!?」
「お前ら本当に悪魔だったのか!?」
「う、うむ……まだ記憶が曖昧ですが……」
衝撃の事実に口を閉ざす事が出来ないルフィ達。村人達の記憶が徐々に蘇る中、一つの足音が近づいてくる。
「やはり君達に任せてよかった」
振り返るとそこには突然姿を消した船乗りの男が立っていた。
「きゃあぁぁ!? 幽霊!?」
「船にいたおっさん!」
「生きてたのか!? け、けどあん時船の上からいなくなって……」
「すまない、ほんとの事を言えなくて。俺は怖かったんだ。一人だけ記憶が戻ったと思ったら俺以外の皆は自分を人間だと思い込んでいてよ。それが怖くて……」
「ボボーーっ!」
すると涙を流しながら村長はボボに抱きつく。
「よ、よがっだ〜生きでて〜っ!」
「正気に戻って良かったよ、親父」
記憶が蘇り、悪魔である事を完全に思い出した村人達は翼で空を飛び、喜びを露わにする。
「にっしし、おっさん達嬉しそうだな」
「だな」
「あい!」
本当の月の光をバックに飛ぶ彼らの姿にルフィ達は惹かれる。笑顔を浮かべ喜び合う彼らは悪魔ではなく、天使のように見えた。
「今夜は宴じゃー! 悪魔の宴じゃー!」
「何か響きがすごいわね……」
「あい」
「よっしゃあ! 宴だー!」
その後、村中を上げての悪魔の宴は朝日が昇るまでつづいたのだった。