ヒューマノイドと警察官 三章   作:とましの

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31話

レオーネには大丈夫だと告げた徳川だが、本当は何も大丈夫ではなかった。第一、003に近づくことができなければ状況把握すらできない。それに003の感情プログラムだけは、自分の物をベースに作ることはできなかった。そんなことをしてもできあがるのは一世代前の感情プログラムだ。

ヒューマノイドを動かす基本である行動プログラムであれば自分の物をコピーして再構築できる。だが感情プログラムをコピーしても意味はない。徳川の感情プログラムには、魚住への気持ちが存在しないためだ。

 

 

研究所の奥にいるはずの003は厳重な警備によって守られている。そのため限られた職員以外は部屋へ近づくことすらできなかった。

それは最新鋭ヒューマノイドの構造が外部に漏れないための処置だと徳川も聞いている。そして同じ理由で石黒ですら近づくことができないらしい。

「身をわきまえろ新人」

何とか003の元へ近づこうと試みるが、先輩職員たちに足止めされてしまう。三人の職員はそれなりの実力をもっていてヒューマノイドの開発も手掛けている。

「石黒さんに気に入れられてるからって図に乗るなよ」

彼らが敵意を向けているのは組織内の上下関係を重視しているためだろう。それは理解できるが、合理的ではないと徳川は考えている。むしろ今はそんなことを言っている場合ですらない。

「なんだその生意気な目は!」

不意に職員のひとりに突き飛ばされ徳川は床に倒れ込んでしまう。あげく職員たちに見下ろされ、返す言葉を失ってしまった。

しかも徳川の聴覚機能は新たにやってくる足音をとらえていた。これ以上邪魔物が増えても、どう対処すればいいのかわからない。

「……才能あるものを愚物が見下ろす光景というのは、本当に見るに堪えないね」

だが新たにやってきた人物は、徳川の知らない声色の持ち主だった。

「そんな見苦しいモノを僕の視界に入れるなんて、許されないよ?」

「緋田様!!」

 

落ち着いた声が徳川に舞い降りるのと同時に職員たちがわかりやすく狼狽した。今までにないほど慌てた様子を見せた職員たちは、なぜか床に膝をつく。

それを唖然と眺めていた徳川は手を差し伸べられ視点を移した。

「やぁ、君が真琴だね」

親しげな声をかけられた徳川はその手を取って立ち上がる。すると緋色の髪の持ち主は黄緑の瞳を細めて笑みを浮かべた。

「僕と一緒に来ると良い。君の望むものはすべてあげるから」

穏やかで親切そうな男だが、職員たちはそんな男へ言葉通り膝を屈している。その光景のおかしさが徳川から判断力を削ぎ落としていた。

 

 

緋田という男の説明では、彼は石黒に頼まれて研究所へやって来たらしい。徳川は現在、内部システムのほとんどをプログラムの再構築に費やしている。ヒューマノイドは電力を充電すれば休みなく活動できるという人にはない特性を持つ。そのため徳川もここ数日休むことなく演算処理を続けていた。そして石黒はそんな徳川の身を案じて、緋田に話をしてくれたらしい。

 

 

研究所の最奥にやってきた徳川は003だった物を呆然と眺めていた。左側から強い衝撃を受けたらしく全体的にそちらからの破損が酷い。この有り様では衝撃を受けた瞬間にシステムがダウンしているだろう。人で言うなら即死に近い状態だ。

「こんな状態で、棚の下敷きになった001を助けたなんて信じられないね」

緋田も徳川と同じ結論にたどり着いたらしい。潰れてしまった差し込み口に触れながらつぶやいた。

「これではデータを取り出すこともできない。解体するしかなさそうだね」

「それは駄目だ」

「壊れた機体は廃棄すべきだよ」

「いやだ。この子は廃棄させない。俺が直す。直してみせるから」

なぜ簡単にヒューマノイドを廃棄しようとするのか。その一心で訴える徳川の目の前でゆっくりと緋田が振り向く。そして黄緑色の瞳を徳川に向けて刃物のように冷たく恐ろしげな笑みを浮かべた。

 

 

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