思考回路の停滞とともに動きを止めた光秀は玄関チャイムに自分を取り戻す。再び動き出した光秀は何も考えずに扉を開いた。
すると外にいた人物によって扉がつかまれ勢いよく開かれる。
「やあ、探したよ」
黒いスーツケースと共に現れたのは緋色の頭と黄緑色の瞳の持ち主だった。
「……っ!!!!」
妖艶さすら感じさせるその笑顔を見た瞬間に光秀は玄関から逃げ出す。だがその男はためらうことなく部屋に入り光秀を追ってきた。
「まったく、この僕の手をわずらわせるなんて…」
ため息まじりの言葉と共に男が投げたコードが光秀の足に絡まり転倒させる。リビングの床に転がった光秀は上におおいかぶされて色を失った。
「……許されないよ?」
黄緑の瞳が剣呑さを宿して見開かれる。光秀はそんな男を相手に首を横に振り続けた。
「今は壊されるのも持ち帰られるのも困る」
「なぜ僕が君を壊さなければならないんだい。それに持ち帰るのも、重そうだから断るよ」
全力で拒絶していた光秀は思いもよらない言葉に目を丸めた。
「ならなんでここに来たんだよ」
「決まってるじゃないか。君の状態を把握するためだよ」
「けどおまえ……あいつが死んだから、俺に興味なくなったんだろ? だから……」
自分を放置していたんじゃないのかと、問いかけようとした言葉が途中で止まった。思考回路に異変が生じてそれをストップさせる。
「石黒が、おまえはあいつの才能しか好きじゃねぇとか言ってたわ」
「では逆に返すけど、彼の才能以外に好感を持てる部分があったかい?」
「わかんねぇ」
問い返された光秀は理解できずに視線を落とした。相変わらず相手は床に倒れた光秀の腰に座ったまま動こうとしない。しかし光秀はそんなことを気にする余裕をなくしていた。
「あいつは俺の持ち主で、持ち主は絶対で……俺は…」
「……そう」
思考回路が滞りエラーを起こしかけている。その状態でつぶやいた光秀の上に乗ったまま、男の瞳が冷感を帯びていく。
「僕の組み立てた障壁を破壊して、君の記憶を復元させた人間がいるんだね。そこまでの才能の持ち主が彼以外にいたなんて」
冷笑を浮かべた男は身体を傾けるようにして光秀に顔を近づける。
「たまにはモニター以外に目を向けてみるものだね」
ささやく男を見つめる光秀は逃走を訴えるプログラムに反して動けないでいた。完全に混乱をきたしたシステムは、腰近くを触れられてもうまく反応しない。
「まっ…そこ、だ……」
記憶を消されたくないと訴えたいのにシステムがエラーを引き起こしてそれをうまく出せない。だがシステムはエラー状態にあっても、差し込み口に触れられれば身体が反応する。
「……っ、う…」
「君のここが弱いことはわかっているけど、泣くほどじゃなかったよね?」
スーツケースを開かせた男はパソコンとケーブルを取り出した。それらを床に置くとコネクタを光秀の腰に差し込む。
「出て…たことはあやまるから、消すのは…やめてくれ」
「このままではエラーが頻発してシステムに負荷ばかりかかるじゃないか」
「でも……」
「持ち主のことを忘れたくないということかい?」
男の問いかけに光秀は思考回路が働かないままうなずいた。持ち主とは誰を指しているのかも考えないまま涙目で男を見上げる。
「忘れたくない、に……決まってんだろ」
「……わかった。では削除だけはしないであげるよ」
そうつぶやいた男は悲しげに目を細めるとケーブルを繋げてパソコンを操作した。