石黒の元へ魚住から電話がかかってきた時、徳川はそばで書類整理をしていた。モニターから目を背けて電話相手と話す石黒は真剣な様子を見せている。その会話に耳を傾けていると書類の束で頭をはたかれた。
「手が止まってるぞ、新人」
注意と共に徳川の手元に書類の山が新たに築かれる。徳川は真面目な顔のまま謝罪をすると再び書類整理に戻った。しかし緋田という名前が石黒の口から出たため、徳川は自然と視線を向ける。
003の元に緋田が現れ何かを行った。003は充電されたとだけ言っているが、おそらくそれだけではないだろう。
感情プログラムの暴走とシステムエラーの頻発は内部媒体の磨耗に繋がる。そしてこの媒体が焼けてしまえばヒューマノイドは生きていられない。
もちろんその場合、焼ける前に防衛機能が働いてリカバリーがなされる。けれど破損が深刻な場合、すべてをリセットして処理を行わなければならない。
電話を終えた石黒は作業を中断して帰り支度を始める。それを見た徳川は慌てて石黒の元へ駆け寄った。
「003のところへ行くのか?」
「ええ、緋田が何をしたのか確認したいので」
「俺も一緒に行きたいんだが、構わないか?」
徳川の問いかけに帰り支度をしていた石黒の手が止まる。
「……徳川は寝てますか?」
予想外の問いかけを向けられた徳川は真面目な顔のまま首を傾けた。すると石黒は、ため息を漏らしながら眼鏡を押し上げる。
「前木が夜中にあなたを見たと言っていました。雑用を押し付けられて好きな研究ができないのはつらいでしょう。しかし休息を取ることも大切ですよ」
「いや俺は……大丈夫だから」
「何が大丈夫なんですか」
「若い、から?」
首を傾けながら言い返すと再び石黒がため息を漏らした。
「俺も人の事が言えた立場ではありませんから、これ以上は言いません。同行したいのならご自由にどうぞ」
「ありがとう」
石黒に気遣いや親切を向けられても徳川の真面目な顔は変わらなかった。しかしそれでも礼を口にすると荷物を取りに行くべくデスクへ戻る。
書類整理は戻った後でやれば問題はない。むしろ今は003の活動維持をしてやらなければならない。それでなくとも003は開発者がいない状態なのだ。些細な問題だろうと放置するわけにはいかない。
現に些細なエラーを放置したため修復不可能になった例もある。
遠い異国の地に送られたRーM002は深刻なエラーを引き起こし続けた。そして最後はリカバリーでも修復できず全リセットされる。それでも回復せず、結果として002は廃棄処分が決められた。
そしてその二の舞だけは防いでやりたいと徳川は考えている。