ヒューマノイドと警察官 三章   作:とましの

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28話

魚住の風邪が完全に治る頃には世間はクリスマス一色となっていた。二日ほど高熱で寝込んだ魚住だが、光秀の看病があったため不便は感じていない。むしろ光秀とふたりきりで過ごす時間が楽しく、寝込むのも悪くないと思えたほどだ。

しかし回復して仕事に復帰すれば、頭の中も気持ちも切り替わる。

 

 

だが捜査中に光秀と遭遇してしまうと魚住は一課長でいられなくなっていた。都内でも治安が悪いことで知られるその区域は、魚住のマンションとは離れている。そんな場所での捜査中に出会った光秀は魚住が買ったマフラーに顔を埋めている。

「やぁ、3号君。こんなところで何をしているんだい?」

捜査員の中で最も明るく疲れ知らずのレオーネが光秀に声をかける。すると光秀は散歩だと返した。

「近所のばあちゃんが孫に会いに行くって言うから荷物持ってやったんだ」

「つまりそのご婦人のお孫さんはこの近くに住んでいるんだね?」

「ここから124歩進んだ先のマンションにな」

「3号君はいつも歩数を数えてるのかい? そんなに暇なら可愛い子を見つけることに意識を向けなよ。世の中は可愛い子であふれているし、今は恋の季節だよ?」

「それを見て何か学べってことか?」

笑顔のレオーネに光秀は真顔で返していた。そのやり取りを眺めていた魚住はふと遠くに視線を移す。誰かの視線を感じた気がするのだが、ヒューマノイドふたりは何の反応もない。だとしたら気のせいかと思いながら魚住は捜査に戻る旨をレオーネに告げた。

するとレオーネは笑顔のまま魚住に同意してくれる。だが光秀はなぜか魚住の発言に眉を垂れた。

「魚住、あのコンビニ行こう」

そう告げて指さしたのは通りの向こう側にあるコンビニだった。ビルの一階に入っている駐車場もない小さな店舗で、特に何かがあるとも思えない。

「コンビニに何かあるのか?」

「真珠、君のその少し鈍感なところはどうなんだろうね?」

「ん?」

光秀に問いかけたところ、レオーネから意味深な言葉を投げ掛けられた。あげくレオーネは笑いながら光秀の肩をたたき連れ立って歩き出してしまう。どうやら近くの信号を渡ってコンビニへ行くつもりらしい。

真面目なのか不真面目なのかわからないレオーネに付き合い魚住もコンビニへ向かう。魚住のコーヒーも買ってくると言うレオーネはそのまま店内に入っていった。そのため魚住は店先に置かれた灰皿のそばに立って煙草を取り出す。

するとややあって光秀がやってきた。最近の光秀はぼんやりとすることが多く、言葉数も覇気も減っているように思える。

「どうした? 何も買わないのか?」

「いらない。俺は魚住と……だけだから」

言語機能のエラーが起きているのか、こうして言葉が飛ぶことも多い。そのため石黒に連絡をしてみたのだが、やはり向こうも年末は何かと忙しいらしい。今あるレポートを書き終えたら様子を見たいと言っていた。

「俺、おかしい、だろ」

「そうだな。以前よりエラーが多い」

思い詰めたような光秀の顔が見ていられなくて、魚住は自然と顔を背けた。煙草の煙を吐き出しながら通りの向こうに目を向ける。

「思考回路が拒絶して、魚住のこと、考えられなくて」

「次の休みは研究所に行こうと思ってる。石黒は忙しくて来られないらしいからな」

「研究所より、魚住と…ほうがいい」

「俺も一緒に行くぞ?」

「ふたり、が…いい」

途切れ途切れでも気持ちを伝えてくれる光秀がたまらなく好きだと魚住は思う。

以前徳川が感情プログラムの暴走を指摘したことがあった。相手のことを好きになり過ぎるあまりプログラムが暴走して誤作動を起こすらしい。だとしたら、今の光秀のこれも感情プログラムによる誤作動なのだろう。

そう考えながら魚住は煙草を灰皿に押し付けて火を消した。

「研究所に行った後でどこかに出掛けるか。おまえの好きなところに、ふたりで」

それなら文句はないだろうと思いながら目を向けた先で、光秀はよそを見ていた。紫色の瞳で道路の向こうを見ている。

 

 

一瞬の浮遊感の後に魚住の身体は地面に激突していた。反射的に受け身をとろうとしたが、勢いが強すぎてうまく転がれない。そうして硬い地面に叩きつけられた魚住は痛みぐらつく頭に手を当てて顔をしかめる。

そこで唐突に近い形で鳴り出した自動車のクラクションが魚住を急速に覚醒させた。鳴り続けるクラクションの中に人のざわめきと悲鳴が入り込む。そして誰かが魚住の元へ駆け寄り大丈夫ですかと声をかけてきた。

そこで視線を上げた魚住はコンビニに突っ込んだ自動車を見る。

 

 

 

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