ヒューマノイドと警察官 三章   作:とましの

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29話

「マリエ! マリエー!」

救急車のサイレンが近づく中で女性の悲鳴に似た声が飛んでいた。自動車のクラクションは止まることなく鳴り続け周囲の野次馬も増えている。

そんな中で魚住は野次馬の中にいたらしい医療関係者に応急処置を受けていた。少し切れただけだが出血は多く、今も血が止まっていない。

そして血の苦手な魚住は、自分の出血によって吐き気を覚えていた。しかしそれでも立ち止まっていられず携帯電話を取り出して部下に応援を頼む。

 

強い衝撃を受けて一時的に停止していた機能が回復する。倒れ込んだ棚の隙間で再起動したレオーネは自分の腕の中にいる小さな少女を見た。

レオーネの聴覚機能が遠くでマリエと呼ぶ声をとらえている。

「だいじょうぶかい? 小さなお嬢さん」

ささやくような声で問いかけると腕の中の少女がこくんとうなずく。四歳くらいだろう少女は事故の瞬間お菓子売り場にいた。そのため自動車が突っ込んできた時に倒れた陳列棚の下敷きになりかけたのだ。

だからレオーネは少女をかばってその身で陳列棚を受け止めた。そうして少女を守るために盾にした右肩から先が破損してうまく稼働しない。

「君の事は僕が守るから、少しだけ我慢してね」

笑顔を作り少女にささやくとゆっくり下半身を稼働させる。陳列棚を背中で押し上げる事を意識して立ち上がろうとする。しかし自動車の重みがあるのか、棚を持ち上げるにはパワーが足りなかった。

「……っ」

膝関節部分がきしみ背中にも違和感がある。こんな時はヒューマノイドに痛覚がなくて良かったと思う。

だがつらさはある。このまま背中が破損して棚を支えられなくなればその重量が少女を潰してしまう。それだけは防がなければならない。

 

「そんなモンも持ち上げられないのかよ」

ひとり奮闘を続けていると聞き慣れた声が背後から聞こえた。そばにいたのかと驚くレオーネの背中にのし掛かっていた負荷が軽減する。

「3号君もいたんだね。てっきり外にいるんだと思っていたよ」

「…吹っ飛んだんだよ」

「それは…自動車に?」

では光秀も破損しているだろうと、レオーネは振り向き確認しようとした。

「振り向くなよ。そこのガキが不安になる」

確認しようとしたところを止められ視線を少女に戻した。レオーネの頭上では今もゆっくりとだが棚が持ち上げられようとしている。

「本気モードの3号君って、すごく頼りになるよね」

「最新型なめんな。テメェなんざ瞬殺だぞ」

「はははは、それは勘弁コウムリタイね」

「……頼まれたってしねぇよ。テメェには…魚住を守ってもらわねぇといけねぇから」

背後から聞こえた真剣な声にレオーネの笑顔が固まる。棚を持ち上げてくれているのだから、光秀は無事だと思い込んでいた。だがここで笑顔を消してしまえば、腕の中の少女が不安を抱くだろう。

だからレオーネは背後を見ることも問いかけることもできなかった。

 

 

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