「うーん…」
キャスターが作ってくれたサンドイッチ片手に、賑やかな異界で私は唸っていた。
「行き当たりばったりなつもりだけど、準備もなしにギル様とかは即死間違いなしだし…」
「海魔がいないから、ストーリーも進まないしね」
バスケットの中に入ってるサンドイッチをパクつきながらキャスターと見るのは、
セイバー陣営は、何故か現在の居場所は武家屋敷。意気消沈してハイライトの消えた目のセイバーと、それを心配するアイリさんが目撃されたらしい。
ランサー陣営は、変わらず廃工場。令呪をゲットしてはしゃぐソラウと、苦い顔をしてるランサーが目撃された。
アーチャー陣営は、正直よく分からない。でも、教会付近にショゴスが近寄った瞬間消し飛ぶらしいから多分居場所は教会。
ライダー陣営は、多分マッケンジー夫妻の家。こっちも遠距離でもないと監視は出来ないらしく詳細不明。
そして我等がキャスター陣営は、原作でのキャスターペアが隠れていた貯水槽。未だにどの陣営にも察知されてる気配はない。
なお彼らの報告は、全てティアさんとティアさんのばら撒いた神話生物によるものである。まあそれを簡潔にまとめると、戦局は見事に膠着状態に陥っていた。
「キャスターはどうすればいいと思う?」
「ライダー陣営と全力全開でバトr」
「却下。戦いの後ケリィが怖すぎる」
「ぶー」
ブーイングされようが却下は却下です! だってライダーだよ? イスカンダルだよ?
『
「でも、ライダーと戦うって約束みたいなのしたもん」
なんだかんだでうちのキャスターさんは、王の宴の前にライダーと戦う約束をしていた。それを果たさないわけにはいかないし、キャスターの顔には戦いたいと思いきり書いてある。だからまあ、そうしたいのは山々だけど…
「けど王の軍勢とマトモにぶつかり合って、キャスターが消耗した時に襲われたら、勝ち目どころか逃走も危ういだろうし…」
せめてランサーとセイバー辺りが戦ってくれればいいのに…と思った時、今の今まで忘れていた事を思い出した。自体に変化がないなら待たないといけない、それで待つ時のネタは1つあった。
「ねてキャスター」
「どうかしたのマスター? もしかしていい戦い方が思いついたとか!?」
「ううん。とりあえず思いついた事はあるけど、どうせすぐには動かないからさ…キャスターの話を教えて欲しいな」
目をキラキラと輝かせていたキャスターが、完全に普段の雰囲気に落ち着く。そしてそのまま、頭に?マークを浮かべて聞いてきた。
「それってどういうこと?」
「よく考えたら私、全くキャスターの事知らないなって。未来の話とか、英雄譚みたいなお話を聞かせて欲しいなって」
そう言った私に、あぁとキャスターは嘆息して頬を掻いた。偶にはこういう子供っぽいお願いをしてもいいだろう。
「なんか自分の話を紹介って、恥ずかしいね。だけどまあ、偶にはこういうのもいっか」
「大マスター、映像もある」
今までどこかを漁っていたティアさんが、もう見た目が完全に未来のビデオカメラを持って帰ってきた。なんで映像なんてあるのさ。
「それは出さないでティア。でも、確か歴史書みたいなのなかったっけ?」
「ある。持ってくる?」
「うん、お願い」
それだけ言うとティアさんはどこかへ走って行き、キャスターはその場に女の子座りになる。私もキャスターも、座布団の上だから暫くは座っていられるだろう。
「さて、それじゃあちょっと長くなるけど、私の物語を話し始めようか。
愛する者達を守るために戦い散った、ごくありふれた英雄の話を。
最後に自分を犠牲にする事でしか守る事のできなかった、最低の母親の物語を」
そう言ったキャスターの目は、ほんの少しの誇らしさと郷愁、愛情。そしてそれらを塗り潰すほどの、圧倒的な慚愧の念に満たされていた。
◇
「まあそういう訳で私は神を殺して、代償として1ヶ月くらい生死の境を彷徨ったけど無事生還しましたとさ」
「おぉー!」
話が始まってから、途中休憩を挟んで大体1時間半。途中かなりの惚気話も混ざったけれど、それは確かに英霊になるに足る英雄譚だった。
でも、言うなれば今の話は言わば幼少期の話。言いづらそうにしてるし、多分ここからが本編なのだろう。
「まあ、この
「なん…だと」
予想が思いっきり外れた。確かに今のロリぼでぃな状態だとそうなのかもしれないけど、拍子抜けした。
なんて思った瞬間、キャスターが先程までより重くなったように見える口を開いた。
「さて、それじゃあここからは私が死ぬまでだけど…」
「残念ながら、重要な部分になるまで大幅にカットする。マスターに任せると、惚気話で何時間もかかる」
「あ、うんなんとなくわかる」
さっき終わった話だけでも、無駄に甘い惚気話がガンガン入っていたのだ。新婚の頃なんかになっちゃったら、きっと一日じゃ終わらないだろう。
私の見立てだと、ロイド君の方は多分最初の頃からキャスターに惚れてたね。キャスターの方は、多分義手を作ってあげた時だと思う。…まだ口の中が甘い気がしてきた。
「うっ…確かになりそうだけど、折角だから説明させてよティア。簡単に纏めるから」
「ならやるといい」
ちょっと引いてる私の前で、あっさりとティアさんが引く。そうして、キャスターが苦虫を噛み潰したような顔をして、ゆっくりと語り出した。
「それでその後、色々割愛するけどロイドと結婚して、新婚旅行で色んな次元の世界を巡って、なんだかんだ幸せの中にいられたんだ。暫くは」
「暫くはって事は…」
「うん、大問題が起きた」
キャスターが忌々しそうに語る。
「娘の◼︎◼︎◼︎を産んでから、大体1週間くらい経ってからだったかな? 例の駄女神様から緊急の連絡が来たんだよね」
「その内容は?」
何かノイズが走って聞こえなかったけど、今はそれより内容が気になった。何か変な気がしたけど、今の私にはそれが一切気にならなかった。
「『このままだと地球含めたその世界に隣接する世界全てが、10年弱で滅亡します。まじヤバイ。元凶は今あなたのいる世界に現れます、私達も協力するからヘルプ』」
「うわぁ…」
幸せの絶頂だろう時にそれは酷い。やっぱり神様クソだね。私も転生させてくれた事は感謝しかないけど、何も知らない一般人だったらリューノスケに殺されるだけの人生になってたし。
「その1週間後くらいから、3つの大陸の真ん中に気持ちの悪い造形の城が乗った島ができて、そこから出てきた謎生物が全大陸に侵攻してきた感じだね」
「……」
主役の条件が神様の玩具って台詞は知ってたけど、本当に最悪じゃないか。私は口を挟まず、じっと話を聞く。
「それで私は子育てしつつ、家を襲ってくる謎生物を夫と一緒に迎撃していったんだよ。ロイドだけに任せてはいられなかったし」
「マスターは、確かあの頃ほぼ寝てなかった」
「でも、それじゃあ最低じゃないんじゃ…」
子供云々は
「それはここから。長くなりすぎるから省くけど、色々あって全大陸の種族が団結してその島を攻めていったんだよ。5回くらい」
まあその内4回は負けてるんだけどね、なんて事をあっさりとキャスターは言った。進軍の為の橋を建設してて、キャスターは最後以外は一切戦いに参加しなかったらしい。
「こちら側の戦力は、人族・獣人・魔族の精鋭が、相手の兵力とほぼ同等。飛び抜けた実力者が、約500名。これが、最終戦の兵力」
「その500人の内100人は、私が他の次元から連れてきた血気盛んなチート転生者と元勇者が数名だね!」
「……それで、どうなったの?」
唾を飲み込み、私は聞く。ここまで聞いたからには、バッドエンドだろうと最後まで話を聞きたい。
「最後にはそれくらいしか残らなかったけど、向こうも消耗してたからね。かなりの犠牲は出しつつ、ちゃんと私達含む七人は玉座に着いたんだ」
「でも、その親玉が化け物だった」
キャスターの逸話を振り返ると、その到達した時の力に達していないのに地形破壊を起こしてた気がするんですがそれは。
「こっちからの魔法は際限なく吸収、弓とか銃の遠距離攻撃は矢避けの加護でもあったのか当たらない。異常な回復能力を持ってて、向こうの攻撃で負った数はほぼ回復不能」
「向こうは魔法を使い放題、戦士としても超人級の悪魔だった。大体身長は2m」
「勝ち目、ないじゃんそれ」
キャスターの武器は大鎌、乱戦じゃ実力を完全に発揮出来ないし、サポートに回ってもジリ貧。詰みじゃない?それ。
「畸形のない波旬よりはマシ。けど、軽く半分が死ぬか戦闘不能になった」
「残ったのが私、ロイド、ティア。後はタクだけになってから、私もなりふり構わず戦ったんだー」
「もしかして、勝てたの?」
話す雰囲気が軽くなったので、もしかしてと思い聞いてみる。というか(∴)なんかと比べちゃ何もかも格下です。
「いや、全滅した」
「相手の必殺技を防いだタクが蒸発して」
「次に私が、封印に動き出したマスターを庇って、蒸発」
「それで、最後に残った私とロイドであいつに剣を突き刺して擬似流出。永遠の停滞の中に取り込んで終わり」
「え、終わり?」
なんだか畳み掛けるように告げられた終わりに、私は置いてけぼりにされた感じがした。え、本当にそれで終わり?
「うん、ここからは私の娘の物語になるからねー」
「そして、私達は英霊の座に引き上げられた。そのまま私は、マスターに頼まれ単独顕現。終わりまで、親の代わりをしていた」
「最低の母親って言ってたけど、それって何も悪くないんじゃ…」
重ねて言うけれど、何も悪いとは思えない。確かに戦いに巻き込んだとかはあるかもしれないけど、それは仕方なかったんじゃ…
「たった9年」
「へ?」
「私が、母親としてあの娘といられた時間」
いや、私も今9歳で家族が消え去ったんだけど…なんて事を考えたけど、私は純粋に9歳じゃないから例外か。
「それに、私は結局封印しきれてなかった。だから母親として最低だなって。だって自分のやり残した事に、一番守りたかった自分の娘を巻き込んじゃったんだもん」
沈黙が広がった。私はなんて声をかければいいのか分からないし、キャスターも新たに何かを語ろうとはしない。ティアさんもじっと口を噤んでいる。
「さて、暗い話はここまで! ここからは作戦考えようよ、マスター!」
「え、あ、そうだね。うん」
キャスターがそう言ってくれたお陰で、金縛りにでもあったかの如く動けなかった私は解放された。
自分から聞いておいてなんだけど、逸話は逸話。今にはそこまで関係がないもんね。今を生き残る為に、私もどうにかしなくちゃいけない。
「でもキャスター。私はキャスターのやった事、間違ってなかったと思うよ」
「そっか。少しでもそう思ってくれたなら、よかったよ」
そう言ったキャスターの顔は、悲しんでるような嬉しがってるような、なんて言えば良いのか分からない顔をしていた。
書くか分からない続編の設定を出して自分を追い詰めるスタイル。
-追記-
すまない…◼︎◼︎◼︎はまだ名前が決めてないだけですまない…