「ふぁぅ…」
大きな欠伸をして、目をこすりながら私は体を起こす。
ぐっすりと寝れたお陰で、私は気持ちよく目を覚ます事ができた。それはそれとして、なんで布団で寝てたんだろう? えっと、確か昨日はライダー陣営と戦って…
「そうだった、私、限界で倒れたんだった…」
その事を自覚した瞬間、ぐぅ〜と私のお腹が盛大に音を鳴らした。それと同時に私を襲う途轍もない空腹感。あぅ…もうダメ。
「あ、おはようマスター! 昨日はゴメンね」
「ううん、別にもういいよ。それよりも、ご飯食べたい…」
もしもキャスターがライダーに負けるって分かってたら、何があるか分からないここからは絶対に脱出したと思うから良い。それよりも、お腹が空いて動けないこの状況をどうにかしたい。
「うーん、それじゃあ何か食べたいものある? よっぽど変なのじゃなかったら作れるけど」
「じゃあオムライス食べたい!」
目を輝かせて私はキャスターにお願いする。材料に関してはこの際何も言わないから、美味しいオムライスを食べたい。今なら私は、セイバーとも張り合える自信がある。
「いいよ、とびっきり美味しいの作ってあげる。それまでは…メロンパンとかストックしてあるけど、食べてる?」
「うん! いただきます」
キャスターが渡してくれたメロンパンに、ちゃんといただきますを言ってからかぶりつく。何故か焼きたての様で、外はサクサク中はふわふわで凄く美味しい。取ってくれた牛乳を飲みつつ食べてるけど、本当に今まで食べた事が無いくらい美味しい。
そんな私をキャスターは少しだけ見てたけど、すぐにエプロンをつけてキッチンがある方へとパタパタと走っていった。ティアさんの姿が見当たらないのはいつもの事だし、とりあえずご飯だご飯。
そしてしばらくの間、キャスターの異界には料理と私がパンを食べる音だけが響くのだった。勿論、いつもの賑やかさをバックにではあるけれど。
◇
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
手を合わせてごちそうさまをした後、食べきったいっぱいオムライスが乗っていた数枚の皿をキャスターに渡す。
「ぷはー、食べたー」
ゴロンと布団に転がって、リラックスして全身の力を抜く。ちょっとした自分へのご褒美のつもりだったけど、漸く余裕が持ててきた頭に1つの疑問が浮かんできた。
「ねえキャスター、なんで今日はこんなに優しいの?」
「ふぇ?」
キャスターが振り返って、訳がわからないといって感じの顔で首を傾げる。私としては、これからヤバイ何かが待ってるんじゃないかって気が気じゃないんだけど…
「んっとね、単に昨日のお詫びっていうのと…多分、あと2日で聖杯戦争終わっちゃうからその分かな」
「そっか…」
そのキャスターの説明は、思ったよりも簡単に納得する事ができた。そうだよね…あと数日で私、ほんのちょっぴり魔術が使えるだけの孤児だもんね。そうなれば、こんな豪華な食事とは暫くおさらばになるからか。
「それで、これからどうするの? 多分私が寝てる間にも、色々起きたんでしょ?」
台所っぽい場所に食器を置いてきたキャスターが、私の隣にペタンと座って話し始める。
「うん。私達が帰った後、ライダー陣営は無事離脱して召喚場所で魔力回復。セイバー陣営は、ランサーを倒したセイバーが心を失った者並みに生気が欠けてて、アイリスフィールが麻婆に誘拐された。その際、舞弥さんが死亡。ギル様の行動は分かんないけど、変な事はしないと思う」
「一気に最終局面って感じだね」
トッキーが既に灰燼に帰してるからアインツベルンと遠坂の同盟も、トッキーのアゾット昇天も発生しない。麻婆が愉悦部を創設したらしいから、ここら辺はあったのかもだけど。
多分ケリィはアイリさんを探してるけど…
「あれ、今って何時?」
「朝の9時くらいだよマスター」
「ありがと」
多分もう、今頃は首をポッキンされて聖杯になっちゃってる事だろう。ほんの少しだけとはいえ、優しく接してくれた(同じ歳だけど)お母さんみたいな人と、もう話す事も会う事も出来ないって事実に少し悲しくなる。
閑話休題。アイリさんの事は割り切って、足りない頭で戦況を少し考えてみる。
現状生き残ってるのは、セイバー、アーチャー、ライダー、そして私達キャスターの4つの陣営。ライダー陣営が回復に入ってるって事は、原作が息をしてるなら事が起こるのは明日。してなかったら今日か明後日辺りにズレるだろう。
ああ、成る程。キャスターが言ってた事に得心がいった。
「麻婆父はどうなった?」
「死んでたよ。下手人は分からないけど、多分麻婆かケリィ。大穴でギル様じゃない? 勿論、預託令呪は麻婆の腕に」
「うちのサーヴァントが、キャスターなのにアサシン並の諜報能力でビックリだよ…」
既にここ冬木が劣化アーカムになってる事は知っている。けどそれにしても、情報が伝わってくるのが異常に早い。キャスター兼バーサーカー兼アサシンって、もうこれ訳わかんない。
「それで、マスターは今日1日どうしたい? できる限り私は、それに応えるよ」
「私って、何がしたいんだろうね…」
聖杯に願う祈りはない。死にたくないって言ってるのに、未だに聖杯戦争から降りていない。悲劇は嫌い、かと言って聖杯の解体なんて望んでない。寧ろ原作という記憶に頼って聖杯の泥を溢れさせようとすらしている。矛盾だらけだ、反吐がでる。
だから多分、前世の記憶が残ってるせいとは言っても友人がいないし、色んな人から変な目で見られてたんだと思う。他者と違う者…よく分からない奴は怖い、だから排斥する。実に分かりやすい人間の考えだよね。って話が随分脱線しちゃった。
「そういうキャスターは何かしたい事ってある? 折角の現界なんだから、やりたい事の1つや2つはあるんじゃない?」
「うーん…マスターと楽しくできるなら文句はないかなー」
「それって、私がキャスターの娘さんと同い年だから?」
少しだけ意地悪な質問をしてみた。妙にキャスターが私に優しいのは、この前の話を聞いちゃった時からそんな気がしていたのだ。私のこの質問に、キャスターがピシリと固まる。
「ごめんキャスター、変な質問しちゃった」
「別にいいよマスター。少しだけだけど、重ねて見てるのは事実だし」
キャスターが困ったように笑いながら言う。そして若干照れたように顔を赤らめながら、ゆっくりと理由を語ってくれた。
「前にも言った通り、この幼少期の私が召喚されるなんて、マスターはぐだ男かぐだ子、もしくは何も知らない一般人だと思ってたからね。大体士郎程度の年齢の。だけど召喚されてみれば、目の前にいるのは龍之介と震えるマスター…しかも話してみれば、私が死に別れた時の娘と同い年って言うじゃん? もう戻らない日常で、ただの死者の我儘って分かってるんだけど、少しは…ね」
キャスターが語った理由に、なんて反応していいのか分からず黙ってしまう。確かに並行世界の未来の英雄の幼少期とか、普通どうあっても召喚される事なんてないよね。あるとしたら特異点で縁を結んだ後、ガーチャーと化したぐだーずに呼ばれる位だろう。
「その娘さんと私って、どこか似てたりするの?」
ふと、頭に浮かんだ疑問をそのままキャスターに投げてみた。そう考えると私がキャスターを呼べた理由も不明だし、もしかしたらそっちで共通点があるのかもしれない。
「私の娘って事からわかると思うけど、アヤメとマスターの見た目は全然違うかな。親が死んじゃったって部分は同じだから、その分だけ性格は似てると思うけど。後名前は…こじつけに近いからなしだね。結論を出すと、似てないね」
「似てたら似てたでビックリだけどね。でもどうしよう、もし似てたらお母さんって呼んでからかおうと思ってたのに…」
どうやらそれは中止する方がいいみたいだった。そもそもロリお母さんって時点で若干無理があったし、不謹慎だったかもだからその方がずっと良いだろう。あと、なんとなく誰かに甘えたかった。
「それならやってみる? 家族ごっこ。好きなだけ甘えていいよ!」
「な、ナチュラルに心読まないでよキャスター…」
でも、カモーンって感じで両手を広げるキャスターの誘いを断るのは悪い気がして、後やっぱり少しだけでも甘えたくて…
「これでいい?
「ふふふ、存分に甘えるといいよ
聖杯戦争中、平和に過ごせる最後の日はそんな感じの家族ごっこで終わったのだった。でも、こういうのも悪くない…寧ろ、懐かしくて楽しかったから良いかな。
愉悦部の描写は難しすぎたためカット入りました。