私が頭突き共に放った衝撃操作の魔術、アレは簡単に言うならば一撃必殺の必殺技である。というか、頭突きよりこっちが本命だ。
名前の通り、通常は波紋の様に対象に伝達される衝撃を自在に操縦できる…と聞くと弱そうに聞こえるけど、実態はその真逆だ。ダメージを対象の一箇所に集める事も、受けた衝撃を任意に逸らす事だってできる。
「が、はっ…」
私の頭突きを受けて、微動だにしない英雄王の胸板が内側から爆散した。つまりこういう事もできたりするって事だ。
勿論代償は安くない。直前までの無茶で魔術回路は痛めつけられてるし、口の中は鉄の味しかしない。それに相手はあの英雄王。言うのが何度目かは分からないけど、これで終わる訳がない。たかが致命傷程度で動きが止まらないのは、遠い記憶の彼方にある第七特異点の賢王様が実証済みだ。
このままここにいたら死ぬという直感も信じて、炎を推進力に変えて大きく距離をとった。そしてトドメを刺すべく天に手を掲げーー自分の意思に反してがくりと膝が折れた。
「げほっ、ゴホッゴホッ」
『マスターっ!』
そして私の口から、次々に血反吐がぶちまけられる。キャスターが回復魔術を掛けてくれてるけど、焼け石に水でしかなかった。限界点での無茶に無茶を重ねた魔術行使。魔術回路が焼き切れてもおかしくない真似をして、これだけの被害なのは幸運なのかもしれない。
「まだだッ! 宝具、展開!」
魔力が凝り現出させたのは、私の宝具でもキャスターの宝具でもない。ティアさんの宝具であるカドケウスを象った杖を左手に握り締め、それに動力炉からの莫大な魔力を導いた。
ティアさんの宝具は、死の事実を無効化し時を巻き戻して再生させる効果を持っている。だからまあ、時間に干渉できるなら空間にも干渉できるだろう。出来なくても気合いでする。
『大マスター、まさか』
『えっ、ちょっ、マスター!?』
私のやろうとしている事の意図を察した2人が驚愕する中、私は大幅にカットした詠唱で応えた。何、これくらい気合いと根性でどうにかする!
汝、三大の言霊を纏う七天!
抑止の輪より来たれ 天秤の守り手ーー
「
魔術を発動させた瞬間、私たちの意思が二重になった様に感じ…気合いでそれをねじ伏せて取り込んだ。やった事は簡単。つまり限界を超えられないなら、並行世界の私たちを取り込めばいいじゃない!って事だ。呼び出した私たちを喰らえば、全部が解決する。
一気に壊れかけの魔術回路が強化され再生する。再活性化した魔術回路が唸りを上げて魔術を発動、身体を治癒し万全の状態にまで巻き戻した。
『マスター、その先は地獄だよ?』
『こんな無茶、厳禁』
「でもこれくらいしないと、倒せそうにないからさ…」
愚痴るキャスター達に対応しつつ、強化再生した魔術回路をフルに活用し中断していた魔術を高速で構築。何かこちらにとって致命的な事をしようとしている英雄王を照準する。
発動直前の魔術の余波で、まだ解除していなかった
「いざ、鋼の光輝はここに有りーー」
最後を飾る星の魔術は、あらゆる意味でこれしか有りえない。顕現するのは今私が発動している能力とは対極の能力、核分裂。もう1つの切り札たる、万象すべてを滅亡させる死の閃光。
『「浄滅せよ、
刹那、吹き荒ぶのは爆光の嵐。
魔眼が観測する先に出現したのは、この黄金の世界でなお輝く天へと昇る光輝の柱。壮大な輝きはある種の神聖さに満ち溢れており、英雄王を滅するべく破滅の魔光が唸りを上げる。
『これでっ』
「消し飛べぇぇぇっ!!」
これでもまだ足りないとばかりに魔力を放出し、この黄金の世界にヒビを入れるほど
===《◼︎律▼バ◼︎=◼︎ル/威力 測定不能/範囲 測定不能/乖◼︎剣エ▲/脅威度 測定不能》===
そして、光輝の柱は渦巻く赤い旋風によって削り飛ばされた。
伝承の再現というものがある。例えば、すまないさんことジークフリートは、呪いによって背中を晒さなければいけないし、アキレウスは踵をやられない限り、それこそ無敵とも言える能力を発揮する。
この世界に存在しない物語で些かズレてるもはいえ、これが私にも適応されたらしい。あ、やっぱりこの推論は無しで。そんな事言ったら私も勝てないって枠に嵌っちゃうから無しで!
そんな呑気な事を考えている間に、土壇場のどんでん返しで消え去った確殺の魔術の奥から、ぱっと見で重症と分かる英雄王が姿を現した。
手足の所々は炭化し、エリクサーを被ったのか髪は濡れて水も滴る良い英雄王と化している。その顔は赫怒の念に染まり、だらりと下げた右腕には3つの円筒が重なるランスのようなナニカが握られていた。
それらの円筒はそれぞれ「天」「地」「冥界」を表し、合わせて「宇宙」を体現している。
ーー曰く、真実を識るもの
ーー曰く、原初の地獄
「よもや我にエアを抜かせるとはな、雑種。我にも見通せぬとはいえ、腐っても神を降ろしていると言うことか。全く忌々しい」
本来は無名の剣。正真正銘、英雄王だけの宝具。バビロニア神話の知恵の神・エア名を冠する対界宝具。所有者たるギルガメッシュがそれに名付けた銘は…
「乖離剣、エア…ッ!」
『っべー、まじっべー』
『マスター、巫山戯ない』
『あいたぁっ!』
それは、抜かれたら私たちは絶対に勝てないから、必死に攻撃して使われるのを妨害していた宝具だった。乖離剣から発せられるオーラ…
「ほう、この剣を視たか。ならば解ったであろう、最早貴様には滅びしかあり得ぬ」
「さてね。まだ分からないよ、英雄王」
『いやマスター、死ぬ。死ぬから』
乖離剣の回転が速まり、紅い暴風が荒れ狂い、空間を掻き回して時空流が発生する。まだ完全開放すらされてないというのに、この黄金の固有結界擬きが削られ消滅していく。
今はまだ修復ができるけど、マズイ。本当にマズイ。多分開放された場合、即座にこの空間は消えるだろう。そうなると、私は十全に動く事が出来なくなる。というかキャスターうるさい。
「ハッ、貴様には過ぎた一撃だがな。切り裂いてくれる!」
もしそうならないよう魔力を注いでも、まずエアの一撃には耐えられない。エルキドゥみたいな力はないし、『
ならば火力で勝負する? アレと撃ちあえるのは、エルキドゥの『
「あはは…だったらやめてほしいなぁ…」
『本当だよねー、マスター』
右腕を高く掲げる英雄王をみながら、軽くキャスターと愚痴りつつ対手段を考える。諦めてたまるか。
実を言えば、火力勝負なら勝てるかもしれない術が2つ程あったりはする。だけどどちらも、それこそ人理装填ビーム級の魔力が必要になるだろうし…それは気合いで乗り越えられたとしても、結果私が『
逃走は許されない。敗北も出来ない。それでもどうにかする手段を考えて、考えて、考えて…
「裁きの時だ」
時間は待ってくれなかった。
「最大、防御ぉぉぉッ!!」
『ああもう、調整終わってないのに!
『了解』
現象の停滞を確認。
思考最大加速。
防御魔術検索、発見。
「
『祓い給え清め給え――』
『
7、24、24の合計55の次元断層を展開。衝撃の相転移、及び最高硬度の付与完了。
防御系宝具検索、僅かでも効果が見込める防具を多数発見。
真名開放『
「死して拝せよ、」
焼き切れそうな脳と魔術回路を、気合いと根性で限界突破。
魔術、及び攻性宝具による威力軽減を実行。効果は僅かでも見込めると思われる。
真名開放『
近代兵器群の魔力開放、同時射出。
幾万の魔術を自身に掛かる負荷を無視し、限界を超えて平行発動。
「『
そして、かつて混沌の世界を天地に分けた究極の一撃が振り下ろされた。
あと何話かで完結だったり