特異点5日目の朝、オレ達は一通りの準備を終わらし出発の準備をしていた。
「うん、まだ何もない。マスター、外出た大丈夫そうだよ!」
「周囲に敵はいないな」
門と言うらしい出入り口から外の様子を除いていたイオリが、振り返りサムズアップした。それと同時、索敵に出ていたロイドも戻ってきて情報を伝えてくれた。
『イオリさんが言うには、今日がこの特異点の分水嶺だそうです。気をつけてください、マスター』
「勿論。それじゃあ、しゅっぱーつ!」
おー!と掛け声が重なり、オレ達は荒廃した深山町へと繰り出した。目的地はどこか?そんな場所はない。けれど、これから始まる英雄王と冬木のキャスターの戦いを見届けるために、出発したのだった。
いや、出発というのには語弊があった。
「うん、ここからならきっとよく見える」
「あんなに頼み込んだんだから、しっかりと目に焼き付けろよ? マスター」
「言われなくても」
そう話し合う私達がいる場所は、元は学校の校舎であったのだろう大きな瓦礫の山。どこもかしこも似たような状態なので、教会も、燃え続けている対岸の新都もよく見える。
「あ、そうだマスター。これからあの子と戦う事になるだろうけど、少しだけアドバイス」
「?」
アドバイスとは一体なんだろうか?
「自分を信じて。迷わないで。振り向かないで」
「ーー」
分かった。
そう言おうと口を開いた瞬間、世界が激震した。そして同時に熱波が吹き付けられる。寂しそうなイオリの表情に疑問を抱きつつも、首肯してから教会の方向に向き直る。
案の定そこでは、炎の瀑布と原初の地獄が衝突し互いが互いを削りあっていた。この光景を見るのは2度目だけれど、桁が違う魔力に圧倒されてしまう。オレは本当に、冬木のキャスターと戦えるのだろうか?
「あんまり心配するな、マスター。英雄としては失格な俺達だが、あんたの事を害させはしない。自分が信じる事を、貫き通せばいい」
「はい!」
『そうです! 私が隣にいれないのは不満ですけど、マスターなら、きっと大丈夫です!』
「ありがとう、マシュ」
ここまで応援されている。だったら、自分も覚悟を決めなくてはいけないだろう。
◇
「くはは! 来たか、忌々しい
「ああもう! 不意打ちしたのに、なんで余裕で対応してくるのさ! 知ってたけど!」
激突するは、太陽の核熱と原初の地獄。
激突するは、創世の焔と創界の剣。
双方共に、創世という類似性がみられる宝具が全力で衝突していた。
数億度に達する劫火が原初の地獄を焼却し、それと同等の勢いで地獄が劫火を破壊する。
つまり、キャスターと英雄王の一撃は完全に拮抗していた。
「というか、なんでそんなにやる気なのさ!
昨日までは、乗り気じゃなかった癖に!」
「ハッ、わざわざ貴様に語るとでも思ったか!」
よって、始まるのは強化に次ぐ強化。
意志力によってキャスターは自分の霊基を自壊させながら覚醒し、数多の財によって英雄王の力も天井知らずに上昇していく。
この世界の環境は神代。
けれど神は1柱足りとも存在しない。
つまり…
「どうした、力の使い方がおざなりだぞ魔術師!」
「うるっ、さい!」
そこに差をつける事柄は1つだけ。絶望的な経験の差だけであった。
万全を超えた状態のトップサーヴァントと、万全ではあるが英霊を継承しただけのデミ・サーヴァント。連日連夜の戦闘があったとはいえ、その差は歴然だった。
「創生、収縮、融合、装填――」
「ちィッ!」
しかしそれを、
そんな差がどうした。私は既に
大暴走する
出力上昇、出力上昇、出力上昇ーー
崩れ去っていく自分の存在を穢れた聖杯で再生させながら、恒星の光が炸裂した。
「灰燼滅却、
創造された大爆発が、サーヴァントとしての枠すら振り切って自身ごと金色の英雄を焼き尽くした。
その出力、実に先の数十倍。本来の使い手に影響され真正面から馬鹿正直にしか戦えないキャスターの、見た目相応な子供の理屈での突破であった。
「クハッ、その様な大技で我を仕留められると思っていたとはな。慢心が過ぎるのではないか?
「あんたにだけは、言われたくないわ!」
しかし、その様な力技では英雄王には一歩及ばない。
燃え盛る巫女服からは
コンクリートが、瓦礫が、地面が、何もかもが蒸発する様な熱量が吹き荒れる中、英雄王の声が止む事はない。
「無差別な攻撃ならば、我に当たるとでも思っていたのか? 思い上がりも甚だしいわ!」
「きゃあっ!」
無防備なキャスターに乖離剣の一撃が直撃し、宝具の護りを容易く貫いて半身を消しとばした。錐揉み回転でキャスターは地面に墜落する。しかしその傷は穢れた聖杯によって即座に修復され、何事もなかったかの様にキャスターは起き上がった。
ここまでが、若干の差異こそあれ普段通りの予定調和。
今まで通りであれば、ここからキャスターが逃走して決着となる。けれど、今日に限っては事情が違っていた。
例え偽物でも、Aランクの狂化が感情のブレーキを全てぶち壊してしまっていた。
「折角、折角見つけたんだ……
だから、あんたなんかに、殺されてやるもんかぁッ!」
裂帛の気合いと共に、穢れた聖杯が答え無限の魔力が湧き上がる。
ブレーキの壊れた加速し続ける暴走列車に、走るレールと動力を与えた結果がこれだった。
「
聖杯という炉心を得た事で、限りなく上昇した宝具の出力が世界法則を書き換える。
そして、借り物の渇望で書き換えられた領域であろうと、そこは既に自らの領域。僅かな魔力の乱れさえ検知可能な、自身に絶対的な優勢を齎す空間が創造された。
「そこッ!」
キャスターが無尽蔵に湧き上がる焔を凝縮させ二刀を創造、見失ってしまっていた英雄王にへと投擲した。
ソレはあくまで魔力操作によって刀と化しているだけの焔であるので、所有者の手を離れても何ら威力も安定性も変わりはしない。
結果、導き出されたのは突然の結論だった。
「おのれッ!」
英雄王の駆る『ヴィマーナ』が、自動迎撃宝具を役立たせる事なく溶断された。そして、展開された神々の盾を斬り裂いたところで一本目の焔刀は限界を迎えた。
そしてそこに、2本目が飛来する。残りの盾は容易く溶断され、しかし乖離剣によって破壊された。極限まで凝縮された焔程度では、神造宝具を相手取るには些か以上に役不足である。
「山を抜き、水を割り、天高く飛翔しろ焔の翼!」
だけどそれが2本でなく3本なら、4本なら……。数を増やせば問題ないだろうという子供の暴論が実行され、弧を描いて計6本の焔刀が回転しながら英雄王に迫る。
「
「偽・鶴翼ーー」
「
「三連!」
悠々と待ち構えていた英雄王の放った宝具は数瞬前までキャスターがいた空間を削り飛ばし、英雄王の背後に瞬間移動したキャスターの最早限界が残ってない程魔改造された術技は、英雄王の背中に大きな十字傷を残した。
「これで、終わりっ!」
そしてキャスターの手に現出するのは、替えが利く焔刀ではなく正真正銘キャスターの宝具たる大鎌。ヒビ割れ壊れかけている様に見えるが、濃密な死の気配が漂う死神の鎌。
魔力放出で無理矢理に体勢を変え、体勢が崩れたままの英雄王にそれが振り抜かれた。
「カハッ…」
これぞ大鎌の面目躍如とでも言うかの如く、見事に英雄王の頸部を切断して大鎌の実体化は解除された。
打倒された英雄王が、キャスターの眼前で魔力へと還っていく。
「ハハハ! 喜ぶが良いキャスター、貴様の望みは叶うだろう」
「ふぁっ!?」
落下する英雄王の生首が、生首のまま言葉を発する。魔力の光を纏い、無駄にキラキラとした生首にキャスターは硬直する。酒呑童子でも無いのだから無理もない。
「そして、この我が前座として踊ってやったのだ。再び相見えた場合は覚悟するが良い、
「わかってるよ、王様!」
そんな声と共に放たれた数多の武器が、呆然としているキャスターに殺到した。
気がついたら、こんな事になっていた…(´・ω・`)
これだからジャンル違いは…(・ω・`)