「かーりーやくん、あっそびーましょー!」
それが忌々しい我が家に襲撃をした謎のサーヴァントが発した第一声だった。背に鎖で繋がれ浮かぶ7つの棺桶、手にはヒビ割れた不気味な大鎌を持つ死神を彷彿とさせる謎のサーヴァント。ソイツの正体が桜ちゃんと然程変わらない年頃の女の子と気づいた瞬間、俺の全身を気持ちの悪い感覚が突き抜けた。それどころか訳のわからない恐怖まで浮かび上がってきて…
「奴を殺せ! バーサーカー!!」
そんな短絡的な命令をバーサーカーに下してしまった。俺は半死人ではあるけれど自分の心はまだ人であると思ってる。だからバーサーカーに無残に殺されるであろう謎のサーヴァントを想像し、後悔が胸に浮かんできたのだが…
「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!」
「はぁっ!!」
俺の想像を覆しあっけなくバーサーカーの攻撃を受けきったソイツは、バーサーカーが退いたのを見て年相応の幼い声で高らかに言い放った。
「サーヴァントキャスター、マスターの命令により推参。その首置いてけぇ!」
そこからはもう理解が追いつかないほどの急展開だった。不完全ながらも不老不死の臓硯がアッサリと殺され、刻印蟲の齎す激痛の中、助けると誓っていた桜ちゃんを奪われ、頼みの綱となったバーサーカーも敗北した。
それによって俺は、桜ちゃんを助ける事も遠坂時臣に対する復讐の手段も失ったはずだった。そう、全てを失ったはずだったというのに…
「と、言うわけで。身寄りも信用もお金もツテも無いので、どうか助けて下さいお願いします」
何故俺は今、真っ暗な子供部屋で幼女に土下座されているのだろうか? ああ、全く意味がわからない。
◇
「はふぅ…良かった良かった」
キャスターの魔術によって帰ってきた我が家には、まだ警察さんやマスゴミ共は来ていなかった。それは物凄く不思議だったけど、キャスターが原因だった。なんでも、車やらなんやらをあの異界に収納して夜逃げした風に偽装していたらしい。超感謝。
「後はこれとこれと…」
そう言いながら私は、暗い部屋の中自分の私物を傍らに浮かぶ黒い平面に次々と投げ入れる。お気に入りの服やパジャマ、ヌイグルミや今までの魔術関連の実験に使ってた道具、そして
因みにこの黒い背面はキャスターから植え付けられた《アイテムボックス》とかいう謎の魔法。便利だから詳しい事は無視することにした。『分類するなら虚数魔術なんじゃない?』とかキャスターが言ってたし、封印指定とか怖いし。なんて事を思ったのと同時に、キャスターから念話が入った。
『マスターマスター。雁夜おじさんが起きたけど、暴れそうだったから拘束したよ。どうする?』
『とりあえず私の部屋まで連れてきて欲しいな。桜ちゃんが寝てるのはここだし』
『りょーかい』
そう言えば、小学校の友達も部屋に上げた事はなかったっけ。そうなると、私の自室に来る親族以外って雁夜おじさんが2人目だったりするのか。そんな事を考えているうち上がってきた雁夜おじさんに、私は色々と事情を説明する。
・自分は巻き込まれた一般人だという事
・あくまで魔術師じゃない事
・一家惨殺されてるから身寄りも何もない事
・キャスターの情報で知った桜ちゃんを助けたかった事
・2人に植え付けられてた蟲はキャスターが除去した事
・臓硯は存在ごと消し去った事
・今回の無茶でこれから死ぬ確率が増える事
そして、助けて欲しいと土下座した。顔が半分ゾンビなおじさんに土下座して懇願した。一部嘘が混じってるけどきにする事じゃないだろう。悔しくないのか?プライドは? そんなのに拘ってても死ぬだけだからとっく質屋に売りました。あと、霊体化したキャスターが笑ってるけど気にしない。
「とりあえず寝床だけでいいんです。聖杯戦争が終わったら、勝手にどこぞの孤児院に行くのでお願いできないでしょうか」
「とりあえず顔を上げてくれないか? 流石にそこまでされたら断るに断れない」
雁夜おじさんの言葉で私は顔を上げる。これで暗闇の中半ゾンビに土下座する幼女という猟奇的な絵面は解除された訳だが、雁夜おじさんはまだ私をジッと見つめていた。
「第一、そこまでしてもらって頼み事を断る方が筋違いだ。けれど1つ聞かせて欲しい、君たちはそこまでして何がしたいんだ?」
「聖杯戦争の全てが終わってからも、私が無事に生き延びる事。最低でも2016年までは」
そんな雁夜おじさんの質問に私は即答した。雁夜おじさん達の救出が叶った以上、結局私の目的なんてそれくらいしかないのだ。
大聖杯が汚染されてる事は知っている。それから溢れた泥が大災害を起こす事も知っている。ケリィもアイリも、ケイネスもソラウも、優雅家も、ほぼどのサーヴァントにも不幸が訪れる事も知っている。勿論その先の未来も知っている。それらをどうにか回避したい気持ちも持ち合わせてもいる。けれどそれを成そうとするただ『知っているだけ』の私には、何もかもが致命的に不足している。
大聖杯の破壊?二次小説のオリ主じゃないんだ、そんなの出来っこない。大災害の被害範囲の縮小?
それを無駄に理解しちゃってるから私は、この小さな両の手に収まりきるくらいので良い、自分だけの些細な幸せを掴みたい。掴んで引き寄せ抱き締めて、絶対に離したくない。これが私の抱く願い、とてもちっぽけな渇望だ。
「その2016年までっていう理由は?」
「乙女の秘密です」
流石にそんな考えを知られる訳にはいかないので、人差し指を立てポーズを決めて誤魔化す。お願いキャスターそれ以上笑わないで、私のぽーかーふぇいすも限界きちゃうから。
桜ちゃんの寝息だけが聞こえる部屋の中、バックバクの心臓で見つめ合う事数瞬。先に折れたのは雁夜おじさんの方だった。
「はぁ…分かった。とりあえず宿を取ればいいんだな?」
「はい! 警察のお世話になる訳にはいきませんし、私の年齢じゃ部屋を取る事は出来ませんから」
魔術を使うのは論外だ。そんな事をしたらケリィに探知されて、爆破されて劇的びふぉーあふたーされちゃうのが目に見えてる。その点雁夜おじさんと一緒なのは利点が多い、ホテルに泊まっても不審がられないし、私はケリィの目から外れる……かもしれない。雁夜おじさんの令呪はキャスターが既に摘出済みだし、時間の問題だろうけどね。
「そうだろうな。とりあえず、手近なホテルなら冬木市ハイアットホテルになるがそこでいいか?」
「あ、そこはランサーのマスターが拠点にしてるので無しでお願いします」
「えっ」
雁夜おじさんの驚愕した顔が、半ゾンビなせいか笑える。まだ、まだぽーかーふぇいすは保つ。ここで笑ったらシリアス気味な空気があぼんして一巻の終わりだ、がんばれ私。
「そんな情報、なんで…」
「キャスターが調べてきてくれました」
「幾ら何でも早すg」
「キャスターが調べてきてくれました」
会話が続けられない?結構。そんな時はやはりこの手に限る。1番気に入ってるのはサーヴァント、OK?
『おーけー。ズドン』
自分で落ち着くために言ってた言葉に介入してきたキャスターは無視し……どうしよう、なんたかすごく眠くなってきた。
「…話を続けたいのは山々なんですけど、正直眠いので寝てもいいですか?」
「あ、あぁ」
「ありがとうございます。雁夜おじさんはリビングを自由に使ってください」
そう言って私はしっしと追い出すように手を動かす。…今更だけど、私もキャスターに少し似てきちゃったかもしれない。
「最後に1つだけいいか?」
「はい、なんでしょう?」
「君は、どうしてそんなに落ち着いていられるんだ?」
「目の前で、両親も姉も残虐に殺されましたから。少しくらいは心もおかしくなりますよ」
感情を出来るだけ殺して、事実の1つを言ってみる。それを聞いた雁夜おじさんの表情は、その、なんとも言えない感じだった。
「まあ、戯言だよなぁ…」
『とりあえず、寝て休めばいいんじゃないかな?
ちょっと待ってキャスター、今絶対に変な意味込められてた。そんな事を思いながらも、精神的な限界なのか分からないけど、私の意識はプツンと途切れたのだった。
私の
ただ話し合っただけの話。雁夜おじさん難しいつらい。
因みにこの主人公、敬語を使う接待モードでもハイライトは無いです。無いです。
邪ンヌサンタリリィとレベルフォウマと、ついでに邪ンヌの最終再臨も終わりました。さて、フレンドに頼ってストーリーしなきゃ。