長船に意味はありません。選ばれし長船。的な。
三話 『長船魔理沙の世界』
日が沈み、月が登り始めたころ。
僕は紫のいう世界に飛び込んだ。
出た先は、霧雨商店。暗い夜だというのに、話し声が聞こえてくる。
こっそりと覗きこんでみれば、そこには黒髪の男性が大荷物を抱えて立っていた。
その脇には紫の姿もある。
「ああ、すまんね。今日の営業は終了しているんだ」
「そうなんですか」
僕が辿り着く場所には、大体意味があるはずだ。
「あら……?あなた、もしかして」
「あ、僕のこと知ってるんですか?」
場所によっては、僕のことを知っている紫がいる場合もある。今回はそれらしい。
探るように紫は僕を眺め、やがて目を伏せた。
「外でお待ちなさい」
今日はまだ夏の暑さが残る秋の日だった。
僕はコクリと頷くと、霧雨商店に寄りかかる形で紫を待つ。
夜は妖怪が出るためか、出歩く人は少ない。出歩く人が少ないだけで、その辺の飲み屋に入れば人はいるが、今のこの時間、そこにいるのは大体が酔いつぶれた者ばかりであることだろう。
「……待たせたわね」
「いや、別に。さっきの男性は?」
「彼は霧雨の次男よ。いずれ、魔理沙の父親になる人」
おっと案外早く情報が入ってきた。
「じゃあ、ここは」
「……『
ここは霧雨商店のはずだ。それに、魔理沙の名前はもちろんだが、霧雨魔理沙で。
世界の名前を聞くだけで、ここの魔理沙が特殊だとすぐにわかる。
「先ほどの彼は……外の世界に行ったのよ。タイムスリップもした方がいいわ。十年後がいいかもしれないわね」
「……外に?」
「ここの彼女は、外の世界で生まれ育つのよ」
僕は霧雨商店へと視線を向ける。
僕の世界もそうだが、多くの世界で魔理沙はここの一人娘として生まれ、そして家出をすることが多い。理由は様々でも、魔理沙が魔法の森で暮らしている理由の中にはそれらもあったはずだ。
僕はここの紫に言われた通りに十年後の外の世界へと旅立った。
タイムスリップをしたところで他の世界に影響はない。
また、僕の能力の一環にタイムスリップの機能があるのだ。
こういったときに便利である。
「えーっと。ここはー……」
特になにもない場所だった。
田舎というわけではない。駅前にはスーパーがあるし、パン屋やコンビニエンスストア、ロータリーもきちんとある。
ただ、それしかない場所。名所がない、そんな場所。
外の世界も一つではない。一つの幻想郷につき、一つの外の世界があって、それは科学の進歩した外の世界だったり、幻想郷とは違う形の魔法が発展した外の世界だったりと様々である。
その中でもこれは基本中の基本。よくある典型的な外の世界である。
「どこから探そうかなぁ……」
とりあえずその辺を歩き回る。空を飛ぶと色々面倒なので、歩くことにしているのだ。
「あ、美味しそうなコロッケ」
途中で古ぼけたコロッケ屋さんに出会って優しいおばちゃんから食べ歩き用のコロッケを買った。
場所によってはお金が違ったりするが、ここのお金は僕が自分の世界の外の世界でつかうお金と一緒だったのである。
ソースをたっぷりかけてもらったコロッケを頬張りながらあるいていると、途中で公園を見つけたり、学校や幼稚園などを見つけた。
そのどこにも僕の知っている魔理沙はいない。
「どこにいるんだろ」
考えても仕方ないと、ただひたすら歩く。
途中で公園のゴミ箱に食べ歩きで使った袋を捨てた。
ついた頃にはまだ登りきっていなかった太陽も、いつの間にか真上に移動している。
「長船魔理沙、だったよな」
忘れないように長船長船と念じながら、僕はかなり大きめな民家までたどり着いた。
表札には『長船』の文字と、庭で遊ぶ僕のよく知る金髪の少女の姿。
「……いた」
どうやら妹あたりと一緒のようだが、魔理沙は金髪だというのに妹と思われる女の子の髪は茶色と黒であった。
そういえば、霧雨商店で大荷物背負った男性も真っ黒な黒髪だったはずだ。
「あのぅ……どちらさまですか?」
はっとして声のしたほうを見ると、和の装いをした女性。どうやらここの従者さんのようだ。
この長船って家は、霧雨商店に負けず劣らずの大きめな家だし、当然なのかもしれない。
僕の家も小さくはないが、一人暮らしには大きすぎて毎日の掃除が大変なのだ。
「あー、えと、その」
名前が、わからない。
霧雨……霧雨……
「きりさめ、さん……って言ってもこれって旧姓ですよね!?」
「ああ、泰介様でございますか?お名前をお伺いしても?」
「名前言ってもわからないだろうから、八雲紫を知ってるとでも伝えてくれれば」
「八雲紫、でございますね?」
一つお辞儀をした彼女は、門をくぐって敷地に戻っていった。
それからしばらくすると、甚平を羽織った前に見た男性があたふたとかけてきた。
「
「いや別に何もやらかしてないと思うけど……あ、僕は中野原樹っていいます」
「はあ、どうも」
少しおどおどする男性に違和感を覚えたが、理由がわからないのでこちらから会話を始めることにした。
「えーと、娘さんですか?」
「ええ、そうですが……やはり、気になります?」
「そりゃまあ。奥さんは外国の方か何かなんですか?」
「いえいえ。妻もれっきとした日本人で、私と同じ黒髪なんです」
「うぇぇっ?」
今まで僕もなんとなく聞けずに来たが、魔理沙の(七つもないけど)七不思議の一つである。
魔理沙の両親は、茶色と黒のよく人里にいるような、顔なんてすぐ忘れてしまうような二人だった。
そんな二人から生まれた魔理沙の髪の毛は黄色で、僕も魔理沙とは最近知り合ったから生まれたときからそうなのか、魔法がそうさせたのか、はたまた普通に染めたのかわからないのだ。
「やはり驚きますか?妻曰く、これは長船の特徴らしいんですよ」
「長船の?」
「長船の子は、最近はそんなことがありませんが時々明るい髪の子が生まれるそうで。明るければ明るいほど、奇妙な力に愛されるとか」
その力はおそらく、霊力だと思うと彼は言った。
霧雨家は幻想郷に住んでいるが魔力にも霊力にも詳しくなかったからなんともいえないけど、長船が妖怪の末裔とかだったら妖力の可能性もあるし、神様の末裔だったら神力の可能性もある。
「ちょっとみてもいいですか?」
「あの方の知り合いでしたら、もちろん構いません。今、お呼びします」
そして、『魔理沙ー』と彼は呼びかけた。
紫は人里ではかなりなくてはならない存在だが、同時に怖がられてるため、名前を出すことはタブーなのだ。多分。
いや、僕の世界はそんな感じだからっていう憶測でしかないんだけど。
とはいえ、僕とか霊夢とか、もちろん魔理沙とかは気にしない。つまり実力者は気にしないから、慧音さんなんかも普通に名前呼んでるのだ。
あれ……2700しかない……まあいいや。
これ以上書くと章が終わる。