『―――ともあれ、これで核と言える反応は屋上の一つだ。それを片付ければその地獄から出られるよ、栄二。頑張ってね』
「ロマニ、お前やや投げやりになってない?」
『うん……なんというか、嫌な予感しかしないからさ……』
シエルを倒した先、屋上へと続く螺旋階段―――もはやその先にある存在感に関しては通信機を通してもカルデアに感じ取られているらしい。ロマニが言うには
『まぁ、聖杯を回収し終わって間違いなくその空間から楔となっている聖杯の気配は既に消失しているんだ―――それでもこの特異点が消えていない感じからすると、聖杯以外にもこの特異点を維持している何かがある筈なんだ。カルデアとしてはそれを確認するまでは引き上げる事は出来ないんだ……すまない……ほんとすまない……だけど現状、自由に送り込めるのは君だけなんだ……』
それは解っている為、愚痴りはしてもこうやって従順に従ってやっているのだ。背中に愛歌を背負いつつ。
「まぁ、立香があんな状態でマシュを引っ張り出しても事故る姿しか思い浮かばないしな」
『彼女は良くも悪くも純真だからねー。まだ心が比較的に幼いから、
と、ダ・ヴィンチが言葉を送って来る。まぁ、自分も立香の天運を考えるに、この程度の策略で彼が死ぬとは思っていない為、そこら辺は全く心配もしていない。問題は現在進行形でゴリゴリ削れている自分の天運だ。正直、今すぐカルデアから契約の箱を送り込んでそれに聖杯をダンクして起動させたい気分だった。とはいえ、それをやらかすと特異点から逆流してカルデアが吹き飛びそうなので、残念ながら出来ない。
―――あぁ、胃が痛い。
「……おい、大丈夫か里見? 顔色が悪いぞ」
「うん? そうか? お前がそう思うならそうなんだろう、きっと」
「なんだそりゃ。とんちのつもりか?」
「そう聞こえるならそうなんだろうよ―――いや、すまん、いや、悪い。嫌な予感しか感じないからな。俺でもこの先、どうしようもなさを感じるというか、正直な話、今までの中で一番帰りたい気分と言うか―――まぁ、なんだ。割と本気で命を懸けて戦う気配がする」
戦わずに済めばいいんだけどなぁ、と祈っているが、屋上から感じる気配の強さにそれは半ばありえないだろうな、と思っている。これはもう完全にやる気満々という感じだろう、と思っている。愛歌も此方の考えを完全に理解している為、口数が完全に減っている。
そんな事を話し、考えている内に、螺旋階段の終わりへと到達して―――しまった。もはや逃れられない瞬間でもあった。カルデアに最後の確認を取ろうとするが、カルデアへと通信が繋がらなくなっていた。間違いなくカルデアへの通信状況が混線し、遮断されていた。既に領域に―――いや、最初からその領域だったのだ。これぐらいはなるか、溜息を吐きながら扉を開いた。
そうやって、
満天の星空がこの辺りでは一番近く見える場所、屋上へと抜ける道を抜けた瞬間には既にレンの姿は溶ける雪の様にその姿が消え去った。否、消え去ったのは彼女だけではなく、オガワハイム内に存在した多様の存在達もそうであった。雑多に、そして無秩序にマンション内を徘徊していた存在達はその
背後で音を立てて扉が閉まれば、扉そのものが消え、残されたのは広い屋上の姿、
―――そしてその中央に立つ一人の姿だった。
彼女は長く、美しい絹の様な金髪を風になびかせていた。来ている服装は胸から上を大きく露出した白に金の細工を施し、蒼いスカート部分を持つドレス姿。そのドレスを見事に美しく着こなす艶やかな肉体はしかし、本来は彼女ではなく、ただの触媒でしかなく、最も表現するのに適した肉体であるからこそ、そういう姿を取っているに過ぎない。最高の吸血鬼の肉体に、
「―――少々不自由だが、この窮屈さも心地よい」
風に金髪を揺らす彼女はそう言いながらゆっくりと振り返り、視線を向けて来た。赤い双眸が此方を、そして式を完全にとらえた。それと同時に絶大な重圧が世界を襲い掛かった。それは生物の本能として相手が己よりも上である事を本能的に悟ってしまったが故の感覚だった。生物としてのスケールがまず違う。
「さてな、不自由なんてオレは感じた事がないしな」
「
とはいえ、その程度で怯む程若くはない。式も式で、この程度の威圧感であればサポートもなく普通に耐え抜ける程度には精神的に極まっている。その為、正面から女に対して視線を返す事が出来た―――その朱い、ルビーの様に芸術的な瞳に。ここでカルデアと通信が繋がらなくなったのが惜しい。今ならロマニを発狂に追い込めたかもしれないのに。
「成程。それがヒトの視線というものか。しかし
「―――待て、アーキタイプ。お前から見てもアレは敵だろう? 自身を滅ぼすような相手に肩入れする必要はお前には必要ない筈だ。だから頼むから帰ってください。ほんと、いや、マジで」
今にも暴れだしそうな雰囲気の彼女―――アーキタイプに対して言葉を意識に差し込むような形で放ち、無意識的にその戦意を削いでみる。それで彼女の初動は停止した。しかし、停止しただけで戦闘を止めるつもりは一切ない様に見える。いや、おそらくは止められないだろう。今はただ、喋るのが楽しいという気持ちが彼女の中にあるだけだ。それが理由で戦闘の開始を引き延ばしているだけに過ぎない。
「これは面白い事を言う。確かに私にはあの魔神王の言葉に従う必要はなく、欠片も共感はせぬ。寧ろ我が
これ―――即ちこの特異点という状況、地球が滅んで人理が焼却されてもはや陸地が存在しないという状況に対して言っているのだろう。しかし、待て、と言葉を置く。
「奴の目的は人類を作り直す事だ―――お前は死なない筈だ」
「あぁ、確かにそうであろうな。だがそれはそれとして、
「思う訳ないだろこの阿呆! ド阿呆! クソ阿呆! ふざけてんのか! ラリってんのか! そんなのアリな訳ねぇだろ!」
つまり
本気でそれが出来てしまう存在なのだ。
戦犯、ズェピア。何故こんなものを呼んだ。
「そう猛るな覚者。不満があるのであればその手で我が身を引き裂き意志を通せば良い―――ここはそう言う場所で、今回はそういう祭であろう? 夜が明けるまでのささやかな宴よ。良い、貴様もそれに踊ると良い。私も今は非常に楽しく、解っていても止められそうにないのだからな」
絶句する。解ってはいたが、ここまで馬鹿だったのか、俺らの星とは。
「さあ
完全にアーキタイプはやる気だった。この上なく楽しんでいた、この状況を。本気で発言しているが、それは彼女にとって遊ぶための口実でもある―――
そんな事を内心葛藤していると、ちゃき、と金属音が聞こえた。横へと視線を向ければ式が刀を片手に握っており―――その気配が軽く変質していた。
「これ以上話し合っても無駄よ。彼女は彼女で祭のケに酔っているのよ。それを理解していて。だからどうあれ、満足させない限り終わりはないわよ」
「あー……やっぱりか。やっぱりそうなるか。解ってたのならもうちょい早く出て来てほしかった……」
「流石に進んであの子の時間を奪うのは憚るわ。ただ、今回はあの子の手に余りそうだし……私が手伝うわ」
刀を鞘から静かに抜いた彼女は「 」で出会った方の彼女なのだろう。ありがとう、と言いたい気持ちがあるが―――そんな時間、ここにはなかった。溜息を吐きながら空間魔術で手元へと、エミヤに投影させた斧の中で一番上等なもの―――バジリコスと呼ばれる蜥蜴竜の斧を取り出す。大斧に入るその武器を右手で握り、軽く振るってから仕方がない、と呟きながら愛歌へと視線を向けけた。
「下がってろよー」
「はいはい、解ってるわ」
転移して消える愛歌の姿を見送ってから視線を正面へと戻し、斧を担いだ。さて、と一言零し、
「―――
「
根源を通して一時的に自身のパラメーターを改変、霊基状態を最終状態から突破し、本来は聖杯を使って強化する転輪霊基の領域、それで出来る限界状態まで自身のパラメーターを改変する。その上で自身のスキル状態を完全解放、それを霊基に最大の状態までアジャストし、最大の状態まで強化を完了させる。それを自分と式で同時に行いつつ、根源その物からリソースを引きずり出して強化を行う。神仏の与える加護に匹敵する強化を自身達に与え、一時的に凄まじいブーストを与える。
それを見過ごす様に見ていたアーキタイプは笑みを浮かべ、そして誘う様に手を伸ばした。
「さぁ、準備は出来たか?」
「ここまで手間をかけさせるんだ、終わったらデートの一つでもしてくれなきゃ割に合わんぞ!」
「ふふ、そうね。ならばそれは考慮しておきましょう……無事に終わったら、だけど」
息を吐き、呼吸を切り替え、思考を純化し、精神をフラットに、肉体を締め上げ、魂を燃え上がらせながら、視線を正面へと向け、視線を合わせた。
「―――宵の宴だ、参るが良い」
「
言葉に合わせるのと同時に縮地で大地を蹴って一瞬で前に飛び出す。それに対してその両目でアーキタイプが捉えている。故に彼女が急接近する此方へと視線を向け、意識を送り込んでいる合間に彼女の意識を理解し、
―――
悟りを通して対象を理解し、サトリを通して意識の空白に潜り込む。技術と言う縮地を使って正面からの接近に対して認識させる事は此方に対して集中させる行いでもある為、その意識の誘導は楽である。それを通して彼女の背後へと
その結果、移動と加速による初速加速を保存したまま背後から認識されずにと出現するという行いが成功する。
「
「なんと―――」
斧を振るいながら斬撃を捻じ曲げる。背後から入った斜め上からの切り下ろしを捻じ曲げながら腕、肩、腰、逆の腕と抉り抜くように振るい抜きながら両腕を両断し、背中を真っ赤に染め上げたまま、呼吸を挟む事もなくそのまま斧を全力で振るい、斬り飛ばした腕をミンチにしながら片足を弾き飛ばした。それが入るのと同時、アーキタイプの意識が此方へと戻された瞬間に、
「
刀による閃が三つ走った。首、心臓、そして竹割りが放たれた。確実に殺しきる様に死の線をなぞるように放たれた必殺、致死の攻撃が正面から対応する時間さえも与えないように放たれ、一瞬でアーキタイプの存在を肉塊に変えた。それは初手での決着を示す―――筈だった。
「―――
「
首だけとなったアーキタイプは笑い様に声を放っていた。それはまだ彼女と言う存在が余裕である事を証明し、これで終わりではないという事を見せていた。それに反応を示し逃れようとした瞬間、アーキタイプの肉体が閃光と共に弾けながら、言葉が走った。
直後、世界全てが極低温に包まれて白く染まった。
https://www.evernote.com/shard/s702/sh/a6403847-bdbf-42b3-99bc-d8a87786cd47/7b59a90071d4683027d06fa84a5ece72
https://www.evernote.com/shard/s702/sh/79b32b61-e06b-45ff-9284-a840ba8899e8/02744f1a2bf3848531ca499af7021379
Q.つまりどういうこと?
A.自力でレベルマスキルマ転輪状態+7章の加護モードで勝負じゃ
という訳でお姫様はお姫様でもMBで登場した地球なお方。帰ってくれ。そして殺しても死なないぞ! 負けたら修復しても大陸ピンボール! ほんと帰ってくれ。