Vengeance For Pain   作:てんぞー

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影に鬼は鳴く - 14

「―――がはぁっ」

 

 血反吐を吐き出しながら体を持ちあげて行く。

 

 オガワハイムを中心とした地点は絶氷の世界に包まれていた―――()()()()()が、だ。オガワハイム、その周りの住宅街、その更に先にあるビルの類い、その全てが氷河に覆われていた。精霊種、それも神代回帰を行ったアーキタイプが限定的なテラフォーミングを行い、氷河という存在そのものをここに再現した―――あらゆる分子運動が停止し始め、生命という生命を停止へと追い込む極低温の地獄が形成され始めていた。コキュートス、或いは無間地獄とも表現できる雪原はレンが広げたそれとは次元の違う酷さだった。何故ならこれは固有結界ではなく、現実なのだから。現実として発生していたのだから。

 

あー……クソ(≪根源接続者:■■観測:遡行≫)

 

 正しい形が観測される。その事実が現在を上書きする様に腹を貫通していた氷柱が体を抜け、凍って千切れかけていた体が巻き戻る様に再生して行く。致命傷であった筈のダメージはそうやって傷を負う前の状態へと回帰され、傷一つない状態へと復元された。口の中に残った僅かな血反吐を吐き出しながら、凍り付いて砕け散った斧の代わりに、次の斧を引き抜いた。視線を巡らせば違う場所で起き上り、傷一つない姿で復帰する式の姿が見えた。

 

 そして同時に、無傷のアーキタイプの姿が見えた。氷河に対抗する様に自身の周りだけ魔術的に熱量を上昇させながら、無傷、汚れ一つない服装の彼女へと視線を向けた。

 

「―――見事だ。まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは思いもしなかったぞ」

 

 呼吸し、斧を握り直し、前傾姿勢になって、動き出せるように構える。片目だけ式の方へと視線を向け、彼女の心を悟り、どう動くのかを把握しながらマントラとチャクラを練る。

 

「三度振るい存分に殺し、氷河の到来の合間に命を昇華させるか。だが残念だが我が命は十数度昇華されようと尽きぬ」

 

 完全に見抜かれていた。氷河発動までの刹那、防御を最低限だけに回し、命の終わり、輪廻の導き(アンタメン・サムサーラ)を打ち込んだ。輪廻転生の概念であるが故に、命を積み重ねるようなものであれば問答無用で昇天させるだけの相性の良さはあるのだが、命の総量が桁違い過ぎて、ほとんど意味を成していない。ヘラクレスなら今でも一撃で昇天させられる自信があるのだが―――大英雄とはやはり、比較できない。相手はなにせ、星だ。何千、何万、何億と生命を育んできた全ての命の母だ。その命を尽きさせようとするのであれば生半可な事でなくては無理だろう。

 

 ―――アレが恐ろしい程に劣化していても、直死で殺し切れないってヤバイな。

 

 初手で決着をつけるつもりだったが、こうなれば持久戦だ―――相手をひたすら殺し続ける、と言うやりたくない一番酷い戦いに入る。奥の手、とか言っていられない。考えられない。持てる全ての手段で確実に殺し続けないとダメだ。それに死亡時に自爆してくると考えると此方も、常に自爆を乗り越える方法を考えながら戦う必要がある。

 

「さあ、後何度時計の針を巻き戻せる? 宙より相互の観測による遡行補完といえども限度はあろう? 二度か? 三度か? 或いは四度か? さあ、ヒトの力では星は掴めぬぞ? 完全に死に絶える前に我が命、奪ってみせよ! かぜ(≪原初の一≫)よ!」

 

 言葉を吐くのと同時に竜巻が五つ発生した。飲み込まれれば一瞬で肉体が挽肉になる様な規模の竜巻、それがオガワハイムそのものを削る様に囲みながら接近し、酸素そのものを吸い上げながら破壊しに接近してくる。此方の致命傷からの蘇生方法が一発で見抜かれるも、それを封じてこようとしないのは本当に遊ぶつもりがあるのだ、と言うのが良く解る。再生の範囲であれば遠慮なく連発出来る。ならばここが使いどころだろう―――カルデアに見られてない今なら使える。

 

梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ・パラシュ)―――!」

 

 迷う事無く対国規模でブラフマーストラを放った。発生した竜巻、オガワハイム、そしてアーキタイプを飲みながら国殺しの奥義が発生した。正面、蒸発させるようにアーキタイプの姿を消し飛ばすのと同時に彼女の後方に発生していた二つの竜巻が消滅し、その代りに空が夜の闇の中で、明るく輝いた。

 

「めてお」

 

 それは降り注ぐ災厄だった。めてお―――つまりは隕石。それが空から降り注ぐようにオガワハイムの屋上、その跡地へと向かって降り注いでくる。もはや何時死んだのか、とさえ判らない様な素早い速度で消え去った筈の肉体をアーキタイプは既に蘇生し終え、式の肉薄を許していた。雲曜から放たれる刀の一閃がアーキタイプへと届くかどうかを確認する事もなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()腕を回帰、遡行させて元の形に戻しながら握り直し、背後へと向かって振り向き、薙ぎ払う様にもう一度、対国規模で薙ぎ払った。武器が融解する感触と共に竜巻が消え去り、武器では保持しきれなかったエネルギーがバックファイアを起こしながら腕を溶かす。それが遡行による復活を得る時間も面倒だ。逆の手に斧を握り、飛び込んで行く。空を覆う隕石が落ちてくる中、オガワハイムへと衝突して足場が崩壊する中で、それを気にする事なく飛び込んで行く。

 

 式が刀を振るい、アーキタイプが頭が割れた。

 

「いなずま」

 

「これで道雪と並べた(≪雲曜:雷切り≫)かしら」

 

 死と共に自爆で放たれて来る雷を雲曜の極意で式が切り払い、死亡し、再生途中のアーキタイプを数度殺した。その動きはどうやら的確に直死の魔眼によって死を切り抜いているらしいが、まるでそれを意に返す事無く、普通に彼女は蘇り続けていた。

 

「式!」

 

「解ったわ、こうね?」

 

 蘇生直後のアーキタイプを此方へと向けて式が回転し、峰で殴り飛ばしてきたのを此方で迎える。

 

「―――喋る頭がなきゃあ自爆もできねぇだろうなぁ! っつーわけでだ、美人ってところは勿体ないけどお前はここで死に続けろ(≪修羅の刃:殺戮武神≫)……!」

 

 遡行完了した右手をアーキタイプの口の中へと叩き込みながら舌を()()()()()()。そのまま左手で斧を振り下ろし頭を割断、物理的に音が発せない状態にしながら素早く乱舞する―――やり方はナインライブズに近い、腕をランダムに振り回しつつ手首のスナップに反動を与え、振り抜くたびに反動で動きを加速させ、手首を肩周りの可動域を滑らかに動かす事でスムーズに感性を維持したまま―――神速の連撃を叩き込む。そこに一つ一つ、全く容赦のない命の終わり、輪廻の導き(アンタメン・サムサーラ)を加えて行く事で殺しながら命を昇華させて行く。その回数は数えない―――ただ殺し続けるだけだ。

 

 もはや足場となっていたオガワハイムは―――ない。完全に砕けて、破片となってその中を跳躍、落下しながら片手でその体を掴みながら()()()()()()()()()()()()何度も振り下ろし、肉を動き出さないように削ぎながら殺し続ける。優先して思考と言葉を封じる為に頭を潰し続け、殺し、殺し、殺し続けようとして、

 

 腕が此方の認識よりも早く首に伸びた。ぐきり、と嫌な音が響き、息が消えた。

 

「調子に乗ったな! 返礼させて貰おう―――!」

 

「ごっ」

 

 気付いた時には()()()()()()()()()。視界には高速で離れて行く自分の体と、大きくスカートを広げながら足を伸ばすアーキタイプの姿が見えた―――つまりは全力で蹴り飛ばされたのだ。器用に、丁寧に心臓だけを潰す様に衝撃を貫通させて。そんな細かい芸が地球のクセに出来るのかよすげぇな、なんて事を想いながら殺しきれなかった事を悔み、背中から大地に衝突し―――そのまま体を丸めて回転させる。道路へと衝突した体が痛みを訴えるが、それを無視して転がり、凍り付いた障害物を粉砕しながら体に押し込められた衝撃を回転と共に押し出す様に転がって、最終的に大地を蹴って両足で立つ。

 

 その頃には既に心臓の遡行は完了している。が、喉には血液が詰まっていた。それを勢いよく吐き出した。

 

「くっそー。こういう時ばかりは血肉のないサーヴァントが羨ましいわ。ハートブレイカーとか一体どこ学んだんだアレ。いや、待て。人類と共にあるって事は全ての歴史見てるって事か。やってられっかよ。俺は帰るぞ!」

 

「それで帰れたら良いわねー。カルデアは現在ブラック営業中よ」

 

 隣の瓦礫の上に愛歌が座っている。夜空を見上げれば隕石が降り注ぎながら雷鳴が降り注ぎ、竜巻と暴風が発生しながら衝撃波が多重に発生している。その中で式は刀で片っ端から超常現象を殺している為、無傷を維持していた。自然現象を殺害出来る式の場合、此方みたいに馬鹿正直に攻撃を食らう必要がない為、被弾率が圧倒的に低い―――とはいえ、先ほどのやり取りの感触、アーキタイプも()()()()()()()()()()感じがある。式一人に任せてたらいつの間にかミンチになってそうだな、と思う。

 

「気を付けなさいよ? 意識さえ喪失しなければ完全な状態まで復元できるけど―――」

 

「やりすぎると呑まれる、だろ。お前も気を付けろよ、俺達同時に死ぬとそのまま根源にボッシュートだから」

 

「EXクラスで繋がってると便利なようで不便よねー。こんな時に(グル)がいてくれたらいいのにねー」

 

「神話通りならあの人地球を戦車にするからな。だがちょっと待て、あの姫を戦車にって事は(グル)はあの姫をケツの下に敷いてドライブするって事か? これはぜひとも宝具として譲ってもらうほかない―――おう、無言で首輪と鎖でアピールするのやめよーや」

 

「いいのよ? 私、そういうのも受け入れるから」

 

「俺が社会的に確殺されるから止めようぜ―――って遊んでる場合じゃねぇや。ついでに考えてる時間もねぇな」

 

 たいよう、と音が聞こえた次の瞬間には本当に太陽の様な光球が空に浮かび上がっており、夜を明るく照らしていた。わぁい、そろそろ脳味噌溶けそう。そんな事を考えながら氷河が溶けて行く中、崩壊して落ちて行くオガワハイムの破片の中へと向かって一気に跳躍して飛び込んで行く。完全に再生を果たした右腕で斧を握りしめながら、まずは太陽の迎撃へと向かう―――サイズがデカすぎて式が直死で殺すには武器のリーチが足りない。

 

 となると()()()()()()()()()()()()

 

 落ちてくる瓦礫を足場に鮭跳びの術で重力もなく一気に戦場へと帰還する。式とアーキタイプの戦いは式が切り払いながら手足を切り落とす事によって防戦に押し込まれており、

 

ただいま! 死ね!(≪救世主:サトリ≫)

 

「む―――」

 

 対国級梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ・パラシュ)で太陽諸共空のアーキタイプを薙ぎ払った。一瞬で蒸発するアーキタイプの姿、そしてその背後に奥義がぶつかる事によって太陽が爆裂し、大質量の炎が空から大地へと向かって降り注いでゆく。爆発した事によって広範囲が熱量によって焼き払われる熱線が無差別に降り注がれる―――それに対して知覚のチャンネルを切り替えた式が刀を一閃し、一瞬で此方への影響を切り殺した。そこに割り込む様にアーキタイプが焼かれながら飛び込んでいた―――だがその強度は先ほど殺し続けた状態よりも上昇している。

 

「指先が踊るではないか」

 

おっと、お触り厳禁だ(≪修羅の刃:カバーリング≫)

 

 今までよりも遥かに早く、そして強靭になって、アーキタイプの指先が式を殺しに来た。指先でさえ人間を真っ二つに切り裂くだけの力がある―――ビーストには弱体化の関係では届かなくても、それでも冠位級は間違いなくある、その一撃を落ちて行く隕石の破片を足場に跳躍、割り込んで斧を振るう。ただ前に立つだけではなく、指先を斧の先端で受けながら捻り、滑らせ、威力を引き込みながら流れを作る様に誘導し、それをあらぬ方向へと捻じ曲げながら無力化する。その結果、アーキタイプの両腕が下へと向けられ、頭を傅く様な形に落ちた。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 そして雲曜がそこに切り込んだ。音を封じ込める様に首を浅く切り付けてから心臓を両断する様に、胴体を切り落とさずに一閃、三次元的な動きを落下する瓦礫を足場に行い、そのまま心臓を二度通して殺し、口を一閃に割いて殺し、再生能力を一瞬だけ弱めながらその動きを封じ込め、頭を押さえこむ様に踏んでいた足を滑らせながらムーンサルトを決める様に引っ掛けて蹴り飛ばす。空中で回転し、逆さまになりながらエネルギーの逆流で腕を焼きつつも、斧を蒸発させ、対国奥義―――つまりは本来のブラフマーストラ、()()()()()()()()()()()()奥義を放つ。

 

命の終わり、輪廻の導き(アンタメン・サムサーラ)―――」

 

 瓦礫、隕石の破片、氷河、熱風、家屋、道路、その全てを巻き込みながら破壊の奥義が走った。閃光と共に全てを飲み込む古代の奥義は大地に癒える事のない爪痕を残しながら国を亡ぼすだけの破壊力をこの狭い特異点の中で発揮する。それはオガワハイムの残骸を確実に呑み込みながら全てを無に飲み込んで消し去る絶対破壊の権化であった。今までの様な迎撃で空には放たない。特異点を破壊するように大地へと放ったそれは喋る事の出来ない女の姿を呑み込み、蒸発させた筈だった。

 

 空から落下し、まだ無事な瓦礫の上へと着地する。

 

参ったな(≪救世主:常在戦場≫)

 

そうね、勝ち目が視えないわね(≪セイバー:常在戦場≫)

 

 梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ・パラシュ)の破壊によって大地から空へとめがけて光の柱が天高く伸びている。その中心に、母なる大地の化身の姿が見えた。笑う声を楽しそうに響かせながら愛おしそうな表情を浮かべ、抱きしめる様に腕を広げていた。

 

「さて、どう盛り付けたものか……ふむ―――こうか(≪空想具現化≫)?」

 

 言葉と共に破壊しつくされた特異点の姿が一瞬で変貌した―――巨大な月と城の見える、白い花が美しく咲き乱れる湖畔の岸部に。一瞬で彼女の領地に引き込まれた事実に、そして此方が下手に実力を発揮しているだけに、彼女のテンションは上りっぱなしだった―――とはいえ、接待すると全てが終わる。

 

 ―――目の前の存在が納得するまで、殺し続けるしかないのだ。

 

「さあ、第三幕を始めようぞ……!」

 

 考えろ、考えろ、考えろ―――相手の不死性には法則(ルール)がある筈だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()筈だ。少なくとも冠位級はあっても弱体化している存在、殺せない理由はないのだから。戦い続ける限りはあの女のテンションを供給するだけ、

 

 ―――法則を見出し、決着をつけるのが唯一の道だ。




 助けてグル! 地球が襲い掛かってくるの! 古代インドの力でどうにかして! なお徒歩で来ない。それはそれとして、フル状態の接続者x2が本気で戦ってるのに笑ってるって何事だこれ。帰ってくれ姫様。

 なお、かなりインフレしているように思えてまだ次から来る章の方が酷いらしいという恐怖の事実。アメリカ、キャメロット、バビロニアと地図から消え去る地域が俺らを待っている。

 毎度の事ながら、現象には理由と説明と原理がある。考えない奴は死ぬだけ。

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