Vengeance For Pain   作:てんぞー

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とらぶるchocolate - 2

 最初は復讐しにレイシフトでもしてきたのかと思ったが―――違う。本来よりも小さい姿はオガワハイム特異点で出会った姿よりも弱体化している事を証明し、その姿も十分の一程度まで削られている。それは今、この地球と言う惑星がどこまで弱っているのかを証明しているような事であり、そして彼女という存在がどれだけ残されているのかをも証明している。

 

 ()()()()()()()()()()()なのだ。そしてカルデアは一応、場所としては地球に存在する。つまり、このカルデアが存在しているヒマラヤ山脈の一部の地域、それが地球に残された最後の大地なのだ。それだけが現在、あの巨大な星が持っていた大地の残りなのである。故に、それにふさわしい程度の力、規模しか目の前の姿は持っていない。

 

「正直な話、我が現身を創るのは難しくはない。だが真祖の様な完成度、強度は不可能だ。精々魔力の詰まった肉袋が限度だ。とはいえ彼の地で我が身を討ったおかげで漸く目覚められたわ。それに関しては貴様を褒めて遣わす」

 

「まぁ、威厳を保とうとするのはいいけれどその姿で威厳を保とうとしても無駄よ? 流石にその姿じゃねぇ……?」

 

 胸を張ってふんぞり返っているアーキタイプ:アース―――この際、名称が長いのでアースとでも略す。彼女の姿はあのオガワハイムで見た成熟しきった肉体とは違い、明らかに子供の姿をしていた。そこから感じる力も大幅に減っており、前述の通り感じる力は十分の一程度、それに身体能力も大幅に低下し、平均的なキャスター以下の身体能力程度しかないだろう。文字通り、彼女は弱体化している。だがそれも仕方のない話だ。彼女はこの惑星の化身であり、その姿は触媒であり、現身。それでいながら定規でもあるのだ。これが彼女のアバターであるなら、どれだけ彼女に力があるのかが見える―――つまり、カルデアの範囲しか大地が残されていない今、アースにはこの程度しか力が残されていない。

 

 オガワハイムの場合は再現顕現であった為、本来の規模だったのだろう。

 

「本来であれば星の内海で眠り続けているのが正しいのであろうが―――こうも楽しい催しに目を覚ましてしまえば眠り続ける事等私に出来るものか。この不安定であり、しかし確かに存在する時空は存在確率の確定に使える。おかげでこうやって不完全ではあるが我が現身を生みだす事も出来た」

 

「いや、寝てろ(寝てなさい)よ」

 

 迷う事無く愛歌と同時に声を放ってツッコミを入れる。こんな辛辣な言葉を吐いているが、滅茶苦茶声が震えているだけの自信はあった。明らかに全方位的に戦力としてカルデアに常駐するのは無理があるだろう、お前、と。

 

「目覚めてからこの数日間、我が目を通してしっかりとカルデア内部を、そして今までの旅路を見て来た―――なんとも楽しそうな事をしているではないか。このような祭に参加出来ぬのはあんまりではないか?」

 

「姿からアーパー力を調達しなくてもいいんだぞ??」

 

「許せ、あまりに楽しそうで自分でも抑えきれぬのだ―――とはいえ、そのまま普通に戦列に加わってものちの追及が辛かろう? 適当に使い魔の一つとでも言いのけるが良い。実際、この器は使い捨てが出来る様に作ったからな。最大五度までは死ねるぞ」

 

「準備いいっすね全生命の母(かーちゃん)

 

「無論だとも。私とて遊べるのであれば遊びたい」

 

 これ、何を言っても無駄ね……と言う愛歌の声が結論の全てを物語っていた。いや、弱体化しているし、納得できる範疇のサイズと実力だし、色々と察してくれるのはいいのだが―――いや、やっぱり良くない。全てが終わった後で実はカルデアをアーキタイプ:アースが助けていたんですけど魔術協会的にこれどう思いますか? うーん、全員封印指定かな? なんてアホみたいなルートがありえる。ズェピアだ。大戦犯ズェピアだ。なぜアイツは調子に乗ってアースを召喚しようとしたのか。どこからかぐだぐだ粒子が紛れ込んでしまったのだろうか。許せ、カルデア。地球は味方だ。

 

 この星は俺達と戦ってくれるのだ―――駄目だ、どう取り繕うとも酷い状況だ。……せめて、弱体化したとはいえ、アースを戦力として利用できるようになったという事実を今だけ、心の中で少しだけ、本当に少しだけ喜んでおこう。

 

「―――では本題に入ろう」

 

「今のが本題じゃなかったのね」

 

「私もバレンタインを楽しみたい為、チョコレートを作ろうと思う」

 

「地球産チョコレートですってよ奥さん」

 

「神秘の塊ね。たぶん食べるだけで根源にスカイダイブできそうね」

 

「故にカカオを育てる所から始めようと思う」

 

「流石地球、本格的だ」

 

 どうしようかこれ……。カカオから育てるとかスケールが違う。一日の時間が二十四時間しかないのに明らかに一年と言う範囲で収まらないレベルでバレンタインの準備を始めようとしている。解っているのか、そのカカオを育て終わる頃には末に人理が完全に焼却されてソロモンくんの創世神話が始まってそうなのが。恐らくは冗談だろう―――駄目だった、この幼女、本気でカカオから育て始めると考えている。やはり地球的思考となると時間感覚が狂っているのだろうか。

 

「では行くぞ。まずは育てる為の大地を確保する為にレイシフトだ」

 

「既にチョコレートは大量に用意してあるんでそれを使わない……?」

 

 その方法があったか、と言わんばかりに目を見開く我らが地球を見て、これ、駄目かもしれない、と悟る。まさかのポンコツ属性である。地球がである。いや、だが良く考えてみたら体のベースがアルクェイドなのだからポンコツなのはポンコツなのでしょうがない気がする―――いや、やっぱダメだろこれ。

 

 諦めを感じながら室内のチョコレートを探し始める。聖杯チョコドリンクの作成で余ったチョコを鍋の中に入れて保存している為、それを使えば問題は解決だ。そう思ってチョコを取り出そうと探し始める間に、何だかんだで愛歌がエプロンを取り出してアースにチョコづくりを手伝おうとし始めようとする。こうなると一旦外に出た方がいいだろうと判断し、こっそり、自室を出て行こうとする。

 

 扉を開き、廊下を見た。

 

 ぱから、ぱから、と音を立てながらチョコレートで出来た馬が走ってた。

 

「デュフフフフフフwwwwwwwww―――……」

 

 縄に縛られたどこかの海賊がチョコレートの馬に引きずられて頭を燃やしながら廊下を引きずられていた。そうかぁ、お前チョコもらえない癖に来ちゃったかー。バレンタインって凄いなー、なんて事を想いながら更に廊下内を見ていると、今度は全裸のケルト戦士がカラドボルグを担ぎながら廊下内を走っていた。そこまで見た所で限界だった。無言で扉を閉めてロックをかける。

 

「今日は一日外に出ず部屋の中で過ごそう」

 

「でもチョコレートが足りないから食堂に行く必要あるのよね」

 

「この状況で俺、うろつきたくない!! 絶対にロクなことにならねぇ!! いいか? 見てろよ! 見てろよお前!!」

 

 ロックを解除し、扉を開ける。その向こう側では廊下を走って駆け抜けて行く大量のチョコサーヴァント、そしてそれを齧りながら追いかける三種類のアルトリアがいて、その背後をランスロットが必死に追いかけている。それが今度終わったと思ったら玉藻とどっかで見た事のある蛇姫が残像を残す速度で互いを妨害しながら立香の部屋の方へと向かって移動して行く。この世の地獄ってここにあったんだなぁ、という新鮮な気分に今ならなれる。

 

「な、この中を進むの止めよう? な?」

 

「さ、行きましょ」

 

「うむ、行くぞ」

 

「仲いいなぁ、畜生」

 

 ロリが二人ともノリノリな為、逃げ場が完全にない。えぇ、嫌だぁ、と否定する前に片手を愛歌に奪われ、引っ張られていた。えー、と口に出しながらも、もはや逃げ場がないのは理解している事だった為、口だけの抵抗だ。何で俺の周りにはロリが集まるんだ、と思いながらも背中をアースに押されながら廊下に出た。先ほどまでのカオスが嘘だったかのように廊下は静まり返っており、台風の前の凪を思わせるような状況だった。

 

「では私は貴様の影を住処に借りよう」

 

「いい御身分だな、ほんと」

 

 そう言うとアースが影の中に潜って行く―――あ、なんだか懐かしいな、これ。期間的にはまだ半年程度なのに。そんな事を想いながらも食堂へと向けて歩いて進んで行く。カルデアが現在バレンタイン戦線発令中である事が原因なのか、少し歩けばすぐに騒がしさが聞こえてくる。壁を見れば所々チョコが叩き付けられており、砕け散ったチョコサーヴァントの姿もそこらに見える。これが食料の無駄だったら怒るだけの理由にもなるのだが、今回のイベントの材料はほとんどレイシフト先から自分で持ち込んできている物の為、文句はあまり言えない。

 

 まぁ、徐々にだが食糧事情は改善されているのだ―――だからこそこんな余裕が出来ているのだが。

 

 そんな事を考えながら食堂を目指していると、強いチョコレートの匂いがしてきた。正面、チョコレートで出来ていたサーヴァントが武器を構えながら食堂への道を塞いでいた。大きな旗を持って、そこにはホワイトチョコでチョコの人権を守れ! と書いてあった。その姿を見て数秒間動きを停止させる。ついにチョコの解放運動まで始まったのか、と困惑していると、悲鳴と共にチョコレートが溶け始める。跡形もなく蒸発する様に溶けるチョコの姿の向こう側から見えて来たのはスーツ姿の男の姿だった。

 

「む、貴様はセイヴァーか」

 

「巌窟王か……その様子を見ると……」

 

「あぁ。流石にそのまま放置しておくと大人しく珈琲も飲めんからな。貴様も見かけたら適度に狩るといい」

 

 そう言って巌窟王エドモン・ダンテスは此方の横を抜けて、廊下の奥へと歩き去って行った。彼もまた、このカルデアに新しく赴任したサーヴァントの一人だ。特異点で出会った事のないサーヴァントだが、寝起きで召喚を行った立香の声に一発で応えて召喚された辺り、外面はクールだが中身に関してはかなりホットな野郎なのだという事が解る。何せ、処理する必要のないチョコを潰して回っているだけ、既にツンデレ属性疑惑がある。

 

 無事に、馴染めそうな気がする。

 

「ま、強そうなサーヴァントが増えるのは良い話だ」

 

「マシュが嫉妬しそうだけどね」

 

「それはそれでいいもんさ。飲み、食い、そして抱き、生きよ。地上での命は短く、どこまでも儚い。悲しみに満たされるのも、怒りに満たすのもまた自由で、人間らしい行いであり、それは生きている人間の特権だ。嫉妬に狂うのもまた、人として必要な一歩だ。マシュは純粋で、穢れが無さすぎる。あの子は少し、悲しみや怒りを覚えた方がいい」

 

 聖人共の見解は違うだろう。復讐に燃える事は間違っている。人は救われるべきであろうと主張するだろうし、平穏と安らぎが必要であると言うだろうが、()()()()()()()()()()()()()()()としか言えない。

 

 人を救うのもいい。だが復讐に狂うのもいい。人とはそういう物であり、その自由であるからこそ人なのだ。

 

 何が人間らしい、らしくない、こうするべきだ、こうしないべきだ、そんな事を騙っている内は未熟も未熟、としか言えない。とはいえ、そんな結論に納得できる者の方が少ないだろうが。少なくとも、心の底からこれに共感できる存在はいないだろう。

 

 ―――どうでもいい話だ。

 

「とりあえずカルデアを後で換気開いておかないとな」

 

 これじゃあチョコの甘ったるい匂いで胸焼けしそうだ。そう思いながら匂いの源泉を追いかける様に更にこれだけのチョコがフリーダムに走り回っているのであれば、相当量のチョコが余っていそうだな、と食堂に近づくにつれ、段々と聞こえてくる喧騒とチョコの匂い、ここでも暴れてるのか、そんな事を思っていると、

 

 クー・フーリンが食堂から放り出されて死んでいた。その頭には刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)が刺さっていた。

 

「あ、また死んでる」

 

「まぁ、霊基再臨してもカルデア内での死亡なら復帰は従来通りだから……」

 

 だけどなんであいつまた死んでるんだ? そんな事を考えながら食堂を覗き見る。

 

「うぉぉぉ―――!」

 

「戦えー! 逃げるなー!」

 

「誰だあんなものを作ったのは―――!」

 

 それは宙に浮かび、両手を広げる姿だった。

 

 十の指輪を装着し、チョコレート色の髪を持つ、古代イスラエルの王。

 

「チョコモン……!」

 

 チョコレートサーヴァント・ソロモンだった。




https://www.evernote.com/shard/s702/sh/1ad7de4a-cd31-4822-87ec-6f48f905e104/cbed1cbe88ec8bb30fbfc0728a6c9c63

 つまりこういうデータ作成するよ、と言いたかった。そういう話。fate風のスキルやステータスじゃ表現しきれない部分が多いからこういうデータにしねぇとキャラの出来る事、完全に把握できねぇやって話で。

 バレンタインのボスはチョコモンくん。

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