Vengeance For Pain   作:てんぞー

107 / 133
とらぶるchocolate - 3

 それはツヤツヤとチョコの輝きを放っており、凄まじい魔力で満ち溢れていた。その背後にいるダビデが腕を組みながら笑っていた。どうやらこの騒ぎの犯人を見つけ出す事が出来たらしいが、ソロモンという形を得たチョコレートはどうやら想像以上につよいらしく、襲い掛かってくる他のチョコサーヴァントたちを相手に軽い無双状態を披露していた。砕け散ったチョコサーヴァントの破片をキャッチし、それを口の中へと運んでぼりぼりと食べながら、近くにブーディカを見つけた。なんか、呆れた者を見るような視線を周りへと向けている為、一目で正気だと解る。だから片手で挨拶して近づき、

 

「なにこれ」

 

「いやぁ、自分のチョコを作って渡す! ってのをやろうとしたら動き出しちゃった奴がいてねぇー……その結果、悪乗りに悪乗りが重なってああだよ。しかもなんかローカルルールでチョコサーヴァントを倒すにはチョコサーヴァント限定みたいなのが追加されちゃって……」

 

「あぁー……」

 

「つまりは食べ物で遊び始めちゃったのね……」

 

「遊び始めたというか食べ物が遊び始めた感じね」

 

 チョコの方が始めちゃったかー。意識持っちゃった系かー、と片手で頭を押さえながら様子を眺めていると、チョコvsチョコの賭け試合が発生していた。なんか、もう、完全にバレンタインとかそういう空気じゃない。なんでこうなってしまったのだろうか……? そう思っている間に、状況を無視して愛歌が余ったチョコレートの確保に動いていた。この状況の中で全く動じない姿には畏敬を覚える。そんな中、チョコソロモンvsチョコフルアーマーアルトリア、夢の決戦が始まる。

 

「オッズは1.2:1.5だ!!」

 

「行きなさいチョコトリア!」

 

「君のパッパが最強だと証明するんだ都合の良い方のソロモン!」

 

「これはまさにクズの発言」

 

 アヴァロン、プライウェン、ロンゴミニアド、エクスカリバー、ラムレイを装備したフルアーマーチョコアルトリアが装備を全て投げ捨ててチョコソロモンと拳と拳で語り合い始める―――そう、チョコなのだ。宝具も魔術も使える訳がない。フルアーマーだったり凄まじい能力と魔力を設定上持っていても仕方がない。チョコなのだから殴り合う以外の攻撃が出来ないのだ。十の指輪を投げ捨てたチョコモンがボクシングで元フルアーマーチョコトリアに殴りかかるなら、チョコトリアはムエタイで戦ってた。

 

「設定組んだ奴出て来い」

 

「そんなもんないよ。チョコが勝手に動いてるんだよ」

 

 チョコの趣味かぁ、そっかー。そろそろ考えるの止めるか。Dont think, feelな類いの案件だったらしい。溜息を吐きながらそろそろ愛歌と混ざってチョコを持ち帰るかぁ、なんて事を考えていると横から肩を抱く感触を得た。横へと視線を向ければ、札束を握ったカルデア職員がいる。

 

「やあ、エージくん」

 

「スティーブ……!」

 

「君もやるだろ? やるよね? 参加するよね!? カモらせて」

 

 殴ってやろうかと思った。ただなぁ、影の中から延びる手がくいくい、とズボンの裾を引っ張って、早くチョコづくりをしたい、とアピールして来ているのだ。これを怒らせた場合が非常に怖いので、そのままにしておくべきじゃない。それに、何だかんだでどうやれば勝てるのかが見えてしまっている分、なんとなくだがノリが悪いのだ。こう、若干リヨってるとでも表現すべき女のマスターを召喚すればワンパンでKOできそうな気がする。それに、

 

 こういうお祭り騒ぎはマスターだけじゃない、サーヴァントたちがガス抜きする為の時間でもあるのだ。それを自分の様にまだ先のある人間が邪魔するのも悪いだろう。遊べるときに遊ぶのもまた、英雄の資質だ。こっちはこっちで、子供の遊び相手をしなくてはいけないのだ―――混ざるのはまた今度にしよう。大人しく背中を軽く叩いてから、ここから出て行く事にする。

 

 

 

 

 チョコレートの調達が終わると、愛歌とアースの二人だけで先に部屋のキッチンへと戻って行ってしまった。何とも薄情な連中だ……だが、バレンタインは基本的に女子の為のイベントなのだから、まぁ、そんな風に張り切るのもしょうがない、という所だろうか。苦笑しながらゆっくりとカルデア内を歩く。直ぐに部屋に戻るのも流石に芸がない。となると、適当に時間を潰してから向かったほうがいいだろう。

 

 そう思いながらカルデア内を歩いていると、袋を片手に歩く立香の姿が見えた。その視線は此方を見つけると、お、と声を零した。

 

「せんせー」

 

「あいあい、なにかな」

 

 もう完全に先生呼びに関しては諦めつつも、小走りで近づいて来た立香に片手で挨拶する。近寄ってきた立香はそれで足を止めると、軽くうーん、と唸ってから首を傾げた。

 

「先生、最初と比べるとまるで別人っすな」

 

「そりゃあお前、アレは人間ってより機械に近い状態だったからな。ま、だけどこうやってお前と付き合っている内に何とか本来の自分を取り戻す事が出来たよ。そこに関しちゃ手放しに感謝してるよ。お前がいなきゃ俺は自分が何だったのかさえ思い出す事が出来ず、ただの人形のままだったからな」

 

「うーん、軽い会話から来るクソの様な重い内容。最近、どこらへんに地雷が埋まってるのか、どれが起爆済みなのか、どれがまだ起爆していないのかだいたい解ってきたけど、何となくだけど先生の地雷が全て起爆済みとかいう事実に恐怖を感じてる」

 

「俺も俺も」

 

 いえーい、と言いながら軽く手を叩くと、袋の中から透明な包みの中に飾られたチョコレートを立香が取り出してきた。

 

「とりあえずハイ、チョコ。日頃の感謝のお返しに。先生がいなければ何度か死んでるし、ほんと毎回お世話になっています。ロンドンとか先生がいなければそのまま全滅してたらしいし、なんというか、ほんとお世話になりました……。あ、でもこれ、皆にも配る予定だからあまり重く見ないでね? あ、後朝の聖杯チョコほんとアザッマス。マジアザッマス。まさか惚れ薬とか媚薬の混ざったのがストレートに来るとか思いもしなかった」

 

「お、おぅ、ありがとう。ゆっくり食べさせてもらうよ安珍くん」

 

「その名前ほんとやめろ」

 

 いつの間に清姫がカルデアに紛れ込んでいたのだろう―――というかお前、直接的な縁を結んでいない筈なのに何故カルデアに来ているんだろうか? やはりバレンタインは恐ろしい。それに尽きる。ともあれ、バレンタインチョコを受け取りつつ、参ったなぁ、と呟く。

 

「折角のお返しが今は手元にないんだよなぁ……」

 

「いや、先生からは聖杯チョコ貰ったし……」

 

「いやいや、アレは全部愛歌が作ったもんだよ。アイツもアイツで結構お前を気に入っているもんだからな―――まぁ、アイツも俺も好きな人間の種類ってのは結構似るもんだからな、気持ちは解らなくもないが……さて……どうするか……あぁ、そうだ」

 

 一つ思いついた、と呟く。その言葉に立香が首を傾げるので、質問する。

 

「俺のマテリアルはもう確認してるか?」

 

「うん? してるよ。アヴェンジャーの頃とはすっごい変わってるから驚いたけど……」

 

「じゃあ俺が根源接続者であるってのも理解しているな?」

 

 その言葉に立香は頷いた。つまりはだ、と言葉を置いた。

 

「―――俺自身が聖杯の代用品みたいに機能出来るって訳だ。ちょちょいと裏技でアレコレと世界を騙す事が出来る。まぁ、制限がある訳だが、それでも俺が万能であるという事実に変わりはない。ダ・ヴィンチとは方向が全く違うがな。つまりだ、俺が思えば叶えられるという事はそこそこ存在する訳だ。好きな事を願え、立香。お兄さんがその願いを叶えてあげよう」

 

 手を伸ばす様に言葉を放ち、立香に願いをかなえると、そう言った。しかし立香はその手を取らずに頭を横に振った。

 

「ダメだよ先生、俺、それは受け取れないよ」

 

 立香の返答は早かった。それこそ、ほとんど悩んでおらず、此方が言葉を放っている間にどう返答するか、それを決めた様にさえ感じる。いや、実際一瞬で決める事が出来たのだろう。そしてその返答に、唇の端を持ち上げるのを自覚していた。

 

「何故だい?」

 

「だって―――そこには意味がないじゃないか。だからそれは受け取れない」

 

 その言葉に苦笑しながら伸ばした手を立香の頭へと向け、ぽんぽん、と撫でた。

 

「うん、それで正解だ。叶えてあげる、とか好きなものをやる、とかそういうのは全て代償を必要とする事だ。そして物事が大きければ大きい程、それは反動となって帰って来る。清貧を貫けという訳じゃないが、こういう物事のオチは破滅的であるのには間違いがないんだ。立香、君は人でありなさい」

 

「人で……」

 

 まぁ、ここら辺はやや難しい話だ。

 

「満たされない事があれば幸せな事だってある。頑張って報われれば頑張らずに報われる事もある。努力が常に実を結ぶという世界でもない。世の中、一定のルールはあってもそれが常に生きているって程優しい訳じゃない。だけど、幸せになる為の方法はいくつかある。そして人が救われるための方法も決して一つではなく、複数存在する。生きる事が祝福なら、死ぬ事もまた一つの祝福で、救いなんだよ立香―――まぁ、ちょっと難しい話だ。そうだな、簡単に捉えるとこうだ」

 

 ―――お前はお前らしくいろ。

 

「それだけ?」

 

「あぁ、それだけだ。皆、勝手に世の中はもっと複雑だと思い込んでしまうからすれ違う。悲しい事だけど、それが事実だ。だからお前だけは真っ直ぐ、一番最初に抱いた思いを忘れないでくれ。お前が戦う理由は、世界の為とかじゃないだろ?」

 

 その言葉にうん、と立香は頷いた。それを見て笑みを浮かべ、おし、と呟きながら再び頭を撫でた。

 

「難しい話はここまでだ。じゃあお兄さんからまともなバレンタインのお返しをやろう」

 

 空間魔術で手元にバレンタインのお返しに用意していた『女性に刺されない方法100選』を呼び寄せる―――本当はもっと面白いタイミングで渡そうかと思ったが、こうやってチョコレートを受け取ってしまったからには、お返しはなしという風には出来ないだろう。

 

「という訳で俺からはこれを渡しておこう」

 

「刺されない方法……」

 

「俺の認識が正しければお前はこの後も益々女性サーヴァントを引きつける」

 

「嬉しいようで嬉しくない事実」

 

「そこでお前の為に俺はこれを書いた。俺というこの地上で一番人類を、人間心理を理解している男が書いた女性完全攻略マニュアルだ」

 

「クッソくだらない事に費やされる人類の宝」

 

「日常的に使える攻略手段から洗脳染みたテクニックまで100の方法をこの本には書きこんである―――これさえあれば何股したって平気だ」

 

「まさに救世主のクズ。これは歌のクズに続く新たなクズ」

 

「ちなみにこれ、普通の刃物の類なら突き刺さらない程度には防護を施してあるから、懐に仕込んでおけばそれだけで急所を守れるぞ。軽くて鉄板よりも優秀だ」

 

 立香が無言で本を懐に収納した。

 

「お前……」

 

「いや、その……だって……なんか朝からスゴイ気配感じるし……既に襲われてるし」

 

あっ(≪救世主:覚者:サトリ≫)……その、うん。頑張って?」

 

「……うん」

 

 立香の肩を叩いて軽くやる気を出させ、マシュからのチョコが貰えるかもしれないのだから、頑張れ、しっかりと頑張れよ、と肩を何度か叩く。まぁ、マスターとしての義務だ、こればかりはしょうがない。バレンタインのお返しを渡してから立香と別れ、自室へと向かう。

 

 その頃には「式」がバレンタインのプレゼント―――和菓子を片手に、そして室内からも濃厚なチョコの匂いが感じられた。どうやら、戻って来るタイミングはばっちりだったらしい。甘くない茶を飲みながら食べようと、

 

 一日の残りは穏やかに過ごした。




https://www.evernote.com/shard/s702/sh/f7a797fa-0356-468e-ba09-56a5b311aedf/54744664324aa23e988a98c6b3db2163

 この後ぐだおくんは10話もかかる大冒険を果たしたそうだけど短めに尺を切り上げたいのでカットです。いい加減5章始めよう? という事で次回から5章だよ。そしてこれがディフクリア後、現在のガチャ丸データだ。

 まぁ、なんだ。

 待望の5章、次から始まるぞ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。