Vengeance For Pain   作:てんぞー

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第五特異点 北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナム
北米大戦 - 1


梵天よ、天を焦がせ(ブラフマーストラ)

 

 弓から対国の奥義が放たれた。大地を消し飛ばしながら放たれた奥義は焦土を生み出しながら()()()()で放たれた。隙間なく前方に放たれたそれは正面の戦士が放つ、同じく奥義を受ける。

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)

 

 30を超える死棘が正面から奥義とぶつかり合い、互いに食い合いながら戦場を粉砕する。既に荒野しか広がっていない大地ではあったが、対国の奥義と必殺の奥義がぶつかり合う事によってその焦土は際限なく広がって行く。片や少年に見える者、もう片やフードのついたローブを被った男、見た目はまるで違うが、超高速で動き回りながら奥義を休むことなく放ちながら連射する二人の姿は超一流と呼べる領域にある存在である事を証明していた。その証拠としてもはや、その決戦場に二人以外の姿はなかった―――格として、そこに入り込めるだけの勇士がその場にはいなかった。

 

「口がうるせぇ割にはやるじゃねぇか」

 

「余も対話を捨てようとする獣には流石に容赦は出来ん、なにより貴様は生かしておくだけ危険―――ここで討つ!」

 

「出来るならやってみろ」

 

 言葉はそれまで。そこからは破壊の応酬だった。神話に名を残す大英雄の戦いは大地を粉砕、赤熱化、炎を生み出しながら移動するたびに新しく死の大地を生みだして行く。もはや周辺への被害何て考えるだけ無駄であり、どうすれば互いに必殺の一手を叩き込めるか、それを何十手先までをも計算しながら獣の様な直感を織り交ぜ、奥義と奥義のぶつかり合いで戦場のリードを奪い合いながら計算していた。

 

 だがそうやって戦い続けられるのも永遠ではない。

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)

 

「くっ―――梵天よ、天を焦がせ(ブラフマーストラ)!」

 

 弓からの奥義を放ち、それを乗り越えて接近してくる狂戦士に対して一剣一槍で少年が迎えた。変則的なスタイルでありながらも古式ムエタイで迎え撃つ彼は相手の死棘の槍を武器だけではなく蹴り技で無効化しつつ切り込んで行く―――だがそれでも、徐々に追い込まれて行くのは少年王の方であった。

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)

 

 少年の通常の霊基に対して男の霊基は通常ではなかった。戦闘を通して発生した傷は時間の経過と共に自然に回復して行き、男を万全な状態に戻そうとしていた。

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)

 

 それは絶死の呪いの槍であった。本来であれば一撃必殺の類。だがそれは少年―――その未来において理想王と呼ばれることになる男には寸前の所で届かなかった。理想王もまた規格外の怪物とも呼べる存在。通常霊基を持ち、神性を取り戻す代わりに全王の化身(アヴァターラ)としての権能を幾つか取り戻している。それは一歩で自由に移動する権能であったり、死から再誕する権能であったり、或いは戦士に対して優位を得る権能であったりする。それを用いて理想王は食い破られる寸前を維持し続けた。

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)

 

羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)

 

 だがその戦いも限界が来る。理想王に対して狂戦士はほぼ無限の魔力と体力を供給され続けていた。狂戦士として無意識的に傷つく事はあっても、それを無限に湧き上がる力が癒し続けていた。それ故に、どれだけ理想王が巧みに戦い続けていても、その結末は見えていた。それは結果が引き伸ばしになっているだけで、戦いの行方は始まった当初から見えていたものであった。

 

「余は―――シータと逢うまでは倒れられん!」

 

「そうか、興味もねぇ。噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)

 

 理想王の言葉に対して狂戦士は感情を見せる事はなく、興味なさげに言葉を吐き捨ててその甲冑を纏った。そこに、理想王が戦いの結末を見た。

 

「ッ、羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!」

 

「うるせぇよ」

 

 奥義の乱打に相殺の連続、それを駆け抜けて狂戦士が抜けた―――大地を焦土へと替え、人間が踏み入れる事さえできない地獄を焼かれながらも駆け抜けた戦士がその甲冑姿で理想王へと踏み込み、その心臓を死棘の槍で貫いた。

 

 

 

 

 意外とだが《陣地作成》は応用が利く。結局は自分の作りやすい環境を作成する、というスキルなのだから、どのサーヴァントだって大体は真似事ぐらいは出来る。本格的な、魔術的な意味を持たせられるのがキャスター、というだけだ。魔術的な意味を持たない、自分にとって過ごしやすい環境を整えるだけならそこまで難しくはない。そういう訳で、ロンドン以降、自室はそこそこ改造されていたりする。

 

 まず第一に愛歌と共有している為、横にある部屋を壁をぶち抜いて物理的に繋げて二人分のスペースを確保している。その他にもキッチンの追加、風呂場もボックスシャワーだけじゃなくバスタブの追加を行ったり、本格的なリフォームを行っている。個人的な趣味で色々と壁や床を変えたりもしているが、カルデアで唯一許される贅沢だと思っている。何せ、何だかんだで「式」も部屋を畳張りにしていたりするのだから、これぐらいは自由の範疇だ。

 

 まぁ、つまり―――割と自由に部屋は弄れる、という事だ。

 

 常識の範囲で。

 

 なんだかんだで趣味趣向品の類、軽い遊びを挟む程度だったらカルデアにも余裕が出て来ている。一番の理由は、四つの特異点を攻略した事によって幅広い物資をレイシフト先から入手する事が出来る事にあるだろう。鉄類ならロンドン、自然品ならオケアノス、食事ならローマとオルレアン、と入手できる先が増えているのが一番の理由だ。そしてそのおかげで様々な道具をカルデアへと持ち帰れているのだ。おかげで最初は地味だった自室も、ジュークボックスやらポスターやら、軽いダーツセットなどが設置されるようになっている。ベッドだって備え付けのものからもうちょっと大きいものに変えている。

 

 おかげで存分に寝転がれる。何せ、ベッドを使うのは自分だけではなく愛歌と、そして最近ではアースまで追加されることになったのだ。そりゃあ広い方が良いに決まっている。とはいえ、アースに関しては個人用ベッドを持って来いと言いたい所だが、あの女に関してはややアーパー入っているので文句は言えない。というか地球に文句を言える人間が存在しない。

 

「あー、そろそろかなぁ」

 

「そうねぇ」

 

 特にする事もなく、ベッドの上で寝転がってると、ロリ二匹が腹を枕代わりにゴロゴロとしていた。究極に時間の無駄遣いをしている事を自覚するが、偶にはこんな平和もあっていいのではないか? とバレンタインの狂騒を見た後では思っている。体力が有り余っているのは確かに事実だが、それでも何時でも運動や訓練している程勤勉でもない。

 

 溜息を吐きながらベッドの上でゴロゴロと時間を過ごしていると、漸く。管制室からレイシフトの準備完了を告げる通信が入って来る。それに適当に答えてから、大分人間らしく、賑やかになった自分のベッドルームを見て、残すところ、特異点も数が少なくなってきている事を想う。再び溜息を吐きながら起き上り、

 

「―――さて、いっちょ自分の為に人理を修復しますか」

 

 仙術、縮地にて管制室まで跳ぶ。

 

 

 

 

「―――さて、レイシフトの準備が整った訳で何時も通りブリーフィングだ」

 

「皆揃ってるねー」

 

 そう言ってダ・ヴィンチが見回す。管制室にはスタッフの姿の他、立香、フォウ、マシュ、自分、そしてロマニの姿がある―――つまりは特異点探索前、ブリーフィングを行う時のフルメンバーだ。今の所、まだ一人も死者を出さずにここまでやってこれたのは、代わりに死ぬ事が許される英霊達の尽力があってこそなのだろう。ともあれ、ブリーフィングの準備は済んでいた。自分の横には愛歌が、そして影の中にはアースが潜んでいる。

 

「さて、今回のレイシフト先は比較的現代―――北米大陸、アメリカだ。しかも年代は独立戦争が起こっていた1783年だ」

 

「アメリカ……アメリカぁー……」

 

「先輩、もしかして渡米経験があるんですか?」

 

「家族旅行でちょっと、ね。だけど結局は2000年代の話だからね、土地勘とかは全くないよ。えーと、それよりもドクター、先どーぞ」

 

「あぁ、うん。僕も観光とか旅行とかしたいんだけど中々時間がなぁ……ってそう言う事じゃなかったね。さて……今回のレイシフト先、1783年のアメリカと言えば丁度独立戦争の間の話だ。アメリカは元々クリストファー・コロンブスがインドを探る為に見つけ出した大陸であり、先住民たちはネイティブ・インディアンとそういう理由で呼ばれており、イギリス、フランス、スペインと争い合う様に奪い合う植民地として最初は発展するんだ」

 

 有名な話だ。ここら辺は特に詳しくなくても歴史の授業で誰でも聞くだろう。アメリカを見つけたコロンブス、アメリカを蹂躙したスペインのコルテーズ、彼らは基本的なカリキュラムの中にある為、知名度で言えばトップの部類だ。ここでさて、とロマニは言葉を置いた。

 

「だけどね、アメリカという大陸は魔術的には非常に価値が低いんだ。何せ、国としての歴史が非常に薄いんだ。その代わりに発展した祖霊信仰やシャーマニズムなんてものもあるけど、今の所、北米大陸で聖杯戦争が開かれたなんて記録は存在しない。つまり魔術的にはそこまで重要な土地じゃないんだ、ここは―――ただし、歴史の話で言えばまるで違う。人類の近代史におけるアメリカのポジションは非常に重要だ……それじゃ、その理由をマシュに話して貰おうかな?」

 

 急に話を振られたマシュはびくり、とするが立香が肩に手を置き、落ち着いて、と言うとゆっくりと言葉を吐き出し始める。

 

「えーと、そうですね。1783年アメリカ……つまりは独立戦争の話になりますが、これはアメリカが重なるイギリスからの抑圧と重圧に対して初めて国として抵抗する事を選択し、独立の為に立ち上がった戦いです。この戦いを通してアメリカは独立する事に成功します。こうする事でイギリスと縁を切る事に成功し、歴史に何度も名を残す世界最強の大国の柱が完成します」

 

 そう、現代におけるアメリカは世界最強の大国、その軍事、経済は他の国と比べ物にならない。

 

「その後、奴隷問題、解放運動、世界大戦、核兵器、冷戦、そしてエコノミッククライシスと通して、世界に多くの影響を残しました。特に世界大戦に関してはアメリカが参戦していなければ更に泥沼に、そしてアメリカよりも早く他の国が核兵器を完成させて、より酷い事になったと言われています」

 

 マシュの言葉に立香が首を傾げるが、苦笑しながらダ・ヴィンチが言葉を続ける。

 

「あの時核兵器を研究していたのはアメリカだけじゃなかったんだよ。ちなみにだけど、本来の目標は京都とかの都心部だったらしいよ」

 

「こっわ」

 

「まぁ、現状のカルデアにはそれに匹敵する戦略兵器を保有する英霊が何人かいるんだけどね」

 

「改めて思うけど過剰戦力にも程があるよね。これ、人理修復した後が酷く恐ろしいね」

 

「インド核のカルデアブルー!」

 

 ポーズを決めるとシュタ、と横に音がした。

 

「ブリテン核のカルデアブルー!」

 

 ガタン、と音を立てながら黒い騎士の姿が出現した。

 

「Arrrrrrrrr―――!! Black……!」

 

 三回転決めながら赤い聖骸布姿が出現した。

 

「日本核のカルデアレッド!」

 

「我ら、四人そろって!」

 

「国、ぶち殺せますフォー!」

 

「フォーウ!」

 

「これで大丈夫か人類の未来」

 

「大丈夫だと信じたい」

 

 管制室までネタに乗りに来た連中に軽くサムズアップを向けてからハイタッチを決め、手を振りながら管制室から出て行くのを見守る。良いネタだったぜ、と額の汗を拭うような動作を取ってから再び、アメリカ特異点のブリーフィングに戻る。

 

「う、うん……それで話に戻るけど、今回の特異点の規模は()()()()()()になっている」

 

「アメリカ全土、ですか。それは……」

 

 範囲が相当広い。少なくとも聖杯を探す為にアメリカという大地全体を探索する必要があると考えれば、まず間違いなく立香の体力と足では無理があるだろう、と思う。というか無理がある。どれだけ旅慣れた人間であってもアメリカ大陸横断はかなり体力と時間的に厳しいものがある。飛行機を使って州の間を移動するのでさえ時間がそれなりにかかるのだ。端から端まで移動するのを考えると、

 

「ライダーがいるな」

 

「うん。だからボクとしては絶対編成メンバーにブーディカを入れて欲しい。現状、彼女だけがライダーで、そしてこのカルデアで騎乗宝具を呼び出せる存在だ。立香くん以外の全員は英霊補正によって一日中走り続けてもほとんど疲労しないだろうからね、立香くんさえ騎乗できればいい。そうすればアメリカでの探索は更に捗ると思う」

 

「了解ドクター。なんだかんだでウチのカルデアはライダーに中々縁がないからなー。ドレイク船長とか来てくれたら心強いんだけどなぁー……」

 

「こればかりは運ですから」

 

「とりあえず編成メンバーはブーディカを強制として、それ以外は何時も通り君の判断に任せるよ、我らのマスター。今回はアメリカと独立戦争という大舞台、今まではとは全く違う趣を感じさせてくれる。十分に気を付けるんだよ?」

 

「―――はいっ!」

 

 勢いのよい立香の返事に僅かに笑みを零しながら、第五特異点の探索がここに決定された。レイシフトの為にコフィンへと向かう準備を行いながらも、僅かに感じる懐かしい予感と、そしてソロモンが明確に此方を意識し始めたという事態。

 

 これからの特異点は今まで以上に難しいものになるだろう、と理解していた。




 開幕アメリカ炎上。アメリカが何をしたって言うんだ!! 酷い! けど殺す!!

 アバン前にやってた少年vs狂戦士の戦いを流しつつも、とりあえずはお馴染みのブリーフィングから開始。アメリカとは長い付き合いになりそうだなぁ、と思っています(リアルな時間の意味で)。

 という訳で北米地獄開幕。

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