Vengeance For Pain   作:てんぞー

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北米大戦 - 2

「大気に全くエーテルを感じぬ。所詮は近代か。私も衰えたものだ」

 

「開幕セルフディスりとかこの幼女レベルたけぇな」

 

「待って、その子誰」

 

 影の中から上半身だけをにょろり、と出してアースがそう呟き、良い感じのリアクションを立香が見せてくれる。そんな俺らは今、アメリカの大地に立っていた。ロンドンでは魔霧の影響で空気中にすさまじいまでの魔力があった。だがここにはそれがなかった。今は軽い林の中にいるが、アメリカの大地からは現代に近い魔力量しか感じられない―――環境としては比較的に現代に近い形だった。だとすればアースも自虐する意味が見えてくるのだが。ともあれ、とりあえずは首輪と鎖を繋げて、それを引っ張って影の中から引き抜くようにぶら下げてみる。ぷらーん、とぶら下がるロリアースの姿を見せ、

 

「つい最近契約したばかりの新しい使い魔のアースちゃんだ」

 

「うむ、紹介に預かったアースだ。特技は空想具現化を少々嗜む程度だ。我が身と共に戦える栄誉を噛み締めると良い」

 

「ボッシュートでーす」

 

 鎖を手放して影の中に落とすと、そのまま中へと沈んで行く。既に彼女の正体に関して理解を得ている英霊連中はえぇ、と困惑の声と表情を見せており、マシュと立香は事情を知らないからか首を傾げている。まぁ、この二人がいない間に進んだ話だし、そういうリアクションでもしょうがないのだが。ともあれ、使い魔という設定でゴリ押す事にする。これでいいのだ。これ以上の詮索とかいらないから。とりあえず新しいペットの紹介はこれで強引に切り上げる。

 

「えーと、今回追加枠で来たのはクー、ノッブ、後アルトリアか」

 

「固定とブーディカ以外は屋内じゃなくて野戦がメインになりそうだから、広い範囲に攻撃できる対城持ちをメインに選んだよ」

 

 クー・フーリンはゲイ・ボルクの対軍投擲法があるし、アルトリアのロンゴミニアドに関しては対城クラスある。信長の三千世界も大量の火縄銃を浮かべて一斉射撃を行う事で対軍規模で運用する事が出来る。俺は対城規模で梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ)を放てるし、ブーディカは移動手段の確保、マシュは鉄壁として君臨していればいい。

 

 割と理に叶ったパーティーだった。状況と環境を良く見ている。フォウを持ち上げてそれを肩の上に乗せていると、信長が胸を張りながらえっへん、と声を零していた。

 

「まぁ、わしに任せるんじゃな。アレじゃろ? 移動手段がまだ馬の時代ならわしのサンダンウチ=タクティクスで鴨撃ちじゃよ」

 

「何か微妙にニュアンスが違って不安になりますね……!」

 

「心配する必要はねぇよ。腐っても俺らは英霊だ。仕事はきっちり果たすさ」

 

 クー・フーリンの安定した頼もしさは健在。新しい面子は今回の第一編成にはいないが、まだ必要ではない。ともあれ、この面子なら大体どんな状況でも対応できるだろう。そんな事を想っていると、遠方に怒声と銃声が響くのが聞こえた。それは争いの音だった。音からでは判断できない程の人数がぶつかり合いながら殺し合う、そういう類いの音だった。軽口をそこでつぐむと、カルデアからの通信が入って来る。

 

『―――聞こえるかな? よしよし、さて、もう解っていると思うけど君達のいる地点の近くで戦闘が発生している。情報収集の為に接近を頼むよ!』

 

「了解ドクター! という訳で皆、何時も通り頼むよ?」

 

 言葉に覚悟と自覚が乗っているのを感じる―――明確な精神的成長を遂げたらしい。嬉しく思うも、まだまだ未熟だった少年が成長して来ているのを感じ、少しだけ寂しく思う。勝手な感傷だなぁ、と思いながらレイシフト地点の林から歩いて出て行く。その先に広がっていたのはアメリカの荒野の姿だった―――だが、その荒野に広がっている姿は異様だった。

 

「これは……戦争、ですか?」

 

 マシュの言葉を肯定する様に怒号が響いた。目の前に広がる光景は戦場というには相応しい内容だった。ローマの頃よりも遥かに多い人間が、ぶつかり合っていた。一陣営は比較的近代的な服装をしており、肌の色と顔の掘りからアメリカ人であるのが見えた。彼らの手の中には一般的な銃が握られている他、一気に時代を無視したかのようなロボットの姿が見え、両手のガトリングガンから弾丸を連射していた。それに対してぶつかり戦うのは大幅に数で上回る人型だった。此方はアメリカ人ではなく、古い戦装束にヘルムを被り、武器も遥かに古臭く、槍や双剣、弓といった物を手に銃を相手に負けるどころか逆に押してさえいた。数で上回る小柄な人間の群は古めかしい姿ながら、魔力を感じさせる存在であり、

 

「―――あぁ? ケルト兵じゃねぇか」

 

 クー・フーリンの言葉が相手の正体を看破する一言となった。

 

「えっ、ケルト」

 

「あの自分の親族さえも喜んでぶち殺しに行く蛮族文化ですか」

 

「真実だけどへこむから止めろ」

 

 ケルト―――ケルト文化。一言で言えば戦う、飲む、抱く、戦うという無限ループの固まり。他にもまぁ、色々と細かい文化的な部分があるが、基本的にケルト文化は身内の殺し合いが多すぎておぉ、もう、お前ら……という感じにしかならない。知れば知る程業が深い。

 

「前々から思ってたんですけど貴方達ゲッシュとかマジでなんで思いついたんですか」

 

「言うな。……言わんでくれ」

 

「中にはゲッシュを一方的に相手に設定させるとかいうクソみたいなチート持った奴もいたよな」

 

「一方的につけられた上に守らなきゃいけなくて穴を突かれて強制的に破らせられるクソ文化」

 

「そろそろ泣くからやめてくれ」

 

 溜息を吐きながらゲイ・ボルクを支えに立つクー・フーリンは精神的ダメージでボコボコにされていた。とりあえずエミヤに新しく投影して貰った大量の斧から一本取りだし、それを担ぎながら視線をケルト軍団へと向けた。1783年アメリカにケルト―――が、存在する訳はあり得ない。明らかに普通の存在ではない。魔力量、質、そして存在からしても普通ではない。ともなれば、

 

「敵は見えた。目標はケルト軍。アメリカのロボ兵装に関してはたぶんバベッジみたいな英霊がいるのかもしれないからまずはそれを置いて、ケルト軍団の方に攻撃を加える! 明らかな異物を追い出すぞ! という訳で対軍宝具の暴力の時間だ!! ひたすらアウトレンジから対軍宝具で薙ぎ払おう!」

 

「戦うもクソもねぇな」

 

 大規模な敵軍に対して戦闘手段を選ぶ方が間違っている―――何よりも相手はケルト蛮族で、それでいて生きていない、幻想の再現だ。だとすれば遠慮する理由なんて一つとして存在していない。ならばやる事は一つ―――蹂躙、それだけである。立香の言葉にしたがい、林から飛び出た所で対軍宝具と、対軍奥義を準備完了させ、アメリカ軍とケルト群がぶつかっている、所からケルト群後方、アメリカ軍に衝突しないように一気に振り上げた斧を振り下ろす。

 

梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ)

 

無銘星輝槍(ひみつみにあど)

 

 対軍規模の宝具と奥義が一瞬で発動し、放たれた。その直線状にいた存在は破壊力にまるで溶けるかのように次々と飲み込まれて蒸発した。その道の上には血肉が一片たりとも残されていない―――やはり、幻想の存在だった。通り過ぎた場所にはもはや魔力の粒子と焦げた大地しか残されていなかった。半壊した斧を捨て去り、新しいのを抜く合間、アルトリアがロンゴミニアドを手元に引き戻す合間、正面、ケルト軍団のヘイトが一瞬で此方へと向けられたのが見えた。なによりも早く飛び込んできたのは矢の速射だった。素早く狙う様に此方へと飛んでくるのを、

 

「カットします!」

 

 マシュが前に出て矢を受け止めた。その動きは前よりも遥かに良くなっていると断言できるものだった。素早く前へと踏み込むとカバーリングを行い、的確に衝突コースにある矢のみを盾で弾くと、それをピンボールの様に他の矢へと弾き、一動作で複数の攻撃を潰す。今までは要塞の様な動きで固定された硬さを持っていたが、そこに軽やかさが加えられている―――マシュの中に保存されていた英霊の戦闘記録、それがもっと精密に引き出されるようになっている。戦闘技術にマシュが少しずつ適応している形だった。

 

 大盾を振り回し、攻撃を薙ぎ払って無効化したところで、後ろから信長が飛び出した。

 

「これがオダ=ニンジャのサンダンウチ=タクティクスじゃ―――!」

 

「ノッブ、なんか影響の悪いアニメか漫画最近読んだ?」

 

 マシュが攻撃を弾き終わってできた空白に信長が飛び出す様に広げた火縄銃からレーザーを放った。一体どこが火縄銃なのかと言いたくなるが、サーヴァント界では武器からビームを放つのは比較的に普通の事なのだ。その為、相手が突然のビームにビビっていようが、正しいのは此方だ。

 

「はーっはっは! 薙ぎ払えー!」

 

 信長の言葉に従って三千世界が地平を薙ぎ払い、炎の壁をケルトを遮るように生み出した。それが終わる頃には既にアルトリアと自分の準備が完了してる。本来の三段撃ちの様に信長と場所を入れ替え、前へと飛び出す。そして遠慮なく対軍規模で攻撃を一気に放った。連続で放たれる爆撃と連撃が地表を薙ぎ払い、剥がしながら正面の大地からケルトというケルトを一気に死滅しつくして行く。

 

 ―――その中、対軍攻撃の合間を縫う様に一気に接近してくるケルト戦士の姿が見えた。

 

 此方からすればモブでしかないかもしれない―――だがモブといえども、人生があり、そして鍛錬があり、修羅道に落ちてもいる。故にモブは雑魚とイコールではない。無名の英雄が紛れている可能性だってある。対軍攻撃を抜けて生き残っているというだけでさえ、もはや喝采してもいい事柄なのだから。だがその希望を潰す様に、飛び込んでくるケルト戦士を一瞬でクー・フーリンが串刺し、そのまま解体する様に真っ二つにしながら接近したケルト戦士達を一気に鏖殺する。反撃の隙さえ与えず一気に殺す姿は、()()()様子だった。

 

「よう、馬鹿共。良い空気吸ってるじゃねぇか。じゃあちとばかし吸いやすくする為に胸に穴ぁ開けてやるぜ」

 

 宣言通り、機械の様な精密さであっさりとケルト戦士をクー・フーリンが片っ端から始末して行く。その手際が良いのは生前、クー・フーリン自身が相対した事のある人種であり、どういう動きをするのか、どういう背景があるのか、それを経験として知り尽くしている事に理由があるのだろう。故にクー・フーリンのペースは乱れない。どんなに早かろうが硬かろうが強かろうが、既に既知の殺傷内。その程度であればあっさりと虐殺出来る。

 

「よし、悪くない―――」

 

 立香が冷静に状況を観察しながらそう呟いた直後、指示を飛ばした。

 

「マシュ!」

 

ハイ(カバーリング)!」

 

 立香の言葉に従って素早くマシュが正面に割り込んだ。発砲音と金属の弾かれる音が連続で響く。それはガトリング銃による射撃だった。マシュが完全に攻撃を弾いた先で見えるのはアメリカ軍のロボが腕のガトリングを此方へと向けている姿で、

 

「―――未登録のサーヴァント反応検出、レジスタンスと判断。排除へ移行する……!」

 

「嘘だろお前。あ、アメリカ軍側は適度にみねうちで。クーニキよろしく」

 

「仕方がねぇな……おい、ケルト連中は致命傷食らっても笑って突っ込んでくるから気を付けろよ。殺すなら物理的に動けなくするレベルまでか、或いは一発で昇天させろ」

 

「あいよ」

 

「じゃあちょっと出力上げますか」

 

「軽く切り替える! 先生とZはなるべく広く攻撃して、迂回路から攻め込んでくるサーヴァントに対してノッブは狙撃で! マシュはクーニキと連携してアメリカ軍を押し込んで! ブーディカさんは戦車お願い! これ以上ここにとどまってても情報収集無理っぽいし逃げる!!」

 

「的確な判断ねふれー、ふれー、がんばれー、がんばれー」

 

「やはり無様にも足掻こうとする子供らの姿は何時見ても愛しいな」

 

「邪悪な幼女は二人とも静かにしててくれませんかねぇ!」

 

 鎖を手元に召喚し、影から首だけ出してエールを送っていたアースを引っこ抜き、それをそのままケルト軍の領域の中へと投げ込んだ。直後、アルトリアのロンゴミニアドの光とそれが衝突し、一瞬でアースの姿が光の中に溶けた。同時に時間が一瞬だけ停止し、無詠唱からの空想具現化が一瞬で発生した。発生された煉獄の炎がケルト軍陣地内で空へと向かって燃え上がりながら残留し、消えない傷跡を大地に残し、燃え続ける。直接触れずとも近くにいたケルト戦士は水分がどんどん失われて行く様に干からびて行き、最終的に骨と皮になって崩れ落ちた。

 

 直後、影の中に再び気配を感じた。一回死亡して蘇生し、影の中にリスポーンされたらしい。

 

「よし、良い感じに妨害出来たな」

 

 ケルト軍陣地で発生している地獄絵図を見て、サムズアップを向けると、ひきつった笑みを立香たちが浮かべていた。

 

「よ、幼女ボム……!」

 

「これで救世主を名乗ってるから世も末だよねぇ……さ、戦車の準備が出来たよ。離脱しようか!」

 

 ブーディカが戦車の準備を終わらせたらしく、立香が急いで乗り込む。それに従って戦車の進む方向へと向かって逃れる様に跳躍しながら武器を弓へと切り替え、離脱を援護する様に射撃攻撃で弾幕を張る。英霊としての脚力があれば、少し距離が離れても即座にブーディカと立香に追いつける。故にマシュとブーディカ以外の英霊で殿を持つように射撃武器で弾幕を張り、

 

 そのまま、戦場から逃亡する。




 さとみーがデータにない技能を持ちまくってるぞ!! どういう事だ! 答えろ! それは違うよ!! という話があるので、自分用にも作成した非fate型キャラクターシート。つまりロリやガチャにやっていたようなキャラシですな

https://www.evernote.com/shard/s702/sh/86b4354d-75ca-42e1-8696-904d06102248/ec0a16891909f140700f8ff0fe72b2c0

 経験年数がガチャ丸の倍以上あるんで、まぁ、順当に色々とある。これで多すぎぃ! って感じがあるようで大英霊だったらこれよりももう少しだけ大目にデータ盛られてます。

 という訳で今日から毎日アメリカを焼こうぜ。

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