Vengeance For Pain   作:てんぞー

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北米大戦 - 7

「―――えーと……ま、十九世紀の魔術師ならこの程度か……3、2、1……はい、終わり(≪修羅の刃:極東太極図:地脈殺し≫)

 

 牢獄内の特殊空間を維持する為のシステムを地脈ごと一時的に破壊した。局地的にやる事でカルナに気づかれないように達成する。再び魔力供給が復活するが、それを敢えてストップし、サーヴァント、そしてマシュを霊体のまま維持する―――全てはカルナの感知に引っかからない為の措置だ。後は隠密と暗殺で機械化兵を処理しながら静かに城の外へと脱出するだけだ。

 

「ふむ、中々手際が良いな。これは此方の到来を待っていたか」

 

「まぁ、接触はその内来るって解っていたしね……そんじゃ、ジェロニモさんと先生、よろしくオナシャッス。割と真面目にカルナさんにバレると詰むんで俺ら」

 

あいよ、任せな(≪修羅の刃:圏境≫)

 

「話が早いのはいいが……むう、なんか物足りんな(≪宝具:借用:顔のない王≫)

 

「直ぐに姿が消えてしまいましたね……」

 

『毎回思うけど君、本当に救世主のサーヴァント? 本当は破壊神とかじゃないのかって思うよね』

 

 うるせぇ、と心の中で呟きながら牢獄から脱出する。閉ざされていた魔力の流れが回復するのを感じ取るが、それを隠す為に閉ざしたまま、圏境を維持し、通りすがりの機械兵の背後へと滑り込み、そのまま素手を背後から一気に動力源に腕を突き刺し、兵装の全ての機能を停止させる。若干スパークして電流が腕を通して感電してくるが、それは気合いで耐える―――男であればこの程度、誰だって出来る。

 

「電気式、背部に小型発電機を装着している、か」

 

「同時にエネルギータンクにもなっている。一撃で破壊すればそのまま機能停止する」

 

 成程な、と呟きながら完全に姿を消した状態、床ではなく壁と天井を足場にして素早く、音を殺して移動する。人類の未来を取り戻そうとする戦いでこういうダーティーな技術が役立つ時が来るとはなぁ、と思いながらレジスタンスの使者、ジェロニモと共に透明な状態でサクサクと機械兵を処理して行く。熱源センサーの類ではなく、どうやら普通の視界を使って探知しているらしく、透明になるだけで簡単に処理できるのが良かった。

 

「さくさく片づけちゃいましょう? 雑魚の相手は暇だし」

 

「ん? 今誰か―――」

 

 愛歌の発言に気を取られた瞬間に一気に意識を落とした。やっぱ雑魚の相手は楽でいい。今後の特異点はこういうのをばかり相手する様なのであればいいのになぁ、と思いつつ、軽く息を吐いた。軽く膝を曲げながら地下牢獄の床に触れ、風水術を利用した地脈探査で気配を探る。マントラの方が正直な話得意なのだが、マントラを使うと見知った気配にカルナが文字通り音速で駆けつけてくる可能性がある為、おいそれと使用できない。

 

 自重してくれ、大英雄。

 

「―――ふむ、ここからはしばらく兵がいないか。少しは話が出来そうだな……と言っても改まって言う程の事がこの場ではないのだが……」

 

「じゃあ趣味でも……」

 

「お見合いかよ」

 

フォウゥ(大丈夫か)……」

 

 呆れた様な溜息と視線が一斉に立香へと向けられ、震え声でなんだよぉ、と言ってのける。まぁ、良いギャグだったと思っておこう。ともあれ、出口を目指しながらジェロニモという男に関する話を軽く交えた。ジェロニモはこの国の歴史における敗者の側の存在だ。つまり、彼はこの大陸における先住民族、ネイティブ、或いはネイティブ・アメリカンと呼ばれる存在、そのシャーマンである。マシュはそんなジェロニモが何故レジスタンスとして、この特異点の修復の為に動こうとするのかが解らなかった。

 

 まぁ、確かに複雑な話ではある。

 

 結局のところは()()の一言で済まされる。

 

「私は過去をなかった事にしようとは思わない。そもそも願ったところでその事実が消える訳ではない。何よりそれはかつて、命を賭けて戦った同朋達に対する侮辱となる。確かにそれは滅びてしまったのだろう。確かに多くの血が流れてしまったのだろう。だがこの大地を見よ、将来の星を見よ。まだそこに我らの遺産や息吹は残っている。将来へと続く何かを私達は生み出せたのだ。であるなら、それは決して無駄ではなかった……テーブルをひっくり返すような事は私には出来ない」

 

 霊体化されたサーヴァントから吐血する気配を感じた―――あぁ、そういえばアルトリアの最初の願いはやり直しだったなぁ、と思い出し、今のジェロニモの発言はクリティカルで突き刺さるよなぁ、と軽い笑い声を漏らしながら索敵を怠らない。集団よりも少し前に出て、機械兵の速やかで確実な始末を遂行する。

 

「まぁ、それにしても今のアメリカはかなり混沌としているわね」

 

「あぁ、正直何が原因なのやら……」

 

 確認されているのはメイヴを筆頭としてケルト戦力、そしてエジソンを筆頭としてアメリカ戦力、そしてカルナとパラシュラーマが両方この大地に来ているのであれば―――おそらく、アルジュナ、クリシュナ辺りも来ているに違いない。基本的に聖杯がベースによる英霊の召喚とは()()()()()()()となるのだ。召喚されている英霊に対してカウンターとなる縁のある英霊を呼び出す。それが基本的なシステムになっている。そうする事で防衛を行うのだ。

 

 だからカルナの相対者にはアルジュナが、

 

 エジソンがいるなら逸話的にテスラ辺りが出現してもおかしくはない。

 

 まぁ、考え過ぎだという事は、特異点ではありえないだろう。いきなりソロモンがやってきたなんてパターンだって存在したのだから。

 

「これで出口まではクリアか」

 

 機械兵をまた一つ破壊し、完全に機能停止に追い込みながら息を吐いた。ここまで完全に隠密状態を維持しながら移動してきたが―――どうにも、嫌な予感を感じる。とはいえ、気配を断ったまま、振り返る。ジェロニモの方も宝具を部分的に解除しながら頷きを返してきた。

 

「ここを抜ければ外だ。カルナにバレる前に一気に駆け抜ける」

 

「マスター、失礼しますね」

 

「キャー」

 

 マシュが一時的に大盾を背負うと、両手、お姫様抱っこで立香を抱え上げた。まるで乙女の様なリアクションで顔を隠す立香、完全に解っててやっている気がする。それを見ているフォウもどこか呆れた様な溜息を吐き、邪魔にならないようにマシュの肩の上へと一気に飛び上がった。ナイチンゲールもいつでも飛び出せる様に見える―――というか押し込まないと飛び出しそうなので心配する必要はないとして、

 

「では―――脱出する!」

 

 ジェロニモの言葉に従って残り短い地下牢獄を一気に駆けだす。ここまで来ると後は時間の勝負だ。もはや残っている機械兵の姿も少ない。ここになるともはや姿を隠す事もなく、通りすがりに一撃を加えながらノンストップで出口へと向かって一直線に駆け抜けて行く。弾丸の避け方は現代の戦場で学んでいる。それを体現できる肉体が今はある。その為、遠慮する事無くガトリングの射線を外れ、通り過ぎながら横へと蹴りを叩き込み、ガトリングを破壊しながら姿を壁に打ち込みつつ前に進む。

 

 レジスタンスへと合流する為にはもはやこんな場所にはいられない―――となると速やかに脱出するべきなのだ。故に解き放たれるように外へと飛び出した瞬間、

 

 ―――完全に気配を殺し、待ち構えるようにその姿はあった。

 

「残念だがここから先は通行禁止だ。貴様らなら方法はどうあれ、絶対破ると思っていた」

 

梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ)

 

 飛び出した所で待機していたカルナへと向けて迷う事無くブラフマーストラを打ち込んだ。大地が沸騰するような感触を得るが、同時にカルナもおそらくは放っていたのだろう―――相殺され、城付近の大地がひっくり返る様に吹き飛んだ。その隙に割り込む様に立香の声が放たれた。

 

「ノッブ! Z! ごめん!」

 

「足止めじゃな? まぁ、出来るのは相性的にわしらぐらいじゃろうしな」

 

「ですけど……別に倒してしまってもいいんですよね?」

 

『カルデアでエミヤくんが吐血したぞ!!』

 

 即座に信長の対神結界が発動し、アルトリアが二本のロンゴミニアドを抜いた。倒す事ではなく足止めという目的で戦闘をする事を選択すれば、時間としてはそれなりに持つはずだ。だからそこに戦力を送り込む意味でも鎖を引っ張り上げる。

 

「宵には程遠いが宴だ―――参って来い!」

 

「荒々しいな……だが良かろう、今の私はただの使い魔なのだからな!」

 

「むっ」

 

 現世を満喫している星の化身を戦力に追加する。戦車を取り出して迷う事無く逃亡を開始しようとするブーディカの姿を狙ってカルナが動き出そうとした瞬間、鎧の隙間を拭おうとする火縄銃の精密狙撃が入り、回避するカルナの動きに追従したアルトリアの二槍流による崩しの動きが入り、更に追撃する様にらいめいが連打される。回避不能、雷速の連打は妨害を受けるカルナの体に直撃するが、一切のダメージを発生させない。何もないかのように戦闘を続行するカルナの動きを信長、アルトリア、アースの三人で出鼻を完全に挫く様に潰し、行動を封じ込める。戦いではなく遅延戦闘、その目的は逃亡のみにある。

 

「お、このロリ連打できるっぽいの」

 

「貴様もどちらかというとロリではないか」

 

「いやぁ、貧乳体型の争いは醜いですねぇ。おぉっと、今私の方を二人そろって狙いませんでしたか?」

 

 馬鹿やってる余裕があるならいけるな、と判断する。とはいえ、戦車に立香とマシュが飛び乗ったところで、自分も飛び乗った。割と戦車には余裕がある為遠ざかる此方の姿へと追撃が行えないように、ブーディカが御者台で必死に手綱を握っている間に弓を抜いて雷崩を連射する。神話の再現とも思える雷鳴の乱射に空気そのものが蒸発しながら震動を伝えてくるが、カルナの膨大な気配は翳る事さえなく、無敵に健在だった。バグかよ、と息の下で呟きながらも立香の信長とアルトリアを殿に、囮において逃亡するという判断は正しかった。

 

「実際バグだよ、カルナは。神々が黄金の鎧を奪い、師に呪われて奥義を忘れ、御者に裏切られて、戦車が破壊され、それで身動き一つ取れない状況に追い込まれて無抵抗な状態で殺されている―――そうでもしなければカルナは殺せなかったと言われている」

 

「お、バグかな」

 

「流石英雄―――危ないっ!」

 

 攻撃の合間を縫って石の投擲がカルナから蹴り飛ばされてきた。それが砲弾の様な速度と衝撃でマシュによって迎撃された。完全に砲台として君臨したアースと信長、前衛として活躍しているアルトリアを加えた三人編成と戦いながらそこまでの武芸を―――いや、流石におかしい。()()()()()

 

 何かしら理由がある、筈だ。

 

 ……(グル)とカルナが揃ってアルジュナまで揃っているなら―――?

 

 マハーバーラタの再現が来るかもしれない。そう考えながら弓による迎撃連射を上昇させながら素早く、戦場から離脱する。合衆国拠点から離れる。

 

 信長とアルトリアという犠牲を作って。

 

 英霊が使役する戦車を使っているという事もあり、並の自動車を超える速度で城とカルナの姿が遠ざかって行く。それでも此方へと向かって接近しようとする凄まじい気迫を感じる―――相当距離が空かない限りは一瞬たりとも油断が出来ない。流石に人数が過密という事で途中から戦車から飛び降りて、横を並走するが、それでも人数は多く、霊体化していない面子でジェロニモ、マシュ、ナイチンゲール、ブーディカ、自分、そしてマスターの立香、と結構な人数になっている。ブーディカの戦車は本来、移動用のそれではなく、この人数で大規模な移動を行おうとすると、どうしても辛くなってくる。

 

 最低限、立香さえ乗っていればいいのだが、長距離移動の時はそうも言っていられない。

 

 そこで移動手段を確保する必要がある……その時の事に軽く頭を悩ませる。

 

 そのまま、半日ほど戦車に乗ったままノンストップで移動し続ける。その果てでアルトリアと信長の撃破が確認され、アースも一回死に、カルナが勝利したという事を理解した。そうやってレジスタンスに合流するべく、

 

 ただ、ひたすら道を駆けた。




 反則生物カルナさんから逃亡する。ただ単純に感知した訳でもなく、まぁ、お前らなら脱出するだろう。それぐらいはするだろうと評価し、信じての行動。助けてグル。

 という訳でレジスタンスへ。ノッブ、アルトリアは脱落とアースデスカウント+1で。

 へへへ、あと少しで噂のメスボディとご対面だ……!

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