正面、視界の中でマシュが白骨達―――スケルトンを相手にしている。そこにキャスター・クー・フーリンは参加しておらず、立香とマシュのみがスケルトン達を追い払うように戦っていた。その後ろでは不安そうな表情を浮かべながらオルガマリーが眺めている。キャスターがオルガマリーに厄寄せのルーンを刻んだ為、その効果が切れるまではひっきりなしにスケルトン達が襲い掛かり続けるという状況になっておりひたすらマシュは防御一辺倒になりながらスケルトン達をカウンターで砕いていた。その戦い方は見事だとも言えた。
最初は自分から踏み込んで戦う形だったマシュだが、スケルトンと戦っている内にその動きが最適化して行くのが見て分かる。自分から踏み込むのではなく、踏み込ませてから押し出し、潰す。それが正しい戦い方であると疲れが蓄積していく中で肉体が思い出すように動きが良くなって行く―――いや、マシュに残されたサーヴァントの霊基が彼女に正しい戦い方を防戦を通して教えているのだろう。もうマシュの中に英霊本人は宿ってはいないらしいが、それでも宝具、スキル、技術、経験、憑依されたそれは未熟なマシュに合わせて少しずつ解放されて行き、彼女に馴染もうとしているのが解る。
―――少し、羨ましさを感じる。
彼女は自分と比べると
そんな光景を巻き込まれないように少しだけ離れた位置から座り込み、座禅を組みながら眺めていた。体を休め、軽く瞑想をすることで魔力と体力の回復を同時に行っていた。正直な話、まともな道具は無い為、焼け石に水ともいえる状況だったが傷をふさげるのであれば、文句はなかった。ともあれ、この先でアーチャーとセイバー、三騎士クラスの相手と連続で戦う必要がある以上、なるべく準備しておきたいのが本音である。
「素人っつーわりには中々やるな、坊主も嬢ちゃんも。だけどまだ押し込みが足りねぇか。戦い方を自覚した程度じゃ宝具がひっぱりだせないって事はもうちょい追い込んでみっか……」
キャスターが横から二人の戦いを眺めながらそう評していた。宝具とは英霊の象徴―――つまりは英霊の体の一部らしい。キャスターの話では英霊になれば宝具の使い方なんてわかって当然らしい。それができないのは自覚が足りてない、それだけとの事。英霊ではない自分にはその感覚は解らないものだった。少なくとも、モドキである自分に宝具が存在しないのだから。
キャスターが直接マシュと戦い、力を引き出すつもりらしい。それに介入する気はない。座ったまま、宝具を引き出そうとする二人……いや、立香を含めて三人の戦いを眺める。ルーンから解放されたオルガマリーは逃げるように離れる。オルガマリー自身、かなり戦闘能力の高い優秀な魔術師で、スケルトン程度であれば片手で粉砕できるほどの実力がある筈なのだが―――やはり、メンタルの問題なのだろう。
『羨ましいの?』
キャスターが全力ではないが、本気でマシュに攻撃をしている。流石神代の英雄というべきか、ギリギリマシュが負けない、折れないレベルで火球を生み出して連射している。その表情は多少演技が入っているも、余裕綽々といった様子だった。考えてみれば彼は今、マスターである立香と疑似契約を結んでおり、それを通してカルデアの電力による十全な契約環境にある―――ほぼ、フルスペックでキャスターの霊基を起動させられているのだろう。
「……そうだな、少しは羨ましいかもしれない」
それはある意味本音だった。同じ枠の仲間だったはずのマシュが正式なデミサーヴァントとして完成され、そして今、宝具を展開するであろう道を進んでいる。その姿を見て嫉妬を覚えない程、何もないという訳ではない。なにせ、サーヴァントという唯一の立場でさえ今、自分は失ったのだから。果たして自分はいったい何なのだろうか、何のためにあるのだろうか―――と考えるのはあまりにも捨てすぎだろう。そもそも、自分を捨てるという考えに本気になれない。
……まぁ、戯言だ。
『そうね、戯言ね。だって貴方には貴方の良さがあるって私には良く解っているもの』
それこそ戯言だろう、と思いつつも誰かに存在を肯定してもらえるというのはたとえ幻覚であろうとも心地の良いものだった。俺も、初めての状況で疲れているのかもしれない。そう思った直後、マシュが大盾を構え、そして叫んでいた。風に乗せて咆哮する様な声を響かせ、キャスターが放った大火炎を、生み出した半透明のシールドで受け止め、完全に無力化させた。それはまさしく、宝具と呼ぶのに相応しい防御力を兼ね備えた力だった。
『戦う為の力ではなく、守る為の人間なのね、彼女……憐れなほど優しいわね』
戦っても戦っても宝具が使えない訳だ―――彼女は誰かを……いや、立香を守ろうとして初めてその力を発揮できるような、そんな気がする。妖精の言う通り、本当に優しい娘だった。あんな大盾を握る事無く、学友とショッピングしたり、ゲームしたり、遊んでいるべき年齢なのだろう……あの二人は。
『あら、やる気ね』
―――不思議と、なぜか、あの二人は守りたい、という気持ちは湧いてくるのは何故だろうか。
『その優しさを欠片でもいいから私に向けてくれたらなー』
「これで準備は完了ね……これで、大聖杯の調査に挑むだけの準備は整ったわね。アヴェンジャー、貴方の傷のほうはどうかしら?」
マシュを褒めている立香を置いて、オルガマリーとキャスターがこちらへと視線を向けたため、組んでいた座禅を解除し、立ち上がる。ポケットの中から栄養剤と魔力補給薬を口の中に放り込んで咀嚼しつつ、軽く体のチェックを行い―――九割まで回復しているのを確認する。腕輪に変形してあるシェイプシフターをハンドガンへと変形させ、軽いガンプレイで回転させてから腕輪に戻す。
「ほぼ回復した―――足を引くことはないだろう」
「そう、ならいいわ。これより大空洞の調査を行います。これより先、アーチャーとセイバーとの対決が控えている他、拠点防衛の為にさらに多くの敵と戦う可能性が高いです。注意しつつ任務を果たしなさい」
「任務拝承」
オルガマリーの言葉に応える。キャスターへと視線を向け、軽く頷きを送る。あちらもこちらの視線を受けて頷きを返し、自然と隊列の最後尾へと移る。それに合わせ此方は前へと移動し、先頭を取る。確かマシュの訓練期間の長さを考えるとレンジャーやスカウト技能を持っているとは思わないほうがいいだろう。後方警戒はキャスターに任せるとして、こちらは索敵と先導がいいだろう。
『人類の集めた英知様様ね。ただしマリスビリーはその恩恵にあずかれない』
カルデア一死体蹴りされる男、マリスビリーである。
冬木東側からさらに北上して行くと段々とだが森が見え、濃くなってくる。まともな道がないように見えるも、確認すれば整備されていない道を見つける事ができる。一見は何もないように見えるが、ある程度進んでみれば解る、というタイプの隠し方だ。ただ既にキャスターがその存在を知っていた為、まるで問題なく道を発見する事ができた。何よりも湧き出てくる大量のスケルトンが道を見せているようなものだった。
だがスケルトン自体は弱い。
そもそもこの中で一番弱いマシュの大盾の一撃で砕くことができるレベルで弱いスケルトンなのだから、多少物量が増えたところで苦労する様な事はなく、宝具を発動させるような事もないゆえに順調に、体力と魔力を温存しながら大空洞と呼ばれる場所へと進んで行く。
「ここが入口だ」
そういいながら杖でスケルトンをキャスターが殴り殺した。
「キャスターとは一体……」
「あ? 俺は元々槍兵のほうが強いからいいんだよ! つかなんだよキャスターって。ランサーで呼べよ、ランサーで。いや、確かにルーン魔術は得意だけどよ。クー・フーリンに槍を渡さないってなんだお前、勝つ気あるのか? って話よ。いや、まぁ、結局こうやってラストまで残れたんだけどな。それはそれとしておい、この先にはアーチャーのヤロウがいるから気を付けろよ」
そのまま笑顔で隠れられる場所も奇襲出来る場所もない、と断言する。
「―――つまり中に入っちまえば逃げられねぇし、正面からぶつかるだけだ。準備はいいか?」
キャスターの言葉に立香がサムズアップを向けた。
「こっちは何時でも行けるよ」
「んじゃ、問題なさそうだな……ちぃとばかし入り組んでるからここからは俺が先導する。後方警戒頼んだぜ」
キャスターのその言葉に頷き、後方へと移動し、警戒の役割を交代する。大空洞へと続く洞窟の中からは今まで以上に濃い魔力を感じる。カルデアとの通信が乱れ、ロマニへと中々繋がらないのもそれが原因なのだろう。シェイプシフターを待機状態にしつつ警戒を維持し、キャスターに先導されながら大空洞へと向かって歩み進む。
「ねぇ、キャスター……質問いいかしら?」
「あん? なんだよ」
「これから相対するアーチャーとセイバーだけど真名は既に把握しているのかしら?」
奥へと向かって歩み進めながら、そんな質問をオルガマリーがキャスターへと投げていた。真名、それはサーヴァントのクラスではなく本当の名。キャスターであればクー・フーリンとそれぞれに存在する本当の名前である。これが判明するとマスターの権限で相手の大まかなステータスや宝具を確認する事ができる他、逸話からの弱体化や死の再現まで行えるため、戦術的に非常に有利になる。
「アーチャーの野郎に関しては知らねぇが、セイバーだったら誰であろうが一瞬で気づくぜ。つか気づけないような英霊はおそらくいないだろうな。あの聖剣の輝きを見た英霊であるならば……っと、おいでなすったか」
キャスターが言葉を切り上げるのと同時にからから、と音を立てながら骨の姿が出現した。しかし今度は白骨のスケルトンではなく、もっと灰色で頑強そうな、頭のない不思議な骨の敵だった―――知識を探せばデータベースからその名称が発見できる。シェイプシフターをライフルへと変形させ、後衛から援護出来るようにしつつ、名を呟く。
「竜牙兵か」
「だな。さっさと片付けさせて貰おうか」
「マシュ前に!」
「ハイ!」
キャスターが後ろへとステップで下がるのに入れ替わるようにマシュが前に出る。それに合わせて竜牙兵が歪な剣を振り上げて攻め込んでくる。それに構えるようにマシュは大盾を構え、突き刺すように固定して剣を受けて止めた。そこで竜牙兵の動きを反動で固定し、後ろへと押し返すようにバッシュを綺麗に叩き込んだ。その衝撃に竜牙兵がぐらついた瞬間、キャスターが生み出した火球が竜牙兵の上半身を燃やして消し飛ばした。それに続くように此方も射撃する。踏み込んで来ようとした竜牙兵の膝を打ち抜き、その動きを止めて、マシュに構え直す時間を作る。
そうすればあとはマシュで受け止め、キャスターで燃やし、そして俺で牽制するというループが完成する。
それが成立すれば知性のない敵など相手にならない。あっさりと出現した竜牙兵が崩れて行く。徐々にだが強くなって行く手ごたえを感じているのか、マシュは軽く拳を作り、立香へと向き直り、
「先輩やりました―――」
言葉を作った瞬間、不吉を感じ取った。ほぼ反射的にライフルを射撃するのと同時に、闇を切り裂いて素早く何かが飛来した。マシュの頭を貫くように放たれた何かとライフル弾が衝突し、弾いた。やがて、弾かれたそれは矢であったのが地に落ちた時に見えた。マシュがその瞬間、自分が狙われたということに気づき、素早く構えながらこちらへと申し訳なさそうな表情を浮かべた。やはり、どこか甘さを感じるのは経験年数が少ないからだろうか。ただ、
キャスターはその矢を見て、ニヒルな笑みを浮かべた。
「そら……聖剣の信奉者が来たぞ」
その言葉と共に姿を現す者が見えた。
全身が黒に染まった、洋弓を構えたおそらくは褐色の男だった。もうすでに片手には矢を握っており、何時でも攻撃に移れるというのを証明するようだった。まず間違いなく、彼こそがアーチャーなのだろう。此方を見渡したアーチャーが此方の戦力を測るように、こちらもアーチャーの戦力を測る様に観察する。
―――ライダーよりもはっきりとした
魔力も直接供給されているのか、溢れるほどに満ちるように感じる。これは―――少し、危ないのかもしれない。
という訳でfateの顔の人が漸く登場。割と説明部分とかゲームやれよ、って感じがあるから飛ばしてるし、シナリオそのまま使うならゲームやれよ!! って感じもあるからちょくちょく内容変えてきてる部分もある。それはそれとして、終章に向けて我が家のエドモンの転輪での100への挑戦を開始しました。
QPがぁ……QPがぁ!