Vengeance For Pain   作:てんぞー

123 / 133
最愛を求めて - 8

「さて、こうやってお前に稽古をつけてやるのも久しぶりな話だな、懐かしさに涙を流しそうだよ」

 

(グル)、俺、出発まで休みたいです」

 

「駄目だ。そもそも精神洗浄で精神的な疲労を落として、肉体的なのも癒せるクセして何を我儘な事を言ってるんだお前。僕はお前の師だぞ? やると言ったらやるんだ。はい、返事」

 

「うっす」

 

「気が抜けてるなこいつ―――まぁいい、話を聞きなさい」

 

 パラシュラーマの口調が変わる。それに反応して自動的に背筋を伸ばす。これから真面目に稽古をつけてくれるつもりだというのがそれだけで伝わった―――なんというか、本当に普通にいい人だった。それは間違いがないのだ―――クシャトリヤ・アレルギーさえなければ。レジスタンス拠点の外、無人の荒野、久方ぶりに師匠と二人で向き合っていた。ちょくちょく興味のある視線が此方へと向けられている。やはり、神代の武芸者、英雄の教導者となると興味も出てくるのだろう。それを無視する様にパラシュラーマは話を始めた。

 

「まず第一に―――お前はまだ弱い、と。今の面子では比較的に活躍できてるから、って調子に乗ってないか? まぁ、気持ちは解らなくもない。だが忘れるな、お前が相手をしているのは()()()()()()という存在である事を。それこそ大英雄であれば冠位指定でもなければ基本的に弱体化している。その事に関してはおそらく今回、君が様々な英雄と会う事によって実感しているだろう」

 

 パラシュラーマの言葉に静かに頷いた。事実、大英雄の類はスペックが高すぎたり、解釈が多すぎる結果クラス訳にする事で()()()()()を行っているのだ。そうする事によって英霊をサーヴァントというレベルで弱体化させ、召喚可能にしている。だが勿論、そうやって分割する事が出来ずにいたり、或いは()()()()()()()()()()()()()()ものだったり、分割したところで弱体化できていない……そんな多大な力を持った反則級のサーヴァントなんてものも存在する。

 

 それがギルガメッシュだったり、ソロモンだったりする。

 

「生前の彼ら、制限のない状態と比べれば今の君は赤子の様だ。多少反則技をすれば勝てるかもしれない。だけど毎回反則技に頼るつもりか? それは違うだろう、制限があるからこそ反則なんだからね―――つまり、そう言う部分を除いた素の状態ではお前はまだまだ稚魚と言える領域にあるんだよ。現代英雄の卵だよ」

 

「プライドがズタズタっすわ」

 

 まぁ、待て、とパラシュラーマが言う。

 

「その為に僕がいる。そう、弟子の恥は(グル)の恥。お前が実力不足で失敗したらそれは育て上げた僕の責任に直結する。無論、僕だって教育者としてはかなり自信を持っている。なにせ、お前とは違ってカルナやドローナの様な優秀な弟子を持っているからね。というかお前、才能が足りてない。弓は捨てろ。射れば当たるという領域にないなら使うな」

 

「うっす」

 

「あと武器を一つに絞るとか、一つを極めるとかそういう事を考えるのは止めなさい。お前に()()()()()()()()()()()()()()()()からね。君は突き抜けた超一流じゃなくて様々な武器を一流に極めて使うタイプの戦士……いや、誇りの類が薄い分、性質的には兵士と言った方が近いかもしれないな。お前にとっては技術も戦術も武器の一つでしかない……と言う必要はないね? 今ならお前がお前自身を理解できているだろうし」

 

 コクリ、と頷く。まあ、薄々と解ってはいた。とはいえ、現状、一番手に馴染む武器は斧で、それ以外の武器となると中々手に出しづらいという状況だった。エミヤの様に即座に武器を作り出せるならともかく、自分のは空間魔術でストックしているのを引き出しているだけだ。そこら辺を含めて武器と戦い方には問題がある事は自覚している。

 

「ま、これに関してはある程度解決策があるから後回しだ。それよりもお前に稽古をつけてやろうとしている理由、解っているね?」

 

「はい……技術と肉体の連動に対する齟齬ですね」

 

 自覚はある。肉体的なスペックが今までの物と比べたら()()()()のだ。普通の人間だったころよりも、そしてアヴェンジャーだった頃よりも肉体の性能が良すぎる。人間、何年も慣れ親しんだ体から別のに乗り換えて簡単に慣れる訳がないのだ。少なくともまるで別物の様な肉体でバランスを崩さない上に普通に戦闘を行えるのは、根本的な基礎能力を長年鍛え、維持してきた事にある他、全体的な肉体の動かし方に関する知識を自分が持っていた、という物もある。

 

「そう、経験だ。結局の所、世の中戦闘で何が一番重要と言えば基礎と経験、この二つのバランスになる。極限まで強くなれば最終的には奥義はブラフや見せ札の一つでしかなくなる。戦闘の主体は自分の距離を保ちながらどうやって相手を素のまま圧倒するか、という領域に収まる。奥義や大規模な破壊技はあるとだけ解らせればそれだけで相手が警戒し、それに対処する様に動いてくるから意味がある―――まぁ、そのまま殺せるってなら撃ってもいいんだがね」

 

 さて、とパラシュラーマが呟く。

 

「本当ならここら辺でじっくりと昔、教えられなかった事を教えたい所だ。あの頃はお前がただの人だった事もあって色々と教えずに送り出してしまったからね。まぁ、僕はカルデアには行けないしちょくちょく夢の方にお邪魔させてもらう事にするけどさ」

 

「すいません、既にゴータマくんも遊びに来てるんで」

 

「ん? 同窓会が出来るじゃないか」

 

「ソッスネ」

 

 言うだけ無駄だという事はなんとなくだが察していただけに、諦めは早かった。

 

「―――という訳でだ」

 

 パラシュラーマはそう言うと足で軽く大地を踏んだ。それに反応する様に虚空から武器が落ちて来た。それは様々な形状をしていた。ハンドガン、アックス、サーベル、カティ、ランス、グレイブ、ハルバード、カタナ、ソード、クレイモア、ウィップ、シールド、メイス、ハンマー―――姿かたちにおいて被る様な武器は何一つ存在せず、古今東西、古き時代の名剣や名刀、神造兵器が混ざるような事があれば、現代社会の象徴とも言える武器であるハンドガン、グレネード、マシンガン、ショットガン、ジャベリンなんてものまで用意されている。確かにレイシフトではなく生身で特異点に突入しているパラシュラーマであれば現代の品を容赦なく持ち込めるだろうが、流石にこれはやりすぎと言える状態だった。

 

 そんな事を考えていると、パラシュラーマが三日月を―――鏖殺の嵐斧(パラシュ・ルドラヴァス)を担いだ。

 

「まぁ、見ての通り長々と時間がある訳じゃないからね。鍛錬や稽古ってのは一か月二か月程度やったところで成果が出るもんじゃないし、根気よく数年間継続して初めて成果の出るもんだ。お前の技巧は申し分ない。だけど()()()()()()()が圧倒的に足りていない。実戦の前に修練として体を動かす基礎の部分がやや不足している。時間があればじっくりやるんだけどなぁ―――まぁ、この際しょうがない。限られた時間に色々と詰め込むのも(グル)としての腕の見せ処だ」

 

 再び、という訳で、だ、と言葉を置いた。

 

「―――今からお前を()()()()()()()()()()()()()()()()()()。反撃するな。受けて耐えるか受けて流せ。ひたすら感覚と技術の齟齬を感じながらそれを修正し続けろ。なぁに、覚者ってのは理解力があるんだ、ざっと1000種類ぐらい用意してきたけど今日一日もあればきっと終わるさ」

 

 喜べ、とパラシュラーマは神造兵器を担ぎながら言った。

 

「数多くの戦士が求めながらも受ける事の出来なかった修練の数々をお前に施してやると言っているんだ。時間が空いたら卒業祝いに記録には一切残っていない僕の秘術の一つや二つ、分けてやってもいい、望外の幸福を噛み締めろ」

 

「わぁい、嬉しいなぁー……嬉しいなぁー……はぁ」

 

 覚悟、決めますか、と小さく呟く。パラシュラーマの稽古は完全に善意であり、この先、メンヘラケルト女にストーキングされる事が確定している以上、絶対にどこかで自分を強化しなくてはならないのだ。それにこれを通して秘術を一つや二つ、教えて貰えるのなら安いもんだ。

 

(グル)ゥゥゥ!! かかってこいやぁぁぁ―――!!」

 

「お、じゃあやるぞ」

 

 

 

 

「―――わぁ、飛んでる」

 

 物見櫓から栄二とパラシュラーマの姿を眺めていると、斧での良い一撃が入った姿が一瞬で空を舞った。普段はコミカルながら頼りがいのある姿を見せている分、こういう風に滅茶苦茶困っている姿を見るのはなんだかんだで新鮮だった。流石の覚者も師匠の前では形無し、という事だろうか。それはそれとして、ガンガン大地が抉れる勢いで攻撃を楽しそうにパラシュラーマが繰り出している。

 

「あれ、完全に楽しさで加減忘れてないかな……」

 

「まぁ、お師匠様からすれば数十年ぶりの知人とのスキンシップよ、それなりに楽しみにしていたのでしょうね」

 

 突然横から湧いた声にびくり、とすると物見櫓から落ちそうになる。悲鳴が零れる前に一瞬で触手な様なものが伸びて腕を掴み、それが物見櫓まで姿を戻した―――良く見ればそれは泥だった。解放されたところで手首を確認するが、そこに汚れらしい汚れは一切なかった。なんとも、不思議な泥だった。そしてそれを操った張本人―――聖杯を握る少女の姿が同じ、櫓の上にいた。

 

「い、いきなり出てくるからビビったぁ……」

 

「ごめんなさいね? 私もほら、様子は見たいけど近づくと巻き込まれそうだしね? ここが丁度良かったのよ」

 

 そう言うと愛歌は横で栄二の姿を眺める。その姿はどことなく楽しそうに見えた。そんなこちらの視線に愛歌は気づいたのか、にやり、と笑みを浮かべた。

 

「あら、もしかして私に見惚れてしまったかしら? でもごめんなさい、私、売約済みなの」

 

「いや、ロリコンじゃないから」

 

「私、こう見えて貴方よりも年上よ」

 

「えっ!? ……えっ!? ほぁっ!?」

 

 どこからどう見ても自分より姿が小さく、年下にしか見えない愛歌で、そして振る舞いもそういう感じになっている。そういえば栄二も時折自分の年齢を、アラフィフだという事もネタにしているが、見た目は全くそう見えない為、二人揃って年齢詐称カップルという所なのだろうか? 困惑している此方の姿をみて、愛歌がくすり、と笑う。

 

「まぁ、私に対する態度は今までと特に変わりもなくていいわよ。私、今、結構幸せだしね。やっている事は大きいけど、それでもこんな時間を過ごせるとは思いもしなかったからね……私も、彼も。ま、今は関係のない話ね。過ぎ去ってしまった事は全能でもなければどうにもならないしね」

 

「あの、その発言魔術王的な意味でシャレになってないんですけど」

 

 そもそもこのレイシフトの旅だって終わってしまった結末を覆す為の旅だ。やっている事はロマニ曰く、裏ワザに近いらしい。

 

 ……と、そこまで考えた所で、あまりよくこの愛歌という人物と、栄二という人物を知らないな、と思った。普段から世話になるクセに妙に昔の事を知らないというか―――カルデアで調べても出てこない。知っているのは。マテリアルに記載されている程度の情報だった。

 

 それを聞こうかどうか悩む―――。

 

「……うーん、先生、結構楽しそうだなぁ」

 

「あの人、根っこの部分では結構寂しがりやなのよ。めんどくさいめんどくさいって言いながら基本的には誰か一緒にいないと嫌がるタイプの人。こう、ツンデレ、というよりは猫っぽい? そういうタイプの人よ。貴方も暇があったらもっと面倒に付き合せちゃいなさい、文句言いながらも楽しんでるに違いないわ」

 

「じゃあ今度部屋にお邪魔しようかなあ」

 

 きっと、踏み込んで良い時が来たら勝手に喋ってくれるだろう、と思いながら訓練の風景を見た。ミニガンをぶら下げてそれを乱射するパラシュラーマから全力で逃亡する栄二を見ながら、確かに雰囲気的には結構楽しそうな気がすると思う。それはそれとして、あれだけの現代兵器は一体どこで入手したのだろうか。

 

 考えるのが恐ろしい。

 

「あ、飛んだ」

 

「飛んだわね」

 

 ガトリングを捨てて放たれた矢がまるで砲弾を叩き込んだような轟音を生み出しながら再び覚者の姿を吹き飛ばしていた。しばらくは見ていて退屈しないだろうなぁ、とその光景を眺めていた。




 いっしょにとれーにんぐっ!

 一か月二か月程度の修行で強くなれるなら英雄なんていらないんだよというどうしようもない現実。土壇場の覚醒が入ったところで人間、倍強くなるなんて夢は見ないほうが良い。強さとは日常の延長にあるのだ。って事を何か毎回しつこく書いている気がする。

 次回!! アルカトラズへ特攻英雄サーヴァントチーム!! ラーマ怒りのランボー!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。