Vengeance For Pain   作:てんぞー

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地上の星 - 2

 ―――蒼い衣を脱いで軽く振るえばそれは一枚の長い布に変化する。

 

 一本の布と変化した衣を左腕へと寄せればバンテージの様にそれが左腕に巻き付き、腕を伝って肩へと巻き付き、そしてマフラーとなって首に纏わり、後ろへと延びる。衣の下にあったノースリーブのボディスーツはそのまま、髪を首の裏でもう一度だけしっかりと、邪魔にならない様に結びなおす。これで軽いお色直しは完了だ。愛歌へと向ければ彼女も少しだけ服装を肌蹴ている―――どこかの世界で、大淫婦と呼ばれるような、そういう着崩し方だった。ちょっとだけ、今までの衣装を変えた姿だ。それだけだ。それ以上の意味はない。元々再臨での衣装変更は霊基に対する姿の最適化、という意味がある。

 

 自分の様に英霊ですらない場合は、

 

「ただの気合の入れ直しである」

 

「意味あるの?」

 

「特にない」

 

「すげぇよ先生は……普通は断言できねーもん……」

 

 それな。と、全く関係のない、くだらない話で盛り上がる。とはいえ、貴重な素材を使って態々必要もない、俺に貢いだりしたのだ。その期待には応えようとは思う。まぁ、応えられないのならそのままこの特異点に食われて死ぬ、と言うだけの話だ。

 

 そうやって与えられた部屋で準備を終わらせると、大統王城の会議室での作戦の最終確認を行う為に、この特異点に存在する合衆国同盟側の全サーヴァント、そして現在動かす事の出来る一番強力なカルデア側のサーヴァントを連れ出してきた。そう言う事もあって、会議室は大分騒がしい様子になっている。会議室、自然とインド側の面子に混じりながら混ざる。

 

 獅子の頭をしたサーヴァント、エジソンがややパラシュラーマ師にビビりながらも、良い笑顔と声で挨拶を向けて来た。

 

「うむ! 良くぞ集まった! そして本当に良く集まってくれた! 私もこうやってアメリカを救おうとしてくれる者が揃ってくれる事に喜びを覚える―――うむ、実にどの口が、と言うべき話ではあるがな! それでは本日の決戦、その流れに関する最終確認を行おうと思う。Mr.エルメロイ、よろしくお願いする」

 

「全く、毎度こういう仕事は私に回って来るな……」

 

 文句を言いながら会議室中央に広がるアメリカの地図をエルメロイ2世が指で示した。

 

「いいか? 現在のアメリカの状況は完全に二分している。西のアメリカ合衆国側、そして東のケルト側だ。このうち、ケルト側の拠点はワシントンDCにあるとされている―――つまり、私達の大目標はワシントンDCへの到達、そこに控える女王メイヴとクー・フーリン・オルタと思わしき存在の討伐となる……これはいいな?」

 

 何時も通りエルメロイ2世が確認してから話を進める。

 

「では話を続ける。問題はケルト側の物量が無限に等しく、メイヴは未来視の権能を保有しているという事だ。つまり彼女には奇襲が通じず、そして大量の兵量で押し潰す作戦を通す事が出来る―――これに対して、私達が取れる手段は少ない。と言うよりも、一つしかない」

 

 エルメロイ2世はそう言うとアメリカ地図の上にあった駒を動かす。地図の裏に密集するケルト兵の駒に向かって数の少ないアメリカ兵側の駒を中央突破する様に真っ直ぐワシントンDCへと叩き込んだ。

 

「―――一点突破だ。最短のルートで中央突破し、連中に食らいつく。メイヴの未来視の範囲が良く解らない以上、下手に策を弄するとそれを逆に利用されかねない可能性が出てくる。こうなってくると迷わず正面突破して潰すのが一番合理的な手段になって来る……というよりそれしかないだろう。この場合、問題は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事だろうな」

 

 エルメロイ2世のその言葉に、パラシュラーマが言葉を挟んだ。

 

「まぁ、そこは僕らに任せるといいさ。無限と言っても最初から億とかいる訳じゃないんだろう? だったら僕らで消耗しない程度にブラフマーストラを打ち込んでやって消し飛ばしてやればいいだろう? 千でも万でも雑兵を出して来いよ。その程度で僕たちが消耗するなんて夢を抱くんだったらね」

 

 それにカルナが続く。

 

「無論、この俺もパラシュラーマ(グル)より呪いを解いて貰った。俺の宿敵の男の気配を向こうから感じる。故にその時は俺も、再び決着をつける為に戦いに赴くだろうが。それまでは任せると良い。俺とてマハーバーラタにて大英雄と呼ばれた者の一人、(グル)の前で恥を晒す訳にも行かん、全力を持って有象無象を滅ぼそう」

 

 そこに俺が言葉を加える。

 

「うん、まぁ、師匠が張り切っている中で弟子の俺達が遅れる訳にはいかないからな―――そういう訳で、有象無象のケルト共や一部将兵に関しては一切気にする必要がない。というかさせない。絶対に届く事はないから安心してワシントンまで駆け抜けて行け。面倒なのはこっちで全部消し飛ばしてやっからな」

 

 最後にラーマが美しい輝きの弓を片手に頷いた。

 

「―――余もシータからサルンガを受け取った。全盛期からは程遠いかもしれぬが、それでもかつて羅刹王や数多くの存在を屠ったというこの理想王と讃えられた我が武の祝福、その全てを披露して見せよう。それでこそ漸く、余はこの状況に、この出会いの全てに感謝を返す事が出来る。いや、この地上から全ての敵を消し去っても足りぬぐらいに感謝している。故、露払いを終わらせたら何とか合流しよう」

 

「やだ、ラーマくん超猛ってる……」

 

「そりゃあなぁ……」

 

 ラーマは羅刹王ラーヴァナにシータを奪われ、それから十四年間ひたすら取り返す為に戦い続けた。だがその果てにあったのは離別だった。そしてそれは死後も続いている―――つまり、ラーマの十四年間に終わりは来ない、まだ来ていなかったのだ。その大願が果たされたのだ。そりゃあテンションもちょっとおかしくなるというものだ。ちょっとというか大分って感じだが。まぁ、それはそれとして、

 

 ここにインドの流れを組むサーヴァントが四騎揃ったのだ。

 

「……どうやら前線の問題は解決しそうだな」

 

「ま、これだけ豪華な面子が揃ってるんだ。アルジュナだろうが、クリシュナだろうが、全員纏めて灰にしてやるさ―――弟子共とラーマがね。まぁ、僕は僕の方で戦わなきゃいけない相手がいるっぽいからね。常に使える戦力だとは思わない方がいいよ」

 

『それでもジェットストリーム・ブラフマーストラだろ? これ以上ない心強さだよ』

 

『また君は適当なアニメ知識を引っ張り出して……』

 

『そ、そんな事ないよぉ』

 

 そんなやや緩いカルデアの空気を感じながらも、此方側だけではなく相手側の戦力も確認する。筆頭となるのはクー・フーリンを初めとしたケルト勢、そしてその次にクリシュナとアルジュナのインド勢なのだが―――現状、このインド英雄もそれだけで終わりではない、というのも此方の見解だった。そもそもラーマが召喚されているのだから、その縁召喚でそれに匹敵するような敵がいてもおかしくはないのだ。だからケルト以外にもまだ隠れているインド勢がいると思われている。

 

 ―――まぁ、クリシュナだし。卑劣な手段の一つや二つ、あの正義厨なら持っているだろう。

 

「私達の戦いは基本が正面からの衝突、そして強引な中央突破になる―――相手もそれを理解して備えてくるだろう。故に本番は相手を突破し、ワシントンDCへと到着してからだ。それまでは作戦という作戦等ない。()()()()。それだけだ」

 

 ―――それだけが、与えられた最もシンプルな作戦だった。

 

 

 

 

 そして決戦が始まる。

 

 アメリカ合衆国に残された全ての機械化兵と、そしてレジスタンスの兵士たちが参陣する。その先頭に立つのは自分達、サーヴァント。その中でも最も極悪で危険と呼ばれる奥義を持った四人で並び、武器を抜いた。

 

 手を振るって呼び寄せるのは半月を描く鋼の塊。大きさ自体が二メートルを超え、持ち手が刃の内側に存在するという奇形の斧。嵐の神性を封じ込めた翡翠色の神造兵器―――元はパラシュラーマが神より授かり握った、大虐殺の大斧。卒業祝い、にと(グル)から態々預かった手に馴染む良き武装。

 

「―――うーん、なんだかこうやって握ると申し訳なさが」

 

「一々細かい事を気にする奴だなぁ。僕が卒業祝いに渡したものなんだから、一々気にしなくていいよ。それよりもそいつは僕の象徴とも言える奴なんだから、あまりかっこ悪い活躍するんじゃないぞ? その場合は場所を問わず見つけ出して殺してやるからな」

 

「クッソ返したい……とはいえ、アホみたいに手に馴染むうえ、これを思いっきり振るってケルトを地平から消し去りたいというのもまた事実。ここはいっその事ハジケてやろう。よっし、兄弟子よ、どちらがより多くのケルト消し飛ばせるか競争といかないか? なに、負けた方は勝った方の頼みを一回だけ聞くという縛りでな」

 

「別にその程度俺にとって罰でもなんでもないが―――そうだな、兄弟子として威厳を失う事を認める事は出来ないな。俺の様な男を兄弟子として貴様が認めるからこそ、ならば俺もそれに全力で応えるとしよう。師の下で武を磨いた年月は俺の方が遥かに長い。確かに魔力の制限がないという点では貴様の方が上だろう、だがそれが結果に通じるとは思わない事だ」

 

「やれやれ、二人して若いな―――とは言いたいが、その昂りは余にも解るからな」

 

 ふっ、とラーマが笑う。

 

「シータを取り戻す為に待たせる事はあった―――だが帰りを待つ為に後ろへとシータを置く戦いは、これが初めてだ。今の余であれば何者にも負ける気はしないな!」

 

「前線に来てまで惚気てるんじゃねぇ!」

 

 げらげらと笑いながらそれぞれ、全員が武器を抜いた。ヴィジャーヤ、サルンガ、鏖殺の嵐斧(パラシュ・ルドラヴァス)、無名の神造兵器。それぞれが超級の宝具、兵器、それ単体で魔術教会が発狂するような神秘を宿した遺物。それを担ぎながら正面へと飛び込みながら、地平線の向こう側へと向けて、見えてくる絨毯の様に敷き詰められたケルトへと向かって各々が武器を振るう。

 

ブラフマーストラ。

 

 直後、大地が死んだ。見える範囲全てが熱と閃光と破壊に飲まれながら広範囲に渡って国を亡ぼすような規模の奥義が放たれ、正面に見える大地から全ての命を奪い去った。僅かに見えた丘や山でさえ完全に平坦な荒れ地になるまで整地されてしまい、平坦な何もない、焼けた大地だけをその正面に残した。

 

 そこに存在した筈の絨毯のような規模のケルトの姿も、全てが完全に蒸発した。一つ残らず、一人も残さずに全てが消え去った。完全なる破壊と死による蹂躙だった。

 

「さあ、祈れ! 祈りたければ祈るんだ! 助けを求めろ! 許しを乞え! 神に希望を求めろ! ()()()()()()()()からな! この僕が、最強の聖仙たるパラシュラーマの名において貴様らに一つ、説法してやる。良く聞け―――」

 

 燃え盛る無名の剣を肩に担ぎながらパラシュラーマが断言した。

 

「―――ここに貴様らの神はいない。その目は届かない。その声も、何もかもが届かない。喜べ、貴様らの死は聖仙として預言してやる―――絶対だ」

 

 そのまま競い合う様に前線へと飛び込んだ。再び全力で奥義を振るう。本来であれば武器が耐え切れずに溶解するだけの出力を根源から引き出している。武器が耐え切れずに砕け散るだけの力を込めている。エミヤの投影品であればこれだけの出力も規模も無理だ。そこまで広がる前に先に武器が壊れてバックドラフトするだろう。

 

 ニヤけてしまう。

 

 こりゃあ()()()()にもなるというものだ。耐えられる武器さえあればいい、と思っていたが違う。これだけ手に馴染んで振り回せるとなると、もっと欲張りたくなってしまう。そしてパラシュラーマの超一流という領域が自分には無理なのも改めて良く理解できる。結局の所、武器を選ばなきゃ十全に戦えないからだ。

 

 まぁ、それは置いて、

 

「―――競争だ、兄弟子」

 

「無論、勝つのは俺の方だがな弟弟子」

 

 はっはっはっは、と笑い声を響かせながら一番槍の役割を果たすべく再び前へと飛び込んだ。鏖殺の嵐斧(パラシュ・ルドラヴァス)を振り上げ、そして地平を薙ぎ払う様に再び奥義を放った。目前に見える光景が一掃されて行きながらも、この惨状を察して高速で遠方から急接近してくる強大な気配を感じる。

 

 それを迎える様に得物を担ぎ―――北米神話大戦の最終章を開始する。




https://www.evernote.com/shard/s702/sh/1f4d1431-bee4-49c5-80a9-a13afd7957dc/efcf4ada402a7a1da034bbec0c03d4f8

 マテリアル更新+武器ゲット+宝具強化ザマスよ。毎回ちゃんと弟子に卒業祝いを送っているマメな師匠。インド師弟は基本仲良し。基本。

 それはそれとして、アメリカよ、天に帰る時が来たぞ。

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