Vengeance For Pain   作:てんぞー

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序章 - 8

 ―――即座に判断する。

 

「俺が残ろう」

 

 ライフルを片手で持ち上げ、真っ直ぐアーチャーへと向けて構えたまま、そう告げる。その言葉に露骨なリアクションを見せてきたのはキャスターとアーチャー以外の三人だった。立香がこちらへと視線を向けてくる。

 

「アヴェンジャーさん、なんで……」

 

「状況判断だ。雑魚相手ならまだいいが、アーチャーの様な大物相手には場所が狭すぎるし、連携して動くには少々時間が足りない。それにこいつを倒そうとすればそれなりに消耗を強いられるだろう―――」

 

「―――となると後は倒せる奴が残って残りは前に進む、って話だ」

 

「実に合理的な判断だが果たして、私がそれを許すと思ったか復讐者」

 

 弓に矢が番えられた。それと同時にシェイプシフターをラビリンスモードに変形させる。アーチャーと此方、そしてそれ以外を分断するように洞窟内に壁が発生する。チ、と舌打ちが聞こえる瞬間には既に矢が射られていた。放たれた矢を蹴り上げて無力化しつつ、魔力をシェイプシフターに通し、質量を増やして大戦斧を形成する。片腕でそれを握りしめながら振り上げ、飛び込む様に叩き付ける。素早くバックステップをとったアーチャーが弓を消し、その代わりに双剣を生み出した。接近戦に対する対処法は当然ながら用意していたか、と面倒な相手に殺害方法の考察を開始する。

 

「行け! あとさんはいらない」

 

 大戦斧を振り下ろした此方の姿へと向けて双剣でアーチャーが踏み込んでくる。弓の腕前ほどではないが、非常に洗練された動きであるのが見えた。無理に打ち合うことはせず、大戦斧を手放しながら後ろへと今度はこちらが大きくバックステップで距離を取りながら槍を二本生み出す。リーチの短い双剣が相手であるなら此方がリーチ外の近接戦を挑んで上からすり潰す。

 

 キャスターの声が聞こえた。

 

「オラ、時間を稼いでもらってんだからさっさと行くぞ」

 

「……アヴェンジャーさん、後で絶対に追ってきてね!」

 

「直ぐに追いかける。あとさんはいらない」

 

「アヴェンジャーさーん!」

 

『あの子、芸人としての素質高くない? というかほんとクソ度胸ね……まぁ、多少演技入ってるから現状を受け入れきれていないだけなんだろうけど』

 

 それは認めざるを得ない事実だった。ため息を吐きながらも、走り去ってゆく足音が複数聞こえる。オルガマリーが、そしてマシュが待っている、と言葉を置きながらラビリンスの壁の向こう側へと消えて行くのが聞こえる。その間、二槍を構える此方を前に待つように待機するアーチャーの姿が見える。武器は双剣のまま、視線はこちらから外すことはなく、どうやら足掻くような事はせず、あの四人を奥へと通してくれるらしい。こうなってくるとラビリンスにリソースを割く必要もないだろう。ラビリンスを解除しながら手元に戻し、強化等の魔術を己に使用して能力の向上を計る。

 

「……いいのか?」

 

「総合的に判断し、ここで貴様を足止めするほうが最終的な勝率が高くなると判断できた」

 

『あら……面白いわね、彼。葛藤してる? ううん……これは……抗ってる? ケイオスタイドの汚染に適応してるのかしら? うーん、私もまだまだね。やはりこの程度だと真に全知とは言い辛いわ。とはいえ、この不自由はこれで楽しいわ』

 

 妖精が何かを喋っている―――しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。故に妖精の言葉を無視して、双剣を構えるアーチャーに向き合う。あちら側も此方の戦意を感じてか、両手を下に向けてだらり、とぶら下げるように構えた。戦闘態勢に入っている。

 

「じゃあ、さっさと死んで貰おうか……三人の守りにキャスターが一人だけなのは不安だからな」

 

「そう焦るな―――なに、今に冥府で直ぐに合流できるとも」

 

 互いに言葉を吐き出すのと同時に一気に踏み込み―――アーチャーは後ろへと大きく跳躍した。双剣は矢へと姿を変形させ、そしてその手に黒い洋弓が出現する。当たり前のようにまともに殴り合うつもりはないらしい―――まぁ、当然だろう。

 

 此方もそうさせてもらおう。

 

投影開始(トレース・オン)―――」

 

「カルデア・ウェポンズコレクション―――ニーズヘッグ」

 

 二槍が瞬時にその姿をカルデアの武器庫で封印されているショットガンへとその姿を変形させる。全長1.6メートル、重量()()()()()。強化された人間が片手で持ち上げる事がギリギリと呼べる武装は無駄な装飾をそぎ落としているがそれでも遥かに装甲を増したかのような重厚さをそのデザインに孕んでいる―――対英霊用に開発され、使えるか馬鹿、と作成者が殴られて倉庫へと放り込まれた一品。

 

 英霊として強化された肉体―――魔術による強化―――そしてスキルによる恩恵。

 

 それが本来であれば産廃とでも呼ぶべき兵器を十全に扱うだけの能力を与えた。

 

 矢が放たれるのに合わせ、引き金を引く。放たれた散弾が矢に衝突すれば()()()()()()()()()()()()()。拡散する散弾はそのまま壁面や足元を抉り抜くようにその凄まじい衝撃を証明し、人工的に生み出された半工房状態ともいえる大空洞への道に穴を生み出した。そこに込められている神秘は注ぎ込んだ魔力以外は最低限であり、その大半は()()により生み出されている。

 

 だがそれを一切気にすることなく、闇に紛れるようにアーチャーが連続で矢を放ってくる。オルガマリーが消えて光源が消えた今、洞穴内部は闇で満たされ始めている。義眼の暗視を起動させながら引き金を連続で引く。そのたびに少しずつ、魔力が減ってゆく感触とともに散弾がスコールのように正面へと放たれ、空間に連続で叩き込まれる神秘の矢を千切り食らって解体して行く。

 

 直後、直感的に悪寒を感じ取って後ろへと更に距離を取った。同時に頭上から落ちてくる物が見える―――剣だった。

 

「―――I am the bone of my sword」

 

「……」

 

 詠唱を感知―――妨害を優先する為に迷うことなく剣を飛び越えた瞬間、魔力の高まりと共に剣が爆裂した。即座に魔力放出をエミュレート、瞬間的に魔力を放出しながらショットガンをフックガンに変形、壁に打ち込んで体を引きずって回避に持ち込む。それをまるで狙ったかのように虚空から出現した剣が降り注いでくる。

 

 ―――剣を矢の如く放つからアーチャー、か。

 

 だが弓の腕前そのものも隔絶していた。迎撃しなければ()()()()()という強迫観念に似た確信が彼の腕前にはあった。マシュや立香がこいつの相手をしなくて心底よかったと思う―――おそらくはほぼ確実に()()()()()()()()だろう。

 

目には目を(≪復讐者:己の痛みを知れ≫)歯には歯を(≪忘却補正:同属相殺≫)

 

「Steel is my body, and fire is my blood」

 

 居合―――降り注ぐ剣と変形させた刀がぶつかり、双方が同時に砕け散る。だが彼方とは違い、こちらの武器は破壊と同時に再生が可能である為、()()()()()()()()()()()()()。降り注ぐ剣弾はそれによってすべて、同時に砕け散りながら再生して破壊する。復讐者クラスの復讐概念による同属相殺、それによって切り抜ける。そしてそれと同時に、

 

その先は謳わせない(≪虚ろの英知:縮地≫)

 

 大地に足が触れるのと同時に一瞬で加速する。アーチャーの正面を奪おうと踏み込む瞬間、頭上から剣が道を塞ぐように落ちてくる。それと同時にニーズヘッグに変形させ、強引に食い破りながら散弾を通した。千切れ飛ぶ刃と散弾がアーチャーの体を抉り、魔力や血の代わりに黒い泥のような物体を肉から抉った。再びトリガーを引く。だがそれよりも早くアーチャーが身をかがめながら双剣を手にして振るっていた。手首を切断する軌跡で迫るそれを武器を手放しながら、

 

「I have created over a thousand blades」

 

 素早く蹴りで初撃を横へと蹴り逸らした。そのまま踏み込みながら蹴り飛ばした手首を握るように二本指を伸ばしながら肩から体を押し込むようにショルダーを叩き込む。アーチャーが逃れるように後ろへと体を滑らそうとするのに合わせて震脚を打ち込む。

 

 跳躍したアーチャーが洋弓を構えていた。

 

「―――我が骨子は捻じれ狂う」

 

 力のある矢が形成される。

 

「アクション」

 

 だがそれよりも早く、放棄された武装が勝手に引き金を引いた。

 

 空中へと逃れたアーチャーを下から狙い撃ちするように散弾が放たれた。その直前、逃げるように矢と弓を爆破するのが見えた。舌打ちしながらも、爆発と散弾の雨の中から後方へと向かって吹き飛ぶアーチャーの姿が見える。既にその周囲には三十を超える剣が浮かび上がっていた。そこから感じる魔力は()()()()()()()()()()()()()()―――おそらくはその強度も。

 

「Unknown to death. Nor known to life」

 

『詠唱をするたびに投影魔術の精度が上昇しているわねー。そろそろやばいんじゃないかしら? ■■様助けてー! 抱いてー! って言ってくれるなら助けてあげるわよ?』

 

「アハトアハト」

 

 砲台へと変形するのと同時に剣群が放たれた。砲塔から放たれた魔力弾が剣弾と衝突し、空中で爆裂を起こす―――しかしそれを抜けて多くの剣弾が此方へと迫ってくる。素早くダブルトマホークを形成し、それを強度重視で固定化させる。そのまま、一気に踏み込む。降りそそぐ剣群が肉を削ぎ、そして爆発をもってその役割を果たそうとする。だが同時に治療魔術と強化魔術、縮地を英知から引きずりだして行使する。

 

「―――Have withstood pain to create many weapons」

 

 時間稼ぎをすれば相手に有利になる。ならばここで一気に殺しに行くしかない。そう判断し、爆炎と斬撃を無視しながら一気に踏み込んだ。体から流れる血と痛みが魔力へと変換される。

 

ふぅぅぅぅ―――(≪復讐者:アヴェンジハート≫)!」

 

 痛みには痛みを。ダメージで魔力を回復させながら、一気に踏み込む。双剣へと切り替えたアーチャーが対応してくる。だが確認すればその周囲には剣が浮かんでいるのが見える。剣術に加えて剣の射出を加えた三次元的な戦闘術、正面からの対応は難しいだろう。だがそれを第三者からの支援射撃だと割り切って行動すれば、

 

 まだ対応出来る。

 

「俺に、存在意義を、果たさせろ」

 

 振るわれる剣をトマホークで受け、そして固めて止める。最後まで動作を完遂させずに動きを止めさせてそのまま押し込む。それを嫌がるアーチャーが武器を消して下がろうとする。その動きを支援するように飛来する剣を、

 

 体で受けた。

 

 ―――そして止まることなく腹を殴りぬいた(≪対英霊≫)

 

 英霊に対する必殺概念を右腕に筋繊維を限界まで強化させながら脳からの指令でリミッターを外し、限界筋力を発揮して殴り抜いた。ダウンロードした中国武術の動きを込めて威力が貫通する様に放った動きにアーチャーから泥が弾き跳びながら姿が吹き飛ぶ。だが得た感触はクリーンヒットから程遠いものだった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 それこそ殴った拳が傷つくほどには。

 

「貴様は……なるほど、憐れだな」

 

 殴り飛ばされたアーチャーが受身を取りながら着地する。殴り抜いたはずの腹を見れば黒い泥が溢れ出しているのが見える―――が、だがそれを邪魔するように剣が体そのものから生えている。どうやら殴られる瞬間に肉体そのものの一部を剣へと変えたらしい。概念的に英霊から剣へとシフトした事による特攻外し、といったところだろうか。動きからして間違いなく直感、あるいは心眼系統のスキルを保有した反応だ。

 

「Yet, those hands will never hold anything」

 

 ―――駄目だな、これは。詠唱を止められない。

 

 判断した直後、手元にシェイプシフターを戻し、多重に回復魔術を発動させる。受けたダメージを受けたダメージで生み出した魔力で回復させながら、これから来るであろう衝撃に備え、シェイプシフター内部へと魔力を注ぎ込みつつ、腕輪へと戻ったシェイプシフターの一部がコードへと変形し、それが腕へと突き刺さった。その状態からシェイプシフターのシステムへとアクセスする。

 

「―――So, as I pray―――」

 

 高まる魔力。変動する空間。炎が舞い上がりながら世界を上書きし始めていた。光源の存在しない空間は別種の空間、世界へと姿を変質させるように変化を始める。

 

「―――Unlimited Blade Works」




https://www.evernote.com/shard/s702/sh/f3113345-915c-4ae7-bc1c-f4344c5a284f/e0bb69fd54272697959403bd43a3c364

 ゲーム内だとゴールデンスパーク一撃で消し飛んでしまうエミヤ先輩ですが、実際に戦ってみるとものすごいクソゲーというか絶対マシュか立香死んでただろ、と思えるぐらいには戦闘経験と能力の厄介さを感じる。というわけで武装アップデート。名ありの武器とかは武装リストに追記予定な感じで。

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