Vengeance For Pain   作:てんぞー

130 / 133
地上の星 - 5

 ―――次の瞬間、クンバカルナは空にいた。

 

「……は?」

 

 思わず口から洩れた言葉だった。クンバカルナが何をしたのかは陸津波を消し飛ばした向こう側に見えた。クンバカルナは着地したその瞬間には担いでいた山を振り下ろしたのだ、鈍器の様に。そしてそれを使って大地に叩き付けた下半身を持ち上げ、倒立する様に両腕と山で体を支え、そしてそのまま体を上へと飛ばしたのだ。その結果、ブラフマーストラが届く前にクンバカルナは空へと舞い戻った。

 

 デブ・イン・ザ・スカイ。笑えない。

 

「アレがまた落ちてくるのか……待って、まだ陸津波が完全に消え去ってないの」

 

「そんな事を言っている場合か! 放置していたら文字通り喰われるぞ!」

 

「まぁ、我が(ちひょう)での出来事だ。少々抑え込んでみよう」

 

 アースの言葉にあざっす、と答えながら大地を蹴って空へと飛び上がった。落ちてくるクンバカルナへと向かって一気に弾丸の様に飛び出しながらその姿へと向かって足を曲げてから、

 

 一気に突き放す様に最大限の強化を込めた蹴りを叩き込む。

 

吹き飛べ(≪修羅の刃≫)……!」

 

 クンバカルナの体表を衝撃が一瞬揺らめく様に広がり、反動で足に痛みを覚えながらクンバカルナの姿を思いっきり蹴り飛ばす。それを受けたクンバカルナの姿が空中で受け身を取る様に回転しながら―――カルナとアルジュナの決戦場へと向かって行くのが見え、二人のど真ん中にクンバカルナが叩き込まれた。直後、アルジュナとカルナの両側からブラフマーストラが飛び、クンバカルナへと叩き付けられた。それに吹き飛ばされたクンバカルナの姿が転ぶ―――ダメージは大きく見えるが、まだ戦えるように見える。

 

「あ、抗議の視線送ってる。だが反省はしない」

 

「使えるものはなんであれ使うのが戦場だから―――なっ!」

 

 ラーマが素早くブラフマーストラの二射目をクンバカルナへと放った。大地を消滅させる様に溶解させる太陽そのものの一矢は物理的に止める事は不可能であり、閃光すら見せずにクンバカルナへと向かった。だが怪物の本能で悟っていたそれは横へと飛びのきながら大地に足を刺しこんで、アメリカの国土を裏返す様にそれを蹴り上げ、理屈では考えられないほどの巨大な大地のプレートを裏返してきた。ブラフマーストラがそれに衝突、爆裂しながら大地のプレートを真っ二つに割る様に天へと向かって伸びる炎天を巻き上げたが、二分割した大地のプレートがケルト、アメリカ関係なく潰す様に落ちてくる。

 

 大きさはそれだけ当てやすい、なんて言われているが、それだけではない。

 

 それを支える筋肉と機構があるのだ―――弱い訳ないだろ、という簡単な話だ。

 

「えぇぃ、面倒なやつめ、まずは足から落とすか―――エージ、土砂や攻撃の対処を頼む。余がアレを()()!」

 

「軽く言ってくれるなぁ、もう―――嵐と共に我が名を称えよ、鏖殺の嵐斧(パラシュ・ルドラヴァス)!」

 

 広範囲に狂風を発生させる。集中豪雨は味方へと被害を出してしまう為、発生した狂風をプレートへと叩き付けて、その形を一気に砕く。発生する土砂をダウンバーストで下へと向けて叩き込みながら、分割した意識で斧を振るう。直線に放たれた水爆の奥義が一直線に大地を割り砕きながらクンバカルナの動きを制限する様に爆裂する。それを超える様にクンバカルナが踏み込んだ瞬間、その足が泥沼に踏み込み、肉体が一気に汚染による弱体化を得て、脆くなる。それを気にする事なくクンバカルナが跳躍する。その手には適当な丘が握られている。

 

 ―――見ている光景が明らかにおかしい。

 

「これと比べると第四特異点は平和だったなぁ!」

 

「余はシータに大勝の吉報のみを持ち帰るつもりなのだ、この程度で音を上げるな。覚者の名が泣くぞ」

 

「好きでなったんじゃねぇやい!」

 

 クンバカルナが跳躍しながら丘を投げてきた。正面の空間全てを塞ぐような光景に明らかにスケールの何かがおかしいよなぁ、と思いつつ迷う事無く暴風と水撃で丘を叩き割った。その向こう側が見えた瞬間には折り曲げた剣を矢の代わりにラーマが弓に番え、放った。それはブーメランの様な軌道を描きながら砕かれたわずかな隙間を縫い、跳躍したクンバカルナの足に突き刺さった―――突き刺さったのみ。

 

 斬撃が抜けて魔力の粒子がクンバカルナの足元から散る。だがそれは貫通にも切断にも至らない。飛来してきた丘の残りを左右へと受け流す様に切り払いながら、大地に着地し、その衝撃で震撃と陸津波を起こすクンバカルナを見た。

 

「ちぃ、やはりこの霊基では貧弱すぎて切断しきれん―――大技を突き刺せれれば話は別だが」

 

「んじゃ俺が動きを止めるか」

 

「頼んだ」

 

 不滅の刃を手元に召喚するラーマから視線を外しながら巨大な羅刹を止める為に縮地法でまだ無事な地脈を辿ってクンバカルナの側へと一瞬で転移する。一瞬で接近を完了させるのと同時に凄まじい衝撃を大地に感じる。走っている―――それだけで天災に等しい影響力を周りへとクンバカルナは振りまいていた。駄目だ、こいつは殺さなきゃいけない。殺さないと周りが滅茶苦茶になる。

 

「さて―――やるか(≪修羅の刃≫)

 

 斧を肩に担ぎながら魔力を注ぎ、此方へと向かって走って来るクンバカルナを見た。その姿に停止はなく、走りながら此方を蹴り飛ばそうとする姿が見える―――まぁ、それが一番楽だろうな、と思いながら力を一気に斧へと込めて行き、クンバカルナが蹴り上げる大地へと向かって斧を一回転して握り直しながら振り下ろした。

 

梵天よ、嵐に堕ちろ(ブラフマーストラ・パラシュ)―――!」

 

 本日、何度目かの奥義が大地を真っ二つに割き、爪痕を残しながら一直線に破壊を生んだ。横へと飛びのいたクンバカルナが転がり、土砂を津波の様に、岩塊をショットガンの様に大量に放ってきた。動き回るだけで武器のそれに対して真正面から飛び込む。巻き上げられた土と岩塊を足場に跳躍を素早く移動法の縮地で加速しながら、慣性を体に蓄積させる。それによって速度という威力が体に乗り始める。逆手に斧を握りながら構え、クンバカルナの巻き上げた障害を突破、真正面から相対する。

 

 ―――クンバカルナが大口を開けて待ち構えていた。

 

 縮地で大地へと体を戻した。それに合わせに慣性を乗せたままの一撃をすれ違いざまにクンバカルナの足へと叩き込む―――奥義ではなく、流し切りの斬撃。あまりに強すぎる攻撃は警戒心を生み、第六感、直感、闘争本能、生存本能を強く刺激する。その場合は()()()()()()()()()()使()()()()()()必要がある。

 

 故に斬撃を浸透させるように押し込み、半ばまでを断つ。クンバカルナがそれを受け、此方を殴り飛ばす様に倒れ始める。大地を抉りながら振るわれる拳を一撃でも喰らえば死ぬどころかミンチを通り越して血の霧になってしまう為、迷う事無く縮地法による転移で一気に逃亡する。直後、先ほどまでいた大地を粉々に消し飛ばすクンバカルナの姿が見え―――その姿へと一矢が影さえ残さず飛翔するのが見えた。

 

「今の時代ではどうであるかは知らんが、余の時代であれば弓と矢は射る他に()()する為の武器だぞ?」

 

 言葉と共に連続で爆発が発生した。速射によって放たれた矢が連続でクンバカルナの足に突き刺さりながら爆裂した。太陽の光を、熱をそのまま放つと言われる太陽弓サルンガによる連射、速射は矢を放つだけではなく、それ自体が炎と閃光の入り混じった砲弾となり、そのまま貫通させるだけではなく着弾と同時に魔力を消し飛ばす爆撃として運用できる。それ故にそれが着弾したクンバカルナの両足が膝下から爆撃によって一気に消し飛ぶ。それによって大地に倒れそうになったクンバカルナが両手で体を支えようとする。

 

「なら次は両腕だな」

 

 逸話を再現する様に、両腕を今度は消し飛ばす事を目標としてクンバカルナが力を込めようとした大地を薙ぎ払った。嵐の大斬撃が振るわれるのと同時に両手を付こうとした大地が抉れ、クンバカルナの体が本人の予想よりも下がり、沈む。それに合わせて雷鳴と泥が発生する。体を犯す泥、そして神経を焼き殺す様に発生した雷鳴がクンバカルナの動きを完全に停止させ、

 

 ―――ラーマが矢を放った。

 

 そしてそれを遮る生物が出現した。

 

 クンバカルナを庇う様に出現したのは巨大な黒い、猪だった。ラーマの放った矢をその体で受けた魔猪は太陽の光に焼かれながら粉々に()()()()()()()()()()()()()()―――即ち、生きた生物であり、召喚された魔力体の存在ではない。生きた生物である。そしてその現象が発生するのと同時に、戦場が()()()()()()()()()()始めた。

 

「やっぱりまだ生きてたのかぁ―――!」

 

 スカサハの死体を沈めた湖の中に乱水流を発生させて肉をバラバラにした筈なのに、これでもダメなのか。そう思っていると森の闇の中から赤い閃光が飛翔してくるのが見えた。それを切り払って弾きながら後ろへと大きく跳躍する。スカサハの気配を探ろうとするが森の中には猛獣の気配が多すぎて、どれと特定するかは面倒すぎる作業だった。此方の陣地を出す前に自分の陣地を蘇りつつ出してきた、という事だろうか。

 

「そのまま素直に死んでおけばいいものを……!」

 

「―――悪いな、一度は死んだ。だがそのまま死に追いつけなかった。やはり死の概念では私を殺せぬようだ」

 

 悪い事は言わないから妥協して死んでおけ、としか言えなかった。ここまで来ると頭が痛いとも言える。あの女、懲りもせず―――というか死ねなかったのか。やはり憐れな女だ、としか自分には言えなかった。それ以上の権利はない。救済しようとしない以上、同情する権利はなかった。ただ問題として、先に陣地を出された以上、上書きするのが面倒だなぁ、という思考を作った。

 

 と同時に、森の闇を抜けて様々な方向からゲイ・ボルクと魔猪が、キメラが殺到してきた。

 

 そしてそれ毎大地を、()を、全てを飲み込もうと大口を開けるクンバカルナの上半身が見えた。

 

「まともに相手してられるか……!」

 

 迷う事無く縮地で逃げた。口伝で教えてくれた大陸の仙人に今ほど感謝した事はないだろう。ぶっちゃけた話、便利すぎる。とはいえ、これ単品で問題が解決する訳ではない。ラーマの横へと縮地で戻れば、その周囲も、視線の先も完全に森で遮られており、血に飢えた獣の気配の他、遠くに不吉の気配を感じる。またクンバカルナもまだ存命で、下半身を両腕で引きずるように直進してくる。

 

「なにあれ怖い」

 

「いよいよ手が付けられなくなってきたな」

 

 影の国の召喚だ―――それで影の国の一部、最も獰猛で凶悪な魔獣が住み着く闇の森を召喚したのだろう。しかも森そのものが第六感を、直感を殺すような特殊な環境をしており、見えるのに見えない、という妙な感覚を強いられていた。これは感覚派の人間、英雄、心眼(偽)だったら即死出来る環境だなぁ、と思いながら斧を肩に抱え直した。闇のどこからか、スカサハが此方を伺っている。

 

「……どうするか、これ」

 

「どうするもなにも、クンバカルナを沈めてから潰すしかあるまい。幸い、両足は断った。後は両腕と首だけだ―――まぁ、口さえ動けばそれだけで暴れ回る奴なのだが」

 

「俺にまたあの産廃(スカサハ)の相手をしろと」

 

「すまんな」

 

 仕方がない、と呟きながらまずは第六感を取り戻す為に森への干渉を始めるか、と斧を大地に突き刺して開いた両手で印を結ぼうとする。環境への干渉方法に関してはマントラよりも中華、そして極東へと流れた風水、陰陽思想の方が遥かに通しやすい。それを通して環境の一部壊して、地脈返しを行おうとして―――動きが停止する。

 

「ん?」

 

「むっ」

 

 視線を南の方へと向けた。そこからは新しい力が新生する様に感じられた。そして気配と力の正体を探ろうとして―――そして理解した、何故(グル)が執拗にクリシュナの相手をすると、過度な支援を行う事が出来ないと言っていたのか。

 

「成程、確かにこれはパラシュラーマでなければ話にもならんな……」

 

 明確に空に広がって感じるのは()()だった。不完全ではあるが神霊に該当する存在が降臨しつつあった―――それの相手を引き受けるつもりでいたのだろう。助けたい気持ちはある……とはいえ、それを心配するだけの余裕はなかった。

 

「これ、どうすっかなぁ……」

 

「うむ、困ったな」

 

 大地を振るわせながらバタフライで迫って来るクンバカルナ。

 

 第六感封じの魔獣の森から襲い掛かるスカサハ。

 

 頭の痛くなる組み合わせだった。インドとケルトの誇る頭の悪いタッグが迫っていた。




 あ、これ、倒すとかじゃなくてワシントン先に終わるのを祈る奴だ……と悟り始める参加者たち。ヤンメンヘラケルティックババアは強かった……強すぎた……帰ってくれ。

 クンバくんも退場していいのよ。

 解ってた事だけど前々から五章はインド特盛で書こうって決めてただけに長さもおスケールも酷い事になってきた。六章と七章はこれを超える規模じゃなきゃ駄目なのか……(震え声

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。