Vengeance For Pain   作:てんぞー

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それゆけ! 僕らのカルデア生活 - 2

「ついにこの時が来てしまったか……」

 

「そうだね……来ちゃったね……この時が」

 

 サーヴァント召喚室の中には複数の姿が見えた。マスター・藤丸立香、マシュ・キリエライト、ロマニ・アーキマン、謎のヒロインZ、そして己だ。エミヤは厨房で食事を作っており、クー・フーリンは鍛錬、ダ・ヴィンチはひたすら次の特異点への準備を行っているため、実質的にこれが参加できる全員だった。そしてここへと来て、やることは一つ、

 

「―――ガチャだ」

 

 英霊召喚である。オルレアンを突破するついでに拾った聖晶石5個を立香はその手に握っており、これから英霊召喚を行う為の運気を高めている最中だった。マシュは首をかしげているが、妖精やロマニが妙にゲームに関する知識が肥えており、それを説明するものだから自分も理解してしまった。彼は英霊召喚をゲームと同じノリでやっているのだと―――まぁ、それで英霊が召喚されるのだから問題はないのだが。

 

「オルレアンを超速で終わらせたから討伐したサーヴァントは5人……つまり手に入れた聖晶石は全部で5個……つまりは1回……そう1ガチャだ……くっ、魔法のカードが使えないのがこんなに心細いとは……!」

 

「立香くん! イメージだよイメージ! ガチャるときは常に最高の瞬間を引き寄せるんだ! エミヤ君だって言ってた、常に最高の自分をイメージするんだって!」

 

「自分の名言がこんな使われ方しているの聞いたらグレそうですね彼」

 

 冷ややかな謎のヒロインZのツッコミがどこかシュールさを呼び覚ましていたが、ロマニと立香はオーディエンスの声が聞こえないレベルで熱狂していた。ガチャ、つまりは抽選とも言えるシステム。いったい何が彼らをそこまで熱狂させるのだろうか。そんな事を考えていると、妖精の形をした影が肩を揺らした。

 

『まぁ、召喚システムがオルレアン以降不安定になって、常に英霊を召喚できるというわけじゃなくなったのがハートに火をつけたのかもしれないわね』

 

 そう―――システム・フェイトは不調を訴えている。いや、正確に言えば干渉を受けているともいえる。本来であれば100%呼応する英霊をサーヴァントとして召喚するシステム・フェイトではあるが、それが何らかの干渉を受け、常に英霊を召喚できる訳ではなくなってしまった。メンテナンスを行ったダ・ヴィンチはおそらく人類史焼却を行った存在がこれ以上こちらに英霊を召喚させないようにシステム・フェイトに干渉し、戦力の補充を止めに来ている、と解釈していた。

 

 ただその結果、システム・フェイトは英霊だけではなく、概念の抽出を行える様に調整された。

 

 情報の塊である英霊は概念による強化が行える。その為、英霊の召喚に失敗したら概念の抽出を行い、せめて英霊を強化する為のパーツを取得しよう、という風に改造されている。つまり、現在のシステム・フェイトは成功して英霊の召喚、失敗して概念の抽出を行うようになっている。どちらにしろ、システム・フェイトの運用は間違いなくカルデアの戦力を強化してくれる結果となる。

 

 ただ、そのランダム性が立香とロマニを燃え上がらせている、と妖精は言っている。

 

『うーん、こればかりはソシャゲに手を出さなきゃ解らない感覚よね』

 

 お前はソシャゲやってるのか、とツッコミを入れたくなる妖精の発言を堪える。とりあえず立香とロマニへと視線を向ければ、もはや宗教とか儀式とかそういう領域に入ってくるような様子を見せていた。流石に謎のヒロインZと並んで、半分その情熱に引きながらも眺めているとクワッ、と音を立てて立香がシステム・フェイトへと向き合った。

 

「ここだぁ―――!!」

 

「行け! 立香くん! そこだっ! 今こそ単発神引きをするんだッ!」

 

「これが俺の、最高の一手だぁ―――!」

 

 なんかの最終決戦? かと思ってしまうようなテンションで聖晶石が召喚陣の中に放り込まれ、システム・フェイトが起動する。高密度の魔力はシステムを動かすための燃料となりながら座とカルデアを繋ぐ道となって輝き始める。生み出される光輪の中、閃光はやがて収縮し、

 

 一枚のカードに変形した。

 

「ああああぁぁぁぁぁぁ―――!!」

 

「がぁぁぁ―――!!」

 

 発狂しながら立香とロマニが床に倒れた。あの、カルデアが爆破されて特異点の中に放り出されても冷静な演技を続けていたあの、藤丸立香が完全に崩れ去った。軽く心理判断を行っても本気で床に倒れて転がっているとしか判断できない―――なんなんだろうか、これは。

 

『これがガチャに敗北した哀れな生き物よ』

 

 床に転がって涙を流すその姿は確かに哀れ、としか形容する事ができなかった。いや、確かに英霊を召喚できなかったことは痛い。現在のカルデアで直接的な戦力とはすなわち英霊の事を指し示すからだ。そして英霊は増えれば増えるだけ、此方側が切れる手札の数が増える事となる。

 

 具体的な話をすると、マスターを除いて同時にレイシフトできる英霊の数は()()()()だ。これが技術としての限界なのだ。その為、どんなに英霊がいても6人以上レイシフトを行う事はできない―――だが特異点で英霊が敗北して消えた場合、カルデアで待機していれば即座に呼び出して戦力を補充する事ができる。

 

 少なくとも一度敗北した英霊が復活するまでは数時間から最大一日までの時間を必要とする。

 

 その事を考えたらバックアップ等が欲しくなってくる。故に英霊はいるだけで、それだけで心強い味方となってくれる。だが、それでも概念の抽出も悪くはないのだ。少なくともこれを元にダ・ヴィンチが礼装の作成を行えるのだから。ただ、立香とロマニのコンビを見ていると、どこからどう見ても英霊を引きたかった、というのが見える。

 

『うん……まぁ、救いの手をあげたら?』

 

 妖精の言葉にそうしよう、と決める。二人の様子に軽く呆れながらも仕方がない、と言葉を吐き、予め持ち込んでいた袋を袖の中から取り出し、それを軽く鳴らして。カキン、カキン、と金属質な音を袋の中に包まれた石が鳴らした。だが不思議と心地の良いその音を聞きつけ、ロマニと立香の視線がこちらへと向けられた。

 

「……G区間の保管庫から40個サルベージしてきたぞ」

 

「アヴェンジャー神様……」

 

「そうか、君は神霊のサーヴァントだったんだね?」

 

 なに言ってんだこいつら、と思っている中で、こちらが持ち込んだ40個の聖晶石を受け取りながら立香とロマニが崇めるように頭を下げて平伏してくる。それを見て爆笑している謎のヒロインZと妖精の笑い声がステレオで背後から聞こえてくる。こんなことになるならクー・フーリンみたいに事前に逃げておくんだったなぁ、と今更ながら後悔しつつも、立香は受け取った聖晶石の入った袋を力強く握り、

 

「イメージするのは最強の己自身……!」

 

「あぁ、この流れは来てる! 来てるよ! 絶対SSR引けるよ!」

 

「言動が完全に末期のギャンブラーのそれでさっきから笑いが止まらないんですけど」

 

 これは聖晶石を渡すの早まったかもしれないなぁ、なんてことを考えていると、立香が聖晶石を4個手に握った。

 

「10連は信じない、単発10回を信じる……! 一回目ぇさらば聖晶石ィ!! FOO!」

 

「大分テンションぶっ飛んでますけど大丈夫なんでしょうかアレ」

 

「知らん」

 

 ガチャという言葉だけで興奮を覚えてしまう変態的な性癖をどうやら人類最後のマスターは持っているらしい。マシュはそれでも懸命に応援しているあたり、アイツは色々と恵まれているなぁ、なんてことを考えながらシステム・フェイトへと視線を向けた。聖晶石を受け入れた召喚陣は再びその機能を稼働させる。概念抽出、そして英霊召喚。その狭間でシステムは揺れ動きながら輝きを増して行く。

 

 最終的に光輪三つ重なる。

 

「ガッチャアア! ガチャァ! ガッチャッチャアァ―――!」

 

「いいぞぉ! そこだ! そのドローに全てを、魂をささげるんだ立香くん!」

 

「邪教染みてきた」

 

 これでいいのか人類、と思いつつも段々と光は人の形を形成して行く。概念ではなく英霊の召喚に成功したらしい。やがて召喚陣の上に一人の青年の姿を見せた。黒いコートに短い白髪の青年は伏していた眼をあけ、

 

「―――サーヴァント・アサシン、シャルル=アンリ・サンソン。召喚に応じ、参上しました」

 

 アサシンの召喚に成功した。無言で拳を天へと向けて掲げてから立香がようこそ、とサンソンへと向けた。それを見てから、ホロウィンドウを生み出しながらロマニが口を開く。

 

「シャルル=アンリ・サンソン……彼はフランスの有名な処刑人だ。アサシンというクラスはおそらくそれが一番フィットするから、という理由かな? 十八世紀に生まれたアンリ・サンソンはフランス革命で王族を処刑した事で有名だけど―――」

 

 そこでいったん言葉を区切り、

 

「―――それ以上に人類史上2番目に多くその手で死刑を執行した者でもある。1番といえばドイツのヨハン・ライヒハートだけど、なんと言ってもアンリ・サンソンはギロチンを生み出した張本人でもある。原始的でも苦痛を伴わない速やかな処刑手段を生み出した人物として人類史にその名は刻まれているよ」

 

 その言葉を受け、柔和な笑みをサンソンが浮かべた。

 

「どうやら説明の必要はないようですね。その通り、それがシャルル=アンリ・サンソンという男です。僕は生粋の処刑人。僕は貴方の刃であります―――ですが、同時に貴方を量る天秤でもあります。私は悪を裁く存在故に、どうぞ進む道をお気を付けください」

 

「サンソンさんは今までの英霊たちとは何か毛色が違いますね……」

 

 マシュはそう言うが、寧ろ今までの英霊のほうが協力的過ぎたのだ。英霊なんて存在は結局は元英雄なのだから、我が強い連中ばかりの筈なのだ。そんな中でエミヤもクー・フーリンも謎のヒロインZも、基本的にはマスターを尊重し、そして従ってくれるかなり優良、というか人のできている英霊だった。寧ろサンソンの様な強い主義や主張を持っている方がスタンダードだと個人的には思っている。

 

「しかしサンソンさんは良くカルデアに来てくれたね」

 

「そうですね。何ら縁もなかったですし正直人類史の焼却とか本来は一切興味がないので見て見ぬフリしても良かったんですけど―――」

 

 サンソンは言葉を区切ると、

 

「―――しかしマリーがこんな状況、見過ごすとは思えませんし、フランスの大地を救ったという恩人の下へとなら絶対に召喚に応じるでしょう。ということは僕はマリーと同じ空気を吸っていける……?」

 

「あ、これ絶対頭のダメなやつだ」

 

「知ってました。見事なオチが来ましたね」

 

「マリー! あぁ、マリー! マリア! 本物のマリーにまた会えるんだ! マリー! マリィィ―――!! 今度もグッズ揃えながら待ってるよマリィィ―――! 君のためにマリーランドを作るから待っててくれマリィ―――!!」

 

「先輩、サンソンさんが何やら発狂し始めてるんですが……」

 

「きっとかわいそうな人だからそっとしておこう……そんなことよりもガチャ続行だぁ! ヒャア! ガマンできねぇ! オルレアンピック開催だぁ! ジャンヌさんカモーン!」

 

 立香が発狂しているサンソンを無視して袋ごと召喚陣の中へと聖晶石を投げ込んだ。すべての石を消費した9連続召喚に応えるべくシステム・フェイトが光を生み出し始める。光が極限まで高まった瞬間、一枚のカードが生み出された。概念抽出成功の証だった。それを受け立香が腹を抱えながらよろめいた。

 

「まだ、まだ1回目だ……!」

 

「ボクらのピックはあと8回残って―――」

 

 直後、システム・フェイトがガチャ中毒者をあざ笑うかのようにショットガンのごとく概念抽出に成功した証として概念の刻まれたカードを一気に五枚生み出した。それを見た瞬間、ロマニが倒れた。

 

「ど、ドクター―――! せ、先輩ドクターが、って先輩も涙を」

 

「ふ、ふふ、追加課金できないガチャがこんなに地獄だったのを久しぶりに思い出せたよマシュ……」

 

「しっかりしてください先輩! せんぱ―――い!」

 

 召喚陣へと向けてマリーと叫ぶサンソン、マシュに抱かれて涙を流しながらも幸せそうな立香、そして白目をむいて床に倒れているロマニ。どこからどう見ても地獄絵図でしかなかった。たぶんクー・フーリンがいたのならデスカウントが1進んでたであろう状況を見ながら、謎のヒロインZと二人で壁際に並んで、差し出された煎餅を齧りながら見ていた。

 

 なお妖精は爆笑しすぎた結果息苦しそうにしている。

 

 これはもうサンソン以外のサーヴァントは出ないんじゃないか? と思った瞬間、

 

『む、霊基の反応ね。最後の最後で英霊が出現するわ』

 

「マリー! こっちだよ! こっちがカルデアだよ! さ、マリー! マリー―――!」

 

 クソがつくほどやかましい状況の中で、システム・フェイトの中央に光が形成されて行く。一流のサーヴァントが出現する。その威圧感と気配を理解した瞬間、狂喜していたサンソンが一瞬で真顔を取り戻した。あ、これ絶対にマリー・アントワネットじゃないな、と理解した瞬間、光が一つの姿を生み出した。

 

 それは黒かった。

 

 霞がかった様な黒い霧を纏い、黒い甲冑に染め上げられた姿をしている。狂気は空気に乗って室内に漂っていた。倒れていたはずのロマニが起き上がり、

 

「クラスはバーサーカー、彼は―――」

 

「Arrrrrrrrrrrr―――!!」

 

 ロマニの声を押し潰す様にバーサーカーの声が響き、そして謎のヒロインZが静かに壁際から離れた。バーサーカーから距離はあるが、その正面に立ちはだかった。

 

「貴殿は……」

 

「Arrrr……Arrrthurrr―――? Arthur……?」

 

 バーサーカーが何かを喋ろうとし、謎のヒロインZが言葉を止めた。そして次の瞬間、ものすごい冷静さで謎のヒロインZのある部位を見て言葉を発した。

 

「Not Arthur」

 

 狂化されているとは思えないほど清らかな発言だった。というかどこからどう聞いても狂化しているどころか正気で本気で思っている発言だった。えぇ、と困惑している周囲を無視し、謎のヒロインZとバーサーカーが燃え上がる。

 

「おい、その無駄に清らかな発音はなんだ」

 

「Sigh……Not Arthur」

 

「誰が二回言えと言ったクソが」

 

 バーサーカーが頭を横へと振りながら溜息を吐いた。ビキビキ、と音を立てながら謎のヒロインZの額に青筋が浮かび上がり始め、立香が片手を伸ばした。

 

「令呪をもって命ずる、解る言葉で話せバーサーカー」

 

 令呪が消え、そしてバーサーカーがやれやれ、と肩を揺らした。

 

「いや、我が王はもっと慎ましいから。こんな下品な乳してないから。チェンジで」

 

「円卓から除籍だよミニアドォ―――!」

 

 一体誰が、ロンゴミニアドを振るう彼女を止められただろうか……。




 ドルヲタと狂犬がカルデアに着任しました。彼らはきっとこれからのカルデア生活をヲタ芸と王煽りで盛り上げてくれるでしょマリー! マリー! マリア―――!

 数話コミュとカルデアの日常挟んだらろーまでローマをするためにローマしに行くよ。だってそりゃあローマだからね。勿論ローマだろ? ではローマまでまたローマで。

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