Vengeance For Pain   作:てんぞー

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影に忍び - 3

 マッシリアを北から回り込むように抜け、さらに南西へと向かって移動する。街道が見える様に位置取りながらも、山岳地帯、身を隠す様に移動する。予測を裏付けるように、マッシリアから続く街道は新しく、そして軍人の行き来が多かった。首都が無いにしろ、間違いなく大本はこの先にある、という確信が抱けた。故にその意思に従い、極力接触を回避しつつ、気配遮断を織り交ぜながら行軍すること一日程、

 

 山岳の上から、連合首都を見つけることに成功した。

 

「確かに、これは首都の名に(≪義眼:千里眼≫)相応しいな」

 

 義眼の望遠モードで()()()()首都を山岳地帯から覗き込む。そうやって見えるのはローマに負けず、劣らずというレベルで栄える都市の姿だった。近づかないと解らないが、全体的に都市が()()()()感じがする。つまりは前々から存在していたのではなく、最近建設されたと考えていいのだと思う。となるとやはり、この時代―――特異点にとっての異物だと判断してまず間違いがないだろう。

 

 聖杯の反応はマッシリアだったが、最重要なのは探りづらい、拠点の情報を抜く事だ。そのため、こうやって連合首都を観察する。形式としては城に城下町を一体化させた様な形―――ローマではなくどこか、中世時代に町のスタイルは近いような気がする。ただそれは外観から判断する事だ。やはり中に入らないと詳細な情報は取れないだろう。

 

『潜入するの?』

 

「それしかないからな……来い、フォウ。流石にお前を隠さないとならん」

 

「フォウ!」

 

 そう言うとフォウが足元、ローブの内側へと飛び込み、そのまま体をよじ登ってくる。そのまま一気に体を登り、ローブの内側、首元からぽっかりと顔をローブの外側へと覗かせる。そこで満足できるポジションを用意できたのか、フォウ、と鳴き声を漏らした。そんな光景を妖精が羨ましそうに眺めているのを無視し、山岳地帯を下って行く。気配遮断が途切れないようにフリーランで走りながらも、足元に注意し、傾いた斜面を飛び下りるように勢いよく体を飛ばして進む。人の視線に捉われないように、呼吸と存在感そのものをフォウと合わせて殺して、減らして行きながら一気に連合首都を囲む城壁の上へと向かい、魔術で瞬発する瞬間だけ肉体を強化、脳のリミッターを外して身体能力の上限を解放、

 

 山の斜面を蹴って一気に跳躍する。

 

 体重移動で軽く体を滑空させる様に空を流れる様に風に乗って移動し、

 

―――(≪虚ろの英知:圏境≫)

 

 そのまま、連合首都を囲む城壁の上へと着地する。受け身を取るように衝撃と音を殺し、低ランクであるが故に短時間しか纏えない圏境で姿を隠し、城壁の上に着地する。すぐ側へと視線を向ければ、警備の兵士の姿が見える。

 

「ん? 今なんか音が―――」

 

……今は寝てろ(≪虚ろの英知:気配遮断≫)

 

 圏境が切れた瞬間に気配遮断で背後を取り、そのまま当身を叩き込んで意識を奪い、それから予めカルデアで調薬しておいた忘却薬を兵士に飲ませる―――これでここ、一時間ほどの記憶が曖昧になる。そのまま静かに気絶している姿を壁に寄せ、眠るかのように姿勢を整えて、後始末を完了させる。

 

『殺さないんだ?』

 

 殺しは騒ぎに繋がる為、出来ない。これがあの山の翁であれば音もなく完全な潜入が可能だったのだろうなぁ、と過去の聖杯戦争の資料を思い出しながら軽く嘆きつつ、首都内部へと向かって城壁から飛び降りる。気配遮断を維持している為、こちらへと人が視線を向けてもバレない、はずだ。少なくともB~Cクラスの気配遮断スキルは発見することが非常に難しい、と言えるレベルだ。つまりそれ以上の幸運や直感が必要になる。

 

 そこは純粋な運になる。少なくとも侵入で魔術に引っかかった様な感覚はなかった。何らかのアラームやトラップを引いたのであれば、即座にそれを己が感知する筈だ。だから少なくとも侵入で何らかの問題があったようには……思えない。

 

 ともあれ、肩から回転するように転がって受け身を取り、衝撃を逃がしながら立ち上がる。そうやって着地したのは城壁裏、首都の内側だった。魔術で認識阻害をして、此方を正しく認識できない様にしつつ、気配遮断で自分の姿が見えないように二重の安全ラインを引く。とりあえずは敵地に潜入する事ができた。

 

「さて、どうするか……まずは状況か」

 

 城の方を探るのは最後……いや、自分の暗殺者技能を考えれば直接拠点を調べるのは危険だろうからスルーした方がいいだろう。そもそも拠点を特定できただけでも働いたというものだ。故に無駄な欲はかかない。素直に状況だけを調べて離脱する事を考える。

 

 まずは街の様子だ。そう思い、隠密状態で連合首都の大通りへと出る。

 

 ―――そして感じ取るのは気持ち悪さだった。

 

 連合首都の大通り、そこには大量の人がいた。栄えていた。ローマのように大量の人々が労働に従事している。それは間違いがなかった。だがそこには欠片も()()()()()()()()()()。そこに存在するすべての人間、すべての労働者、すべての子供、その表情にあるのは統率された意志、決意、覚悟、()()()だった。誰一人として笑っていない。楽しんでいない。生きているのにまるで機械の様だった。いや、違う。これは機械ではなく、

 

『―――まるで狂信者の集団ね』

 

 妖精の言葉がすべてを現した。そう、狂信者の都市。それがここだった。誰もが皆、盲目的に生きており、それが幸せでもなんでもなく、それが当たり前の義務として受け入れている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 吐き気を覚えて当然だ。家畜ですらまだマシだ。まるで圧倒的威光を受けて、無条件で受け入れた白痴の人の様に楽も苦もなく、ただ信じて動いている。正直、見ているだけでここまでの不快感を覚える光景は見た事がなかった。自分の何かがこの光景を許すな、というのをささやき、理解する。あぁ、なるほど、確かにこの光景は嫌いだ。

 

 彼らの姿はまるで()()()()()()()()()()()()()()の姿に似ているのだ。だからこんなにも生理的嫌悪感を感じるのだ―――なぜ、このタイミングであの過去を思い出してしまったのだろうか。せめて数日、思い出すのが遅れてくれればこんなにも気持ち悪く感じる事はなかったのに。そんな風に思考しながら、人混みに紛れるように歩き始める。

 

 情報収集は歩き、噂話を聞き、金を出して言葉を引き出す事で行える。

 

『だけど金で情報を売ってくれそうな人はいないわね、ここ』

 

「キュゥ……」

 

 人混みに紛れるように歩きながらも、妖精の言葉を肯定するしかなかった。静かに、と首元のフォウを軽くなでながら困っているのはここにいる人々の目の輝きだった。原因はわからないが、まるで狂信者の如き危険な輝きを帯びていた。正直な話、金を握らせて情報を聞き出そうとしても、無駄に思える。

 

『どうする? 拷問する?』

 

「フォ!?」

 

「なぜお前はそうも物騒なんだ……薬で弱らせて暗示で吐かせればいいだろう」

 

 すでにオルレアンで火力は謎のヒロインZがいれば十分だと理解している。殺傷力に関してもクー・フーリンの因果による心臓を貫ける魔槍を超えるものはカルデアにはない。それを考えたら自分ができる役割はサポートの類だ。それを考えてすでにカルデアで事前に必要そうな道具は用意しておいた。後はそれを魔術に対して耐性のなさそうな人間に使うだけだ。

 

 ……理想は士官クラスだな、情報量的に考えて上の人間の方が理想的だな。

 

『見なさい、これが悪いことを考えている男の顔よ』

 

「フォウッ、フォウッ」

 

 前足で器用に猫パンチを頬にポンポン、と叩き込んでくるフォウを軽く無視しつつ、獲物を求めて歩く。最初は適当に兵士を捕まえて、そこから少しずつ情報を集めて行くのがいい形か? そう判断しながらどこから攻めるべきか、そう思考したところで、

 

 ―――視線を感じた。

 

「……」

 

 動きを止めず、ゆっくりと人ごみに姿を隠すように、歩く。反応はせず、気づかない風体を装いながら動きと魔術、気配に変更を出さず、そのまま普通に、姿を隠すように歩く。だが変化はない。視線がどこからか自分に突き刺さっているのを感じた。アサシン……ではない。アサシンであっても気配遮断を突破する手段を持っている訳ではない。それは冬木に出現したアサシンのマテリアルを見て、理解している事だ。となると魔術か? 魔術的に探知されたのか? それにしてはまるで気配がなかった。もし探知されたのであればそれに相応しい衝撃か、反応を感じた筈だ。それがないとなると、一番恐れていた事態だ。

 

 純粋に幸運のステータスで見破ったのか、或いは直感関連のスキルで()()()()()という形だ。真面目な話、クー・フーリンの刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)でさえ()()()()()()()()()()()()()()()()という裏ワザが存在するのだ。それを考えればサーヴァントの幸運か、或いは直感で突破できるのも納得の結果だ。

 

 これだから英霊という連中は理不尽で困る。

 

『知ってるわ! これ、ブーメランって言うのよね! クソゲーよ! クソゲー! 修正パッチを求め―――あ、やっぱり駄目ね! パッチを求めると24時間メンテが入るからね!』

 

 一体何を言ってるんだこいつは―――と、思いながらも、こうやって妖精とフォウが平常運転を続けてくれるおかげで此方が逆に焦りを覚えることがない。ゆえにこの連合首都、その大通りで撒こうと歩くが、しばらくしてその視線が全く外れない事を認め、これは逃げるだけ無駄だろう、と悟る。故に一気に大通りからその横、店と店の間の路地裏へと通じる道へと飛び込む。

 

「フォウ!」

 

『おぉー、追ってきた追ってきた』

 

 路地裏へと飛び込みながらシェイプシフターを手鏡に変形させ、後ろを確認する。追いかけてくるように飛び込んでくる連合兵士の姿が見える。やはり捕捉された事で気配遮断を突破されていたらしい。この状態で隠れる類いの能力を使ったとして発動できないだろう、完全にバレてしまっている。故に迷う事無くそのままスピードを上げて路地裏を駆け巡りながら、入り組んだ路地を曲がった瞬間、

 

 ―――透明色のエーテライトワイヤーへとシェイプシフターを変形させた。

 

 破壊工作を虚ろの英知からダウンロードし、その知識が命ずるがままにワイヤーを殺しやすいように一瞬で壁から壁へと設置した。その結果、追いかけてきた兵士がまっすぐにトラップゾーンの中に入り込み、悲鳴を上げるまでもなく体がバラバラになって死体となり、路地を転がる。ここでは立香やマシュの目がない。ある程度のダーティーファイトもここでなら遠慮なくこなせる。とはいえ、派手に殺しすぎると警戒されるからやりたくはないのだが、この場合は仕方がないとしか言いようがない。

 

「悪いな」

 

 仲間の死体を見て動きを止めた後続を一瞬の接近、刀への変形から居合を操りだして全部一気に薙ぎ払って切断した。それで追いかけてくる敵の姿はなくなったが、それと入れ替わるようにがしゃん、がしゃん、と音を立てて歩き寄って来る気配を感じる。此方が本命か、と完全に存在を特定された事に顔を顰める。今、逃げ出しても背中から潰されるだけだろう。

 

 特定者を潰して、それで逃亡だな、と思考を作る。

 

 そうした所で、路地の先に出現する姿が見えた。

 

 灰色の長髪、長身の青年の姿だった。胸元が開いている妙な鎧をしており、頭には角が、背には竜種の様な翼をはやしていた。その片手に握られる大剣からは凄まじい魔力が、それも神代に通ずるものを感知する事ができた。先ほどの連合兵士の様な雑魚ではない―――本物の英霊だ。それもクラスとしては大英雄クラスの。その場にいるだけで威圧してしまうのは大英雄だからこそ持ち得る圧倒的な風格。

 

 歴戦を潜り抜けてきた強者にのみ許される証だ。

 

 ほぼその直後、倒すことを諦めて手段の選ばずに逃亡する事を決定する。こいつとまともに戦い、倒そうとするのは()()()()()()。戦った場合のデメリット、消耗が酷過ぎる。ゆえに手段を選ばずにここからの離脱を考えた瞬間、

 

「―――サーヴァント・セイバー、()()()()()()()だ」

 

「―――」

 

 男―――セイバー・ジークフリートはそう名乗った。聖杯戦争では何よりも秘匿しなくてはならない情報を、そしてジークフリートという英霊だからこそ隠すべきその名を真っ先に公開した。それは様々な憶測を呼びながらも、ジークフリートから放たれる威圧感はまさしく戦気、戦う意思を見せるものだった。この男は戦う事しかおそらく選べないのだろう。

 

「すまない、と言わせて貰おう。卑怯かもしれない。だが私にはこれしかやり方が解らない」

 

「いや……名乗ってくれて助かった。今、逃げる所だった」

 

 大英雄ジークフリートは竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の英雄。その体は邪竜ファヴニールの血液を浴びたことによって高い無敵性を誇っており、

 

 ―――直に見た限り、高い宝具的防御力を持っている。

 

 おそらく、この男には刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)が通じない。そして、また同時に―――伝承通りならば竜の因子を保有する英雄、謎のヒロインZ……つまりはアルトリアに対して莫大な力を発揮することができるだろう。

 

 つまりこの男は現在のカルデアにおける二大最高殺傷能力を封じ込める事の出来る英雄だ。

 

 ()()()()()()()()()()()、相手だった。

 

 故に―――逃げられない。




 というわけで次回、vsジークフリート。ネロ祭で味わったことのあるあのクソ性能だよ!!

 すまないさんのなにが有能なの? って言うとまず鎧の効果でBランク通じないのでランサーが自害する。竜特攻でアルトリアも死ぬ。バルムンが連射可能な環境なのでエミヤさんに詠唱の時間など与えぬ。というオルレアンで確認した戦力をキッチリメタっているチョイス。フラウロスくん有能だけど素材おいてけ。

 がんばれ171号くん、絶望がゴールだ。

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