Vengeance For Pain   作:てんぞー

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プロローグ - 4

 ―――2014年現在、カルデアの主な役割とは、近未来観測レンズ・シバを通して向こう100年間の未来の安全確保と監視であり、そこに対して何らかの問題が発生した場合、それを除去するのが国連によって与えられたカルデアの役割である。その為に倫敦の時計塔、エジプトのアトラス院とすでに連携しており、両組織の技術者や魔術師達がカルデアのスタッフとして働いているのが見れる。

 

 現在のカルデアはアトラス院との協力で霊子演算装置・トリスメギストスという装置の完成を目指している。≪虚ろの英知≫によって刻まれた知識によればこれは未来観測や疑似霊子転移(レイシフト)と呼ばれる異なる時間軸へと介入するタイムトラベルと並行世界移動を同時に行う移動技術を補助する為の管制コンピューターとなる。その完成は知識によれば2015年に完了する様にスケジューリングされてある。

 

 ―――異なる時間軸への介入の試みはマリスビリーが存在していた時代から既に存在していた。

 

 事象記録電脳魔・ラプラスはカルデアの最初の発明。1950年に完成されたそれはレイシフトを行うときに、その対象となった人物を保護する役割を果たす。1990年に完成された疑似地球環境モデル・カルデアスは時間軸に関係なく特異点や星の状況を観測する為の道具であり、ラプラスと組み合わせる事でレイシフトの正確性を上げる事が出来る。

 

 そして1999年に完成された近未来観測レンズ・シバ、これは未来の状況を確認するための道具、装置であり、地球を常に監視する為の手段である。

 

 そう、全ては繋がっている。まるで最初から何かが起きることを予測しているかのように、シバはまだ何も観測していないのに、その先で何かが発生するのがわかっているかのようにマリスビリーは執拗に道具と環境を、そして戦力を整えていた。何よりも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。魔術に対する真向からのアンチであり、それは明らかに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という前提がマリスビリーにはあったことを証明している。

 

 また、2004年に発明された守護英霊召喚システム・フェイトが英霊を必要とする、或いはそういうレベルの敵との敵対、戦闘を考慮しているというのが良く解る。

 

 2014年現在、英霊が必要になるような出来事は発生していないし、その気配もない―――だが事情を知っている人間であれば、既にこの組織のキナ臭さ、そして未来への不信感があるのは当然のことである。

 

 ―――ここ、フィニス・カルデアには何かある。

 

 それも、マリスビリー・アニムスフィアと共に闇に葬られてしまった事実が何か、存在する。それだけは確信の出来る事実であった。2015年にトリスメギストスが完成する所で何かが発生するのかもしれない、というのは与えられた英知を利用して計算した結果だった。少なくとも、レイシフトという別時間軸への介入手段を完全な形で完成させる装置を用意したところで、それで何もしません、というのはあまりにも不自然なことだった。

 

『―――それを考え付いたところで何かするわけでもないんでしょ?』

 

 それもそうだ。己は所詮保護されているだけの立場。監視されている立場とも言える。何かを自主的に行うだけの権利は存在するとは思えないし、するだけのモチベーションはない。それに万能の人と呼ばれるダ・ヴィンチが存在するのだ、この程度の懸念や考え、あの大天才が考え付かないはずもないだろう。自分が心配するだけ、無意味なのだ。

 

 だから望まれたように、機械的に役割を遂行すればいい。

 

 そも、それ以外に己に機能はないのだから。

 

『前向きのような後ろ向きね。背中を向けたまま前へと進んでいるようで凄く凄く滑稽ね』

 

 自覚している以上、言い返す言葉なんて存在しなかった。だからその代わりに()()を払う事にする。

 

 カルデアの役割に戦闘が想定されている以上、戦闘用シミュレーターが施設内には存在し、それ以外にもマスター候補や戦闘員も存在する。そんな中、サーヴァントモドキである己は貴重な戦力であり、同時に様々な要素からデータを収集したい存在でもある。ただ人体実験というものが最早カルデア内ではオルガマリーの動きの結果なくなり、

 

 自分からとるデータは主に戦闘シミュレーターを通したものとなる。その為、定期的にシミュレーターを利用して、戦闘データをカルデアへと提出することが半ば、日常となっている。それ以外はダ・ヴィンチに診断を受けるか、或いはロマニと世間話をする程度のことしかここでは行っていないのだ。

 

 だからダ・ヴィンチと別れたところでカルデアの誇る戦闘シミュレータールームへとやってきた。金属製の自動ドアを抜けたところで四角形、真っ白な部屋に入る。そのままここにいれば発狂してしまいそうなそんな空間の中、中に入り込むとお、という男の声が聞こえてきた。

 

『アヴェンジャーくぅんじゃねぇか。なんだ、シミュレーターに挑戦か?』

 

 青い半透明のホログロフとともにアメリカ人の姿が映し出された。カルデアにおける戦闘シミュレーターのモニタリングと調整担当の男だ。確か元々はアトラス院の所属だったが、カルデアのほうが楽しそうだからと此方へと移籍してきた変態科学者の1人だった覚えがある。彼の言葉にうなずくとホログロフは消える。

 

『オーケイオーケイ、今日こそテメェをアヘアヘ言わせる為の特別コースを組んでやったから感謝しろよ! 毎回涼しい表情で突破しやがって―――まぁ、素顔さえ見れていないんだけどなぁ! はぁーっはっはっはっは!』

 

『私、こういう賑やかなのは人生を楽しむ為には重要な脇役だと思うわ。でもこういう人に限って真っ先に死んでいくのよね。世の中ってとても残酷よ』

 

 足元から声がすると思って視線を下へと視線を向ければ、光を受けて映し出される自分の影が妖精のシルエットをとっていた―――はたして他人からどういう風に見えるのか、それはそれで気になるところではあるが、その前にシミュレーターが起動するのを聞いた。小さくヴゥン、と起動する音に魔力が混じり、空間を捻じ曲げて行く。空間が拡大され、そしてその姿も変質し、足元に存在していた金属は消え、その代わりに鬱蒼と生い茂る草原へと変化した。

 

 視線を足元から持ち上げてみれば、周囲の風景も大きく変化しており、広い草原に立っているのが見える。上には青空と太陽が昇っており、室内ではまずありえない光景だった。だがこれもまたカルデアという組織、科学と魔術の融合の果てに再現するに至ったもの、明らかに現代の文明基準を超えるオーバーテクノロジーの産物である。

 

『……と、英知さんは言うのでした! 貴方の考えることはいつもワンパターンで飽きてしまうから、もうちょっと変化を加えましょう? クールと淡泊なのを勘違いしちゃだめよ?』

 

 妖精の言葉を無視し、ローブの中に隠れている右手を伸ばす。登録されている武装が動きに反応して手中に納まる。持ち上げればそれは半透明に濁った灰色の宝珠の様に見える。だがそれに力を籠めればあっさりとゴムボールのように変形し、そして掌の中で変形、膨張、成形されて行き、一瞬で思い浮かべたイメージへとその姿を変質させる。両刃の大戦斧へと変形したそれを肩に乗せるように抱える。

 

「……千変万化の悪夢(シェイプシフター)問題なし」

 

『イメージ通りに変形するアトラス製の武装、か。良くもまぁ、そんなおっかないモンを前所長は引っ張ってこれたもんだ……まぁ、それはそれとして、まずはウォーミングアップだオラァ! 軽くやるぞぉ!』

 

「……」

 

『テンション高いわねー、彼』

 

 それには同意する他なかった。彼だけではないが、カルデアの一部の職員は別世界からやってきたのではないか? と思わせられるぐらいにはテンションの高い連中が幾人か混じっている。全体的にダークで緊張感のあるクールな組織だが、そういう連中のおかげで完全にはそういう方向性で空気が固まっていない、そういう気がする。

 

 そう考えている間に、虚空から出現する姿が見えた。

 

『それではステージ1だ』

 

 響くような足音とともに出現してくるのは二メートルほどの巨体を持った人型の岩塊―――ゴーレムの姿だった。見ての通り、全身が岩でできているために非常に硬く、それでいて人間には発揮できない膂力を持っている。そのため、正面からなぐり合おうとするとあっさりと武器を弾かれて敗北するであろう存在だ。岩で出来ている、という時点で通常の人間ではどうあがいても戦うことの出来ない存在だ。

 

『ま、この程度ならウォーミングアップにもならないわね』

 

 横の大地に大戦斧を振り下ろしたわずかな揺れと共に草が舞い上がるのが見える。此方を認識したゴーレムが凄まじい速度で拳を振り上げて殴り込んでくる。それに合わせ、一気に跳躍しながら大戦斧を持ち上げる。頭上でそれを回転させながら正面から殴り込んでくるゴーレムを頭から叩き落とし、両断する。一撃でゴーレムが真っ二つに砕け、その残骸が大地に倒れるよりも早く、分解されて消え去る。

 

『ステージ2!』

 

 言葉と共にゴーレムが一気に三体出現した。大戦斧を即座に変形させて二挺のハンドガンへと姿を変え、両手で握ったそれを即座にゴーレム二体へと照準を合わせ、引き金を引く。発射された弾丸は神秘に対してダメージを通すことのできる神秘の材質、すなわちミスリルやアダマンタイト等の架空元素をベースに構築されており、当たり前のように神秘の被造物であるゴーレムに突き刺さり、内部で爆裂して二体のゴーレムを内側から粉砕する。

 

 だがそのゴーレムを盾にして飛び込んでくる三体目のゴーレムが出現する。

 

目には目を歯には歯を(≪虚ろの英知:ガンカタ+心眼≫)

 

 飛び込んできたゴーレムの拳を片腕と銃で弾きながら空いた胴体にゴーレムの機械的な反応よりも素早く銃を突きつける。それは近づき、触れるのに合わせるように溶けるように腕を覆って変形し―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()へと変形した。ノータイムで放たれた杭はゴーレムを当然の様に貫通し、その穂先にコアを突き刺したまま大穴をあけた。死亡が確定した所でコアも、ゴーレムもシミュレーターによって削除して消えて行く。

 

『つまんなーい! 弱すぎー!』

 

 妖精の不満の声に応えるようにシミュレーター内に連続で光が発生する。また同時に、オペレーターの声がする。

 

『オーケイオーケイ、ウォーミングアップはこれぐらいで充分だろ? それじゃあAチーム向けの訓練メニューから挑戦してみようか!』

 

 光と入れ替わるように出現するのは機械仕掛けのオートマタだった。人の形をしているが、ワイヤーが剥き出しになっているロボットとも言える存在。ゴーレム程の大きさはなく、力もない。だがそれを補う速度が存在し、その肉体は金属製だ―――その拳で殴られれば死ぬのはゴーレムであろうとオートマタであろうと、違いはない。

 

『1……2飛んで8体! やっと準備運動になりそうね』

 

 足元からの声を無視し、千変万化の悪夢を変形させながら備えた。直後、オートマタが飛び込んでくる。握られた拳は既にスイングされており、当たる軌跡に入っている。それに対しこちらのリアクションは、

 

 ―――喰らってやった。

 

 胸に叩き込まれる張り手が痛みを体に刻んでくる。だがそれは同時に、燃料でもあるのだ。

 

痛みに痛みを(≪復讐者≫)

 

 サーヴァントモドキとして機能するスキル、サーヴァントクラス・アヴェンジャー、そのクラスに備えられた復讐者のスキルが機能を果たす。痛みを覚えればそれとは関係なく力が湧き上がってくる。魔力が肉体を満たす。致命傷に届かない傷はアヴェンジャーというクラスにとってはただの燃料にしかならない。故に体を満たす力に任せ、二撃目を放とうとするオートマタを蹴り飛ばし、

 

「千変万化の悪夢―――」

 

 シェイプシフターを大地に落とした。その反応は素早く、空間を制限するように大地から壁が生えた。オートマタ達が出現した壁の内側へと逃げ込むように動き、そして飛びかかってくる。

 

「―――ラビリンス」

 

 そして飛び込んできたオートマタがバラバラになった。対神秘用の兵器、エーテライトによるワイヤートラップに自ら飛び込んでくる形でオートマタが二体ほど自滅した。それを見てオートマタが動きを止めた瞬間、展開されていたシェイプシフター・ラビリンスが一気に動き出し、

 

「デモンズウォール」

 

 淡々と、処理するように、作業のようにラビリンスの壁を閉じた。その内側に存在していたオートマタ達は全て、逃げ出すこともできずに壁に潰されて消え去った。終わったところで即座にシェイプシフターを手元に戻し、大戦斧の姿へと戻して方に担いだ。

 

「次を、頼む」

 

『ぐぬぬぬ、よぉし、今度はステージ8だ……!』

 

『間のステージはいったいどこに消えたのかしら?』

 

 さあ、と胸中で答えながら見えてくるゴーレムとオートマタの混成部隊に身構え、そのまま、戦闘データ取りを続行する事にする。




https://www.evernote.com/shard/s702/sh/86408ad3-b1d2-4ad0-8796-2a9f33a33bec/d5ad5b13446ca039d2a4529fa1482e4b

 さーヴぁんと の でーた が こうしん されました。

 という訳でチュートリアルのような何か。俺がGMで貴様らがプレイヤーだみたいな感じのナニカ。さぁ、貴様ら171号くんに種火と再臨素材をささげるのだとかいう感じのノリでデータ弄ってる。

 戦闘はデータよりもリアル重視というか原作重視で。

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