迷うことなく引き金を引いた。
簡素なハンドガンは通常よりも遥かに複雑な機構をしており、その内部には幾何学模様の魔術サーキットが設計されている。もはや銃内部に刻印された幾何学模様は人類の理解の外側にあるものだと思ってもいい。ただ、一つの事実として理解可能なのはこれが英知に結びつくものであり、経験と合わさり、その設計図が引きずりだされた事であり、それを通してできることが増えた、というだけの事実である。その効果は恐ろしくシンプルで、
ただ単に魔術を放つだけ。
だが武器という形を通して威力は増幅されており、それこそ剣や弓で殺すのと大差ない威力を発揮できるのを理解していた。
ゆえに、
迷うことなく引き金を引いていた。
「
「
引いた引き金の前からアッティラが体を反らして回避した。それに踏み込んで銃口を突きつけるように向けるのと同時に、振るわれる三色に光る軍神の剣が振るわれてくる。それを銃身で受け、殴り、払いながら左手で掌底を生み出しながら震脚と共にアッティラへと向けて放つ。それを凄まじい速度でアッティラが回避に入る。ダメだ―――肉体的なスペックが根本的に違いすぎる。生物としてのスペックがまるで違う。
だからこそ、反応できる。
弾く、いなす、流す、誘導する。神性を保有する明確な形の復讐対象は心の憎悪をかつてないレベルにまで燃え上がらせるだけではなく、全身に魔力をみなぎらせていた。それこそ多重に魔術を使用して肉体を強化し、予言と予知を同時に使用し、その上で虚ろの英知による技術補正を差し込んでもまだ余裕がある。そう、血肉が叫んでいる。こいつを殺せ、と。そこには一切の手段を択ばない。三合、六合、十合、と片腕と銃で軍神の剣と理不尽にかち合い、生き残り、無傷で全てをいなす。
ただの人間とこのスペックではありえない現象だった―――だがどうでもいい。
勝てるなら。殺せるなら。
故に動く。次の動きを作るのは一人ではないから。
「いい感じだ、心臓貰うぜ―――
一人では動かない。アッティラの後ろへと下がる動作に合わせ、背後から飛び出したクー・フーリンが一瞬で心臓を貫通させた。横へと後続の動きを作るために動くが、その中でアッティラが心臓を穿たれても動くのが見える。まだまだ魔力の陰りは見えない―――戦闘可能らしい。
「繁栄はそこまでだ」
「おぉっと、そう簡単には当たってやらねぇよ―――おい」
「解ってる」
クー・フーリンが宙返りを決めながら薙ぎ払いを回避するのに合わせショットガンへと変形、素早く射撃する。それによるダメージを無視して接近してくるアッティラに合わせて跳躍しながら無色透明の刃を空中に形成、踏み込んでくるアッティラが肉体強度でごまかしながらゴリ押してくる様に踏み込んでくる。それに合わせ、炎がアッティラを横から殴りつけ、次の瞬間には大地が隆起し、一気にその姿を押し上げた。
「さて、お膳立ては済ませたぜ」
その言葉に応えるように祝福が響いた。
「―――春の日差し、花の乱舞、皐月の風は頬を撫で、祝福はステラの彼方まで―――」
花弁が舞う。世界が書き換わる。それはエミヤの行った大魔術に近い現象だった。それにより世界は一瞬でその姿を変え、暴君ネロによって支配される、彼女の世界へと姿を変えた。その中で、真紅の衣装を着ていた筈のネロはその装いを大きく変化させ、真紅の衣装から白い、花嫁のような衣装へと変貌させていた。
「開け、招き蕩う黄金劇場! 謡え、
黄金劇場というネロが絶対存在として君臨する領域内で、赤から白へと色を変えた少女がその剣を落ちてくるアッティラに対し一閃、した。それとともに舞う花弁はまるで彼女を喝采するように鮮やかに舞い、アッティラに傷を刻んだ。しかしそれは生み出されるのと同時に、時間が逆行するように塞がって行く。それに対抗するようにクー・フーリンがおらぁ、と叫び、
アッティラの胸に突き刺さるゲイ・ボルクから全身を貫く様に棘が伸びた。
「―――
だがそれでもアッティラは動きを止めることなく動いた。それに反応し、一気に踏み込む。アッティラの敵意が此方へと向けられる。閃光が斬撃となって黄金劇場の床と壁を引き裂きながら放たれるのを横へとスウェイしながら回避し、引き金を連続で引く。それがアッティラの体に突き刺さるが、まるでその動きが遅くなるような事はない。戦闘開始時と変わることのない威圧感、魔力で動いてくる。
「俺、ランサーなのに槍がねぇんだけど」
「スペアとかないのか! スペアボルクとか! えぇぃ、使えん奴だな! というかアレ心臓なしで動いているの凄いなぁ! あとランサーの槍超無能!」
「一応ルーン魔術でも戦えてるんだけどな! あとお前マジで口の悪さ変わらねぇな!」
「じゃれるのは戦い終わってからにしろお前ら! クー!」
「お、サンキュ」
バックステップで銃を槍へと変形させ、それをクー・フーリンへと投げ渡しながら今度は仕込みナイフを抜いてアッティラへと向かう。クー・フーリンとネロと、自分で三方から襲い掛かろうとした瞬間、アッティラの剣が回転し始めた。それを目撃した瞬間、三人同時に飛びのき、背後から声が響く。
「マシュ! ブーディカさんお願い!」
「任せてください!」
「前のままならともかく、弱ってきた状態なら―――!」
「破壊する」
言葉とともに軍神の剣より閃光が放たれた。それに割り込むようにブーディカが戦車を、そしてマシュが仮想宝具を展開した。それにより黄金劇場に罅が入り、悲鳴が響く。だがそれでもマシュもブーディカも押しつぶされる事はなく、そのまま、軍神の光を耐えていた。それは黄金劇場という領域がアッティラの動きを制限している事、アッティラに突き刺さるゲイ・ボルクが彼女の力を制限している事、そしてダメージを受けているという事実が否定しようもないという事実にある。ゆえに首都で放たれた破壊よりははるかに小規模、それでも山を消し飛ばすレベルはあるそれを正面からマシュとブーディカは宝具を同時に展開し、令呪の支援を貰う事で耐えていた。
その瞬間、クー・フーリンが攻撃の動きに潜り込んでいた。渡された槍は赤く、呪いを刻むように輝いており、大凡、恨みや怨恨の類が宿っているのが可視出来るレベルで込められていた。聞こえてくる怨嗟の声は
「影の国流仇討の術、ってな。オラ、返すぜ」
すれ違いざまに魔技としか説明しようのない、霞む様な動きでアッティラの片腕を根元から切り飛ばした。それによって軍神の剣が中断され、黄金劇場の破壊が停止する。その中で、投げ渡された槍を銃へと戻しながら、それにすでにルーン魔術が刻印されているのが見えた。本当に優秀すぎる戦友だと思いながら、片腕となったアッティラを討伐すべく、踏み込んだ。
「瞬、間、強化……!」
立香の魔術支援が入る。そうやって判断できるまで成長したんだな、と思いながら左手にナイフを、右手に銃を握る。動きの止まらないアッティラは残った腕で拳を握って振るって来る。それをナイフで斜めに振るう様にいなしながら、軌跡の重なった腕を切断するように突き刺し、抉り、そしてそのまま背後へと抜けるように手放しつつ回り込みながら銃口を片手で後頭部に突き付けた。その動きに追従したのか、ネロの剣もアッティラの胴を完全に捉えていた。
完全な詰み、だった。それを悟ってか、アッティラの動きが完全に停止していた。
「遺言があるなら
その言葉にアッティラが口を開いた。何かを告げようとするのだろうか?
「
引き金を引いて頭を吹き飛ばした。その向こう側で、ドン引きの表情を浮かべるネロの顔が見れた。視線をクー・フーリンヘと向ければ、手を横へと振っているのが見える。そこから立香やマシュへと視線を向ければ、全力で頭を横へと振っているのが見えた。それに引き換え、背中にぶら下がっている妖精は耳元で大爆笑していて凄い煩かった。
『いやぁ……ほら、一応ボクら正義の味方というかそういうもんだからさ、もうちょっと慈悲があっても良かったんじゃないかな……』
「いや、カミを殺すことしか頭になかったから……」
「……あ、そういえば兄貴って神性あったよね」
「
視線を消え行くアッティラからクー・フーリンへと向けた。それを受けてクー・フーリンが両手でバツの字を描く。
「おい、なんだよ。なんだよその視線。俺特に何も悪い事してねぇだろ。というか味方だし今回はクッソ働いてるじゃねぇか! いいか、いいな? お前が俺に手を出せばそれはつまりあの腹ペコ王と同じカテゴリに落ちるってことだぞ? いいんだなテメェ! 俺を殺ったらお前はアレと同じジャンルに落ちるんだからな! お前もハラペコゴッドスレイヤーって呼んでやるから覚悟しろよ」
「クソ必死な兄貴の姿に涙が出そう」
「流石に戦友を射殺する程酷くないさ、俺も。心外だな……」
「その戦友が一回俺を射殺してるんだよ!!」
ふぅ、と息を吐きながら片手で頭を支える。戦闘中感じた酩酊感、興奮感、高揚感がアッティラの消滅とともに消えた。カミ―――純粋な神性、或いは信仰されることによって神性を得た存在を殺す事が出来ると理解してしまった瞬間、その憎悪と殺意で悪酔いしてしまったような気分だった。いや、実際に酔っていたのだろう、憎悪に。ここまで純粋な憎悪を一つのことに対して、生物に対して自分が抱くことができるとは思いもしなかった。
いや、だが、
『それが復讐者の本質よ。貴方の本質は
トワイスも、■■も、父も、母も、ヒマラヤから戻る事のなかった門司も―――そして俺も。啓示、カミという存在の奴隷だった。当時は魔術の知識が一切なかった為、ひたすら自身を恨む事しかできなかった。だが今、こうやって、実在するカミの存在を自覚したところで、この憎しみや怒りは決して無駄ではないと知れた。
『そうよ、貴方は復讐者。許しなんて必要ないわ。理解される必要はないわ。貴方は怒りの化身。それがアヴェンジャーというクラスの本質。貴方には人であった頃からその素質があった。そして今、貴方はその本質にたどり着いたわ。こと、神を殺すという行いにおいて貴方に勝てるサーヴァントは早々いないでしょうね―――何せ、復讐と咎人としての権能がすべてそちらの方向へと向けられているのだから』
そうね、と耳元で声がする。
『たぶん神性特攻がなければアッティラちゃんに攻撃を突き刺すことさえできなかったんじゃないかしら。ほら、サーヴァントとの戦いって概念の押し付け合いって部分あるし。相性ゲーって重要よね』
それほどまでに絶望的な相手、という事だったか。まぁ、勝てただけ、まだマシなのだろう。ゲイ・ボルクを拾い上げてクー・フーリンに渡しつつ、アッティラのいた場所に浮かんでいる聖杯を回収する。ネロと立香らが最後の別れをしようとするのを見る。気づけば自分もネロも、誰もが光の粉に包まれていた。聖杯が回収されたことにより、特異点としての機能が停止、人理定礎が復元されたのだ。
これにより、特異点での記録はすべて消失される。ただ、修復されたという事実だけが残るのだ。
「―――悲しい戦いだな」
「ま、そうだな。誰かが覚えている訳じゃねぇ。記録が残る訳でもねぇ。誰の記憶にも残らず、座にすら記憶が残らねぇ戦いだ。覚えているのは今、こうやって戦いに参加する俺らだけだ。まぁ、俺たち英霊ってのはそういうのに慣れてるわ。だけど……あいつらには辛いだろうなぁ……」
クー・フーリンの言葉が立香らへと向けられていた。マシュや立香が半分、涙ぐみながらネロと、そしてブーディカとの別れを告げている。この先ネロの召喚に成功したとしても、彼女はもはや、立香やマシュのことを覚えていない。
「決して誰にも賞賛されず、誰も理解せず、そして評価もされない。そんな戦いに子供が参加しているの、か」
「被害者で言えばお前も似たようなもんだろ?」
クー・フーリンの言葉に違いないな、と嘆息する。ただ、立香やマシュと違い、俺はそこまで他人には執着しない。ある種のセーフティを置いている。完全に誰かに心を許すという事をしない。自分が死んでも、相手が死んでも良いように。だから自分は別にいいのだ。
「……ま、俺が言う事でもねぇな。お疲れさんアヴェンジャー。神を相手する時には頼らせてもらうぜ―――あぁ、ヘラクレスとか特にな。お前に戦うの全部任せるわ」
「流石に死ぬからやめろ」
クー・フーリンとくだらない事を口にしつつ、徐々に消えて行く視界の中で―――第二の特異点修復、その完了を見届けた。
vsアッティラ(アルテラ)決着。うるせぇ死ねぇ!力の高い戦いだった……。そしてやっぱり強すぎる槍ニキ。お前ほんと大英雄だよな! ギャグのように死ぬのに!
そして特攻って大事ですわ(FGOのダメージ計算式を見ながら
という訳でセプテム終わり。オケアノスの前にコミュったりイベント開催っすなー。
ガングレイヴ。つまり銃葬。対英霊や■の■■を通した銃による殺害可能概念の刻印。つまりは銃で撃たれれば人は死ぬって基本的なルールの順守なだけである。とてもふつーふつー。