海岸で団子パーティーと、そして聖人との交流、エミヤ達は佐々木小次郎とかつて彼らが経験したという第五次聖杯戦争についてを軽く語り合ってから、別れてそのまま先へと進む事になった。海岸を離れて街道に乗ると、いつも通りウェアウルフが邪魔をするように襲い掛かってきていた。もはやウェアウルフの対処にも慣れたもので、戦闘は面倒になった部分もあり、エミヤが赤原猟犬を大量に投影し、それを適当に放ったら後はオートで殺戮するという作業じみた光景を開始し、本人もカルデアによるバックアップのおかげで出来る事のため、どこか感慨深そうな表情を浮かべつつ、妖精曰く、
全自動団子狩りマシーンが完成された。あとは団子が落ちている方角へと、それがドラゴンスレイヤー団子チームに示された道であるのだと確認しつつ進むだけであった。夜、夜風に当たりながら旅をするというのは立香とマシュには初めての経験だったらしく、ロンゴミニアドの光が照らす範囲、興味深そうに辺りを見ながら段々と草地の大地から荒野へと足場を変えてきていた。敵もウェアウルフから変わり、ゴーレムが次第と目立つようになってくる。
それでも結局は、最低限英霊であれば一撃で倒せる程度の雑魚でしかない。
団子を回収し、カルデアから支援物資として送られてきたあんこを団子の上に乗せ、歩きながらもそれを口の中に放り込んで味わう。どうやら妖精も最近では視覚だけではなく、味覚や触覚までをも共有しているらしく、此方が団子を食べていると、幸せそうにしなだれかかってくる。発言と中身の厄さで忘れそうだが、一応は女子なのだ―――これも。まぁ、そうしている間は可愛くて静かなので、悪くはない。
ただ、歩きながら思い出すのはかつての旅路だった。
聖女マルタ、そして聖人ゲオルギウスは、そう呼ばれるのに相応しい清廉な人物達だった。あの二人は聖人と呼ばれるのに相応しい精神性を持っておきながら、主の教えというものを狂信、盲信していなかった。宗教とはあくまでも道標であり、その真実は個人の自由であるというのを理解した上で、その道に殉教する事を選んでいた。彼らは悟りを開かなかった。彼らは至った訳ではなかったのだ。だがそれでも、苦痛の満ちるこの人間の世の中で、自分が信仰するのに相応しい、それだけの理由を見つける事ができたのだ。
聖人と呼ばれるマルタとゲオルギウスはしかし―――人だった。そしてそうやって二人を通してみることで、オルレアンのジャンヌ・ダルクを思い出す。彼女もまた人だった。迷い、苦しみ、嘆き、そしてその先の終わりで
―――俺にはそれが納得できない。認めたくはない。認めたくはなかった。
「そう、俺はそれが我慢ならなかった」
神は人を生み、悪戯に運命に干渉する。だが彼らの玩具である人は時折、その手から逸脱する超越者を生み出す事がある。星の開拓者とも呼ばれる彼らは人類のバグと呼んでも等しい存在だった。だから、そう、全ては神の掌の上ではない。それだけは確かだった。きっと、門司は正しいのだ。それだけは確信していた。あの男は悟りの境地にあったと言ってもいい。アレはすでに俗世から半歩踏み出ている。だから人類というカタチを俯瞰できる。だからこそ、あの男の言葉に疑いはない。
だけど、
聖人達との会話を通してやはり、思った。どうしようもなく、自分は、不安なのだ、と。過去も、未来も、そして現在さえも解らない自分の事が。だから、極々自然に思い出した感情があった。そう、思い出してしまったのだ、心臓を掴み、放さないように握りつぶそうとするこの感情を。
―――恐怖だ。
俺は、死ぬのも答えを得るのも怖いのだ。
「くんくん……くんくん……お団子の気配はこっちね! 私へのお供え物……!」
「アレ、隠す気があるのか?」
「いい感じにマスターとマシュがくしゃみをしている間の発言のあたり、女神の必然力の力らしい。そんな無駄なことに神の力を使わないで欲しいと言いたい」
張り切ってお団子サーチをしているオリオン(仮)の姿を後ろからエミヤとひそひそ声で話しながら眺めている。オリオン(仮)が指差した方角へと向け、妖精が目を凝らすと、僅かにだが空へと向かって上る煙が見える―――また焚火か、と思いつつも、これは誰かが存在するという証でもあった。ぴょんぴょん跳ねながら団子、団子と口うるさくする女神の相手はめんどくささの極みにあるので、完全に相手を立香に丸投げしている。
時折ヘルプコールがはいるが、男性一同はそのコールを完全に無視する事にしている。
誰が好んであんな恋愛ゆるふわ脳と話したいというのだ。そんな事で先頭とやや温度差が開きつつも、女神式団子探知術で大量の団子の気配へと向かって進んでゆけば、やがて、焚火を囲む二人組を見つける事ができた。片方は褐色肌の男であり、もう片方は腹が大きく出た赤い服装の男だった。両者共に直接的な面識はないものの、その正体はマテリアルを熟読する事で理解している。
「カエサル帝とカリギュラ帝か」
「いかにも、私であり」
「ロォォォォマァァァァ!」
「である」
「今の流れ絶対スタンバって練習してたな、このぽっちゃり皇帝」
立香も立香でサーヴァントに対するしゃべり方から一切の容赦が消えている。最初に見せていたサーヴァントに対する怯えというものが完全に消え去っている。そういう所を見るとまず間違いなく成長していると言えるのだが、気難しいサーヴァントの相手はこのままで大丈夫か? と思わなくもない。ともあれ、立香がカエサルとカリギュラを前にしながらもハンドサインをさりげなくしてくる。それは戦闘準備、というハンドサインだった。いつの間にそんなものを、と思ってエミヤへと視線を向ければドヤ顔が向けられてきた。教えたのはお前か。
そう思いつつも、中央で二パーツに折れるように分かれる直径二メートルのバスターライフルをシェイプシフターで形成する。繋ぎ合わせて完成させた姿の中央手前を右手でつかみながら、末端部分を脇で抑え、左手を添えて支えないと持ち上げられないほど重く、長大なライフルである―――無論、アトラス院の技術者、そしてカルデアの技術者がワンハンドデスマッチを開催しながら開発したという頭をキメてる経緯の果てに完成させれた
少しぐらい軽量化させるフリぐらいはしろ。
ともあれ、弓よりも此方のほうが感覚的に合う―――というより原始的な武器よりも近代兵器のほうが中東での経験の結果か、良く馴染むのだ。その為、
「いや、待て、裏で何をやっている」
「いや、戦闘準備」
「待て待て待て。それは少々早計ではないか? 貴様が使命に燃え、全力を尽くすのはいい。だがその為に一番手短な手段として暴力を選ぶのはいけない。マスターであるならば思慮を選ぶべきだ。目の前の相手がどういう存在であり、そして何を尊ぶのかを理解するべきである。そのうえで私は言いたい」
「せんせー、あの岩山にぶっぱオナシャス」
「
立香が指さした方角へと向けて適当にぶっ放す。光が地を砕く力となり、銃口から放たれた砲撃とも表現する破壊は最初の一瞬はか細い光の筋が一瞬出現して消えるだけだったが、直後、その先にある岩山に衝突し、そのまますさまじい衝撃と爆裂を生み出しながら岩山を大きく抉って吹き飛ばした。
「カエサルってほら、まず間違いなくしゃべらせると煙に巻かれて追求したいことが追及できなくなるから先に武力を背景に上から押しつぶすのがいいかなぁ、って」
「正しい、実に正しい。正しすぎてその遊びもないやり方を教えた者が誰だか気になるぐらいだ。うん? 余裕がなくてはいかんぞ? なにせ、余裕とは人生の彩だからな」
「謎のヒロインZさーん」
「そぉい」
別の岩山が消し飛んだ。今度ははっきりと、影も形さえも残さず、クレーターしか残さない。やはりロンゴミニアドの様な宝具と比べるとこれでは威力が低いなぁ、と悩まされるのは事実だった。いや、だがロンゴミニアドは連射が利かないという明確な弱点を持っている。それと比べ、まだ連射が利く此方は持てる役割が違う。そう考えよう。隙のある大技と、その合間を埋めるコンビネーション、そう信じよう。
エミヤの方が遥かに便利とか考えたら自分の存在意義が危ないからそう考えるのは止めよう。
『ぶっちゃけエミヤに特攻武器を出させてそれを装備すれば特攻系スキルとかいらないわよね』
「的確に俺の存在意義を失わせようとするのはやめろ」
小声で他の誰にも聞こえないように呟く。ダメだ。一度そうやって考え始めると、嫌なことばかり頭の中に浮かび上がり始める。それをかき消すように軽く頭を横へと振り払った先で、カリギュラがカエサルを諌めていた。どうやら団子を守ろうとするだけ無駄だとカリギュラの方は先に悟ったらしく、大人しく団子を返そうとし、カエサルは団子の存在を名残惜しみながらも、それに渋々従うことにした。
バーサーカーにしては理知的な面を見せるカリギュラの姿に少しだけ、驚いた。
だがその直後、団子を渡そうとそれが入った巨大な袋を開けた瞬間、真っ二つに割れたのを見て別の意味で驚いた。
「お団子はいい文明。破壊しない」
『えぇー……』
「これありっすか……えー……」
破壊神が袋の中から出現した。しかも団子を食べている。真っ二つに割れ、ネロォと叫んでいるカリギュラのことを全員が無視し、しばらく無言のまま、袋の中から出現したアッティラ大王を見ていた。ローマで見せた無機質で破壊神的な姿は潜み、まるで普通の少女のように団子をおいしそうに食べていた。その大きすぎるギャップに誰もが動けずいるか、或いは呆れていると、
「あっ、セファ―――うん! 私急用思い出したから帰るわ! それじゃあ! やっぱり団子より命よね!」
「女神貴様!! ここでぶん投げるのか!!」
またあとでねー、とか言いながら空を飛んで女神が逃げて行く。お前、それができるなら最初からやれよ、と思いつつ、なんだこれ、としか言葉が出なかった。というかそこで逃げるのか。そうか、逃げてしまうのかー。
「やけっぱちになっていないかアヴェンジャー」
「正直半ばなってる自信はある」
エルメロイ2世はそうだよなぁ、とどこか、深い疲れを感じさせる溜息を吐いていた。それだけでこの男も日常的にカオスの被害を受けていたのだと悟れてしまった。そこまで軽く場が混沌としたところで、団子を食べていたアッティラは袋からもぞもぞと出てくると、軍神の剣を抜いた。
「我が名はアルテラ。アッティラではなくアルテラ。アッティラは可愛くないのでアルテラだ」
「あ、はい」
「お団子はいい文明」
「はい」
アルテラの視線が飛んで逃げる女神へと向けられた。
「お月見は悪い文明」
「一概にはそう言えないんですけど、今回に限ってはそれが否定できないのが物凄い所ですよね」
マシュのその言葉に全力の同意がかかった所で、カエサルが待て、とアルテラへと言葉をかける。
「というかなぜカリギュラを切り殺した」
「いきなりアップで怖い顔があったから」
「それはしゃーない」
「死んで当然だな」
うん、そうだな、問題解決―――カルデアに帰ってふて寝したくなってきた。というか今から帰って寝ちゃダメなのだろうか。もう、なんか、人理修復とか記憶を追いかけるとか激しくどうでもよくなってきた……。
『頑張れ、ほんとマジで頑張って! ここで折れちゃ駄目よ! ほんと、あきらめちゃ駄目だから! 心を強く持って! お願いだから諦めないで! 冗談じゃなく! ほら、マスターくんがなんか仕事して貰いたそうな顔をしているから!』
本当か、って視線を立香へと向ければ、
「先生、多少手荒でもいいんで、そろそろ横暴な女神をひっとらえて事情聴取ってことで」
「その言葉をずっと待っていた」
まぁ、何というべきか―――隠そうともしていないんだから、少し考えるか入れ知恵すれば余裕で解る。それだけの話だった。ともあれ、そうだな、頼まれては仕方がない。
「このもやもやとカオスと鬱憤の復讐を受け取って貰おう」
ちょうど、対神でぶっ放した場合、一撃で消し飛ぶかどうかを試したかったのだ―――精々一撃で消し飛ばないことを祈って連射しよう。そう思考してから、
鬱憤を晴らすがごとく―――夜の空に乱射した。
戦力がそろっていてどう見ても確殺なのにそう都合よく戦闘に発展するわけがないだろ!! 戦うのを躊躇するわ!
まぁ、事情知ってるというか神だったら逃げるよな。しゃーない。