Vengeance For Pain   作:てんぞー

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大英雄 - 3

 飛び込む此方に反応しヘラクレスが咆哮を轟かせる。その巨体から放たれるプレッシャーはアルテラを思い出させるが、この大英雄にはアルテラのような聖杯と直結したバックアップは存在しない。素のままの状態でアレに匹敵する恐怖を纏っているのだ。お前は本当に人類なのか? と疑いたくなるような化け物っぷりだ。まず、間違いがない。英霊としてはトップクラス、最強の一角に立つサーヴァントだ。そんな存在に正面から挑む己がいる。普通に考えれば勝てる訳がないだろう、これは。

 

 まぁ、殺すのだが(≪聖人:咎人≫)

 

「理性をなくしているとはいえ、相手は欠片だけ知性を残した(≪軍師の忠言≫)存在であり、また戦士だ。殺すときは確実に殺しに来る。それが戦士の誇りというやつだろう。射殺す百頭(ナインライブズ)のキモは剛力ではなく、その肉体と、特に腕全体の柔軟性に見える。アーチャー、腕を自由に(≪軍師の指揮≫)動かさせるな。アヴェンジャー、素早い動きで常に牽制しつつ隙を伺え。距離を離せば有利に思えるが、逆に不利になるぞこいつは」

 

 飛び込んだ。

 

 空中で大戦斧と斧剣が衝突し、こちらが弾かれる。後ろへと回転しながらアンカーへと変形させ、ヘラクレスの返しの一撃が振るわれる前に大地に突き刺し、体を引き寄せて下へと抜けて回避する。その瞬間、八つのAランク宝具が弾丸のようにヘラクレスに襲い掛かった。ブリッジを描くように後ろへと倒立し、一回転したヘラクレスの姿を狙い撃つように武装を変形、バスターライフルへと変形させて引き金を迷うことなく引いた。

 

「―――梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ)

 

 ヘラクレスの全身を飲み込む閃光が駆け抜けた。それに反応するようにヘラクレスがその腕を自由に振るった。九つの斬撃が正面から古代の奥義と衝突し、互いに相殺しあった。此方が古代インドの奥義を不完全ながら使っているのに対し、相手もまた狂化という()()()によって奥義である射殺す百頭(ナインライブズ)を弱体化させられている。そう考えると互いに相殺できるラインで並ぶのだろう。ならば、

 

話は簡単よね(≪接続:供給≫)?』

 

「―――お前はここで死ね(≪自己回復(魔力)≫)

 

 引き金を引いた。体が反動によって地面を削りながら後ろへと下がる。だがそれでも再び引き金を引いた。両手でバスターライフルを抑えながら連続で引き金を引いた。一発、二発、三発、四発、五発と連続で放たれた梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ)が大地を消し飛ばし、進路上にあった剣を欠片も残すことなく蒸発させながらヘラクレスを飲み込んで消し去るために迫りゆく。だがそれに対してヘラクレスが選んだのは逃亡でも防御でもない。

 

 突進と迎撃だった。

 

「■■■■■■■■■―――!!」

 

 踏み込みながら射殺す百頭(ナインライブズ)が放たれ―――それを射殺す百頭(ナインライブズ)で繋げた。宝具級の奥義を奥義で繋げるというありえない現象をこの大英雄は成し遂げていた。まるで難行に挑み、達成してこそ大英雄と名乗り上げる事ができる、それが許される存在であることを証明するかのように。はっきり言えばめちゃくちゃだった。

 

『だけど殺すんでしょ?』

 

 ―――無論。

 

ここだな(≪鑑識眼≫)

 

 五連発の梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ)を乗り越えてさらに加速したヘラクレスが正面に出現した。それと同時に剣の丘、その大地を突き破って槍が二十生え出した。それが飛び込んできたヘラクレスの足を貫通し、その動きを完全に停止させるように縫い付けた。

 

「本能のみで戦うとこういうところでしくじる……つくづく別のクラスでは相対したくないな」

 

 ヘラクレスが咆哮しながら正面、動かない下半身を無視して腕を振るってくる。一撃でもくらえば即死する程の威力のある奥義、射殺す百頭(ナインライブズ)だ。だがそれを阻むように空から落ちてきた石柱がヘラクレスの動きを槍と加えて一気に押し込むように封じ込めた。葉巻を片手で握り、それをヘラクレスへと向けた、エルメロイ2世―――いや、諸葛孔明の宝具だった。

 

「大軍師の究極陣地。石兵八陣(かえらずのじん)。さあ、難行の様に突破できるのであればしたまえ大英雄」

 

 ヘラクレスが吼える。その視線は戦場のすべてを捉えるようであり、逃がさないという殺意を孕んだものだった。だがヘラクレスの動きはこの瞬間、完全に停止していた。そのため、完全なフリーハンドを得たこちらは躊躇することなくシェイプシフターを大戦斧へと姿を変形させた。片手で振り上げるには無理のありすぎるその巨大な姿を無理やり握りしめながら、全身の殺意をその一擲に叩き込む。

 

お前は―――(≪復讐者≫)

 

 踏み込む、大地を踏みしめる。ヘラクレスの命を俯瞰する。

 

ここで―――(≪聖人:咎人≫)

 

 慈悲も迷いもなく、最速で大戦斧をヘラクレスの首に向かって振り下ろした。

 

「―――朽ちてゆけ(≪獣の権能≫)

 

 音もなくヘラクレスの首に突き刺さった大戦斧はそのまま、肉を完全に貫通し、切断した。あっけなく切断されたヘラクレスの首は剣の丘に落ち、そのまま追撃で降り注いだ剣雨によって蒸発する勢いで消え去った。それに合わせてヘラクレスの体を蹴り飛ばしながら後ろへと跳躍し、着地した。そのままヘラクレスの体を眺め続ける。十二の試練(ゴッドハンド)が発動し、蘇ろうと魔力が高まる。だが一向に蘇生が開始されない。

 

「これは―――神に纏わる神秘の無効化、か」

 

 エルメロイ2世が冷静に蘇生をしようとしながら死に続けるヘラクレスの姿を見て、呟く。さすがの慧眼だ。それを正解であると肯定する。

 

「神を否定するならまずその痕跡から殺害しなくてはならない―――まぁ、そんな本能的な殺意と獣性がまだ完全じゃなかったスキルに影響を与えた結果だな」

 

「私やドレイク船長の様な信仰を一切行わない存在にはまるで無害だが、ハマれば一方的に殺せるという奴だな。味方にすると頼もしいものだ」

 

 やがて、十二の試練がその機能を完全に果たす事はできず、ヘラクレスが魔力に分解されて消えて行く。その姿を見て、ほっと息を吐いた。絶対に1対1で勝負なんかしたくはない英霊だった。その場合はおそらく、いや、ほぼ間違いなく相打ちに持ち込むのが精々だろう。その1回で殺せる事をよくやったとみるか、そこで終わってしまう事を惜しいと思うか。それで評価が分かれてくるだろう。ともあれ、これでヘラクレスの討伐は完了した。必要以上に固有結界の中に留まる必要もなく、エミヤが固有結界を解除する。

 

 ヘラクレスの討伐が完了した剣の丘から世界はあの浜辺へと戻る。

 

「さて、戦況はどうなっている?」

 

 エルメロイ2世の声に合わせて他の面子を探そうとしたところ、沖の方から強い魔力の気配を感じ、沖の方へと視線を向けた。そこではすさまじい光景が繰り広げられていた。まず魔神柱がアルゴー船を苗床にするように聳えており、空へと延びる高さを見せながら穢れの大河を発生させ、連続で爆裂を発生させていた。

 

 それに対応するように海の上を走るアルトリアがロンゴミニアドを振るっており、振るわれる度に光の爆発と斬撃が連続で魔神柱の姿を遠慮なく削ってゆき、そこに飛び込むランスロットが傷口を広げるように素早く、しかし連続で無毀なる湖光(アロンダイト)を叩き込む。その動きを援護するように後方の船から止むことのない女神達と一名のクズの宝具が津波のように襲い掛かり、常に前線の味方の動きを攪乱していた。

 

 それに合わせ後方からドレイクの船団が大砲からレーザーかと間違える砲撃を連続で放ちながら穢れの大河をその船で体当たりするように押し流しつつ、確実に攻撃を砕いて活路を生み出していた。あまりに遠くで上手くは見えないが、立香も前線で叫ぶように声を出しながら指揮を執っているのが見えた。

 

「酷い苛めを見た」

 

「まぁ、順当に戦力が整っていて相手が動けもせん、火力だけが取り柄の木偶の坊ならばマシュ嬢で攻撃を防ぎ、そこに最大火力を流し込むだけの作業になるからな。変なミスをせず、欲張らず、できる範囲で結果を求めようとすれば問題なく討伐できるだろう」

 

「あぁ、そのことに関しては一切心配する必要はあるまい。我らのマスターはその点においては超一流を名乗ってもいい。無駄に欲張らずに―――そら、もう終わったか」

 

 男三人、寂しく浜辺から戦況を眺めていると、いい角度でドレイクの砲撃が突き刺さった。そのまま大穴が魔神柱に開き、そこに刺さった集中砲撃から一気に真っ二つに割れて魔神柱の姿が崩壊を始めた。軽く眺めている感じ、いくつか船が破壊されてはいるものの、全体としての損傷は軽微だった―――本当にヘラクレスが一番の厄介者だったな、というのが解る戦いだった。

 

 魔神柱が撃破されてしまえばあとは聖杯の回収を行い、それで特異点の問題は解決される。もう、これでこの特異点での戦いも終わりだな、と悟ったところで一息を吐きながら、片手で軽く髪をかき上げながら息を吐く。

 

「結局、遅刻したせいであまり力になる事ができなかったな……ヘラクレスも俺がいなくともどうにかなっただろうって気がするしな」

 

「それは少々卑屈すぎではないかね? 君には君にしかなせない事がある、今回はまさしくそうだった。君以外のサーヴァントで、こうも鮮やかにヘラクレスを相手できるものは早々おらんよ。それが出来た己を褒めても罰は当たらないと私は思うが」

 

「その言葉は嬉しいけどな……」

 

 もう二度と誰かを失いたくはない。負けたくはない。傲慢になりたくない。自罰的でないと、またどこか致命的な間違いやミスを犯してしまいそうで怖いのだ。やっぱり、自分が一番信用できないのだと思う。或いは思い出してしまったが故に、自分のことを許せないだけなのかもしれない。もしくは、勝手にグランドオーダーを通して戦うことで、

 

 どこかで、俺が償えるのではないかと思っているのがあるかもしれない。

 

 ―――所詮は戯言だ。どうしようもない。

 

「まぁ自虐的で自罰的なのは別に構わん。私は多少同情するけどな。ファック、カルデアがこんな組織だと知っていたら国連にゴーサインなぞ出さなかったぞ」

 

 エルメロイ2世は体制側の人物だったか、カルデアは国連に認められ、結成した組織だ。やはり、設立の上では多くの難題があり、ほかの組織からの許可もその一つだったのだろう―――そんなことを考えている間にレイシフトの兆候を示す霊子が漂い始めた。どうやら本当に特異点探索は完了されたらしい。今回はほとんど寝たきりで終わらせてしまった為、個人的に不満の残る結果となってしまった―――次回は、次回こそは最初から最後まで一緒に戦えるように頑張ろう。

 

 そんなことを心に誓いながらレイシフトにより、特異点探索を終了させる。




https://www.evernote.com/shard/s702/sh/9682fc1c-ff0d-4972-859b-1f3dde980144/356718e60bd50dc7cb7726fff938a564

 この手(ハメ殺し)に限る。やはり孔明は過労死。というわけでオケアノスは全体的に短くてすまんな、って感じで。まぁ、FGOの本番は5章って大体のプレイヤーが解っているだろうし(

 今回はちょい短めだったけど、まぁ、連続だったし。というわけで次回からイベント祭り。

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