Vengeance For Pain   作:てんぞー

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地獄のインターバル - 3

 バスターライフルを構える。魔力を高める。引き金を引く。奥義が発射される。心臓から魔力が供給される。それをマントラで練る。引き金を引く。奥義が発射される。地平が掃射されながらバスターライフルを二回転させて熱を追い出しながら熱魔術で熱を外へと追い出す。再び構えながら口の下でマントラを唱えながらヨーガの呼吸を維持し、魔力を練りながら素早くバスターライフルを構えて再び射撃。地平を薙ぎ払いつつマントラを呟き続け、敵の気配を感じる方向へと向けて射撃、射撃、射撃、放熱、減熱、魔力供給、射撃、射撃、射撃―――射撃。

 

「全自動殲滅機……!」

 

「思い出した怒りという感情をぶつけてやろうか貴様」

 

 立香の言葉に答えながらバトンの様にバスターライフルを弓へと変形させる。そのまま、崖の裏へと隠れている気配へと向かって矢を空へと放ち、矢を閃光へと変えて空からブラフマーストラを落とし、爆裂させる。崖の裏に隠れている姿が空へと舞い上がりながら消し飛ぶのを目にしながらそのまま矢を三つ番え、チャクラを急活性させる。弓弦を限界まで引き絞りながら上空を覆う影を生み出しながら空から降りてくる姿に対して三矢同時に梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ)として放ち、頭、翼、胴体に穴を開けて貫通した。ドラゴンの巨体が大地に落ちてくる。邪魔なのでシェイプシフターを大戦斧へと変形させ、落ちてきた頭の穴に斧を引っかけ、そのまま引きずりまわすように回転、こちらへと向かってくる徳川ウルフ軍団へと向けて投げつけた。

 

「クールに入る」

 

「駄ビデは本体(竪琴)ノンストップで! マシュとブーディカさんカバー! 沖田さんなんかとりあえずボスっぽいのを一発叩き込んで始末したら適当に回避しつつバックで!」

 

 大戦斧を大地に突き刺し、チャクラの解放で鋭敏化した神経をクー・フーリンから学んだ原初のルーンを使って治療と冷却を行い、素早く回復に努める。心臓から魔力が止まる事無く供給され、そしてダビデが後方から鳴らし続ける竪琴の影響で回復力が促進されて行く。心の平静さが保たれて行く。中身があんなクズなのに……なんてことを考えている間に、マシュとブーディカが前に出ていた。ブーディカは宝具である戦車を展開し、その隙間をマシュが大盾のバッシュで侵入を防ぐ。その合間を駆け抜ける沖田が縮地で一瞬で大将首のゴブリンをサクっと殺害、上杉ゴブリンズを混乱の底に叩き落とした。

 

 それで神経鋭敏化が切れる。これなら無理なく戦えると判断し、大戦斧をバスターライフルの姿へと戻し、

 

「いいぞ」

 

「散開!」

 

 再び射撃ループに入る。直線上の敵の姿が音もなく蒸発し、その衝撃に不完全ながら巻き込まれた姿は空を舞う。良く考えてみれば自分が範囲火力、沖田がタイマン特化の火力、マシュとブーディカがタンクで、最後にダビデがヒーラー、と非常に優秀なパーティーチョイスだというのが解る。普段、特異点に突入する時は何が相手でもぶち殺す、という殺意を重視した結果、毎回大火力宝具持ちか、確殺能力持ちばかりになっている。

 

 今回みたいなバランス型のパーティーは割と珍しい。

 

 というか自分がここまで働くほうが珍しい。正面切っての戦闘は割と、回数が少ない。そのため、少々新鮮な気分でもあった―――とはいえ、そんな事を考えながらも手を抜くことはない。乱射に相次ぐ乱射、敵がただの幻想種であり、ザコである以上は殺傷圏内だ。英霊が防御でもしない限りは一撃で簡単に蒸発できる為、あっさりと適度に交代と休息を挟み込みながら大炎上チェイテコロシアム寺へと向かっていた。

 

 なお、エリザベートとネロは特異点探索での忙しさを忘れ、頭をからっぽにして遊ぶ事を目的として特異点を作るつもりだったらしい。その結果がこの惨事なので、かぼちゃキメラとかぼちゃヘッドネロ像ゴーレムが出現した瞬間に精神的ショックでダウンしている。二人の面倒はぶっちゃけ面倒なので、立香に丸投げする。その代わりに自分はバスターライフルで梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ)を乱射、連射していた。

 

 普段の対軍はロンゴミニアドでアルトリアが掃討するケースが多い為―――割とスッキリして楽しいのだ。

 

『うん。まぁ、ストレス解消には丁度良いわよね、これ。……あ、逆鱗とか世界樹の種とか落ちてるわね。誰も気にしてないし私が拾っておこうかしら』

 

 何やらこそこそと動く妖精を無視しつつ、バスターライフル乱射による掃討は続く。城下町はもはや最初から想定されていた姿なんてしておらず、遠慮なく吹き飛ばすことができるだけ、破壊的な衝動を満たせ、どこか清々しさを感じさせた。

 

 

 

 

 大量の死骸を積み上げながら強行軍で戦国幻想を突破すると、ようやく本能チェイテローマ寺に到達する事ができた。もはや城だったのか? コロセウムだったのか? 或いは薪という名の本能寺だったのか? どれかさえわからないオブジェとなった魔城はなんか上のほうで炎が渦巻きながらシャワーとなって降り注いでいた。ブーディカが召喚した戦車が傘の代わりとなって立香を炎の雨から守っている。そんな立香が視線をまっすぐ、おそらくは城門らしき場所へと向け、その前に立つ姿を見た。

 

「……小次郎さん?」

 

「―――ふっ、到来を待っていたぞ」

 

 片袖を服装に通していない紫髪の侍、佐々木小次郎が長刀を肩にのせるように抱えながら道を塞ぐ様に立っていた。それは明らかに背後の城門? らしきものを守るための動きであり、それを見ていたハロウィンなエリザベートがちょっと、という言葉を上げた。

 

「貴方は門番じゃない! どうしてまだここにいるの?」

 

「おかしな事を言う。私はお前に門番として呼ばれた。そして非常に残念なことではある、がその道に関してはそれなりに経験を持っているつもりでもある。それに強者と仕合えるのであらば、私としてもそれは十分すぎる報酬というもの。特にそこの同じ国の生まれの剣士とはぜひとも手合わせを願いたいところである。故に私がここにいる事に何か問題でも?」

 

「え、いや、だって……」

 

「なに、多少は問題が発生してしまったが、化け猫が料理を必死に運んでいたぞ? そちらの皇帝の劇場もどうやら、保護されていた様子。まだ諦めるには少々早いのでは?」

 

「……」

 

 その言葉にエリザベートも、そしてネロも閉口した。それを見てくすり、と立香が笑い、

 

「じゃあ―――聖杯を回収したらハロウィンパーティーと闘技大会をちゃんと開こうか。回収すれば少なくとも幻想カーニバルと無限大炎上を止められるだろうし」

 

「わし、許された?」

 

「お前に人権があると思うなよノッブ……! それはそれとして、向こうがご指名だし、なんか楽しみにしてそうなんで、沖田さんどうぞ」

 

やったー(心眼:人切り)!」

 

 立香の声にすでにスタンバイしていたのか、うきうき気分で沖田が前に出る。自分の仕事はとりあえず終わったかなぁ、と軽く周りを警戒し、もはや幻想生物が近づいてこないのを確認してから軽く息を吐く。そんな自分の横にダビデが並んでくる。

 

「ちょっとした性癖の話をしよう」

 

「おい」

 

 ダビデが解っている解っている、と手を動かす。

 

「まぁ、待つんだ……あの沖田って子を見るんだ……ワフーク……おぉ、ジャパニーズ……体のラインが見えない桜色のハカーマとブーツ、これはあまりの無体だと思わないかい? だけどね、良く考えるんだ……あの覆うような服装はその下にあるものを隠す為の姿だと言う事を。きっと彼女はすごいぞ。脱ぎ始めてからが本領発揮……のように思わせて今のまま、あの笑顔と性格で相当やるタイプだと見た! 一回自覚してデレればあとは―――」

 

 パァン、と音が響き、いい笑顔を浮かべたまま、ダビデは射殺されていた。視線をそちらへと向ければ、信長が銃を片手にサムズアップを向けていた。いい仕事をしたのは認めるが、それでお前の罪が許されるとは思うなよ―――後これでついにパーティーからサポート役が消え去った。エミヤの自殺を含め、増々仲間が減って行く。これ、頂上に着くまでにマシュと自分以外のサーヴァントが残らないパターンではないのだろうか。

 

『まったく関係のない理由と所で貴重な戦力が減って行くことにカオス性を感じるわね……』

 

 もう、そういう時空だと思って諦めるしかないのだろう。

 

 ダビデがサムズアップと共に消えてゆく中で、佐々木小次郎対沖田総司という夢の対戦カードが決定された。もう既に沖田も小次郎も戦闘準備を完了させていた。双方ともに刀を抜くとそれを構え、相対していた。ここにアルトリアがいれば知るか、死ね……で戦いを終わらせていたんだろうなぁ、と思いつつも静かに対戦を眺める事にする。正直な話、小次郎も沖田も達人の領域で、得物は同じく刀―――となると勝負は一瞬だろう。刀は使えば使うほど激しく損耗する上、初動から先手を取ったほうが遥かに有利だ。

 

『このクソの様な状況の中で唐突にまじめなバトルが始まりそうなことに困惑が隠せないわね』

 

 もう、そういうものとして諦めるしかないのだと自分に言い聞かせていると、小次郎と沖田の間で緊張感が高まってゆき、二人の間で音が一切消失した。本物の侍の間に態々合図なんてものは必要ない。沖田と小次郎の視線が交差し、一瞬で沖田の姿が消失した。そこに割り込むように先んじて小次郎が長刀を振るい、繰り出すのは佐々木小次郎であればもはや決まっていると言える対人魔剣―――秘剣・燕返し。牽制、追い込み、そして断つ為の三閃。三つ同時に繰り出すことによって完全に逃げ場を閉ざしながら一撃にて切り捨てる必殺の魔剣となっている。

 

 それに対して沖田総司は正面から飛び込むことを止めなかった。全速力で前へと向かって移動する彼女の手は刀を突きで繰り出す為の準備がなされており、それ以外の準備は完全に捨て去っていた。沖田を一撃で倒すために放たれた一閃から三閃へと分裂した斬撃、それを前に沖田は一切動きを止めることはなかった。

 

 そしてそのまま、

 

「秘剣―――燕返し」

 

「無明三段突き―――」

 

 一瞬の交差、対人奥義が同時に命中する。完全に長刀を振りぬいた形の小次郎、そして発生するダメージ―――沖田の胴体に斬撃が走る。だがそれを食いしばりながらも、小次郎の心臓に穴を通した沖田の勝利だった。小次郎がダメージから片膝をつき、沖田も英霊としてはありえなく、その場で吐血した。

 

「お、沖田さーん!!」

 

「アレ、吐血芸だから大丈夫じゃよ」

 

 確かに沖田が吐血し、倒れて血だまりを作っているが、それでもそれが致命傷へと通じるダメージのようには思えない―――そういう芸か、と納得する。

 

『というか早すぎて見えなかったんだけど、アレ、何をやってたの?』

 

 佐々木小次郎と沖田総司の勝負は実に簡単なものである。()()()()()()()という一点にある。つまりどちらの奥義が先にクリーンヒットするか、という戦いである。その事を考えるなら佐々木小次郎の燕返しがはるかに有利だ。なぜなら絶対必中の斬撃という回避のしようのない攻撃を行っているのだ。限定的にだが魔法の領域にある奥義は魔剣の名に相応しいだろう。

 

 だがここで問題があるとすれば、佐々木小次郎は既にエンカウントした事のある英霊であり、そのマテリアル、原理がカルデアのデータバンクに登録されているという事実だ。そして沖田は()()()()()()()なタイプだ。学び、理解はしなくても感覚的にそれに対処する天才タイプの剣士、事前に原理さえ理解しておけば、後は対峙した時に直感と心眼で対処する。

 

『つまりは?』

 

「秘剣燕返しが回避できないなら()()()()()()()()()()()って発想だな。正面、背後、そして最後の死角からの一太刀に対して一切躊躇も思考する事もなく、()()()()()()()したんだろ―――正面突破を。太刀の一つに正面から三段突きをぶつけて、防御を太刀の上から貫通して心臓を穿った結果、先に沖田の方が届いて威力が弱まり、それで生存ってところだなぁ……」

 

 考えてから動くのでは明らかに時間が足りない―――だから沖田の選択肢は心眼からくる経験則による本能的判断だ。思考せずに即決する事で最善手を感じ取って突破するというやり方だ。なんというか、他の英霊たちにはないタイプだ。アルトリアやクー・フーリンでももう少しまともだ、戦闘スタイルは。この女はどうやって殺す事しか考えていない。

 

「流石侍、頭おかしい」

 

「いえいえ、幕末ではこれぐらい普通ですよ。本当に頭おかしいのは戦国時代の方々ですよ。流石にあのキチガイ根性は真似できませんよ―――ほら、森長可とか」

 

 どっちもベクトルが違うだけで結局は頭がおかしいと個人的には思う。ただ敗北した小次郎は清々しそうで、ふ、と短く笑うと、

 

「なに、余興なのだろう? 多少は異なる形ではあるが、日ごろの疲れなど忘れられそうな具合の混沌だ。それを楽しむのを自由な一時と呼ぶのであろう?」

 

 そう言うと静かに小次郎が姿を消し去って行く。




 相手をセンターにとらえてブラフマッ。

 リアルでもこっちでも素材狩りよー

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