Vengeance For Pain   作:てんぞー

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ストーム・ハント・ショー・ダウン - 2

「―――はーい……生きている人達点呼ー……」

 

「エージお兄さんいきてまぁーす……」

 

「アーチャーエミヤ、何とか生き残ったぞ」

 

「私は無事です先輩」

 

「クッソ、父上に庇われたから無事だぜ!」

 

 体を起き上がらせながら瓦礫を退けた。大空洞内部は酷い有様を晒していた。大地は高圧の電流によって焼き焦げており、自分の体内では残留した電撃が神経をチクチクと焦らす様に痛みを注ぎ込んでいた。マントラの呼吸とチャクラの活性化で肉体を回復させつつ素早く電撃を排出し、霧払いを使用して―――大空洞内部にもはや魔霧が存在していないのを理解する。あの英霊―――ニコラ・テスラが現界する時にどうやら、大空洞内部の魔霧を全て吸収されたらしい。アングルボダももはや機能停止しており、簡単に聖杯が回収できる状態になってはいるが、

 

「―――直ぐに追いかけようぜマスター。アイツは駄目だ。そのまま外に行かせたら嫌な予感(≪直感≫)しかしねぇ」

 

 モードレッドの言葉に頷きを立香が返しながらも、口を開いた。

 

「消えたのはオリオンとクーニキと謎のヒロインZ……神性繋がり? いや、謎のヒロインZには神性ないし……でもオリオンは天敵って……いや、考えている場合じゃないや。チェンジオーダーは使ったばかりでまだ使用出来ないし……ドクター!! 沖田とサンソンとランスロットをこっちに!」

 

『了解! 直ぐにレイシフトさせるけど時差の影響で到着は少し遅れる! あと今計測したアーチャー、ニコラ・テスラだけど彼は高濃度の魔霧を纏っていた! 彼の雷電はそれを活性化させ、魔力のドレイン効果を持っている! 接近戦を挑む場合は気を付けて!』

 

「了解! ごめんマシュ、俺を運んで。皆、ダッシュでテスラを追うぞ!」

 

 起き上りながら回復薬を口の中に放り込み、煙を発しながら細胞を急速活性する。傷ついた組織を蘇生させながら素早くシェイプシフターを担ぎ、テスラを追いかける様に一気に大空洞から地下通路へと飛び込んだ。そこに即座にエミヤが追い付き、モードレッドの三人で並び、一気に地下通路を壁を、床を、天井を蹴りながら加速して跳躍する。来るときはその道を邪魔していたスケルトンやゴースト、ゾンビの類は()()()()()()()()()()()()()()()()。ニコラ・テスラが地上を目指す上でその道中にある姿を焼き払ったのだろう。あの魔力量であれば、歩いているだけで蒸発させられるだろう。

 

 そのおかげで、一気にこっちが前へと追いつける。

 

 ―――そして、見えた。雷電が。

 

「愛歌、魔力を回せ!」

 

『もう、無茶のし過ぎは駄目よ?』

 

「俺が剥がす!」

 

「おう、任せたぜ!」

 

「我が骨子は捻じれ狂う―――」

 

 バスターライフルに変形、一気に目撃したテスラへと飛び込んで行きながらトリガーを引き、奥義を叩き込む。テスラの纏う魔霧が雷電により活性化し、それが急速に魔力のドレインを行う―――これが通常の英霊であればそれこそ霊核すら吸収されていたのかもしれないが、カルデアのサーヴァントは霊核が全てカルデアに保存されている為、そんな心配はないし、自分は()()()()()なのだから、魔力欠乏による壊死のみを覚悟すればいい。

 

「消し飛べ開拓者! 人類史におけるお前の出番はもう終わったんだよッ!」

 

()()()()かっ! 未来を担うべき星と人の英雄、そう謳うのであればこの私を止めてみせるのだ! 困った事に()()()()()()()()()()()()()と今の私は思っていて歯止めが聞かないからな! はっはっはっはっは!」

 

 魔霧と奥義が衝突し、大きく吸収、減退、減算、分散、解体しながらも貫通したそれが雷電のバリアによって弾かれた。咆哮を響かせながらバスターライフルのトリガーを二度、三度、四度、五度、砲身が焼け付くまで連打する。その為の魔力を捻出するたびに急速に魔力を吸い上げられるが、梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ)を放つ度に魔霧が消し飛んで、テスラの本体が露わになるのが見える。そしてその姿を見せる前に先に砲身が焼け付いた。故に弓へと変形させ、後ろから飛んできた矢を掴みながら、それで最後の一本を射る。

 

「―――梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ)ァ!」

 

「ぬぅっ!」

 

 壊れた幻想を織り交ぜながら放たれた矢が爆裂しながら地下通路の壁を削りながらテスラの守りを引きはがした。その瞬間に灼雷を纏ったモードレッドの剣が一気に斬りこむ様に飛び込んだ。

 

我が麗しき(クラレント・)父への叛逆(ブラッドアーサー)―――!」

 

 灼雷がテスラの体から溢れ出す迎撃の雷撃と衝突し、そして一方的に()()()()。その事にモードレッドが驚愕の表情を浮かべたが、即座にエミヤによる援護射撃が入る。偽・螺旋剣が迎撃の雷電と衝突、爆発しながらモードレッドを後方へと吹き飛ばした。それと同時に大戦斧へと変形させながらテスラへと飛び込んだ。呼吸を整えながら一気に大戦斧を振るう。

 

お前はここで堕ちろ(復讐者:苦痛耐性:戦闘続行)……!」

 

 迎撃の雷電に体を貫かれたまま、大戦斧を振り下ろしてテスラを殴り飛ばした。一瞬ショックで神経が操作を失った―――いや、錬金術、そして科学と言う物が肉体に混ざっているからこそ雷電に反応してしまった、と表現すべきかもしれない。とはいえ、苦痛を無視すれば、動けない範囲ではない。牙を剥きながら雷電に体を貫かれながらも無理やり魔力で心臓を掴み、それを動かして自分を生存させる。

 

「しゃらくせぇ! 死ねと言ったはずだ開拓者ァ!」

 

「フハハハハ! チャージアップ、充・電・完・了!」

 

 先ほどの二倍の雷電に貫通されながら大戦斧で殴り飛ばした。テスラを吹き飛ばした先で矢が弾着し、爆裂しながらそこにモードレッドが灼雷なしでの拳を叩き込むが、モードレッドのそれだけを的確にテスラが受け流し、そしてカウンターに蒸発させるだけの熱量を誇る雷電を叩きつけてくる。

 

「うるせぇ! くたばりやがれ!」

 

 それを紙一重で回避しながらカウンターで拳をモードレッドが叩き込み、テスラが後ろへと大きく跳躍した。テスラの動きを見る限り、彼は英霊ではあるが()()()()()()様だった。つまり戦いと言うフィールドでは此方の方が遥かに有利。しかし、

 

「―――地の英雄にしては中々良くやると褒めたい所ではあるが、時間切れだ!」

 

 テスラが再び雷電のバリアと魔霧の結界を纏った。チ、と吐き捨てるモードレッドが後ろへと一気に跳躍するのと同時に、テスラの周囲を雷のリングが幾重にも展開された。

 

「その健闘を称え、御覧に入れよう! 人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)!」

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!」

 

 鋼さえあっけなく蒸発させ、天地の英雄を抵抗もなく蒸発させる()()()()()()()()()()()の雷が放射状に放たれた。それに割り込む様に展開された熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)の七つの花弁は属性違いからか、高い効果を発揮できずに一枚一枚と剥がされて行くが、其れに割り込むようにマシュが飛び込んだ、

 

「ハァァァァァア―――!」

 

 大盾を振り回す様に雷電を殴りつけると同時に宝具による防壁が稼働、それが宝具の雷電を捻じ曲げて地下通路へはね回すが、一切後方の此方へとは流さない。それを見て、テスラが楽しそうな表情を浮かべる。

 

「素晴らしい! 実に素晴らしい! 人類の明日を担う星と人の英霊がこんなにも輝き、そして力を見せている―――さあ、いざゆかん、我らの決戦の地、バッキンガム宮殿へ!」

 

「あ、こら、逃げるんじゃねぇ!」

 

 雷電を纏ったテスラは電磁加速によってほぼ射出されるような速度で地下通路を抜けて行く。それを追いかけようとして一瞬だけ視界が眩むが、それを悟られないように逆に足取りをしっかりとし、踏み込みながら口の中に回復薬を放り込み、グラスを砕き割った。液体を喉の中に流し込みながらビンを口の中から吐き捨てる。

 

「追撃! 追撃―――! というかドクター! 援軍は!!」

 

『ごめん、まだレイシフトの時差に囚われてる! 後10分はかかる』

 

「おいおい、あの速度で10分もありゃあバッキンガムは余裕で到着できるぞ!」

 

「なら話は簡単だろうが! 俺達でどうにかするんだよ!」

 

「全くやりがいのある職場だな、ここは」

 

 エミヤの苦笑を耳にしつつも、再び一気に地下通路を駆け抜けて行く。最初降りた時は大量のザコがその道を塞ぐように邪魔をしていた。だが今はその気配は欠片も存在せず、床と壁も、高圧電流の接触を受けて完全に焦げ、所々では燃え上がってさえいた。それが今、相対しているニコラ・テスラと言う存在がどれだけ凶悪であるのかを証明していた。こういう状況だからこそクー・フーリンの刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)が一番欲しくなってくるのに、そんなときに限ってまさか即死しているとは思いもしなかった。

 

 しかし、

 

「天・地・人・星、か」

 

「えーと……サーヴァントの分類だっけ?」

 

 立香の言葉に走りながら頷きを返す。

 

「天の英霊は神話に属する存在。地の英霊は伝承に属す英霊。つまり創作や伝説といった、確証の取れない存在、神秘のグループと言ってもいい分類だ。これに対して人は近代史の明確にその存在を証明できる人物達、史実系サーヴァントと表現していい連中になる。最後の星グループがこれが一番特徴的で人グループの中でももっと星から役割を得た存在に対して与えられる属性だった……筈だ」

 

「先輩、ニコラ・テスラとは近代史において雷に関する謎を解明した人物です。人類史に電気の概念を神から人が操る道具へと形を落としたのは彼の偉業であり、今までは神や自然の産物であったそれを明確に人類の道具という形に落とした人です―――つまり、ドレイク船長と同じ、星の開拓者です。彼は電気が神の力ではなく、人間の道具であると証明した星の開拓者なんです」

 

「あぁ、成程……だから妙に天地属性を気にしてたんだ……」

 

「チ、オレが雷を使うだけじゃなくてそう言う意味でも相性が悪いのか、アイツは」

 

「神性特攻に続き今度は天地特攻かぁ……なんかゲーム遊んでるような気分になってきたなぁ……」

 

『うーん、データだけならたくさんあるし、冬木から進めて来たボク達の物語をRPGゲームにでもして遊んでみる? ツールはあるし……ま、それもこの特異点が終わってからだけどね!』

 

 じゃあ、と立香が苦笑しながら答える。

 

「この戦い、勝って終わらせないとね!」

 

 その言葉に答える様に地下通路の終わりが見え、一気に飛び出した。ロンドン、中央通りからバッキンガム宮殿へと向かって、巨大な雷の階段が伸びており、その上にはニコラ・テスラの姿が見えた。

 

「来たか―――来たか! 来たか英雄たちよ! 我が道を阻む勇者よ!」

 

 バッキンガムへと延びる大雷階段の上でテスラは嬉しそうな声を発していた。本気で相対するという意志を感じるのと同時に、本気で止めて欲しいという意志も混ざった、狂気による汚染をその瞳に感じた。英霊数騎分の霊核を保有したテスラは笑い声を響かせながら雷鳴を響かせる。それを受けて魔霧が活性化して行く。アレをどうにかしない限り、まともに戦えたものではない。それにまだ、カルデアからのレイシフトが追い付かない。

 

「宣言しよう! 私がバッキンガム上空に到達する事で我が雷電と魔霧は反応を起こし、爆発的に活性化しながらこのイギリス全土を飲み込むと! それによりこの特異点は破壊される―――さあ、貴様らにそれを止めようとする気概は!」

 

 テスラの言葉に、立香が僅かに唾を飲み込む音が聞こえ、そして背中に視線を感じた。

 

「皆、俺はこんな所で負けるとは思ってない―――だから、頼む」

 

 その言葉にマシュが前に出る。

 

「はい! 私達の旅はこんなところでは終わりません」

 

 エミヤが弓を取った。

 

「あぁ、だから―――」

 

 モードレッドがクラレントを構えた。

 

「テメェはここで―――」

 

 大戦斧を肩に担いで踏み出す。

 

「―――朽ちて行け」

 

 寸分の迷いもなく、憂いもなく、正面から殴り殺すという意志を込め、大雷階段の下から見上げる様にテスラを見上げ、テスラが笑った。

 

「よろしい、ならばご覧に入れよう―――真の雷霆たるものを!」




 連続更新、テスラは条件無敵の様なもんだから強いですねぇ……正直桜井でテスラと言われるとおじいちゃんの方を思い出す。

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