Vengeance For Pain   作:てんぞー

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ストーム・ハント・ショー・ダウン - 4

「―――さあ、それでは私の世界へとご招待しようか」

 

 初手はエミヤが撃った。アルトリア・ランサーと挟撃されないように固有結界が展開され、ロンドンの街並みを剣の丘で上書きする事に成功した。その中でテスラは驚いたような表情を浮かべ、金時と玉藻もまた、少し驚いていたような気がする。だがそんな事に気にせず、全速力で動く。適当に近くの剣に触れて引き抜けば、それが即座に矢に変形する―――これはエミヤと事前に仕込んだ連携だ。剣の丘で自分が戦う場合、こうやって刀剣を此方が引き抜いた時に自動的に矢へと変形させてくれれば、俺でも宝具矢の射撃を行える為、それだけで殲滅力が一気に上昇するという寸法だった。シンプルであるがしかし、効果的な戦術。

 

 故に一切迷う事なく宝具矢を三矢、一気に大弓へと変形したシェイプシフターへと番えた。この状態で奥義と共に打ち出せばその威力は、

 

『―――一矢、一矢が()()()()()()()()

 

 弓から放たれた梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ)が空間を貫通しながら真正面からテスラへと向かって行く。一つ一つが直径十五メートルほどの砲撃の形状をしているそれが正面から二つ、そして同時に放たれた曲射によって上から一つ落ちる様に襲い掛かってくる。それに加え、剣の丘に存在する無限の剣達が一斉に飛び立ち、無限に地獄を形成する為に降り注ぎ始める。笑いながらテスラは魔霧を電磁バリアーを展開しながら降り注ぐ剣雨の中へと雷電を降り注がせながら突撃した。

 

「金属を弾くか!」

 

「凡そ、我が英知は万能であり、我が雷電に不可能はない!」

 

 電磁バリアーを幾つかの剣が貫通しているが、高速移動でテスラがそれを回避しながら雷撃を放射する様に放って行く。それを追いかけるように正面を塞がないように、走りながら丘から剣を引き抜き、それを素早く曲射にて放つ。大きくカーブを描き、頂点に到達したところで砲撃となって頭上から降り注ぐ対軍攻撃がテスラの道を塞ぎ、その行方を追い込んで行き、その姿へと向かって正面から金時が接近する。テスラの放つ雷撃を金時が喰らうが、逆に金時が活性化するのが見えた。

 

 テスラの雷を触媒に召喚された英霊―――おそらくは聖杯が呼び出したカウンター存在なのだろう。

 

黄金衝撃(ゴールデン・スパーク)ッ―――!」

 

「良い電圧だミスター・ゴールデン!」

 

 魔霧を消し飛ばしながら鉞とテスラの雷撃がぶつかり合い、テスラが弾かれた。差がありすぎる金時の筋力に対してテスラの方が全く対応できていなかったらしい。その姿を逃がす訳もなく、素早く矢雨を降り注ぎ、砲撃として連続でテスラを狙い、その動きを制限と攻撃に連続させて行く。急速に消耗される魔力に体が悲鳴を上げ始めるが、それが一瞬を超えて安らぎはじめ、楽になる。

 

「頑張るのは宜しい事ですが、それはそれとして、無理は禁物ですよ」

 

「すまん……が、これぐらいしか出来ない」

 

「男の子っていつもそうやって張り切りますねー?」

 

『そういうもんだからねー』

 

 お前ら仲良く喋ってないで助けろよ、と思いつつも矢を放つ。テスラも大分本気になり始めているのか、纏う雷電の総量が一気に上昇しているのが見えた。空間そのものが帯電しながら自動的に攻撃を行っており、前線にいる金時なんかはほぼ常にその雷撃を受けていた。剣雨と対軍砲撃を受けながらもそう、ニコラ・テスラと言う規格外の天才は未だに動いていた。玉藻と言う超ド級の術師が後衛から常に呪術による行動、能力制限でテスラを削り、奪い取った分を分配しながら味方の強化を行っているのに、それでも天才は戦い続けていた。

 

「狂化されようとも、私には矜持がある! ただで敗北する事は出来ん! 人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)―――!」

 

 超高密度のプラズマ化電流が固有結界内を蹂躙する様に放たれた。即座に展開された熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)と五連対軍砲撃がぶつかり合いながらも相殺―――されること無く、突き抜けながら()()()()()()()()()()。魔力と神秘否定の星の開拓者。それが本来のルールを無視するような極悪さをここに証明していた。

 

「おや、無銘さん辛そうですね」

 

「解っているなら手伝いたまえ!」

 

「はいはい、解っておりますとも―――というわけで水天日光天照八野鎮石(すいてんにっこうあまてらすやのしずいし)! 月の方では産廃と騒がれていたこれも、現在の霊基であれば―――」

 

 剣の丘を上書きする様に無限鳥居の固有結界が展開された。彼岸花が咲き誇る世界はエミヤの固有結界から場所を替え、新たな固有結界とも取れる世界だった。おそらくは玉藻の能力なのだろう。剣の丘が消えた事で対軍射撃が消えたのが非常に辛い話であるが、その代わりに魔力を感じ取る。損耗を一切感じない。戦闘中に消費された消耗が一気に満たされ、常に満たされている状態へと回帰しながら、テスラとの戦いで得た全てのダメージが回復されるのを感じ取った。

 

「あくまでも回復ですから過信はなさらずに。死なない訳ではないですので」

 

 玉藻のそんな言葉を耳にしながらも弓を構え、一気に飛び込みながら矢を放つ。回復による無制限の魔力が解禁になった為、自前と回復する魔力によって地力で対軍射撃を行う事に切り替える。皮膚が千切れる感触を感じた次の瞬間にはそれが再生する。何とも戦いやすい空間だと思いながら、金時が動きやすいように砲撃での支援を続行する。鳥居の上からテスラの動ける場所を制限する様に速射し、その動きを大雑把に制限する。その隙に金時が一気に接近し、技巧による近接戦闘が始まる。

 

 そこにエミヤの矢が割り込む。

 

 エミヤの矢は此方の大雑把な介入とは違い、もっと細かく狙われた物であり、テスラの攻撃へと入ろうとする意識の瞬間、動きの基点を創ろうとする瞬間、金時の攻撃に対して反応を行おうとした瞬間を狙う様に妨害する矢だった。それも普通の矢ではなく、金属ではない石剣を矢に変形させたものを使っている―――テスラの電磁波に影響されないように。そしてそれでテスラが意識を向ければその瞬間に金時が鉞で殴り飛ばし、無視すればそのまま矢が突き刺さる。エミヤとの動きに関してはカルデアで予め連携を組んであるが、金時との方は即興だ。それでも全体としての動きは、

 

 非常に完成されていた。だが相手もまた英雄。そのまま倒れる事は良しとしない。再び宝具級の雷電がテスラから放たれ、結界内に大穴を穿たれる。エミヤの固有結界でやった事である為、多少のダメージを覚悟で再びテスラが結界破りを決行したのだ。

 

「逃がさん!」

 

 生み出された出口から引きはがす為に射撃するも、それを食らいながら強引に突破した。

 

「宝具を解除します」

 

 空間から逃げられたのであれば何時までも展開している意味もない。テスラを追いかける為に宝具が解除される―――その瞬間、

 

「―――受けたまえ(人理神話・雷電降臨)!」

 

 解除された宝具から出現した直後を狙ってテスラが宝具を放った。瞬間的に迎撃と防御の攻撃、宝具が回るが、出力が違いすぎる。軽減し、即死とまではいかぬも、

 

「がぁっ―――」

 

 雷電が体を突き受け、その衝撃のままに体が屋根の上から数百メートルと言う距離を一気に吹き飛ばされた。衝撃と共にぶつかり、体を建造物にめり込ませながら漸く飛行から解放される。腰のホルダーに保存してある回復薬を引き抜き、それを口元へと運び、ガラスをかみ砕いて中身を喉の中へと注ぎ、ガラス片を吐き捨てた。

 

「クッソいてぇ……」

 

『筋肉断裂、胸骨骨折、内臓出血、体が所々炭化しているわね』

 

「ならまだ戦えるな。死ななきゃ安い」

 

 一本じゃ足りない。そのままもう一本口の中に放り込んで飲み干し、造血丸を飲み込んで血液の補充を行っておく。愛華の心臓のおかげで一番中毒性の高い魔力回復薬を飲まなくて済んでいるのが幸いか、アレは最悪人を廃人にする様なものなのだ。ともあれ、ちょっとだけキレた。というか割とブチギレた。体をめり込んでいた()()()()()()から引きはがし、視線を背後へ、そして下へと向けた。

 

「ビッグベンか」

 

『世が世なら発狂しそうな光景ね……』

 

 愛歌のその言葉を聞きながら飛び降りながらシェイプシフターを変形、大戦斧に変えてビッグベンが落ちてくるように根元で切り込みを作り、こっちへと落ちてくるように調整した。

 

『えっ』

 

 倒れてくるビッグベンへと飛び上がって腕を突き刺し、脳のリミッターを解除、筋力を増強、変容を虚ろの英知で疑似的に再現、リソースを全て筋力へと回し、無理やり倒れてくるビッグベンを空中で背負うような形にしてからそれを―――投げた。真っ直ぐ、大雷階段の方へ、テスラと金時が接近戦を繰り広げている方の場所へ。

 

「金時! これで殴れ!!」

 

『えぇ……』

 

 ぶちぃ、と筋繊維が千切れながらも再生する音を聞きながら、ビッグベンを投げ渡した。その姿、状況、そして投擲された武器に対してニコラ・テスラが理解を超えてしまったのか完全に動きが停止した。だが金時の方はまるでやべぇ、という楽しそうな表情で飛び上がり、

 

「―――受け取ったぜ(≪怪力:A+≫)……!」

 

 それを()()()()()()。その姿をテスラは完全に固まったまま眺めており、ビッグベンに金時が雷撃を充填させた時点で、漸く正気に戻った。自分に迫りつつある超大質量の鈍器、其れに雷電がチャージされ、これから叩き付けられるそれがどんな効果を発揮するのか、ニコラ・テスラは瞬時に悟ったのだろう。それを目撃したテスラはもはや笑うしかないと、大声で笑い声を上げ始め、飛びかかる様に、薙ぎ払う様に金時がビッグベンを振り下ろしてくる。

 

「こいつが友情のゴールデン・クロックタワー・スパァァァック―――!」

 

「その友情、ちょっと破壊的すぎやしませんか?」

 

 玉藻の冷静なツッコミが冴えわたる中で、ビッグベンにテスラの姿が音速でめり込んだ。そのまま大雷階段を触れた場所から消し飛ばすようにビッグベンを薙ぎ払い、筋力A+、そして怪力A+という超規格外の筋力の暴力で触れたそばから歴史ある遺産で破壊し、片手でその大質量を振り抜いて完全に消し飛ばした。

 

 それが完全に振り抜いた後にはもはやテスラの姿も、大雷階段もその姿が残されておらず、見えなくなったところでビッグベンをロンドンの中央通りに突き立てる様に落としながら着地し、イエェーイ、と叫ぶ姿がビッグベン跡地からは見えた。

 

『なんというか……神話で山投げとかの記述を見るけど、本気出せば割とどうにかなるのね、人類って』

 

「まぁ、山と比べるとまだビッグベンは軽い方だからな」

 

『それでも正直、普通はビッグベンを鈍器に使うって発想はないわよ……』

 

 呆れた様な愛歌の声を聴きつつも、しょうがないだろう、ブチギレたのだから、と答える。それにこの特異点を修復したらこのビッグベンアタックもまた歴史の闇に葬り去れるので、それでどうにか許してほしいと思う。

 

『英国市民が心臓ショックで死にそうな光景だったわねー……』

 

 ふぅ、と息を吐きながら壁の上に座り、魔術を使って自己回復を行っていく。今回も、本当に何とかなったな、と溜息を吐きながら勝利を実感した。少し離れた場所では立香の指揮で複数の英霊が動いているのが見える。最初と比べると見違えるような成長を見せているあの少年も、漸く半人前と呼べる様な領域にまで上がってきたな、と思う。

 

 もう一度、ふぅ、と息を吐いた。流石に今回は疲れた。いい加減、暖かいシャワーでも浴びて、泥の様に眠りたい。

 

『ま、それぐらいの贅沢が許されるぐらいには頑張ったわね、よしよし』

 

 愛歌が頭を撫でてくる。その事に気恥ずかしさを感じながらも、抵抗するような気力は自分にはなかった。後はもう、聖杯を回収して終わりだ。

 

 長い、ロンドンの霧中探索も、漸く終わりが見えた。

 

 特異点探索が全て完了して生きていたならその時は……今まで特異点で回った場所、その現代の姿を再び見て回るのも悪くはないのかもしれないなぁ。そんな事を考えつつ、立香の指揮する戦い、その形勢が此方側へと少しずつ傾いて行く姿を眺めていた。




 これにてボスラッシュは終わり!!!

 真のラスボスが来るぞ!! お前のとーちゃんけしかけるぞ!! なんでもいいから帰って来い……帰って来いよ……。

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