お祖父様が倒れました。
ギリシャでその一報を受けたわたくしは急ぎ日本へと帰国しました。
「沙織お嬢様っ、旦那様はこちらです!!」
屋敷で待っていてくれた星華が、お祖父様が居られる部屋に案内してくれます。
「どうしてお祖父様は退院されているのですかっ!!」
「それが旦那様がどうしてもお屋敷に戻られたいと仰られたそうなのです」
そんな…どうしてお祖父様は強引に退院してまで屋敷に戻りたいなどと…
わたくしの胸に嫌な予感が過ぎりますが、それを強引に振り払い、お祖父様が居られる部屋へと急ぎます。
「お祖父様…」
お祖父様はベッドから身を起こされて、お気に入りの庭園を眺めておりました。
「お祖父様っ、お身体に障られます! 横におなり下さい!」
その姿に慌てるわたくしにお祖父様は優しく微笑んで下さります。その優しい微笑みにわたくしの心は何故か激しく動揺します。
「お祖父様っ!!」
「いいんじゃよ。自分の身体のことは自分が一番よく分かっておる。それよりも沙織や、儂が話す事をよく聞きなさい」
そう仰られたお祖父様は、わたくしの出生の秘密を語られました。
それは俄かには信じられないお話でした。
「お祖父様…」
言葉を無くしたわたくしに、お祖父様は優しく語られます。
「沙織や、儂の可愛い沙織や、たとえ沙織が何者であろうとも儂の可愛い沙織であることに違いはない。これより先、沙織の歩む道は困難に溢れておるじゃろう。だが忘れないでおくれ。沙織は儂の愛しい孫娘なのじゃ。儂はいつでも沙織を見守っておるよ…」
お祖父様はにっこりと微笑むと、眠るように瞼を閉じられました。
それが、
誰よりもわたくしを愛して下さり、
誰よりもわたくしを心配して下さった、
お祖父様の最後の――――いいえっ!!
違いますわっ!!
このような結末はたとえ神が許そうと、この
わたしの前に見える死神の姿。その悍ましい存在は、お祖父様の魂を狙ってやってきたのでしょう。
そのようなことをこのわたしが見逃すとお思いですか!!
わたしは全力で
果てしなく広がり続ける
荒れ狂う
身体に収まりきらない
気が狂いそうになるほどの痛みを笑い飛ばす!!
「わたしは誇り高きグラード財団が後継者、城戸沙織です!! お祖父様の死が運命だというのなら!! 運命すら捻じ曲げてみせますわ!!!!」
わたしは、お祖父様の魂を狩り獲ろうとその大鎌を振り上げた死神に全力の一撃を放つ!!!!
***
あれから一ヶ月が過ぎました。
わたしの胸に去来するのは、あの時のお祖父様のお話です。
お祖父様は、わたしがギリシャ神話の
わたしに練りこんだ設定を熱く語られていたお祖父様の姿はとても輝いていました。
日本人のわたしが、遠く離れたギリシャで伝えられている
何しろギリシャの地には本物の
お祖父様…
わたしは、遥か遠くの静養所に赴かれたボケたお祖父様に想いを馳せる。
***
「一輝、お前は死ぬ覚悟はありますか?」
わたしの前に控える一輝は静かに答える。
「俺はフェニックスの一輝だ。俺にとって死は、もっとも遠きものだ」
「アルデバラン、お前は仲間を裏切る覚悟はありますか?」
アルデバランは何時ものように自信に満ち溢れたままに答える。
「俺は沙織お嬢様のみに忠誠を誓っている。故にその問いは意味をなさぬ」
「シャカ、お前はわたしのために悪に身を落とせますか?」
シャカは彼らしからぬ不敵な笑みを浮かべる。
「この世は諸行無常、最も神に近き男と呼ばれし私が、最も悪魔に近き男と呼ばれることもまた一興なり」
わたしは微笑む。
「四年後です」
わたしの言葉に眼前の三人は微かに反応する。
「わたしはこれより力を蓄えます。そして四年後、
彼らの身体に力が籠るのが分かった。彼らは戦うつもりなのだろう。けれどそれは違う。
わたしは彼らの勘違いを正す。
「初めに言っておきます。お前達の役目は戦うことに非ず。お前達の役目は生き残ること。そしてその目にしたことを語り続けることです」
疑問の視線を返す彼らに、わたしは酷薄な笑みを浮かべる。
「お前達はただの日本人の小娘が、ギリシャ神話にて謳われし
文字通りの、神をも恐れぬ傲慢なわたしの言葉に絶句する三人。
お祖父様…
ボケてしまわれたお祖父様の妄想。
その妄想をわたしが真実とします。
わたしは新たなる女神となりましょう。決して、わたしの愛するお祖父様をただのホラ吹きのボケジジイなどとは呼ばせはしませんわ。
その為になら神殺しの悪名…わたしは喜んで受けましょう。
これよりわたしは修羅に入ります。
沙織お嬢様は信念を得て、女神の道へと進みます。うむ!原作沿いの展開だな!