沙織お嬢様の優雅なる武勇伝   作:銀の鈴

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第14話「沙織お嬢様と銀河戦争」

わたしが神殺しを決意してから四年の時が流れました。

 

この四年の間には色々なことがありました。

 

ある時は、武者修行中に発見した魔道書の精霊と共に邪悪な魔導士を倒して世界を救ったこともありました。

 

またある時は、失われた古代文明が残した巨大ロボを発見したので、その場のノリで世界征服を目指したら謎のヒーロー戦隊に酷い目に合わされました。

 

逆に世界征服を企む謎の組織と遭遇したときには、シャイナさんの仮面を真似て正義の仮面ヒロインとして叩き潰してやったこともありました。

 

そうそう、某国の水爆実験で現代に蘇った古代の大怪獣をペットにしようと、手懐けようとしたら噛み付いてきたので宇宙の彼方に殴り飛ばしたことも今となってはいい思い出です。

 

そして、

 

そして、わたしのお祖父様が…

 

わたしのお祖父様が…

 

お祖父様が…

 

……

 

 

あのクソジジイがっ、静養所の若い女共を愛人にした挙句に腹上死しやがりました!!

 

「男としては大往生な最後でしょうか?」

 

「うっさいわよ! 星華っ!!」

 

あのクソジジイのお陰で、わたしは経済界でいい笑い者よ!!

 

遠く離れた静養所だったから気付くのが遅れて箝口令も間に合わなかったわ。

 

呆けたくせして女癖の悪さだけは忘れないなんて最悪だわ。

 

腹が立ったからクソジジイの墓標に“稀代の性豪、ここに眠る”って刻んでやったわよ。

 

「今では子宝のご利益があるとかで、若い夫婦がお参りをしているそうですよ」

 

「ぐっ……」

 

ふ、ふんっ、もうあのクソジジイのことなんかどうでもいいわよ!

 

そんなことよりも、もうすぐ世界中から子供達が帰ってくるはずよね。

 

「はい、何人が聖闘士になれたのでしょうね」

 

今となってはクソジジイの世迷言を叶える気は失せているけど手駒は多いほどいいわ。

 

わたしの世界を狙う奴らは多いもの。この間のタコ擬きも強敵だったわ。タイマン張ってなんとか海底に封印したけど本当に疲れたわ。

 

あのタコ擬きは、大怪獣の代わりにペットにしようと思って呼び出してあげたのに、どうして、どいつもこいつも噛み付いてくるのよ。まったく可愛くないったらありゃしないわ。

 

「お嬢様、ガキ共が戻ってきました」

 

わたしがイライラしていると、執事のハゲが報告をしてきた。

 

「星華、行きますわよ」

 

「はい、お嬢様」

 

わたしは手駒候補を見定めるために立ち上がる。

 

そう、まだ彼らは手駒候補にすぎない。

 

たとえ聖闘士になったとしても役に立たない手駒ならいらないもの。

 

「せめて甘えん坊のフェニックスぐらいの実力は欲しいわね」

 

恋人のエスメラルダにベッタリの甘えん坊の一輝ではあるけど実力はソコソコにあるわ。特に打たれ強さは評価に値するわね。

巨漢のアルデバランに滅多打ちにされても、エスメラルダの声援一つで不死鳥の如く立ち上がる姿は正にゾンビのようだわ。

 

そういえば、わたしがずっと瞬だと思っていた子がエスメラルダという女の子だと気付いたときは驚いたわ。

 

ある意味、実の弟よりも“アレ”よね。

 

だって、自分の弟にソックリな女の子を見つけだして恋人にするなんてどれだけの執念なのよ。流石のわたしでも引くわよ。

 

「それでお嬢様、どのように彼らの実力を測るのですか?」

 

そうね、聖闘士は小宇宙(コスモ)だけで実力を測るけど小宇宙(コスモ)だけで勝てるなら苦労はしないわ。

 

「そうだわ、彼らには実際に戦ってもらいましょう。彼らは聖闘士だから『銀河戦争』とでも名付けた格闘大会を開催するとしましょう」

 

「へえ、お嬢様にしてはネーミングセンスがいいですね。聖闘士は星座を模した聖衣(クロス)を纏って戦いますから『銀河戦争』の名は相応しいですね」

 

「“お嬢様にしては”とはどういう意味かしら? まあいいわ。では『銀河戦争』の開幕ですわ」

 

「はい、お嬢様」

 

 

***

 

 

「沙織お嬢様、お久しぶりです!」

 

「貴方もお元気そうでなによりです」

 

誰だコイツ? と、思っていても微笑を浮かべて挨拶をする優雅なわたし。

 

ええいっ、まずは名乗りなさい!

 

それが嫌なら名札をつけなさい !

 

お前達にとっては、わたしが唯一無二の至高のお嬢様だろうけど、わたしにとってはお前らは百人もいたクソガキ共なのよ!

 

名前なんか覚えているわけないでしょう!

 

「ふん、外面だけは良くなったみたいだな」

 

「あら、星矢も無事に聖闘士になられたのですね」

 

やっと名前のわかる奴がきたわね。こいつは星華の弟だし、多少実力不足でも我慢してあげようと思っているわ。

 

「星矢、お嬢様に失礼な口をきくんじゃねえよ」

 

「お前は……誰だ?」

 

「邪武だよ! まさか忘れたのか!?」

 

「俺のことを知っているのか?」

 

「いやいやいや!? けっこうお前とは絡んでいただろう!! 星矢がお嬢様の馬にされそうになったときに代わってやったこともあっただろう!」

 

「……?」

 

「不思議そうに首を傾げんじゃねえ!!」

 

「あはは、冗談だよ」

 

「ったくよ。星矢の冗談は面白くねえぜ」

 

「まあ、そう言うなよ。久しぶりなんだからさ。えっと……」

 

「邪武だよっ!!」

 

「そうそう、ジャブだった。ジャブだジャブ。ジャブジャブストーレート! のジャブだよな」

 

「……お前、本気で俺のことを覚えていないのか?」

 

「あはは、きっと沙織お嬢様だって覚えていないだろうから気にしないでくれよ」

 

「沙織お嬢様が俺のことを忘れるわけないだろうが! ねっ、沙織お嬢様!」

 

わたしに振るんじゃないわよ!?

 

せっかく黙って空気になっていたのに台無しじゃない。

 

でもいいわ。こいつのことは薄っすらだけど思い出したもの。

 

たしか、わたしが愛馬(星矢のことね)に乗ろうとしときに代わりに騎乗してくれと願い出た駄馬だったわね。

 

乗り心地が悪かったのを覚えているわ。

 

「うふふ、邪武のことはもちろん覚えていますよ。昔と違い見違えるほど立派になりましたね。星矢が思い出せないのも無理はないかもしれませんね」

 

「お、俺が立派だなんて…沙織お嬢様、ありがとうございます!」

 

わたしの言葉に機嫌を直す邪武。

うふふ、男の子は単純だわ。

 

「チョロすぎるだろう。ジャブ」

 

「星矢、私には挨拶をしてくれないのかい?」

 

「えっ!? まさか星華姉さんなのか!」

 

わたしの後ろにいた星華が星矢に声をかける。てっきり人前だから星矢は照れて星華に話しかけないのかと思っていたけど気付いていなかったみたいね。

 

星矢は、もしかして健忘症かしら?

 

「まったく星矢は、実の姉の顔も覚えていないのかい?」

 

呆れたように星華は溜息をつく。いや、本当は呆れたのではなく星矢に気付いてもらえなくて寂しいのだろう。

 

「いや、そのゴメン。星華姉さんがこんなに綺麗な女の人になってるなんて思ってなくて…いや、昔が綺麗じゃなかったっていう意味じゃなくて、昔は綺麗というより可愛い女の子だったわけで、俺も弟ながらに可愛い姉さんが自慢だったわけで、その可愛い女の子のイメージだったから、綺麗な女の人がいるなあ、とは気付いていたけど、それが可愛いイメージと繋がらなくて、こんな綺麗な女の人が彼女だったら幸せだろうなあって思っていたら、それが俺の星華姉さんだったわけで、俺は嬉しいのか、綺麗な女の人が実の姉さんで残念なのかよく分からない状態なわけで、それでもやっぱり、俺は星華姉さんが大好きなわけで、だから大好きな星華姉さん、これからは俺と一緒に暮らそう!!」

 

「いや、ごめん。なんだか気持ち悪いから一緒には暮らしたくないわ」

 

「なっ!?………ガク」

 

星華の言葉に崩れ落ちる星矢。

 

うん、この姉弟の事はソッとしておこう。

 

わたしは二人のことはスルーして『銀河戦争』の開幕を告げることにした。

 

「これよりグラード財団の名において、『銀河戦争』を行います。優勝者には……そうね、地下倉庫に置いてある金ピカの聖衣(クロス)っぽい物を差し上げますわ!」

 

優勝商品のことは考えていなかったけど、やっぱりご褒美は必要よね。咄嗟に思い出した置きっ放しのクソジジイが残した金ピカの聖衣(クロス)っぽい物なら資産的価値も十分でしょう。

 

さあ、優勝商品目指して全力を振り絞って戦うのですよ。

 

「ブーブー、聖衣(クロス)っぽい物って何だよ! 俺はそんなものより現金がいいぞ! 姉さんと暮らせる家と生活費を要求する!」

 

あらあら、星矢が何とも可愛らしい要求をしていますわ。星矢の要求程度なら聖闘士になった御褒美で叶えてもいいけど、星華と暮らすことは断られたばっかりよね? もしかして星華を説得することも含まれているのかしら?

 

「その程度は構いませんけど、星華と暮らすのは御自分で説得して下さいね」

 

「な、なんだと!?」

 

絶望した顔で再び崩れ落ちる星矢。やっぱり説得も期待していたわけね。

 

「あのさ、星矢。二人っきりで暮らすのはあれだけど、私は城戸邸で住み込みだからさ、あんたも住み込みで働くなら一つ屋根の下ってことになるよ」

 

少し気持ち悪くてもやはり実の弟は可愛いみたいで、星華が落ち込んでいる星矢に妥協案を出した。

 

「その手があった!」

 

星矢は目を輝かせると姿勢を正し、わたしに頭を下げてきた。

 

「慈悲深きお嬢様に俺はこの拳を捧げる。お嬢様の敵はこの拳が打ち砕く。だから俺を住み込みで雇ってくれ!」

 

星矢を手駒にすることは当初の予定通りなのですが、なぜか星矢に対して残念感を感じるのは気のせいかしら?

 

…まあ、いいわ。深く考えても仕方ないわね。

 

「うふふ、星矢。頼りにしていますよ」

 

「ちょっと待ったあ!」

 

わたしがニッコリと慈悲深いお嬢様らしく微笑みながら了承してあげてると駄馬…じゃなくて、ジャブが割り込んできたわ。

 

「俺も敬愛する沙織お嬢様に忠誠を誓います! お嬢様の為なら馬でも犬にでもなります! 忠犬邪武とお呼び下さい! だから俺も沙織お嬢様と同じお屋敷に住まわせて下さい!」

 

え? なんだか気持ち悪いから嫌だわ。

 

星華の弟であり、かつての愛馬でもある星矢ならともかく、ただの駄馬を飼う趣味はありませんわ。

 

「ジャブ、星矢はわたしの信頼厚い星華の実の弟だから側に仕えることを許したのですよ。貴方が同じようにわたしの側に仕えたいと仰るなら貴方自身の力で掴みとりなさい」

 

わたしの言葉に悔しそうに星矢を睨んだあと、ジャブは決意を秘めた目をわたしに向けてきた。

 

「それは先ほど仰った『銀河戦争』を勝ち抜け。という意味でしょうか?」

 

「その通りです。他の者も同じですよ。『銀河戦争』の勝者には、金ピカの聖衣(クロス)っぽい物以外でも望むものがあれば叶えましょう」

 

慈悲深く優しいわたしは、ジャブ以外の手駒候補達にも御褒美について約束をしてあげる。

 

「ほう、随分と気前がいいんだな」

 

おや、金髪少年が前に出てきましたね。

 

「だが、俺の願いをあんたが叶えられるのか?」

 

「ふふ、我がグラード財団が叶えられない望みの方が少ないと思いますよ」

 

挑戦的な物言いの少年ですが、わたしは大人なので優しく応対してあげます。

 

ところで彼の名前はなんというのかしら? 尋ねるタイミングを逃してしまったわ。

 

「おい、氷河! 沙織お嬢様に対して失礼だぞ!」

 

グッジョブ、ジャブ!

 

ナイスなタイミングでのツッコミですわ。少しだけジャブの評価がアップですね。

 

「氷河、貴方の望みを教えてもらえるかしら?」

 

「いいだろう、どうせ無駄だろうがな。俺のマーマは極寒のシベリア海の奥深くに沈んだ船で眠っている。俺の望みはその船を引きあげることだ」

 

な、なんだか意外と重い内容ですわ。

 

氷河の亡くなられたマーマ。

 

…マーマって、母親のことでいいのでしょうか?

 

「そうか、氷河のおっかさんは海底で眠っているのか」

 

「ジャブ、おっかさんというな。マーマだ」

 

「おっかさんのことだろ?」

 

「日本語ならそうだ。だが、俺のマーマをおっかさんと呼ぶな」

 

グッジョブ、ジャブ!!

 

ナイスですわ。わたしでは聞きづらいことでも平気で聞けるジャブの評価が小アップですわ。

 

「なるほど、氷河の望みは分かりました」

 

「ふん、不可能なことも分かっただろう。未だ人の技術では辿り着けぬ深海だ。聖闘士となった俺ですら僅かな時間しかおれん場所だからな」

 

氷河は寂しそうな顔で呟く。

 

なるほど、超能力だけではなく霊能力にも目覚めた今のわたしには視えていますが、氷河の守護霊をされているご婦人が氷河のマーマのようですね。

 

だって、寂しそうな顔をしている氷河のことを悲しい顔で見つめているもの。

 

いいでしょう、ここはわたしの優しさの見せ所ですわ。

 

「星華、アレを」

 

「はい、お嬢様。準備は出来ております」

 

ふふ、流石は星華ですね。何も言わずとも準備が出来ているなんてね。

 

わたしは星華が差し出したソレを手にすると、氷河のどたま向けて振り抜いた。(どたま:頭のことですよ)

 

バチコーン!!

 

『いつっ!? 何をするん…だ?』

 

『氷河…』

 

わたしの一撃で肉体という檻から抜け出した氷河は自分の守護霊と対面する。

 

『マーマ…なの?』

 

『大きくなったわね、私の可愛い氷河』

 

『マーマ!!』

 

『氷河!』

 

氷河とマーマは抱き締め合う。

 

ああ、引き離された親子の感動の再会ですわ。

 

 

 

「あのさ、星矢」

 

「なんだよ、ジャブ」

 

「俺の目には、沙織お嬢様が氷河の頭を錫杖みたいな棒でぶん殴ったら氷河がぶっ倒れて、沙織お嬢様が何故か感動したように目をウルウルさせ始めたように見えるんだが」

 

「安心しろ。俺にもそう見える」

 

「意味が分からんのだが?」

 

「…きっと、聖闘士を一撃で倒せたから感動したんだろ」

 

「そうか…」

 

「そうだ」

 

「氷河……意外と軟弱な奴だな」

 

「…そうだな」

 

 

 

 

 

 




安心して下さい。氷河は死んでいません、幽体離脱をしただけです。
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