いよいよ、銀河戦争の始まりです。
記念すべき第一回戦の組み合わせは、大熊座の檄(げき)対、かつての愛馬の星矢です。
この檄の身長は188cmもあります。そして体重は100kg以上です。とても15才とは思えない程の巨漢です。
対する星矢は165cmで53Kgです。13才という年齢を考えれば恵まれた体格といえますが、二人を並べて比べれば完全に大人と子供です。
「これは流石に星矢が不利過ぎますわね。なにか檄にはハンデをつけべきかしら?」
別に星矢を贔屓する気はありませんが、この大会は忠実な手駒となる者を選別する為のものです。
各々の戦闘力としては、聖闘士として一定のレベルに達してさえいれば構いません。戦闘力よりも大事なのは、このわたしへの忠誠心なのです。
わたしの手駒として合格ならば、檄と星矢は同僚として働いてもらう事になります。ですから不公平な試合をさせて、後々の不満となってはいけません。
やはりここは二人の体格差を考慮して、公平な試合になるように檄にハンデをつけるべきですね。
うーん。どのようなハンデがいいかしら?
虹色の脳細胞をフル回転させて、わたしは考えます。
ピコーン!
早速、閃きました。
流石はわたしですね。
「檄にはハンデとして、星矢戦の前にエキシビションマッチを行ってもらいます」
「エキシビションマッチですか? お嬢様、檄のお相手は誰にされるのですか? 他の少年達も自分の試合があるのですから選ばれても迷惑だと思いますよ」
星華が可愛らしく首を傾げながらエキシビションマッチの相手を聞いてきました。
たしかに星華の言うとおりです。他の手駒候補をエキシビションマッチに出場させた場合、その手駒候補もハンデを背負う事になります。
もちろん、このわたしがそんなお間抜けな事をするわけがありません。
「檄の相手はアルデバランにしてもらいます。お互いに巨漢同士ですからバランスが取れていますからね」
「あの、お嬢様。巨漢同士と言われてもアルデバランは身長210cmです。そして体重は130kgになります。これでは星矢よりも檄のハンデの方が大きくなりますよ」
星華が檄の心配をしています。星華にとっては弟の星矢が有利になるのなら黙っていたほうが良いでしょうに。本当に星華は心優しいですわね。その優しい気持ちにわたしも応えましょう。
「二人が行うのはあくまでもエキシビションマッチです。檄には適度に疲れてもらえば良いだけですからね。当然、アルデバランには手加減するように伝えますわ」
「ふふ、さすがはお嬢様です。ちゃんと考えられていたのですね。てっきり、このままエキシビションマッチを行わせるつもりだと思っていました。そして、脳筋のアルデバランが檄をズタボロに打ちのめして病院送りにしてしまい、予想外の結果にアワアワするお嬢様の姿を幻視した私が浅はかでしたわ」
「……」
「お嬢様、急に黙られてどうされました?」
「い、いえ、なんでもありませんわ。それよりもアルデバランを呼んできて下さい。エキシビションマッチでは手加減するようにあの脳筋にはしっかりと言い含めておく必要がありますからね」
「はい、承知いたしました」
一礼してから部屋を出た星華を見送りながらわたしは思いました。
あ、危なかったですわ。グッジョブ、星華!!
──と。
***
エキシビションマッチは成功しました。
手加減全開のアルデバランによるデコピン攻撃で、檄はほどよく体力を削られました。これで星矢とのバランスがとれましたわ。
そして、いよいよ第一回戦が始まりました。
リングでは星矢と檄が相対しています。
「檄、本当に大丈夫かよ? お前の
「ウゥ、たとえ
「ぜ、全身の骨にもヒビが入っているのかよ。あのアルデバランとかいうオッさんって、何者なんだ?」
「俺が聞いた話では、城戸邸の門番らしいぞ」
「門番だと!? 聖闘士よりも強い門番……な、なあ、檄、お前ってもしかしてもの凄く弱いのか?」
「なんだと!? 俺が弱いだと!? 馬鹿にするな!! 俺は聖闘士になるまでに何百頭もの熊を絞め殺してきた男だぞ!!」
「あのな、俺を含めてここに居る奴らなら誰でも熊程度は瞬殺だぞ。まあ、聖闘士なら当然だけどな」
「なに!? そ、そうなのか? も、もしかして俺って、聖闘士の中ではたいした事のない奴なのか?」
「とりあえず、骨も
「お前、手加減する気なしかよ!?」
「当たり前だろ、星華姉さんが観戦してるんだからな。良い所をみせるチャンスなんだぞ」
「くそう、星矢のシスコンは相変わらずかよ。だが、俺にも聖闘士としての意地がある。戦わずにして負けを認めるわけにはいかない。だが、死にたくはないから手加げ「そうか、檄は聖闘士としての矜持を選ぶんだな。じゃあ、遠慮なくいくぞ!! ペガサス流星拳!!」ちょっと待てー!? 手加減をしてく……グワァアアアアアアー!!!!」
情け容赦のない星矢の攻撃で、檄が吹っ飛びました。
そして檄はリングに頭から叩きつけられました。ですが、聖闘士にとってはそれは日常茶飯事のことです。
わたしはすぐさま立ち上がる檄の姿を予想しました。
――ピクピク。
あら?
予想に反して檄はピクピクするだけで立ち上がりません。どうされたのでしょうか?
「お嬢様、アルデバランに手加減させる話はどうなったんだ? あれでは檄があまりにも可哀想だ」
ひぃ!?
いつのまにか殺気を漂わせた星華がわたしの真横に立っています。
不味いですわ。
星華が本気で怒りそうな気配を感じます。急いで身の潔白を証明すべきです。
「あ、あのですね。わたしはちゃんとアルデバランに手加減を命じましたよ。その証拠にアルデバランもデコピンしか使っていませんでしたわ。檄のダメージが大きかったのは、二人の実力差が想像以上だったというだけです。つまりこれは不可抗力ですわ。デコピン以上の手加減なんて思いつきませんもの。ほ、ほらね。わたしは何も悪くありませんわよね」
わたしの言い訳……ではなく、正当なる言い分に納得された星華は、大きな溜息をついた。
「ハァ、分かったよ。お嬢様が悪いんじゃない。脳筋で手加減が苦手なアルデバランが悪いみたいだね。あいつは一週間、夕飯抜きにするよ。それとお嬢様にも管理責任はあるんだから、檄に対するフォローはしてあげなよ」
「もちろん、そのつもりですわ。檄は敗れたとはいえ、わたしの為に命を捨てる覚悟を見せてくれました。ですからちゃんとわたしの手駒にしてあげますわ」
「色々と突っ込どころ満載だけど、まあ、良しとしよう。では、お嬢様。ちゃんと檄の面倒をみて上げて下さいね」
わたしの答えに納得した星華は、漂わせていた殺気を引っ込めて微笑んでくれました。
ふぅ、どうやらうまく星華の怒りをかわせたようですね。
では、次の試合の観戦といきましょう。