銀河戦争二日目の試合が始まりました。
リングでは瞬と邪武が、互いに睨み合っています。
こうして見ると、やっぱり瞬とエスメラルダは似ています。
あえて違いをあげるなら、瞬の方がやや凛々しくて、エスメラルダは優しげな雰囲気といったところですね。とはいっても、瞬が可愛い事は間違いありません。
たとえば、瞬が邪武を睨んでいるといっても、可愛い女の子が頑張って睨んでいるように見えます。
野良犬のような目付きで、瞬を睨んでいる邪武の頰が、ポッと赤くなっているのは気のせいではないでしょう。
邪武がいけない世界の扉を開かないか心配です。
もしもそんな事になれば、星華が狂喜乱舞すること間違いなしです。
まったく、男の子同士の何が良いのでしょうか?
などと考えていたら、リング上で動きがありました。
「僕のネビュラチェーンの防御は無敵だよ。邪武、君には決して破れない」
瞬は、両腕の鎖を自分を中心にして渦巻き状に伸ばします。その渦巻きはリングいっぱいにまで広がりました。
その光景は、実に不思議です。
瞬の腕に巻き付いていた鎖は短かったはずです。どこからあれほどの長さの鎖が出てきたのでしょうか?
これは、突っ込んではいけない事なのでしょうか?
誰も疑問を口にされないので、日本人のわたしも周りの空気を読んで、黙っていようと思います。
「グワッ!?」
「何度、挑もうと無駄だよ! 僕のネビュラチェーンに死角はないんだ!」
そうこうしているうちにリング上では、激しい攻防が繰り広げられています。
とは言っても、ガムシャラに瞬に近付こうとしている邪武が自動的に動く鎖に跳ね返されているだけなので、あまり見応えはありませんね。
それにしても自動的に動く鎖はリモコンでしょうか? それとも超能力?
鎖への謎が深まるばかりです。
そして、リングでは瞬の鎖が動きます。
「ゲボ!?」
瞬の鎖が跳ね上がります。
「フゴ!?」
瞬の鎖が躍動します。
「ウガ!?」
瞬の鎖が煌めきます。キラッ☆
「ヘグ!?」
そして、瞬が叫びます。
「お願いだからもう諦めてよ!」
邪武は、鎖にボコられまくってズタボロです。その悲惨な状況に攻撃をしているはずの瞬の方が辛そうな表情です。
どうやら瞬は戦士としては優しすぎるようですね。まあ、その割には邪武を打ちのめす鎖には手加減が感じられませんけど。
それにしても邪武は何がしたいのでしょうか?
馬鹿みたいに瞬に近付こうとせずとも、聖闘士なら衝撃波や真空波などを飛ばしての遠距離攻撃が可能のはずです。
もしかして、なにか思惑でもあるのでしょうか?
「星矢、あなたは邪武と戦闘スタイルが似ていますよね。あなたなら邪武が敢えて遠距離攻撃をせずに、接近戦に拘るのかの理由を察することは出来ますか?」
分からないことは人に聞くことにします。
わたしは、星華の近くをウロウロしていた星矢に声をかけました。
星矢と邪武は、羽の生えたお馬さんと角の生えたお馬さんの違いがあるとはいえ、共に素早い身のこなしを信条とするスピードファイターです。きっと、星矢になら邪武の考えが分かるはずです。
「えっ、俺に聞いてるのか? いや、俺に聞かれても邪武の考えは分からないぞ。俺なら流星拳の衝撃波で攻撃するからな。でもそうだな、邪武は俺よりも頑固なところがあるから、遠距離攻撃に頼るのは、瞬の鎖に負けたことになるとか考えているのかもな。まったく、あんなにボロボロになってまで意地を張るなんて、本当に馬鹿だとは思うけど、俺は邪武らしいと思うぞ」
星矢は話しながらもジリジリと星華に近寄っています。さり気なさを装っているつもりのようですが、星華にはバレバレです。
星華は、わたしの側に立てかけておいた黄金の錫杖を手に取ります。そして、力を込めて突き出しました。
「フンッ!」
「ゲボ!?」
錫杖の先端が星矢のお腹にめり込みます。星矢はその場に崩れ落ちました。わたしの元愛馬は大丈夫でしょうか?
「星矢! 仕事中に気を抜くんじゃないよ!」
「う、うん、わかったよ。星華姉さん」
星矢は、お腹をさすりながらも少し嬉しそうに立ち上がります。
さすがは聖闘士だけあって頑丈ですね。それとも特殊な性癖かしら?
──この時、わたしの脳裏に稲妻が駆け巡りました。
驚愕の表情で、わたしはリングに目を向けます。
そこには、可憐な乙女(に見える男の子)に鎖で打たれている邪武の姿がありました。邪武の顔は苦痛で歪んでいます。ですが、その瞳には紛れもなく興奮の熱が宿っています。
「邪武、そうだったのですね」
謎は全て解けました。
そうです。
思い起こせば、幼き頃から彼は
幼い頃、わたしが愛馬と乗馬を楽しもうとすると、あの駄馬は頻繁に割り込んできました。そして、わたしの鞭を受けては喜んでいたのです。愛馬ですら鞭は嫌がっていたというのに。
ああ、なんという業の深い方なのでしょうか。
わたしは心の距離を今まで以上に取りながら呟きます。
「邪武……あなたは、えむの人だったのですね」
「お嬢様はアホですか?」
なぜか星華に呆れられました。
何故でしょう?
***
「星矢ちゃん……どうして戻ってこないの?」
美穂は悩んでいた。
数年ぶりに再開した幼馴染みが、魔窟ともいえる城戸邸に向かってから数日経っても戻ってこないからだ。
たしかに城戸邸には、彼の姉である星華が住んでいるため、星矢が城戸邸に宿泊していても不思議ではない。
だけど、あの沙織お嬢様を嫌っている星矢が城戸邸に泊まるだろうか?
いや、そんな事はあり得ない。
美穂が知っている星矢なら、姉の星華を説得して共に城戸邸を出ようとするはずだ。
それが出てこない。
ならば考えられる可能性は一つだけだった。
「星華さんの説得……星矢ちゃんには無理ゲー過ぎたよね」
そうなのだ。
あの
その事に気付かなかった事は、美穂にとって痛恨のミスと言えよう。
だが、そのミスはまだ挽回できる。
「星矢ちゃん待っててね。私が助けにいくからね」
星矢が星華を諦め、一人だけで城戸邸を出る可能性は皆無に等しいだろう。
美穂が放っておけば、かつての星華と同じように星矢までもが沙織お嬢様の毒牙によって、その手先にされるだろう。
「星矢ちゃんは決して渡さないわ」
星矢への想いを胸にして、恋する乙女は勇気をふり絞る。
「たとえ星華さんをぶん殴ってでも、星矢ちゃんと一緒に城戸邸から連れ出してみせるわ」
どんな汚い手を使ったのか分からないが、沙織お嬢様に心酔する星華を連れ出すには強硬策しかなかった。
「でも、可能なら星矢ちゃんをぶん殴って星華さんへの想いを消しちゃおう!」
やはりシスコンというのは、マイナスポイントだ。
どうせ強硬策を取るならば、ついでにシスコン消去にも挑戦すべきだろう。
美穂は両手を握りしめて気合を入れる。
「待っててね、星矢ちゃん!!」
美穂は駆けだした。
星矢とのラブラブな未来に向かって。