沙織お嬢様の優雅なる武勇伝   作:銀の鈴

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第25話「沙織お嬢様の名推理(その3)」

奇跡的に大魔神の怒りを鎮める事に成功したわたしは、優雅に紅茶を飲みながら推理を再開しました。

 

容疑者は全員で10名……いえ、9名になります。1名減ったのはウルフの那智が精神崩壊中なので除外しました。現在の彼はまるで赤ちゃんのように色々と垂れ流しの状態になってします。本当に一輝は酷いことをしますね。彼には思いやりの心が無いのでしょうか?

 

「ククク、思いやりの心云々を沙織お嬢様が口にするとはね。乙女のハートを傷付けた分際で生意気だよ。そう苦言を呈する我が身をお許し下さい」

 

だ、大魔神様はまだ怒りが鎮まりきっていないようです。非常に怖いです。しばらくの間は大魔神様と二人っきりにならないように気をつけましょう。

 

「単純に考えれば、途中敗退した奴らのうちの誰かが腹いせに聖域に告げ口をしたとかかな?」

 

シャイナお姉様はすっかり元気になられました。ちょっぴり危惧していた精神にも異常は認められません。

 

本当によかったですわ。

 

「だから狂気の原因である沙織お嬢様が言うんじゃないよ。まったく、同じ事を何度言わせる気かね。などという、クソ生意気な諫言をした我が身をお許し下さい」

 

こ、今度のコミケでは大魔神様のファンネルになりますからどうかお怒りをお鎮め下さい。

 

わたしは大魔神様のお怒りを鎮めるため、真摯な気持ちをもって土下座をします。

 

「あの沙織が土下座だって!?」

 

シャイナお姉様の驚愕の叫びが聞こえましたが、それに構う余裕などありません。

 

大魔神様、どうかお許しを。

 

シャカとアルデバランの二人が一緒に水浴びをしている写真も進呈いたしますゆえ。

 

「なんでそんなものを持っているんだよ!?」

 

シャイナお姉様の吃驚仰天している声などに構う余裕はありません。

 

大魔神様、どうかお許しを。

 

わたしがこっそりと毎晩のように行なっている豊胸体操をお教えしますゆえ。

 

「ば、ばかっ、そんな事を言ったら火に油を『沙織お嬢様、頭を上げて下さい。私達は厚い信頼関係で繋がった主従ではありませんか。そんな私が本気で怒ったりするわけありませんよ。うふふ、それにしても豊胸体操の効果がとても楽しみです♪』星華、それで良いのかい!?」

 

どうやら大魔神様のお怒りは完全に鎮まったようです。

 

うふふ、本当によかったですわ。

 

「ま、まあ、今さらあんた達のことを気にしても仕方ないか。それよりも犯人を特定する方が先決だね」

 

シャイナお姉様は、軽く頭を振って気を取り直すと言いました。

 

「あたしとしては、ベアーの檄が怪しんじゃないかと思うんだ。だってあいつが一番沙織を恨んでいるはずだろ?」

 

はて?

 

クマさんに恨まれる心当たりは無いのですが?

 

「いやいや、何言ってるんだい。星華に聞いたけど、沙織はアルデバランに檄をシメさせたそうじゃないか。そりゃあ、沙織を恨むだろうさ」

 

シャイナお姉様は呆れたように肩をすくめました。

 

わたしがアルデバランに檄を……?

 

そんなことがあったでしょうか?

 

シャイナお姉様が嘘を吐くとは考えられませんが、このわたしが他者に命じて暴力を振るわせるなんて……そんな面倒な事をするでしょうか?

 

絶対に自分の手でやる方が早いです。

 

気に入らない奴は即座にぶっ飛ばす。それが沙織クオリティなのです。

 

「沙織お嬢様、星矢戦前のエキシビションマッチのことです。檄を適度に疲労させることが目的でしたが、アルデバランとの実力差が開きすぎていたため、結果的に檄を一方的に痛めつけることになりました」

 

ああ、思い出しました。確かにそんな事がありましたわ。

 

「やっと思い出したようだね。それなら分かるだろ? 檄が沙織を恨んでる事がね」

 

シャイナお姉様、お言葉ですが檄のことなら対処済みですわ。

 

「対処済み? ま、まさか沙織あんた……」

 

シャイナお姉様は声を潜めながら言います。

 

「(檄を殺っちまったのかい?)」

 

「そんな訳ないでしょう!?」

 

思わず大声を出してしまいました。

 

まったく、いくらシャイナお姉様といえど、言っていい事と悪い事がありますわ。

 

檄は手駒にすると決めたのですよ。あたしは自分の手駒は大事しますわ。

 

「そうか、手駒という呼び方はどうかと思うけど、沙織は自分の配下を大事にするんだね。嫌なことを言って悪かったよ」

 

分かっていただければ良いのですわ。シャイナお姉様に誤解されたのは悲しいですけれど。

 

「本当に悪かったよ。沙織は本当は優しい娘だってことを普段の行動を見ているとついつい忘れちまってね」

 

なんとなく引っかかる言葉ですが、シャイナお姉様の謝罪は受け入れますわ。

 

「ああ、謝罪を受け入れてくれてありがとう、沙織」

 

シャイナお姉様はそう言いながら、わたしを優しく抱きしめて下さいました。

 

うふふ、これで仲直りです。

 

でも本当にひどい誤解でした。わたしが大事な手駒を簡単に殺るわけがないのに。

 

だって、手駒というのは表には出せない汚れ仕事や暴漢に対する肉の壁、そしていざという時の身代わり出頭など、重要な仕事を任せられる貴重な人材です。

 

無駄使いなど決して出来ません。

 

「それで沙織の対処ってのは、どんなものなんだ?」

 

シャイナお姉様が檄への対処を聞いてきました。誤解が解けたとはいえ心配なのでしょう。お姉様は優しいですからね。

 

「グラード財団への正式雇用ですわ。グラード財団での職務内容や待遇などを説明したところ非常に乗り気になって下さいました」

 

我がグラード財団は完全な実力主義となっています。それゆえ、小学校中退の檄ですが、厳しい修行を乗り越えて青銅聖闘士と成れた実力は高く評価されます。その為、わたしは真摯に誠意をもって彼をグラード財団に勧誘したのです。彼に相応しい雇用条件を用意して。

 

「なるほど、あたしにはピンとこないけど、働き者の日本人は正式に雇用される方がやる気が出るってことかな?」

 

シャイナお姉様はイマイチ分かってなさそうな口振りで呟きました。

 

 

 

 

星矢戦終了後、わたしは重傷を負いベッドで横になっている檄に企業説明を行いました。

 

一流大学卒と同等の給与体系に豪華な社宅貸与、この社宅は定年まで勤め上げれば退職金の一部として檄に譲渡されます。基本的に転勤はありません。年間休日数は120日を超えます。賞与は年2回で支給額は他の一流企業と比べても同等以上です。医療補助も充実しており、グラード財団直営の城戸大学病院ではなんと自己負担一割で受診可能です。健康診断も破格の年二回あり、しかも世界最高レベルの人間ドックでの検診となります。定年は60歳ですが、本人の希望があれば70歳までの継続雇用が可能です。さらに退職金制度は当然として、グラード財団の企業年金や持株会、その他諸々の資産運用もその道のプロによる指導を受けて行えます。

もちろん、メリットだけを提示してもかえって疑心を招くだけですからデメリットも申し上げます。檄は聖闘士としての雇用です。つまりは荒事専門となります。命の危険が無いとは決して言いません。それに転勤はありませんが、わたしの海外出張に護衛として同行して頂きます。そして、グラード財団の総帥であるわたしは常に命を狙われています。しかも海外ならば刺客は当然のように銃火器で武装しているでしょう。場合によっては戦争レベルを想定する必要があります。その全てを檄は聖闘士として鍛え上げた力で受け止め、はじき返さなければなりません。言っておきますが、グラード財団総帥の地位は甘くはありませんよ。日本経済を背負っているグラード財団総帥であるわたしが凶刃に倒れる事があれば日本経済は混乱を極める事でしょう。その経済的混乱は世界恐慌の切っ掛けにすらなり得ます。そうなれば、日本は先進国から世界最貧国にまで転落する可能性すらあります。そんな状況となれば日本国内にどれほどの悲劇が生まれてしまうのか、このわたしですら予想がつきません。ですが、これだけは分かります。

 

わたしは檄と視線を合わせて言葉を発します。

 

「檄、あなたのように親のいない孤独な子供が増えてしまうわ」

 

その言葉に檄は息を飲みました。

 

そんな彼に、わたしは覚悟を問います。

 

「檄、あなたの後ろには守るべき多くの子供達がいます。その子達の人生を背負う覚悟はありますか? あなたの任務は決して光に照らされるような立派なものだけではありません。時には汚泥に塗れるような行為すら必要となるでしょう。それでもあなたは……あなたが守る子供達にすら賞賛を受けれない立場となり、辛い修行の果てに磨き上げた強き拳を陽の当たらぬ場所で、生涯振るい続ける覚悟があなたには……ベアーの青銅聖闘士、檄。あなたには有りますか?」

 

 

 

 

というわけで、恵まれた職場環境と、高いモチベーションが保てる目的意識を手に入れた檄は、わたしに忠誠を誓ってくれました。

 

素直なクマさんで良かったです。

 

 

 




沙織「容疑者を一人ずつ推理するのは時間がかかる事に気付きました」
星華「推理以外の余計な話をするからだと思いますが?」
沙織「星華、雑談すら出来ないような余裕の無さでは大成できませんよ」
星華「余裕を持ちすぎると対応が遅れると思いますが?」
沙織「なるほど、星華の言葉にも一理ありますわ。では次回は星華の言を取り入れて巻いていきましょう」
星華「“そして、50年の時が流れた。” となるわけですね。では次回は『最終話「沙織お嬢様(お婆ちゃん)は縁側で茶をすする」』乞うご期待!!」
沙織「それは巻きすぎですわ!?」
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