名探偵業に飽きました。
ですので、手っ取り早く結論を出して名探偵業を廃業したいと思います。
「沙織にはもう犯人が分かっているのかい?」
ええ、もちろんですわ。色々と推理をしていて気付きました。
名探偵の自称は伊達ではありません。今回の事件、犯人は一名しか考えられません。
「へえ、随分と自信があるんだね」
シャイナお姉様、思い出して下さい。
シャカの報告では、聖域の教皇がデスクイーン島に調査部隊を派遣したのは金ピカが奪われる前です。
「たしかにそうだね。シャカからの電話は金ピカが奪われた直後だった。その時点で既に調査部隊は派遣されていた。つまり、教皇は銀河戦争での出来事とは関係なく調査部隊を派遣したわけだ」
その通りです。教皇が調査部隊を派遣した理由は、聖域に蔓延した怪しげな噂の為です。
「十数年前に聖域から失われた黄金聖衣が、デスクイーン島へと持ち込まれたという出所不明の噂だね。でも、そんないい加減な噂だけで教皇が動くもんかねえ?」
シャイナお姉様は訝しげに首を傾げる。
その気持ちはよく分かります。大きな組織にいれば噂話などいくらでも入ってくるものです。そんなものに一々振り回されていては日常業務も滞ってしまいます。
ですが、少し考えてみて下さい。
「考える? 何を考えろって言うんだ?」
怪しげな噂だけで教皇が動くわけがない。それなら “何が” あれば教皇は動くのでしょうか?
「うーん、そうだね、なにか客観的な証拠でもあれば動くんじゃないかな?」
シャイナお姉様は自信なさげに言います。
普段は自信に溢れたシャイナお姉様の気弱な姿に思わず胸がキュンとなります。
「沙織……妙な目で見ないでほしいんだけど」
あら、わたしのトキメキがシャイナお姉様に伝わったみたいです。うふふ、恥ずかしいですわ。
「シャイナ様、飢えた獣のような目で見るなとハッキリと仰っらないと沙織お嬢様には伝わらないと思いますよ」
星華、うっさいです。
お姉様はそんな事を思っていませんわ。きっと、自分らしくない姿をわたしに見られて恥ずかしがっているだけですわ。
ねっ、お姉様!
「いや、その、ま、まあいいじゃないか! 話を先に進めよう!」
うふふ、シャイナお姉様が照れているようなので、ここは話を戻すことにしましょう。
教皇が動いた理由として考えられるのはですね。
おそらくは、聖域で修行をされている女聖闘士候補の方達がデスクイーン島に向かったからですわ。
「なんだって!? それは本当かい!」
シャイナお姉様がひどく驚きますが、それは無理のない事です。
女聖闘士になるために修行中の少女達は、聖域以外のことは殆ど知らない純粋な少女ばかりです。
そんな少女達が遠く離れたデスクイーン島へ向かったと聞けば驚いて当然でしょう。
「どうしてその子達はデスクイーン島へ向かったんだ?」
それはアルバイトの為です。
「アルバイトだって?」
その通りです。修行中の少女達はお小遣いを持たないので、甘いお菓子や可愛い小物など、欲しい物があっても買えない状況でした。
「それはそうだろうね。白銀聖闘士のあたしだって、任務のために必要な経費しか渡されなかったからね。本当はいけないことだけど、その経費を節約して年下の子達にお菓子を差し入れしていたよ」
うふふ、やっぱりお姉様は優しいですわ。
でも、そんな幸運は滅多にありませんわよね?
「ああ、そう頻繁に差し入れは出来ないし、出来たとしても全員に行き渡るほどの量は買えないからね」
その通りです。辛い修行の毎日でありながら、たまの差し入れのお菓子ですら満足に手に入らない。
そんな辛い日常を送る少女達の前に突然現れた優しげな美少女は言いました。綺麗なお洋服や甘いお菓子が欲しくありませんか? と。
「は? 今、なんて言ったんだい?」
もちろん、そんな怪しげな誘い文句に乗る馬鹿な少女は普通ならいないでしょう。
ですが、その優しげな美少女は、聖域では信頼されている門番のアルデバランが聖域立入許可証を発行している美少女です。そのため、信頼度は抜群でした。
「さ、沙織、ちょっと待ってくれないかい?」
優しげ美少女は言います。
実はデスクイーン島で催されるイベントでエキストラのアルバイトを募集中だということを。そして、そのアルバイト代として綺麗な洋服とお菓子を用意していることを。
ここでミソなのが、アルバイト代が現金ではなく現物支給だという事です。
現金の場合、普段お金を持たない少女達では使う場所に困るでしょう。それに現金だとアルバイトに警戒心を持たれる可能性もあります。
ですが、洋服やお菓子などの現物支給なら軽い気持ちで参加できるでしょう。アルバイトもある男の子に対するドッキリのエキストラです。好奇心の湧く内容です。
「いや、ホントに待ってくれないかい?」
デスクイーン島で黄金聖衣を用いた謎の儀式を行う男の手下役のエキストラ。体力のいるエキストラですが、女聖闘士候補の少女達なら問題ありません。
デスクイーン島までのちょっとした小旅行と、修行よりもよっぽど楽なエキストラをするだけで綺麗な洋服とお菓子が手に入る。もちろん、アルバイト中のご飯も普段は食べれないような豪華なものです。
ただ、少女達が心配なのはアルバイトなどを受けたら師匠に叱られないかという事です。
しかし、それは心配無用です。
各人の師匠達にはアルデバランが責任をもって脅は……説得をします。何も心配は要りません。ちょっとデスクイーン島で黄金聖衣絡みのイベントの為に弟子達を借りるだけです。
アルデバランに全てお任せです。
「あの、沙織……?」
そう、全て問題はありませんでした。
ただ、アルデバランに一つだけ手抜かりがあったとすれば、それは師匠達の口止めを忘れていた事でしょう。
恐らくは弟子をアルバイトで連れていかれた師匠連中が聖域の彼方此方でボヤかれたのでしょうね。弟子をデスクイーン島での黄金聖衣絡みのイベントで連れていかれたと。きっとそのせいで妙な噂話として広まったのだと思います。
教皇にはその噂話と共に、聖域から実際にいなくなった女聖闘士候補達の情報が伝わってしまったのでしょう。それなら念のため教皇が動いたとしてもおかしく無いのかもしれません。
まったく、仕方のないアルデバランです。こんな事ならアルデバランではなく、シャカに任せるべきでしたね。
「もういいよ、沙織。つまり、聖域に情報を漏らした犯人ってのは…」
シャイナお姉様は呆れたような様子で犯人の名を口にしようとしますが、わたしはそれをやんわりと止めます。
「お待ち下さい、シャイナお姉様。アルデバランも悪気があったわけでは無いのですから、犯人がどうとかは言わないであげましょう」
物分かりのいい上司のわたしは思います。人間なら誰にだって失敗はあるのですから、その失敗を責めるのではなく、わたし達全員で次回に生かす教訓としようではありませんか。
うんうん、では犯人探しはこれで終了です。
こんな事よりもデスクイーン島に向かったという調査部隊への対処の方が先決ですわ。
「沙織、あんたって子は……」
「見事な責任転嫁です。流石は沙織お嬢様ですね」
わたしは、両手を両耳に当てて塞ぎました。
あー、あー、聞こえませんわー。
沙織「美少女名探偵サオリの華麗なる推理劇は今回で完結です。長らくの応援ありがとうございました♪」
星華「酷すぎる結末に苦情がこないか心配です」
沙織「ええ、星華の心配も分かりますわ」
星華「おや、珍しいですね。沙織お嬢様がお認めになるなんて……明日は雨でしょうか?」
沙織「やはり、探偵物のクライマックスでは“犯人はあなたです!”の決め台詞が必要でした。今回の反省点ですわ」
星華「前言を撤回します。今回も沙織お嬢様らしいです」