沙織お嬢様の優雅なる武勇伝   作:銀の鈴

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第27話「沙織お嬢様はお姫様」

倉庫街を脱出した一輝は、当初の予定通りにグラード財団所有の私設空港へと向かっていた。不機嫌そうに徒歩で。

 

「まったく、タクシーが乗車拒否とはどういう事だ。会社にクレームを入れてやるぞ」

 

フェニックスの聖衣を着込んだ一輝は、タクシー運転手に乗車拒否をされたのだ。

 

まあ、運転手も深夜に一人で歩くコスプレ男など怪しくて乗せたくないのだろう。その気持ちは理解できる。

 

「この時間だと電車やバスも動いていないしな。やはり地道に歩くしかないか」

 

もちろん、聖闘士である一輝が本気で走れば、タクシー以上の速度を出せるが、深夜とはいえ街中でそんな目立つ真似は出来なかった。

 

“怪奇! 深夜のコスプレ爆走男の恐怖!” そんな都市伝説を作ってしまえば、きっと沙織お嬢様に怒られるだろう。

 

「沙織お嬢様は、先代が腹上死してからは、世間の目を気にするようになったからな。目立つ行動は控えるべきだろう」

 

祖父の死後(腹上死)、散々噂話のネタにされた沙織お嬢様は、他者からの好奇の目に敏感になっていた。

 

他人から恐れられるのはいいでしょう。嫌われるのも構いません。わたしはグラード財団のトップに立つのですから当然ですわ。と、沙織お嬢様は他人から忌避されても気にはしない。

 

だけど、馬鹿にされるのは許しません。虚仮にされたのならぶっ飛ばします。笑われたのなら血の海に沈めましょう。

 

わたしを舐めるのなら──全面戦争ですわ!!

 

現在の沙織お嬢様は、そんな危険な精神状態になっていた。

 

まあ、沙織お嬢様はまだ13歳の子供だから精神的に未熟なのは仕方ない。そのうち大人になるんじゃないの。

 

そんな風に星華あたりは軽く言うが、それは沙織お嬢様の寵愛を受けているからこそ言える台詞だろうと一輝は思う。

 

お嬢様弄りを楽しめるような一部の例外を除き、城戸の名を、そしてグラード財団の名を汚すような真似をすれば、社会的にどころか物理的にこの地上から消されかねなかった。

 

「沙織お嬢様は、誇り高いといえば聞こえはいいが、外面を気にしすぎだな。人の目なんか気にせずに振る舞えばいいものを」

 

一輝はそう考えるが、今の沙織お嬢様の精神状態は客観的にみれば悪くなかった。何故なら強大な力を持つ沙織お嬢様が世間体を考えて自重するからこそ、日本は平穏を保っていられるからだ。

 

もっとも個人レベルで考えれば、沙織お嬢様を侮辱すればこの世の地獄を味合うという危険な状態だが、そこは許容範囲内だと諦めよう。

 

強大な力を持つ沙織お嬢様──人類史上最強の超能力と人間の限界を遥かに超えた小宇宙を持ち、白銀聖闘士シャイナの指導の下、聖闘士としての修行を経て、黄金聖闘士のシャカとアルデバランを相手に実戦訓練を積み重ね、世界中をめぐり邪悪な存在との実戦を繰り返してきた超武闘派お嬢様を侮辱するような馬鹿なら擁護する気にもならない。

 

そして、沙織お嬢様個人の戦闘力を知らない人間でも、グラード財団総帥の地位にある彼女を安易に侮辱するような愚か者なら、それはもう自業自得だろう。

 

「おっ、またタクシーが来たな。おーい、止まってくれー! おいっ、止まれって言ってるだろうが! おいコラ!……また乗車拒否かよ。くそ、日本のタクシーはどうなってんだ?」

 

またもやタクシーに乗車拒否された一輝は毒吐きながら空港に向かって歩く。

 

「デスクイーン島で打ち合わせもあるから急いでるってのに、空港まで走ることも出来んとはもどかしいものだな」

 

そう、デスクイーン島ではエキストラ達との事前打ち合わせが待っていた。瞬攻略作戦のための配役や台詞読み合わせに舞台稽古などやる事が山積みになっている。

 

「過密スケジュールだが、俺達の幸せのためだ。頑張るしかないな」

 

ブツブツと独り言を言いながら一輝はデスクイーン島に着いてからの予定を思い浮かべる。

 

「まずは沙織お嬢様が突貫工事で造らさせたという秘密基地に行って、金ピカを儀式用の祭壇の置い……しまったな。金ピカは覆面少女にプレゼントしたんだった」

 

一輝は、沙織お嬢様から金ピカは金メッキだから資産価値は低いと聞かされていたため、自分の独断で覆面少女にプレゼントした事を思い出した。

 

「うーむ、何か代わりの金ピカを用意する必要があるな」

 

一度プレゼントしたものを返してもらうという選択肢はない(そんな恥知らずな行為を外面の良い沙織お嬢様にバレたらぶっ飛ばされる)ため、一輝は新たな金ピカを用意する必要があった。

 

「しかしこんな深夜だと開いている店も……あったな」

 

周囲を見渡した一輝の目に止まったのは、某大手雑貨屋チェーン店だった。

 

 

 

 

「教皇の調査部隊がこちらに向かっていると連絡がきたぞ」

 

アルデバランの言葉に女聖闘士候補生達は息を飲む。彼女達は突然の事態に顔色を悪くさせた。

 

「それは私達のアルバイトを止めさせるためでしょうか?」

 

彼女達のリーダー格である少女が意を決してアルデバランに問いかける。ここでアルバイトと止められたら報酬が手に入らないため冷静な口調とは裏腹に内心では焦っていた。

 

彼女は、ギリシャでの辛く苦しい修行の日々の中で突如訪れたこの幸運を逃したくはなかったのだ。

 

彼女達の多くは孤児であり、孤児でなくても貧しい家の出身だった。そんな境遇だった彼女達は幼い頃に聖域に連れてこられて女聖闘士候補生にされた。

 

それ以来、選択の余地などなく女聖闘士になるための厳しい修行の毎日だった。

 

辛い修行の日々、最低限の食事にボロボロの数枚の服。雨露をしのぐのが精一杯の古小屋。

 

それが彼女達の全てだった。

 

 

 

 

毎日が辛かった。

 

時々、優しい先輩が差し入れてくれる甘い食べ物だけが楽しみだった。もっとも、その甘い食べ物を口にするためには熾烈な争奪戦に勝ち抜く必要があったけれど。

 

ある日、聖域で時々見かける不思議な女の子が自分達の前にやってきた。

 

綺麗な女の子だった。まるで幼い頃に聞いたことのあるお伽話に出てくるお姫様のように見えた。

 

お姫様の後ろには、私達にとっては雲の上の存在である黄金聖闘士のアルデバラン様が、まるで彼女を守る騎士のように立たれていた。

 

「お姉さん達にお話しがあるのだけど、少しお時間よろしいかしら?」

 

にっこりと笑うお姫様。

 

可憐なはずのその笑顔に何故か圧迫感を感じたけど、年下に見えるお姫様とお話しをするぐらい構わないと思った。

 

私は了承の言葉を口にしようとしたが、不思議なことに舌が震えて喋りにくかったため黙って頷いた。

 

そんな私を見ていたアルデバラン様のしかめっ面が、妙に印象に残った。

 

お姫様の話は、信じられないほどに恵まれた依頼(アルバイト)の話だった。

 

デスクイーン島で行われるイベントの手伝いをするだけで甘い食べ物(お菓子というそうだ)と綺麗な洋服をくれるというのだ。

 

さらにイベントで活躍すれば特別なご褒美まであるらしい。

 

私以外の子達も全員がその話に飛びついた。

 

師匠にはアルデバラン様が話をつけてくれたし、移動の時の飛行機は豪華だし、御飯は信じられないくらいに美味しいし、泊まらせてもらっているホテルのベッドはフカフカで、お風呂までついている。まるで私達がお姫様になったみたいだねと、仲間達と喜び合った。こんな素晴らしいアルバイトを紹介してくれたお姫様には感謝しかなかった。

 

出来ることならずっと続いてほしいアルバイトなのに中止になってしまうのだろうか?

 

思わず涙が浮かびそうになったのを歯を食いしばって堪えた。周りを見ると他の子達も同じような様子だった。

 

「教皇の調査部隊は、俺達がイベントで使用する金ピカの箱について調べにきたらしい。だが、金ピカの箱はまだ日本にあるからここに来ても無駄足だな。まあ、奴らの目的などどうでもいい。このイベントは沙織お嬢様が取り仕切っている。邪魔をするなら教皇の調査部隊だろうと叩き潰すだけだ。お前達は何も心配せずに予定通りの役割を果たす事だけを考えておけ」

 

アルデバラン様から頼もしい言葉が放たれた。どうやらアルバイトは続行できるらしい。でも、教皇様の調査部隊を叩き潰すなど許されるのだろうか?

 

私だけでなく、他の子達も心配になったようだ。少し周りがザワついた。

 

そんな私達の不安げな様子に気付いたアルデバラン様が、私達を安心させるように笑った。

 

「フハハハ、何も心配するな。たとえ教皇と対立して聖域を追い出されようとも、沙織お嬢様はあのグラード財団の総帥だからな。お前達の面倒ぐらい見てくれるぞ。むしろ、その方が貧乏暮らしを強いられる聖域なんぞよりよっぽど良いかもしれんな」

 

教皇様…ううん、教皇と対立すればお姫様が私達の面倒を見てくれる?

 

それは、今のこのアルバイトがずっと続くという意味なのだろうか?

 

「うむ、そうだな。お前達はもう少しだけ鍛えれば沙織お嬢様配下の青銅聖闘士の小僧共の実力に追いつくだろう。そうなれば正式に沙織お嬢様の配下になれるように俺が推薦してやろう。要はアルバイトではなく、グラード財団の正社員になれるということだ」

 

正社員……?

 

正社員の意味が分からない私達は首を傾げる。

 

そんな私達にアルデバラン様が丁寧に正社員の意味や待遇などを教えてくれた。

 

その内容は私達の度肝を抜くほどに素晴らしいものだった。先ほどアルデバラン様が仰られた “聖域での貧乏暮らしよりよっぽど良い。” という言葉の意味がよく分かった。

 

教皇は辛い生活を強いるだけだったけど、お姫様はちゃんとした生活をさせてくれる。仕事は大変だろうけど、それに見合うだけの評価をしてくれる。私をちゃんと見てくれる。

 

正社員の意味を理解した私は、同じように話を聞いていた仲間達と目を合わせた。

 

それだけで仲間達の気持ちが分かった。この瞬間、私達の心はひとつになる。

 

私達は教皇ではなく、お姫様を選ぶと決めた。

 

私は握りしめた拳を振り上げた。

 

「よし、みんな! お姫様の為に教皇の調査部隊が来たら全力で叩き潰すってことでいいよね!」

 

仲間達全員から怒号に聞こえるほどの賛同の声が上がった。

 

そんな私達を見ていたアルデバラン様の満足そうな顔が、妙に印象に残った。

 




沙織「わたしのカリスマに惹かれてまた正社員が増えそうですわ♪」
星華「こうして社畜が増えるのですね。可哀想で涙が出そうです。ぽろぽろ」
沙織「社畜って失礼ですわ、グラード財団はホワイト企業です。っていうか、女聖闘士候補生の酷い暮らしぶりの方が可哀想で涙が出そうです。ほろり」
星華「星矢達も同じような生活でしたよね?」
沙織「男という生き物は、若いうちに苦労した方が大成しますわ」
星華「これも男女差別というものでしょうか?」
沙織「いいえ、違います。差別ではなく区別です。女の子という生き物は大事に大事に育てるものですわ」
星華「まあ、異論はないです」
星矢「ちょっと待ったー!男の子も大事に大事に育てるべきだと思うぜ!」
沙織&星華「「却下です」」
星矢「こんな時だけ息ぴったり!?」
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