裏山に突如現れた恐るべき捕食者。
恐るべき捕食者は、毎日のように裏山に現れては鹿や猪を素手で捕らえて孤児院へと凱旋していた。
その飢えた野獣の如き行為は、今まで農作物を鹿や猪共に食い荒らされていた農家の人達から喝采を浴びる。
「害獣駆除のお礼は、農作物で下さいね」
恐るべき捕食者はニッコリと笑いながら農家の人達に図々しい言葉を口にした。
そのような恫喝めいた要求に屈するものかと、農家の人達は一致団結して反抗するかと思われたが、大方の予想を覆して農家の人達は、危険で過酷な害獣駆除の報酬が農作物なら安い物だと快諾した。
その日から週一で孤児院に届けられるようになった新鮮な野菜や果物等に、飢えた餓鬼の如く食らいつく子供達。
そんな子供達の姿に笑みを深めた恐るべき捕食者は、覆面を被った後、金ピカに身を包まれる。
地上に顕現した黄金の覆面少女は、光の速さで海へと移動した。
雄大なる海を見つめながら黄金の覆面少女は、自分達に幸せな日々を授けてくれた存在へ感謝を捧げる。
「
黄金の覆面少女は魂の底から湧き出るような力を
拳に凝縮されていく力に大気は震え、眼前の海は怯えたように荒れ狂う。
黄金の覆面少女は、静かに腰を落とし、その小さな握り
目の前の荒れ狂う海ではない “何か” を睨む黄金の覆面少女の顔は、鬼という言葉を想起させるほどに歪んでいながらも邪悪さは微塵も感じられなかった。
いや、邪悪どころかむしろ彼女からは、この地上に存在する全ての不幸を生み出す邪悪を滅ぼさんという気概が感じられた。
そして、小さな握り
「これが私の全力だあーーーーっ!!!!」
覆面少女の叫びとともに、凄まじい光の洪水が全てを照らし尽くす。
だけど不思議なことに、そんな激しい光とは裏腹に周囲は静寂に包まれていく。
静かな光の舞踏は水平線の彼方まで激しく、それでいて優しく覆い尽くす。
そんな静かな光の洪水が消え去った後、そこには荒れ狂っていた海の姿は消えていた。代わりにあったのは、穏やかな顔を見せる母なる海と、その母なる海の海面よりも遥か高くまで飛ばされた数え切れない程の巨大マグロの群れだった。
「よし! 一番の大物はあれだね!!」
黄金の覆面少女は、天空の無数の魚影から一番デカい超巨大マグロを一瞬で見抜いた。その眼力を発する横顔からは歴戦の勇士を思わせる風格すら感じさせた。
「うりゃあ!! 獲ったわよー!!」
今日一番の超巨大マグロを光の速さでゲットする黄金の覆面少女。
「お肉や野菜も美味しいけど、お魚も食べたいよね!」
見逃された巨大マグロの群れが次々に母なる海へと帰っていく光景を背にして、数百キロはあろうかという超巨大マグロを片手で持ち上げる黄金の覆面少女。
その雄々しい姿は、黄金色に輝いていた。
*
「一輝、よかった。無事だったのね」
「どうした、エスメラルダ? 何かあったのか?」
一輝は、デスクイーン島に造られた瞬攻略作戦用アジトで自分を出迎えたエスメラルダの安堵する様子に嫌な予感を覚えた。
エスメラルダは心優しい女性だが、その芯は強く、一輝と離れていたぐらいで不安になるような弱い女性ではなかったからだ。
「そういえば、アルデバランは何処にいるんだ? それに沙織お嬢様が雇ったはずのエキストラ達の姿も見ないようだが?」
「実はね、沙織お嬢様からの連絡で分かったのだけど、聖域の教皇がこのデスクイーン島に調査部隊を派遣したのよ。今はアルデバランさんとバイトさん達が島の見回りに行っているわ」
「教皇が調査部隊を派遣しただと!? 理由は分かっているのか!」
エスメラルダから伝えられた内容に一輝は驚愕する。聖域の教皇といえば、全ての聖闘士を統べる存在だ。その教皇自らがデスクイーン島の様な田舎へと調査部隊を派遣するなど通常ではあり得ないことだ。
もしかしたら、沙織お嬢様の存在に気付かれてしまったのかと一輝は危惧した。今でこそ神殺しを目指していたことを記憶の彼方に放り投げてしまったが、つい先日まで(城戸の爺さんが腹上死するまで)本気でアテナに成り代わろうとしていたのだ。
その事が聖域にバレれば、聖域はその全力をもって沙織お嬢様を邪悪だと認定して討伐しようとするだろう。
「ううん、沙織お嬢様を狙ってのことじゃないんだって。なんでも例の金ピカの調査にきたらしいわ」
「そうか、沙織お嬢様が目的じゃなければどうでもいい」
調査部隊の目的が沙織お嬢様じゃないと聞いたとたん、一輝から調査部隊への興味は失われた。
今の一輝の頭の中は、瞬攻略作戦の事でいっぱいなのだから些末なことにまで興味を持てという方が無茶な話だろう。
「アルデバランが向かったのなら問題ないな。俺達は予定通りに作戦準備を進めておこう」
「うん、分かったわ。少し準備が遅れているから急がなきゃいけないものね」
調査部隊など眼中にない一輝の様子にエスメラルダも安心する。彼女にとって世界中で2番目に頼りになる(もちろん1番は沙織お嬢様)一輝の言葉は絶対に近かった(絶対じゃないのはもちろん沙織お嬢様の言葉の方が絶対だから)からだ。
「ああ、先ずは金ピカを祭壇に置いておこう。これが今回の作戦のキーアイテムだからな」
一輝は某大手雑貨屋チェーン店のビニル袋に入れていた金ピカを取り出すと祭壇に置いた。
「こうやって見ると、この金ピカにピッタリの祭壇ね。流石は沙織お嬢様が突貫工事をしてまで造らせたものだわ」
エスメラルダは、悪魔信仰でもしていそうな禍々しい祭壇に置かれた金ピカを見つめながら沙織お嬢様の手腕を褒める。
「でも、この金ピカってこんなに丸い感じだったかしら?」
以前に見た時は、馬っぽい感じの金ピカだったと記憶していたエスメラルダは、久しぶりに見た金ピカが馬には見えない丸っこい感じに見えたため不思議に思う。
「……いや、最初から丸っこい感じだったぞ。エスメラルダが覚えているのは箱に描かれていた絵の方じゃないか? そういえば箱の方は運ぶのに邪魔だったから空港のゴミ箱に捨てちまったよ」
「そっか、たぶん一輝の言う通り箱の絵の印象が残っていたのね。あまり真剣に見ていなかったから記憶がごっちゃになってたみたい。でも、一輝、箱だけとはいっても勝手に捨てちゃダメよ。金ピカは沙織お嬢様からの預かり物なんだからね」
「ああ、そうだな。今度、お嬢様には謝っておくよ」
「ええ、ちゃんと謝罪はしてね。たぶん沙織お嬢様は気にもしないとは思うけどね」
沙織お嬢様からの預かり物を勝手に捨てた一輝を嗜めるエスメラルダだったが、彼女も沙織お嬢様が金ピカを全く大事にしていない事を知っていたため、この件はすぐに忘れてしまう事となる。
「(ふう、どうやら金ピカをすり替えた事は誤魔化せたようだな。まあ、沙織お嬢様には覆面少女に金ピカをプレゼントした事を言ってもいいんだが、万が一にも覆面少女に膝枕をしてもらった事をエスメラルダにバレるわけにはいかないからな。ここは徹底的に隠蔽しておくか)」
一輝は、某大手雑貨屋チェーン店のビニル袋と“黄金のツチノコ(置物)”と印刷されているレシートをクシャクシャに握りつぶしながらそんな事を考えていた。
沙織「ツチノコとは、おデブさんの蛇の事ですわ」
星華「たしか発見すると賞金がでるらしいですよ」
沙織「うふふ、グラード財団総帥のわたしが賞金などに惹かれるわけがありませんわ」
星華「第一発見者として歴史に名が残りますよ?」
沙織「星華、何をしているの! サッサと支度をなさい! ツチノコ探検隊出発ですわ!!」
星華「もしも沙織お嬢様が発見すればツチノコの別名が『サオリコ』になるかもですね」
沙織「え?おデブさんの蛇の別名が『サオリコ』に!?」
星華「おデブなサオリコ、可愛い気がしますね」
沙織「それは気の所為ですわ!残念ですが、ツチノコ探検隊は解散します!」