沙織お嬢様の優雅なる武勇伝   作:銀の鈴

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第33話「沙織お嬢様と少年達の未来」

「俺達はいつまで待機していればいいんだ!」

 

「そうだね、紫龍。そろそろ僕の我慢も限界だよ」

 

「瞬……お前、顔色が悪いがちゃんと寝ているのか?」

 

「……あまり眠れているとはいえないけど大丈夫だよ。僕は兄さんを連れ戻すまでは絶対に倒れはしないよ」

 

「瞬……そうか、俺も協力するから無理はするなよ」

 

「うん、ありがとう紫龍」

 

一輝が銀河戦争の優勝商品を奪って逃走してから既に丸一日が過ぎていた。

 

少年達はその間、グラード財団情報部が行なっている状況確認が終わるまでは待機をするようにと命じられていた。

 

殆どの少年達は素直に命令を受け入れたが、正義感の強い紫龍と窃盗犯の弟である瞬の二人だけは違った。

 

紫龍はその持ち前の正義感から窃盗を働いた一輝を捕まえて説教をする気満々だった。

 

瞬は未だに兄の一輝が窃盗を働いたことが信じられないでいた。あの自分には優しかった兄が、自分に嫌われることを覚悟してまで犯罪を犯すとは思えなかったのだ。

 

『きっと、やむを得ない理由があるはず』

 

そう信じる瞬は誰よりも早く兄を捕まえて理由を聞き出す必要があった。

 

何故なら、その “やむを得ない理由” を根拠としての情状酌量を求めるストーリーを考える時間が必要だったからだ。

 

「兄さん、きっと僕が温情判決を勝ちとって上げるからね」

 

乱暴者の沙織お嬢様といえど人の子だ。涙ポロポロの悲しいストーリーを語れば、哀れな窃盗犯如きなら警察に突き出すことまではしないだろうと瞬は考えた。たぶんボコられる程度で済むはずだ。

 

「それにしてもこんな状況だというのに他の奴らは薄情なものだな」

 

「それは仕方ないよ、他の人達にとっては所詮は他人事だもの。それに沙織お嬢様の命令は待機だからね」

 

仲間の窮地といえる状況だというのに自分達二人以外は無関心に近い現状に紫龍は憤る。

 

瞬はそんな紫龍を苦笑まじりに宥めた。瞬にとっては大事な兄だが、他の人から見ればただの窃盗犯だ。そんな人間に積極的に関わって沙織お嬢様の機嫌を損ねる訳にはいかなかったからだ。

 

何故なら殆どの少年達は思っていたからだ。檄のようにグラード財団に就職したいと。

 

孤児であり義務教育もまともに受けておらず、出来ることといえば戦うことだけ、そんな自分達の将来を少年達は正確に把握していた。

 

『まともな就職先がある訳がない』

 

少年達の唯一の希望は、グラード財団総帥の沙織お嬢様だった。

 

幼い頃のほんの短い間ではあったが、沙織お嬢様と少年達は幼馴染と言えなくもない関係がある。

 

たとえ沙織お嬢様が思慮の浅い短気な乱暴者だとしても、少年達にとっては赤の他人より遥かに信用のできる相手だったのだ。

 

たしかに沙織お嬢様は暴言は多いが、美少女に成長した今ならある意味ご褒美といえるし、沙織お嬢様お得意の暴力だって聖闘士となった少年達(真実を知る星矢は除く)にとって、か弱い少女が振るう暴力など大した問題ではなかった。

 

なんといっても今の彼女は “美少女で幼馴染の強気なお嬢様” なのだ。

 

個人の嗜好による好みの違いはあるだろうが、思春期を迎えた少年達から嫌われるタイプではなかった。

 

特に “強気” の部分を “ツンデレ” と読み替えれば沙織お嬢様の人気は急上昇するはずだ。

 

そんな沙織お嬢様に好印象を持ってもらえれば将来は安泰だろう。現に少年達の仲間の一人である檄は、一回戦敗退でありながらも沙織お嬢様に気に入られてグラード財団に入社が決まった。

 

たしかに仕事内容は厳しいようだが、少年達の唯一の長所である戦闘能力を活かせる職場なのだからむしろやり甲斐が感じられた。

 

つまり今の少年達から見た沙織お嬢様は、幼い頃に自分達を虐げたクソガキではなく、自分達の採用を決める権限を持つツンデレお嬢様なのだ。

 

しかも檄の話によると、沙織お嬢様の考えとしては自分達の事も雇う心積もりがあるらしい。もちろん、銀河戦争での試合内容や普段の様子を見て決めると言っていたそうだが、それは当然だろうと少年達も納得できた。何しろ天下のグラード財団総帥の身辺警護が主な任務になるのだから実力不足の者や、沙織お嬢様が信頼できない性根の持ち主は不採用に決まっている。

 

要は沙織お嬢様に気に入られれば人生の勝ち組だった。

 

その為にはツンデレお嬢様の “ツン” の部分を刺激しないように彼女好みの忠犬でいることが肝要である。

 

そんな考えを持つ他の少年達が、沙織お嬢様の顔に泥を塗るような真似をした一輝に関わろうとするわけがなかった。

 

「フン、あんなワガママお嬢様にすっかり飼い慣らされて情け無い奴らだな」

 

「ハハ……紫龍はハッキリ言うんだね」

 

紫龍の辛辣な言葉に瞬は苦笑するが、彼も紫龍と同じ気持ちだったため諌める言葉は出てこなかった。

 

そんな二人を物陰から監視している氷河は既に沙織お嬢様に心酔していたため、無礼な発言をする二人にダイヤモンドダストを喰らわせてやろうかと真剣に悩んでいた。もっとも沙織お嬢様がワガママお嬢様という意見には反対する気はなかったが。

 

ちなみに邪武は、覆面少女に壊された窓の修繕後も屋敷のメイドさん達に頼まれて傷み始めていた箇所の修理を行っていた。側から見ればいいように使われているわけだが、本人は若いメイドさん達に頼られて悪い気はしていなかったので問題はないだろう。

 

 

 

 

「なるほど、納得は出来ないけど理解は出来たよ」

 

沙織お嬢様が逃走を図ってから直ぐに電話をかけ直してきたアルデバランからデスクイーン島での一連の出来事をシャイナは聞かされた。

 

それによると、デスクイーン島を訪れた調査部隊は合計5名の編成で、その内の一名はシャイナの友であり、そしてライバルでもある魔鈴だった。

 

魔鈴の名を聞いた瞬間は息を飲んだシャイナだったが、既に彼女とは別れを済ませたと自分に言い聞かせて平静を取り戻した。

 

だが、その直後にシャイナは混乱する事になる。

 

なんと調査部隊の白銀聖闘士達が、既に戦闘状態に入っていた魔鈴と聖闘士候補生達との戦いを止め、自分達が聖闘士候補生達を守ると宣言したのだ。

 

白銀聖闘士達は、教皇の邪悪な行いは許せないと憤っていた。その言葉に聖闘士候補生達は教皇の邪悪な行為(バイトの中止)を思い出しそうになって涙ぐむが、即座に思い出す必要はないと白銀聖闘士の一人が叫んだ。

 

その後はその場に到着した黄金聖闘士のアルデバランに白銀聖闘士達が驚愕したり、聖闘士候補生達をあのグラード財団総帥が支援していることに感動したりした。

 

ちなみにグラード財団はインフラ整備が為されていなかった聖域の整備工事を破格の低予算で請け負ってくれている優良企業として、聖域の一部では有名になっていた。もちろんそれは沙織お嬢様が愛するシャイナお姉様の為に行った慈善事業であった。

 

そして色々と話し合いが行われた結果、最終的には白銀聖闘士達は沙織お嬢様と協力して邪悪な教皇を打ち倒す事になった。

 

ただ、今の情勢では決戦を挑んでも此方が不利なため、白銀聖闘士達は一旦は教皇に従う振りをして聖域に戻り仲間を集うことにした。

 

デスクイーン島の聖闘士候補生達は粛清したと報告をあげる予定だ。教皇は怪しむかもしれないが複数の白銀聖闘士が同じ報告をすれば何も言えないだろうと推測する。

 

そして、白銀聖闘士達は聖闘士候補生達に何も心配するなと優しい言葉をかけた。彼女達からは感謝の眼差しを向けられた。

 

最後に白銀聖闘士達はアルデバランと熱い握手を交わすと聖域に帰っていった。

 

そんなデスクイーン島での納得し難い出来事を理解したシャイナはアルデバランに問うた。

 

「魔鈴はどんな様子だったんだい?」

 

『ああ、そういえば他の白銀聖闘士の奴らは熱く燃えていたのに、魔鈴の奴だけは途方暮れたような様子で挙動不審だったぞ。まあ、最後には何かが吹っ切れたのか妙なテンションになって張り切りだしたから心配はいらんだろう』

 

シャイナは魔鈴と決別した日の事を思い出していた。

 

そう、聖域で各々が求める望みのために敵味方に分かれた日のことを。

 

そして、小さく呟いた。

 

「ドンマイ、魔鈴」

 

何処かで親友(ライバル)の声が聞こえた気がした。「やかましい!」と。

 




沙織「インフラが整っていないのは辛いです」
星華「はい、電気のない生活は考えられないですね」
沙織「水やガスも重要ですわ。だってお風呂でシャイナお姉様とキャッキャウフフが出来ませんもの」
星華「シャイナ様は一緒のお風呂は拒否されていましたよね?身の危険を感じるからと」
沙織「そこは交渉の末、魔鈴さんも一緒ならとOKが出ましたわ。グフフ、両手に花ですね」
星華「沙織お嬢様、そのうちセクハラで訴えられますよ。あと、笑い方が流石に気持ち悪いです」
沙織「うふふ、女の子同士は合法ですわ」
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