「お祖父様、お呼びでしょうか?」
「沙織や、お前にこれを見せておこうと思ったのじゃ」
「これは!?」
わたくしがお祖父様に見せられたものは、金ピカに輝く巨大な箱でした。
この輝き具合から間違いなく純金製ですね。
まったく、お祖父様はまた無駄遣いをなさったのですね。こんな下手くそな絵を描いた純金製の箱なんかを作らせるなんて無駄な事を。
わたくしが譲り受ける遺産を減らさないで下さいね。
まあ、まだ実物資産だからマシですね。技術料の名目で、どれだけボッタクられたか心配ですが、金の資産価値はありますから。
「お祖父様、綺麗な箱ですね。盗まれないように地下の金庫室で保管しておきますわ」
「沙織や、話はまだ終わっていないのじゃ。箱の中には…」
カポッ
開きましたわ。
お祖父様が箱の中と仰るので、話の途中でしたが思わず開けてしまいました。
あら、この箱の蓋は純金製のわりに随分と軽いですわ。
ま、まさか、これは金メッキ!?
お祖父様は騙されたのですか!
おのれ! 我がグラード財団を謀るとは容赦はしませんわよ!
「沙織や、それは購入したわけじゃないから安心しなさい」
「うふふ、大きさの割に軽くて、持ち運びに便利そうな箱ですね。それに金色で目立ちますし、これなら紛失する心配もありませんね。使用人へのプレゼントですか?」
「沙織や、これはお前のものじゃよ」
「こんな趣味の悪い箱はいりませんわ。ランドセルにすらなりませんもの」
わたくしはニッコリと笑うと金ピカの箱を蹴っ飛ばす。
ドカン、コロコロ。
あら、ひっくり返った箱の中から、馬のような形をした金ピカのオモチャが転がり出てきました。
「沙織や、それは
黄金聖闘士の
***
『というわけで、お祖父様のボケが再発してしまい再入院ですわ』
「沙織も大変だね。あまり気を落とすんじゃないよ」
シャイナさんが、お祖父様のボケ再発に気落ちしているわたくしを優しく気遣ってくれる。
まったく、黄金聖闘士の
そういえば、お祖父様は子供達を世界中に派遣して、青銅聖闘士の
男の人って、そんなに聖闘士に憧れるものなのかしら?
変身ヒーロー物が好きな、同級生の男子達のようなものかしらね。
ふふ、男の人っていつまでも子供だっていうから仕方ないわね。
あれ、そうするとシャイナさんのように女の子で聖闘士になろうとしている子は、魔女っ子物に憧れているのかしら?
“地上の平和は私が守るわ、
こんな感じかしら?
ふふ、シャイナさんも意外と子供っぽいのね。
そうだわ、わたくしも
そうすれば、シャイナさんと二人でコンビを組めるわよね。
二人はぷりきゅ…じゃなくて、“二人はセイント!”ですね。
***
世界中に送り込んだ子供達のことを調査させました。これは子供達が得ようとしている
どうせ、グラード財団の物になるのだから、わたくしが代わりに手に入れても構わないでしょう。送り込まれた子供も辛い訓練から解放されるから喜んでくれるわよね。
うふふ、では早速資料のチェックをするとしましょう。
わたくしは調査結果に目を通して、気にいる
その結果、わたくしに相応しい
ひとつは、アンドロメダの
もうひとつは、鳳凰の
どちらがいいかしら?
ちょっぴり悩んでしまいます。
あら、アンドロメダの聖闘士は武器を持っているみたいね。それならアンドロメダの方がお得かしら?
えっと、どんな武器なのかしら?
“体に巻き付いた鎖”
「…なんだか背徳的な香りがしますわ。シャイナさんに引かれそうなので却下ですわね」
そうすると、自動的にわたくしの
うふふ、待っていなさい。わたくし自らが赴いてあげるわよ。
***
デスクイーン島は暑いですわ。
「き、貴様は何者…グハッアアアッ!?」
フェニックスの
わたくしは、変な仮面の不審者の腹に蹴りをぶち込んで大人しくさせる。
「仮面のおじ様、フェニックスの
「ウググッ…こ、この儂がたった一発の蹴りでこれ程のダメージを負うとは…小娘ぇえええっ!!貴様は何者だっ…グハッアアア!?」
不遜にもわたくしを睨みつけるように見上げてきたから、不審者の顎を蹴りあげる。
不審者は頭から墜落するけど平気だと思うわ。だってこの不審者からは
こんな変な仮面の不審者が聖闘士だなんて、ギリシャ以外の地域にいる聖闘士は質が悪いのかしら?
シャイナさんも仮面をつけているけど、怪しくないわよ。むしろ、お洒落アイテムにしか見えないもの。
「ほ、本当に貴様は何者だ……いや、待ってくれ! これ以上蹴られたら儂でも命に関わりそうだ!」
ふらふらと立ち上がって近付いてきた不審者に、もう一発蹴りをぶち込んでやろうと思ったら両手を上げたわ。降参かしら?
「隙ありだ! !小娘ぇえええっ!! グハァアアアアッ!?」
上げた両手に
変な仮面は木っ端微塵に砕けたようです。いい気味ですわ。
まったく、わたくしのような可憐な美少女に手をあげようだなんて、最悪な不審者です。
「こ、ここは? 儂は一体、何をしていたんだ?」
不審者がよろよろと立ち上がってきたわ。
しつこいですわね。
仕方ありません。本気でボコりましょう。
「おや、お嬢ちゃんは…な、何を…ギャアアアアアアアアアッ!!!!」
***
わたくしの前にフェニックスの
実は不審者をボコる為に
きっと、わたくしの高貴な
「今の悲鳴と馬鹿デカい
「ダメよ! 近付いたら危険だわ!」
「エスメラルダは来るな! 俺が確認してくる!」
「いやよ! 私も一緒に行く!」
おや、男の子が走ってきました。後ろにもう一人ついて来ていますね。こっちは女の子みたいです。
「あ、あんたは!? まさか沙織お嬢様なのか!!」
あら、わたくしの名前を知っているということは、この子はお祖父様が送り込んだ子供ね。そういえば顔に見覚えがあるわ。それに資料を読んだから名前も分かるわよ。
「ふふ、お久しぶりね。一輝(かずき)」
「…えっと、その、かずきと書いて“いっき”と読むんだ」
「……」
「……」
「に、日本語は難しいから仕方ないと思うの!」
微妙な空気に気付いたのか、一輝と一緒に来た子がフォローするような言葉をかけてくれる。
どうやらこの子は良い子みたいですね。
よく見るとこの子にも見覚えがありますわ。
お祖父様が集められた子供は百人もいたので、あまり覚えていませんけど、彼…“瞬”は覚えていますわ。
そう、この子は女の子ではなく、男の子なのです。
男の子なのに女の子みたいに可愛い顔をしています。わたくしは美人タイプですが、瞬は可愛いタイプですね。
幼い頃から可愛いかったので、わたくしにはあまり似合わない可愛い系のドレスを着させてあげた思い出があります。
ふふ、瞬もとても喜んでいましたわ。
ウソではありませんわよ?
幼い頃の話なので、瞬はあまり男女の区別がついていなかったのでしょうね。普段は着られない綺麗な服に純粋に喜んでいましたわ。
たしか、自分の兄に見せて褒めてもらっていました。その兄が一輝ですわ。
だんだんと思い出してきましたわ。
頰を赤く染めて、瞬をベタ誉めしていた気持ち悪い一輝の顔を。
目を開けると視界に飛び込んできます。
あの頃よりも成長している瞬に女装させている一輝の姿が。
うん。この事には深くは触れないでおきましょう。
でも、こうして観察してみれば分かりますわ。
さり気なく一輝の腕を掴んでいる瞬。そんな瞬を、わたくしから隠すように庇っている一輝。
ふふ、お似合いのお二人ですわね。わたくしは、ふと思いついたことを口にする。
「一輝、貴方を解放して差し上げますわ」
「解放だと? どう言う意味だ」
一輝は疑わしそうな顔になる。
「ふふ、言葉通りの意味ですわよ。貴方が持ち帰る役目を負ったフェニックスの
「俺はもう用無しだということか!」
「その通りです。ですが今まで貴方がお祖父様の指示に従って、訓練に励んでいたことに対する報酬は与えましょう」
「クッ、所詮は俺たちはただの道具ということか……それで、報酬とはなんだ。端金でも恵んでやると言うつもりか。お嬢様よ」
一輝は悔しそうに唇を噛みながらわたくしを睨んできます。わたくしを睨むとは……ムカつくから報酬は無しにしてやろうかしら?
「え? それって、もう一輝は苦しい訓練をしなくていいってことですか! あ、ありがとうございます!! えっと、優しくて綺麗なお嬢様!!」
「おーほほほほほっ、貴方の正直さに免じて報酬は弾んであげますわ!」
美しく慈悲深いわたくしは、これまで苦労を重ねてきた哀れな二人が、幸せに暮らせるように支援をしてあげることに決めました。
「グラード財団から人を越させますから、その者に望みを言いなさい。ここで暮らすも良し、日本で暮らすも良し。どのような選択でも構いませんわ。お二人の身元の保障、生活費の援助、暮らす場所の手配等、何もかもをわたくしの名において保障いたしますわ」
「……え?」
「ありがとうございます!! 世界一、優しくて綺麗なお嬢様!!」
呆けたような顔の一輝とは違い、瞬の方は正直ですわね。でも、世界一はちょっぴり言い過ぎですわ。たぶん、二番目ぐらいだと思いますよ。
「うふふ、お二人でよく相談して決めなさい。時間はたっぷりとありますから、慌てなくて良いですわよ」
「あ……お、お嬢様…どうしてだ…どうして、あんたが…こんな」
一輝は混乱しているようね。
わたくしは一度、一輝と視線を合わせたあと、わざとらしく瞬へと視線を移す。
わたくしの視線の動くに気付いた一輝に再び視線を戻した後、ニンマリと笑ってやる。
ビクリと一輝の身体が震える。
わたくしは一輝の耳元に顔を寄せると、瞬には聞こえないように囁く。
「好きなのでしょう。大事にしてやりなさい」
「なっ、何を言っているんだ! 俺は別にこいつを好きなんかじゃ……あ」
一輝は真っ赤になりながら否定をしようとするが自ら墓穴をほる。瞬は一輝の言葉で、わたくし達の会話の内容を察したみたいね。
「一輝は私のこと嫌いなの?」
瞬はあざとい上目遣いで一輝を見つめる。
「いや、その、別に嫌いというわけじゃ…」
「私は一輝のこと…好きだよ?」
「っ!? お、俺は、俺は……俺もお前のことが、す、好きだ……と思う」
「うれしいっ、一輝大好きだよっ!!」
瞬は一輝に抱きつくと満面の笑みを見せる。一輝は真っ赤になったまま動かない。
うふふ、大団円というやつね。
「一輝、幸せになりなさい。そして、幸せにしてあげなさい」
「お、お嬢様…」
一輝が目を見開いてわたくしを見ている。わたくしは優しく微笑んであげる。
「ふふ、これはわたくしからの命令です。従わなければお仕置きですわよ」
「お、お嬢様っ、ありがとうございます!」
一輝は勢いよく頭を下げる。その隣で瞬も同じように頭を下げていた。
一輝、女装をした実の弟と愛し合っているなんて……業が深いですわ。
男の子同士……こういうのは、聖華が好きでしたわ。たしか“尊い”とか言っていましたわね。
わたくしにはよく分からない世界ですが、聖華が好きな世界なら応援してあげましょう。
でもやっぱり、男の子同士なんて意味が分かりません。
女の子同士の方が美しくて純粋ですわ。
安心して下さい。仮面の不審者は生きています。心配されたファンの方には、ご心配をおかけしました。もう二度と出番はないと思いますが、きっとデスクイーン島で余生を楽しまれていると思います。