沙織お嬢様の優雅なる武勇伝   作:銀の鈴

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第9話「沙織さんと弟弟子」

シャイナさんと手を繋ぎながら隠れ里を散歩をしています。

 

本来なら部外者なので堂々と歩けないらしいのですが、門番のアルデバランとシャカが許可証をくれました。

 

不審者予備軍かと思いましたが、意外と役に立つようです。少し評価を改めてあげましょう。

 

隠れ里内は自然が豊かで景色もいいです。ですが、未だに電気も通っていないので日常生活には不便のようですね。

 

お手洗いも汲み取り式なのには驚きました。ぼっとん…初めて見ました。

 

ガスも通っていないので、お風呂も水浴びで済ましていると聞きました。

 

食事内容も言わずもがな、といったところです。

 

うむむ、わたくしのシャイナさんが、こんな紀元前のような生活を送っているなど許せません!

 

こうなったら、隠れ里の近代化に着手するとしましょう。

 

シャイナさんは遠慮すると思いますので、門番の二人と相談して今後の開発計画を進めたいと思います。うふふ、グラード財団の科学力は世界一だということを証明してあげましょう。

 

わたくしが色々と考えていると、向こうから手を振りながら筋肉ダルマが近付いて来ました。アルデバランではありませんよ。彼ならシャカと共に物陰からわたくし達を警護しています。

 

「沙織、紹介するよ。こいつは名はカシオス。あたしの教え子だよ」

 

「うっす。カシオスと言います。よろしくっす」

 

わたくしの前で、世紀末の世界で“ヒャッハー”してそうなモヒカンの筋肉ダルマが愛想笑いをしています。

 

これが、シャイナさんの教え子…?

 

はっ!? いけないっ! 色々とショックですが、シャイナさんの教え子なら、わたくしにとっても弟弟子のようなものです。挨拶はちゃんと返すべきです。

 

「お初にお目にかかりますわ。わたくしは城戸沙織です。シャイナさんにとてもお世話になっております。わたくしもシャイナさんのご指導を賜っておりますから、貴方はわたくしの弟弟子になるのかしら?」

 

「ああ、カシオスは沙織より先にあたしの教え子になっているからね。どっちかといえば沙織が妹弟子だね」

 

「そうだったんですか。じゃあ、これからは俺のことはカシオスさんと呼びな。チビ」

 

シャイナさんの言葉にカシオスは態度を変えると、気安い感じでわたくしの天使の輪が輝く美しい頭をポンポンと無遠慮に叩きながら世迷言を言い放つ。

 

ブチッ。

 

「ちょっ!? カシオス!」

 

「へっ? なんです、シャイナさん」

 

「わたくしの拳が真っ赤に燃えます!! 慮外者を倒せと轟き叫びます!! カシオスッ!! 地獄の果てまでぶっ飛んでいきなさい!!」

 

「なっ!? ちょっ、まっ、ギャアアアアアアアアアッ!!!!」

 

「カシオォオオオオオオスッ!?」

 

わたくしの燃えさかる拳にぶっ飛ばされて、カシオスは空の彼方に消えていきました。でもちゃんと手加減はしたのでそのうち帰ってくると思います。たぶん。

 

「ぬう、あの年齢であそこまでの光速拳を使いこなすとは。流石は女神(アテナ)、お見事としか言いようがありませぬ」

 

「おおっ!? この光は…ああ、聖なる輝きで我が魂まで癒されるようです」

 

 

***

 

 

「姐さん。粗茶ですが、どうぞ!」

 

カシオスとのお話の結果、わたくしが姉弟子と認めさせました。

 

うふふ、姉より優れた弟はいないのですよ。

 

「いや、まあ、別にあたしはどっちが上でもいいけどね。とりあえず沙織はもっと手加減を覚えな」

 

なんですとっ!?

 

ちゃんとカシオスはピンピンしていますよ!

 

「いや、シャカがいなかったら冥府から呼び戻せなかったんだけど」

 

うむ、早速の働き褒めてつかわす。シャカ、よくやったぞ。

 

「おおっ!? このシャカめに過分のお褒めのお言葉っ、末代までの誉れと致します!!」

 

「ぐぬぬ、悔しいが、流石はシャカだ。だが、このアルデバランも(アテ)…ゲフンゲフン、沙織お嬢様に褒めてもらえるよう死力を尽くすぞ!」

 

「ふふ、共に頑張りましょう。アルデバラン」

 

「応ともっ!!」

 

「……あんた達、性格が変わってないかい?」

 

うふふ、ギリシャの隠れ里には愉快な人達が多いのですね。

 

 

***

 

 

「カシオスはペガサスの聖衣(クロス)を狙っているのですか?」

 

「へい、今のところは聖闘士候補生の中では、あっしが一歩リードをしております」

 

カシオスは胸を張りますが、わたくしにはカシオスの小宇宙(コスモ)が微塵も感じません。隠すのが上手いのでしょうか?

 

「カシオスッ、お前はまだ小宇宙(コスモ)を感じることすら出来てないんだよっ! ちょっとばかり体格に恵まれているからって、うぬぼれるんじゃないよ!」

 

シャイナさんの叱責にカシオスが縮こまります。

 

なるほど、カシオスは小宇宙(コスモ)なしの素の筋肉の力だけで他の聖闘士候補生と争っているのですね。それはある意味すごいですね。

 

「いいでしょう。カシオス、貴方の筋肉に対するこだわりは賞賛に値します。姉弟子として、わたくしも貴方の筋肉賛歌に協力してあげますわ」

 

「えーと、シャイナさん。姐さんは何を言っているんすかね?」

 

「…あたしに聞くんじゃないよ。まあ、カシオスにとっても良い体験になるだろうさ。死なない程度に沙織の相手をしてやんな……言っておくけど、あたしを巻き込むんじゃないよ」

 

「シャイナさん!?」

 

面白いですわ。小宇宙(コスモ)という人間が持つ心の力に対して、筋肉という人間が持つ肉体の力で対抗しようだなんて、まさに筋肉ダルマの面目躍如といったところですね。

 

わたくしの思いつきが正しければ、聖闘士は小宇宙(コスモ)で肉体を強化します。ならば逆に筋肉で心を強化することも可能なはずですわ。カシオスにそのことを証明してもらいましょう。

 

「シャイナさん、姐さんが妙なことを口走っているんすけど、冗談ですよね?」

 

「よ、よかったね、カシオス。あんたご自慢の筋肉を認められたみたいだよ」

 

「シャイナさん!?」

 

わたくしの勘が正しければ、最新科学トレーニングと、前時代的な努力と根性の猛特訓を適当に混ぜた、聖闘士候補生が受けている地獄の訓練がピクニックに感じるほどの、まさに地獄に落ちた方がマシといったハイパーナイトメアモードの拷問の如き訓練を施し、万が一にも生き残れたなら――カシオスは化けますわよ。

 

「シャ、シャイナさん! 姐さんが恐ろしいことを呟いているんすけど、もちろん冗談ですよねっ!?」

 

「…あたしじゃ、カシオスを聖闘士にしてやれないかもしれない。だけど情け容赦のない沙織なら、あるいはいけるかも……カシオスッ、あんたは聖闘士になりたいんだろっ! だったら、覚悟を決めなっ!!」

 

「いやいや、シャイナさん!! なんだか熱血風に言ってやすけど、目をそらしながら言われたら不安になっちまうんすけど!?」

 

「いや、あのね…あたしもあんな状態の沙織に関わり合いたくないというかね……うん、カシオスは男の子だからきっと大丈夫だよ。じゃあ、四年後のペガサスの聖衣(クロス)争奪戦で会おうじゃないか。アディオスカシオス…」

 

「シャイナさん!? あっしを見るシャイナさんの目が、まるで出荷されていく家畜を見るような目なんすけど、気の所為っすよね!!」

 

おやおや、なんだか賑やかですね。

 

ふふ、カシオスも張り切っているようですし、グラード財団の総力をあげてカシオスの筋肉を鍛えてあげますわ。

 

そうですわね。筋肉についてならグラード財団、社内クラブの筋肉愛好会で会長をされている戸愚…ナントカさんにお願いするとしましょう。筋肉の第一人者と謳われる彼なら安心ですわ。名前はよく覚えていませんが、筋肉愛は本物だったはずですわ。

 

さっそく迎えのヘリを呼びますから、アルデバランはカシオスが逃げ出さないように縛っておいて下さね。

 

「沙織お嬢様、お任せ下さい!」

 

「ひいっ!? やめてくれー!!」

 

わたくしはこれから旅立つカシオスにお別れを告げます。

 

「カシオス、わたくしが手助けを出来るのはここまでです。あとは己の力で道を切り開くのですよ」

 

怯えて泣き喚くカシオスでしたが、アルデバランが見事な手際で抵抗出来ないように縛ってくれたので、迎えの者につつがなく引き渡すことが出来ましたわ。

 

「カシオス、あんたのことは忘れないよ。きっと四年後に再会できると信じているからね」

 

シャイナさんもカシオスにお別れを告げています。カシオスも涙を流しながら手を振っていますわ。わたくしも振り返してあげましょう。

 

バイバーイ!

 

 

***

 

 

ククク、これでシャイナさんに纏わりつく悪い虫の排除が出来ましたわ。

 

それにしても、魅力的なシャイナさんの弟子に男子をつけるだなんて非常識にも程がありますね。

 

まあ、姉弟子としては、カシオスを師匠の元から追い出す形になってしまったことには多少の罪悪感を感じます。

 

せめて、筋肉鍛錬に関しては全力で行えるように差配させていただきますから許して下さいね、カシオス。

 

 

 

 

 

 

 




戸愚…ナントカさん「見せてやろう!! これが100%中の30%だっ!!」
カシオス「こ、これで30%だと!? き、筋肉とはどれほど奥深いんだっ!!」
戸愚…ナントカさん「ほう、この筋肉に恐怖ではなく憧憬を抱くとはねえ。いいだろう、お前さんを鍛えてやろう」
カシオス「っ!? お願いします!!」

カシオスの遠く長い筋肉を追い求める道はこうして始まった。
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